最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第52話 本音

 数分前。赤崎が優に無残に惨殺された後。
 黒川は、騒ぎを聞きつけて命令されてノースの森へと向かっていた。
 命令と言っても、晴木から諭されたと言った方が正解か。
 そして、黒川にはある持ち物も持参していた。

「ん? あれは……」

 黒川は止まる。そこにあったのは、自分の恋人の姿。
 変わり果てた姿を見て黒川は地面に着地する。
 気持ち悪い。普通なら見るにも堪えない。
 だが、黒川は大切な人の存在なのに。

 全く悲しむ様子もなく、飛び散った赤崎の各部分を集める。
 そして、それを迷いもなく。

「後はこいつにいれてと、本当に便利な道具だな、この『狂化の壺』ってやつは!」

 黒川は空間魔術を使用して保管していた【狂化の壺】をこの場に出現させる。
 適当に赤崎の斬り落とされた腕などを詰め込む。
 異臭がこの場を漂う。黒川は離れてその様子を見つめる。
 すると、壺から蒸気が発生する。数分後、壺の中から手が伸びてくる。

「あ、あれ? わ、私……」

「何だ、聞いていたより復活が速いじゃねえか? まぁ、どっちでもいいけどよぉ!」

 狂化の壺。晴木から聞いた情報では、【死んだ人間を壺に入れて復活するには個人差はあるが時間がかかる】と聞いている。
 黒川は推測する。もしかすると、対象者のエンドの量や能力によって変化する。
 赤崎の場合、才能があった。だから、復活が速かったのか。
 決して頭は悪くなく、切れる黒川。その為、自分で結論を導き出して、赤崎の首を掴む。

 苦しそうにしながら。裸の状態のまま地面に叩きつける。

「おい、なにやられてるんだよ? しかも、こんなズタボロに」

「ち、違うの! これは」

「あぁん? お前言ったよな? 【笹森ぐらい簡単に殺せる】ってそれが何て様だ?」

 放り投げて黒川は苛立ちを隠せない。
 赤崎は地面に叩きつけられて、思わず嘔吐しそうになる。
 自信があった。この世界に来る前も、ここに来てからも自分の立ち位置は上の方。
 慢心もする。晴木から、笹森優が生きていると知らされた時は驚いた。
 だけど、自分なら殺せる。胸を張ってそう言ったのに。結果は、惨敗。いや、それ以上に最悪の結末。

 黒川は、立ち上がれない赤崎に。

「お前と付き合っていたのは、すぐヤレたのと、都合がいいだけだったからな!」

「ご、ごめん」

「はぁ、言っとくけど葉月は金とあのキツイ性格が俺の好みに合っていた、だから告白したのに……あの女」

「は、葉月ちゃんが? どうかしたの?」

「何でもねえよ! それよりも、この落とし前はどうやってつける? そうだ……せっかくだ」

 狂化の壺から復活した者。話に聞くと、【寿命が短い】のと【暴走する危険性】があるという事。
 ただ、壺の中にいる期間が長いほど。強大な力が身に着くとも言われている。

 どうせ、赤崎の命は長くない。体がエンドによって繋がれてなんとか命がある状態。
 それに、壺に入っている期間が短かったのか。粗が目立つ。ツギハギだらけである。

 黒川はそれを察知して。赤崎に指示を出す。

「友愛、お前……囮になれ」

 ――――最愛の彼女のはずなのに。

 目の前で、赤崎が黒川の黒剣によって刺されている。
 沼田は、すぐに距離を取る為に走る。園田の手を引っ張りながら。
 だが、速度が違い過ぎる。後ろを振り向いて、仕方なくデンノットの効果を使用しようとした時。

「防御壁【シールド】」

 凛とした声がこの森に響き渡る。直前で、沼田と園田に防御壁が張られる。
 黒川の勢いある攻撃は防御壁によって防がれる。

「ち! お前らグルかよ」

 白土が咄嗟の判断で。両手を黒川に向けながら、睨みつけている。
 さらに、背後から鎖も飛んでくる。黒川は、見事な反応でそれを回避する。
 だが、生き物のように動くその鎖。ウネウネとしながら、黒川の背後を突く。
 しかし、黒川も負けない。一度、地面に着地して地面を蹴る。そこから、方向転換して迫る鎖を黒剣で弾き飛ばす。

 剣さばきも見事。その、運動量も流石のバスケ部のエース。

 御門は、ふぅと落ち着きながら。分析する。

「白土に御門? 人数が流石に多いな」

「後、俺もいるよ」

「……!?」

 エンド能力を発動させながら。優は、黒川の真上から急降下しながら。
 短剣を突き刺そうとする。流石に、避けられず頬の部分を少し斬りつける事に成功する。
 だが、全く動じていない黒川。むしろ、優が生きている事に喜びを感じていた。
 傷を受けた頬を手で拭いながら。黒川は、笑いを堪えている。

「やっぱり、生きていたのか? 笹森」

「黒川か、お前がここに何の用だ?」

「口の聞き方がなってねえんじゃねえか? お前と俺じゃ差があり過ぎるんだよ」

「それはもう過去の話だ! 生贄になった時の俺とは違う」

 両者が睨みあう。どらちにせよ、部は黒川の方が悪い。
 沼田と園田はともかく。雰囲気が全く違う優と白土と御門が相手では。
 エンド能力をここで、打ち明ける訳にもいかない。
 黒剣を見ながら、黒川は優の方を見る。

(ちぃ、つまんねえな! だけど、まぁ、こいつに精神的にダメージは与えておくか)

「生贄になった時とは違うか……なぁ、笹森! お前は分かってんのか?」

「何が言いたい?」

「お前の命はもう残り少ないって事だ、その壺に入った時点で」

 その黒川の発言に白土が瞳を見開く。信じたくないと訴えかけている。
 せっかく再会したのに。これから、共に歩んで行こうとしているのに。
 だが、笹森は否定しなかった。全部、既に壺の効果についてはシュバルツから聞かされていた。

 力を得る代わりに。自我を制御出来なくなる可能性。そして、寿命が短いという事。
 本当だったら、もっと早く活動停止になっていた。それを、シュバルツがエンドなどの術によって引き伸ばしていたのである。
 それを聞いた時。遅かれ早かれ、自分は死ぬ運命だと悟っていたから。別に、何とも思っていなかった。
 しかし、白土と再会して。楓に復讐を果たした時。自分には、まだ生きる使命があると。

 優は、下を俯きながら。ゆっくりと白土の方を向く。

 彼女は目を充血させながら。たくさん泣いたのだろう。涙が溢れている。
 白土は自分の為に。身や心を傷つけてここまで来てくれた。
 だから、今度は自分が頑張らなければいけない。

「知ってる、だけど、俺はまだ死ねない! もう、後悔はしたくないから」

「何言ってんだ? お前は、生贄になった時から、もう死ぬ運命は決まってんだよ! その、変わり果てた姿が何よりの証拠だろ」

「違う! そんなの嘘よ! どうして、笹森君だけこんなに苦しまなきゃいけないの? こんなの……酷いよ」

 現実を突きつける黒川に対して。白土は優はこれからも生き続けると。声を震わせながら宣言する。
 ただ、自分の体の異常は優が一番よく理解している。
 言われてみれば、食欲もなくなり、疲労もとれにくい体質。一年前はこんな事なかったのに。
 どうやら、黒川は真実を言っている。嘘はついていない。

 優は考える。自分に精神的苦痛を与える事が主な目的。見え透いているのに。
 あらためて突きつけられた現実に。優は、乾いた笑いを浮かべる。


 ――――あぁ、自分の寿命は短いと。

「まぁいい! うざったいが、これじゃ、俺に勝ち目はねえからな! 今回は、見逃してやるよ」

「は? 逃がす訳ないだろ! お前も俺にとっては許さない」

「いや、退散だ、じゃあな」

 優が距離を詰めた時。黒川は既に濃霧の中に姿を消していった。
 追いかけようとしたが、優は自分を抑え付けて静止させる。
 するべき事は今は復讐ではない。万全な状態でないと、黒川は倒せないだろう。
 先程の攻撃に対する回避を見る限り。只者ではない。

 短剣を鞘にしまって、敵がいなくなって一安心する。

 そして。やっと、彼女が。最愛の人が優に近付いて来る。

「笹森君、あのね」

 歩み寄って来る彼女。悲しみと嬉しさで入り混じっている。
 そんな涙を流して顔面がグシャグシャとなっていた。
 だけど、優は気にしない。ずっと自分を想い続けていたから。
 そして、昔の穏やかな表情を取り戻して優は言う。

「白土さん、約束したでしょ?」

「……え?」

「やっとこれが言えるよ、この世界に海があるか分からないけど、まずは見つけに行こうよ」

「で、でも、笹森君は」

「もう、過去の自分と決別にする為に、俺は……僕は、前に進むよ、だから、付いてきて貰っていいかな?」

 優は恥ずかしさなど少し感じながらも。目の前の彼女に正直な気持ちを伝える。
 白土は感激しながら。優の胸の中に飛び込む。彼女も迷いはない。
 これから困難の方が待っている。辛い事や苦しい事。そればかりだと知っていても。
 彼の胸の中は温かくて安心出来た。だから、白土も優の隣で支えていきたい。

 お互い、失ったものが多かったけど。最終的には、ハッピーエンドだと信じて。

 二人は結ばれる。優は笑顔で迎えて、白土は泣き続ける。

「おい、笹森」

 そんな甘いムードの中で。引き戻すかのように沼田が話しかける。
 その表情は何とも言えないもの。
 当然だろう。沼田もここまで来るのに、複数の人を犠牲にした。
 もう二度と、こんな事が起こらないように。

 優はまた元の表情に戻る。白土には見せずに。黙って、軽く胸を押して引き離す。
 冷酷な瞳が沼田を襲う。ただ、動じず沼田は抵抗を見せる。

「これで終わりなんて思っちゃいねーよな!」

「……まぁな、俺の目的はまだ半分も達成してないからな」

「あぁ、そうだよなぁ、お前は強いからな」

「……?」

「俺は、お前が生贄になった時、正直、助かったと思ったんだ」

 園田と白土は沼田が何を言っているのか分からなかった。
 というか、この状況でそれを言うのは自殺行為。
 ただ、優は感情的にならず、沼田の話を聞き続ける事にした。

「だけど、それは違った! 結局、俺は弱かった、だから、地下牢にぶち込まれて、クソみたいな生活を送って来た」

「そうか」

「考えてみれば、お前みたいに特別な境遇になって力を得る事もなかったし、強いエンド能力も才能もなかった、物語で言う、ただ死んでいくだけの人間だったって事だ」

「でもぉ、沼田君、貴方のおかげで少なくとも私達は助かった……もう、貴方は昔の貴方じゃないんじゃない?」

「いや、俺は変わってねえよ……ただの名も無き人物だったて事だ、つまりはモブだ」

 声は荒げず。沼田は本音を語っていく。優にも気持ちは分かる。
 自分だって優秀な親友と幼馴染に囲まれてきた。
 後ろで縛られている幼馴染は、高嶺の花でどうしようもなく遠い存在だった。
 それなのに、現状は。

「その名も無き人物で救われる命だってあるよ」

「……あぁ、そうかもな、けど、それ以上に」

「うん、でも、犠牲はつきものだよ! それを悩んでいたら、いつまでたっても戦えない」

「はは、本当に変わりやがったなお前! 畜生、俺はお前の事……嫉妬したり羨ましいと思ったんだぜ」

「沼田」

「俺は誰にも本気で愛されていなかった、親や妹、やっと女の子に好意を持たれたと思ったら、あの始末だ」

 沼田は後ろを振り返り、死亡している赤崎の方を見る。
 未練はない。むしろ、もっと苦しんで死んで欲しかった。
 こんな風に思ってしまう自分がもっと嫌いになる。
 だが、表情を険しくしながら。沼田は、声を震わせる。

「俺はお前と違って中途半端、だと思う! お前みたいに残虐的になれないし、屑にもなれない、優しもないし、顔も悪い、性格もあまり良くないからな……けど、俺にだって、守りたいものはある」

「それで、どうしたい?」

「あぁ、結論から先に言うべきだったな! ここからが本題だ」

 覚悟を決める。自分に力が無ければ、もうこうするしかない。

「俺と組んで、晴木達を倒す! これが今の俺に出来る事だと思うからな」

 合流したクラスメイト達。ただ、それぞれの目的は少しずつ変化しつつあった。

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