最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第50話 別れ

「さてと、どうするか」

 優は楓をエンド能力の一つ蜘蛛の糸【スパイダー】で木に縛り付ける。
 白土からエンドを供給して貰い、その糸は強固で頑丈。
 十分なエンドを貰った優は無敵状態。シュバルツの助けもあって、楓の敗北は決定的である。
 流石に口から短剣は取り出して、話せる状態にはする。
 そうでもしないと、情報を引き出せないからだ。

 言葉を口に出せるぐらいには。回復してあげて、優は短剣を突き出しながら。

「色々と聞きたい事があるんだけどいいよな?」

 何も答えない。楓は、痛みを感じながら目の前の想いを寄せていた相手。
 笹森優に怯えていた。だが、同時に白土に奪われた悲しみと怒り。
 そして、幸せになるはずだった自分がこんな悲惨な状態になっている。

 これらの事実が楓をさらに狂わせる。

「し、質問? い、今更、何を聞くのよ」

「それは俺が決める事だ」

「そ、そうだよね! ごめん」

「……なぁ、まず白土さんに何をやった? あの、髪色と痩せこけた姿、まともな生活を過ごしていたらならないよな?」

 まず、言及したのは。ラグナロの事でも。壺の事でも、晴木の事でもない。
 御門に体を支えられている白土の状態。
 誰が見たって普通ではない。確証はない。ただ、優はすぐに白土の状態の悪さを理解していた。

 楓は、優の質問に黙り込む。自分がしてきて事。これを言ってしまえば、完全に優との関係は断ち切られる。
 いや、もう全て手遅れ。あの頃の優はもういない。自分自身が招いた種。
 そう言ってしまえば、それまでだがまだ楓は信じていた。

 ――また、【三人で一緒】にいられる時間を作れる。

 そして、優が自分に振り向いてくれる。苦し紛れの発言。狂言。もう、楓に余裕など一切なかった。
 それでも、幼馴染で好きな威勢の前で常識は通用しない。
 理性とかそんなもの吹っ飛ばして楓は打ち明ける。

「【ずっと私を一番大切な人として見ててね】覚えてるかな?」

「……あぁ、そんな事も言ってたな」

「そうだよ! 小学校の時だったよね! 懐かしいよね……私は今でも優の事を」

 楓が率直な気持ちを伝えようとした時。
 優の短剣は楓の左腕に振り落とされていた。
 求めているのはそんな情報ではない。優は、プルプルと腕を動かしながら。
 抑えきれない怒りを全てぶつける。簡単に、左腕は地面にポトりと落ちる。

 楓は泣きながら悲鳴を上げながら。再び、奈落の底に突き落とされたように。
 絶望と苦しみに支配される。

「そんな事、どうでもいいんだよ! 大切な人として見ててだ!? ふざけるなよ」

「あぐぅ、ぐ、だ、だって、優」

「あの時、俺は左腕を犠牲にしてまで楓を守った、そうだな、守りたかったから好きだったから、それで今まで支えて貰ったからだ」

「はぁ、そう、そうだよ、私は」

「だけど、待っていたのは地獄だ、クラスメイトにボコられて、壺の生贄にされて、その後も命を狙われて……挙句の果てにまた大切な人が殺されようとしていた」

 戻って来た左腕。動かすことも出来るし、これですぐに楓を殺すことも出来る。
 だけど、優は悟った。もう、二人の関係は二度と元に戻る事はない。
 涙を流し続ける楓と違って。優は驚く程に落ち着いていた。
 怒りも憎悪も薄れ、達成感も嬉しさも感じられない。

 やっと、最大の仇の一人である幼馴染。それを、追い詰めたというのに。

 復讐。これはこんなにも虚しくて、爽快さがないと。
 強く実感しながら、優は軽く止血しながら言葉を続ける。

「正直に言え! 白土さんに何をした?」

「どうして? どうしてよぉ! 私を目の前にしても、何であの女の事ばかり!?」

「は? お前、何言って」

「体が弱かった優を支えてあげたのは私よ! 自分の時間を削って、周りから陰口を言われようと! それなのに……優は、あの女を選ぶの?」

 歪な表情で楓は優に言い放つ。言ってしまった。これでは、優の事を考えているより。
 完全に自分が助かりたい。白土よりも自分が女として魅力がある。
 そして、優を支えて自分の時間を削っていたという事実。
 全ては自分の為に。優は、そう聞こえて仕方なかった。

 優は唖然としながら呆れた。まだ、この女は理想を追い求めている。
 もう届かないのに。お互いすれ違いや勘違いはあった。
 ただ、それらを差し引いても楓のやった事は許されるものではない。
 そして、優自身も自分が許されるなんて思っていない。

 ある意味、似た者同士。ただ、殺されるか、殺すかの関係。

 さらに。追い撃ちをかけるように。

「ねぇ、まだ分からないの?」

「……貴方は黙ってて」

「ううん、言わせて貰うわ! 私は、貴方を許したくないし、地獄に落ちてと思う」

 続けるように。背後にいた白土が御門に体を支えられながら立ち上がる。
 優と再会するまで。自分に自信がもてなかった。
 本当に、変わり果てたこの姿を受け入れてくれるのか。
 不安だった。拒絶されたら、自分がやってきた事が全て無駄になる。

 だけど、ペンダントを受け取って。マルナの力も完全に戻った。

 そして、何よりも彼(優)が、自分の事を【好き】だと言ってくれた。

 だから、もう迷わない。白土は、優の背中を見ながら。
 ずっと、彼の後ろを追って来たから。今度は、優の隣で手を繋ぎながら支えていきたい。

 白土は、真剣な声で楓に語り掛ける。

「笹森君の事が好きなら、どうしてそれを第一として動けなかったの?」

「……っ! 貴方に何が、分かるの、貴方なんかに!」

「保身とか、結局は自分の為に、気が付けば笹森君なんて二の次だったんでしょ? どうせ、最終的には自分の所に戻って来る……そんなの、好きな人にする態度じゃない」

「貴方だって、優を生贄にする時、止めなかった! それなのに、偉そうに私に説教なんかしないでよ! 私は、私は!」

「でもぉ? 何を言おうと貴方は白土さんにした様々な嫌がらせは事実だと思うけどぉ?」

 突然。御門が横から会話に入って来る。そして、静かに語られる楓が白土にやった悪意のある行動。
 聞くに堪えなかった。淡々と御門も話していたが、彼女も胸が痛んでいるようだ。
 優はそれを聞いた瞬間。プツリと何かが切れた。

 気が付けば、楓の顔面を殴っていた。
 最早、幼馴染など女という事など関係なかった。
 何度も。何度も。優は、楓が血を吐こうと。顔の形が変形しようと。折れた歯が地面に飛び交う。
 地獄だ。誰が見たって、この光景を快く思う者はいない。

 白土は思わず口を抑えながらそれを見ていた。
 目を逸らそうとしても。憎むべき相手が、目の前でもがき苦しんでいる。
 本来なら喜ぶべき事なのに。白土は、ボロボロになった楓を見ながら。

「これを見て、【自業自得】とか【ざまーみろ】って、思えない私は……駄目なの?」

「白土さん?」

「ううん、何でもないわ、だけど今までの事を考えたらやっぱり許せない」

 表情をより険しくさせて。白土は、もう一度視線を楓と優に向ける。
 ここで、情けをかけたらまた繰り返してしまう。
 だから、もう自分にも相手にも厳しくする。
 もう、これ以上。優を、あんな狂気染みた姿はもう見たくない。少しでも、彼を昔の優しい状態に戻す為に。
 その力になれればと、白土は強くそう願った。

 しばらくして。可愛さも女らしさもなくなった幼馴染に。優は返り血を拭き取って短剣を首に近付ける。

「まだ、完全に殺さない、お前によって死んでいった人や、苦しんだ人の為にもな!」

「あがぁ、あぐぅ」

「上手く話せないのか? 無理もないな、歯も折れているから無理もないけど、後でまた治療をしてやる」

「……! ぐぅ、あがぁ!」

「まだまだ聞きたい事はたくさんあるからな! この、裏切り者が!」

 優は怒りをぶつける。これが正しいのかは本人にも分かっていない。
 きっと白土もこれを見て幻滅しただろう。見損なって、怖いと思われただろう。
 だけど、やっぱりあの壺に入れられてから。そして、生贄に捧げられた時から。
 この運命は始まっていた。優と楓が対立し、二人が結ばれる運命などなかった。

 優は思う。せめて、最後にかける言葉と言えば。

 ――――さよなら。そして、苦しんで生き続けてくれと。

 それしかもう優が楓に思う事はなかった。

『この女、最後までお前に付きまとっていたな』

 そして、ここでやっと。左腕の相棒、シュバルツが優に語り掛けてきた。
 この惨状に色々と思う所はあっただろう。
 出会った時から、ずっと優の隣で戦ってきた。彼も、優の一つの目的の達成に喜びと達成感を感じている。
 声を聞いて優も少し落ち着きを取り戻す。

「あぁ、俺は今までこんな奴の事が好きだったのか」

『……』

「ほんとにさ、馬鹿みたいだよな? なぁ、いつも通り笑ってくれよ」

『いや、よくここまで辿り着いたと言うべきか、この日の為にお前は……』

「やめろよ、俺は……大したことはしてない」

 一年間の間。優は、壮絶の特訓や鍛錬を積み重ねてきた。
 全てはこの復讐心を満たす為に。
 優は、首に突きつけた短剣を離しながら楓との距離を取る。
 もう、一緒になる事はない。これからは、ただ有益な情報を探るだけの人形。

 胸が締め付けられる事も。後悔もない。優は、短剣を鞘にしまって言い切る。

「これはまだ始まりだ、俺の目的はまだ他にある!」

 一つの強敵はこの手で討ち取った。だが、まだ優の目的は終わらない。
 連鎖のように続くそれはいつ終わるのか。

 それは、優自身にも分かっていなかった。

 そして。この激闘のやり取りの裏では。

「おいおい、どうなってんだよ」

 感動の再会。という訳ではもちろんない。
 むしろ、一番沼田にとって会いたくない人物だろう。
 赤崎友愛。ただ、変わり果てたその姿。それに、気がかりな事が沼田にはあった。

「あぁ!? な、何だこれ?」

 所々に体に粗が目立つ。その粗と言うのは、無理やり繋げたような跡だ。
 まるで、一度離れた体がもう一度繋がったように。
 縫合? それにしては精密すぎる。そのような糸の跡も見受けられない。
 元々、頭は良い沼田。必要な知識から無駄な知識まで詰め込んだ甲斐があった。

 普通に考えて。自分達がいた世界と比べて医療技術も未熟。
 だが、それ以上に魔術や特別な力がある。
 沼田は考え込む。蘇生、融合、いやそんな未確定なものではない。

 それに、怪我の具合から見て何かしらの治療を受けた直後だろう。
 血も乾いていないし、状態が興奮状態。よっぽど酷い目に遭ったのだろう。

「た、たすけて……お、おねがい」

 そんな事を思っていると。赤崎がこちらに手を伸ばしてくる。
 沼田は一歩後退する。汗を流しながら、沼田は顔が強張る。

 たすけて。正直、沼田の心中はふざけるなと。言いたかった。
 散々馬鹿にされた相手に。助けて下さいと言っている。

 ――おかしい。赤崎の考えが理解出来て、理解出来ない。

 確かに、この状況なら。誰であっても助けを求めるのは当然。
 だけど、沼田は持って来たナイフを握り締める。

 チャンス。チャンスなんだ。後ろの優達のように。自分も、恨みのある相手に報復が可能である。
 絶好の機会なのに。沼田は、膝を震わせ、ナイフを持っている手に力が入らない。

「ち、畜生……こんな時に何考えてんだよ、俺は!?」

 硬直する。まるで、石になったように。沼田は、一歩踏み出せば届くのに。
 その一歩が勇気を出せなかった。

 馬鹿な自分を殴ってやりたい。まだ、自分は赤崎に未練があるのか。

 沼田は、御門と白土を呼んで赤崎の治療をお願いしようとした瞬間。

「貸して」

「……は?」

「いいから、貸して」

 急に背後から園田が沼田からナイフを奪い取る。
 突然の事に沼田は唖然としていた。だが、園田は思わぬ行動に出た。
 これ程までに、沼田が躊躇していたのに。
 何も迷いもなく、園田はナイフで。

「きゃぁぁぁぁぁ、痛い! いだいよぉ……」

「お、おい!」

「言っとくけど、私は……知ってるから、そして聞いてるから……貴方達がこのナイフの痛みより酷い事をしてきた事を」

 園田は、無表情のまま。流れ出る血など気にせず、赤崎の太腿にナイフをグリグリと押し付けていた。
 沼田は、叫びながら園田の行動に驚愕していた。

 自体はさらに悪い方向へと進んで行く予感がした。

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