最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第49話 対決

 その後ろ姿を確認が出来た時。
 優は殺意を剥き出しにして。
 最も愛していた。最も守りたいと思っていた。
 そして、最も殺したいと思える存在。
 自分を救って、自分を崩壊させた人物の一人。

 ――気が付けば、夏目楓の背中を短剣で斬っていた。

 迷いなど一切ない。本気の一撃を霧の視界の悪さも利用して。
 殺ったつもりなのに。優には楓に斬撃を与えた感覚がなかった。
 直前に防御壁で防がれたのを察知した。弾かれたというより、受け流された。
 光の壁は優の勢いある攻撃を逆に打ち消す。

「かえでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 静けさのある森の中で。優の憎悪が籠った叫びが響き渡る。
 小鳥が飛び交って、その大きさと迫力に圧倒される。
 周りにいた沼田達もその存在に気が付く。

「あ、あれは……笹森なのか?」

 驚いている暇もない。楓も後ろを振り向いて殺気を感じる。
 だが、対照的に楓はとても笑顔だった。
 先程までの威圧は消え失せて、柔らかさが戻る。

「優!? やっと会え……あれ?」

「あぁ! ここまで随分と楽しんでくれたようだな! この、裏切りもんがぁぁぁぁ!」

 自動防御によって優の短剣は楓には届かない。
 エンドが続く限り、この防御壁は解かれない。シュバルツの助言と優の判断によって、少し距離を取る。
 大木の上から降りて、優は楓以外のクラスメイトがいる側に近付く。

「さ、笹森君? 本当に、笹森君なの?」

 その声に優は反応する。この世界に来てやっと報われた。
 戦闘中なのにとてもだらしない表情をしながら。
 後ろを振り返り、その声の主の顔を見る。

 彼女は、あの時よりも。髪の色は抜け落ちて、顔も汚れていた。
 自分と同じ白髪で容姿は変わっていた。でも、声や雰囲気で優はすぐに誰なのか。

「し、白土……さん、あ、あぁ! そうか、そ、そうなんだね」

 理解した。その時は、白土以外のクラスメイトは目に入らず。
 その足を近付けて行く。優は、後ろで色々言っている幼馴染の言葉など耳に届いていない。
 今は、やっと会えた大切な存在に。

「よかったぁ、本当に……よかったよ」

 気が付いたら優は抱き付いていた。
 温かい。どんな炎よりも。この世界に来て数少ない心から感じられる温もり。
 彼女の体は冷え切っていた。優はそれを温めるように、ぎゅっと力を入れる。
 白土はその優の胸の中で涙を流す。色々と苦労した。たくさんの人が犠牲になった。

 でも、やっと報われたと。あの日、交わした約束を果たす為に。
 その瞬間。白土の力が覚醒する。ペンダントのよるものなのか。それとも、心身共に満たされたからなのか。

 どちらにせよ、今の白土は。

「ちょっと、私の優に……触らないでよ!」

 楓は激高して魔導杖を二人に対して向ける。
 発生された氷の槍。無数のそれは主に白土を狙う。
 だが、力を完全に取り戻した女神【マルナ】。
 二人を包み込むように防御壁【シールド】を発生させる。

 驚異的な威力を誇っていた。氷の槍も粉々に砕け散る。

『やっと、私の本領を発揮出来ますね』

「マルナ……」

『それに、大切な人との再会を邪魔させる訳にはいきませんからね』

 白土は微笑みを浮かべながら。マルナに感謝する。
 そして、優はペンダントを白土に渡す。

「これは、君が持っていた方が良い、今のこれも君の力のおかげなんでしょ?」

「これが、そうなんだ! ありがとう、本当に笹森君と会えて嬉しいよ」

 赤い星のペンダントを白土は受け取る。重みを感じながら、それを感激しながら首にかける。
 何よりも優からの贈り物に白土は、喜びが倍増していた。
 だが、この光景を許さない。優と白土を睨みつけながら楓は怒り狂う。

「なんで? あぁ、きっとその女に騙されているんだよね?」

 楓は耐えられず思わず口にしてしまう。
 誰が見たってそんな風には思えない。
 優は白土の体を支えながらそちらに振り向く。

 だが、その瞳は既に氷のように冷たい。
 体を震わせながら、楓は一歩後退する。
 敢えて、何も言わず。無言を貫きながら優はじっと見つめる。

「どうして……? 酷いよ、優は私の事が好きなんでしょ? だからさ、私と一緒にラグナロに行こうよ」

「は?」

「ほら、また三人で! 私と優と晴木、でね?」

「おい」

「そうだ! この世界の観光地を回ろうよ! 美味しいものとか、可愛い服とか、そうそう! 楽しい……よ?」

「おぃぃ!」

 再び、怒鳴り声が響き渡る。時間が止まったような感覚となる。
 近くにいた白土はビクッと小動物のように。体を震わせている。

 そして、一歩離れた位置にいる沼田と園田は唖然としていた。
 御門は相変わらずの無表情だった。しかし、真剣にその光景を見ている。

 楓は言葉を詰まらせる。好意を持つ相手に怒られている。
 昔なら、ここで喜ばれるのに。反応が全く違う。

 優は今までの事を振り返りながら。声量は小さいが静かに語りだす。

「最初から、あの薄汚い壺の生贄に選んで、目の前で晴木との気持ち悪い愛情を見せつけて、白土さんをこんな酷い風にさせて、他にも色々とやってたんだろ?」

「そ、それは」

「そんな【糞野郎】なのに、また【三人で一緒】とか、お前……頭どうかしてんのか?」

「ち、違う」

「あぁ、確かに僕は楓の事が好きだった、だから、あの時は、この世界に来る前はどうやって君に相応しい男になれるかずっと悩んでいたんだ」

 優は下を俯きながら。過去の映像が頭の中に流れてくる。
 幼稚園から高校まで。ずっと一緒だった。
 夏目楓は自分とはかけ離れた存在なのに。支えてくれた、助けてくれた。
 恋愛感情を抱いていたのは、何時だったか忘れた。

 それがあってから。優は頑張ってこられた。

 しかし、今は考えも楓に対する見方も変化した。

 優は、少し間を開けた後。白土の手を繋ぎながら。

「だけど、間違っていた……楓、言ってたよな?」

「えぇ?」

「【無理なんかする必要ないよ……例え、同じ大学に行けなくても、それは一つの結果だから】って、その時は何気ない発言かと思ったけど、今考えたらこれが答えだったのかもね」

 この世界に来る前に。楓の部屋で勉強をしている時に言われた言葉。
 作られた左腕を抑えながら。それを、楓に見せつける。
 無理した結果。力が無いのに、ガリウスから楓を守った代償。
 これは、シュバルツのエンドと力によって形成された偽物。

 無理なんかする必要ない。優はやっとこの言葉の真の意味を理解したのだ。

「やっぱり、僕は、いや、俺は楓には相応しくない男だったんだな、だってそうだろ? 君は俺より晴木を選んだんだから」

「ち、違うのぉ、そうじゃなくて」

「あぁ、俺だって一方通行だと思う、事情を知らずただ自分本位で動いているというのは自覚してる」

「す、優! ねぇ、本気でそんな事言ってるの?」

「本気も何も、もう俺が好きなのは、白土さんだ! 彼女は、楓と違って俺をずっと思ってくれていた、遠く離れていても……だから、俺も決断しなきゃいけない」

 白土の手を握る力が強くなる。それに応えるように。優はそちらを振り向きながら、優しい笑顔を向ける。
 この世界に来る前の表情だった。号泣しながら、白土は視界が涙に奪われる。
 こんな悲惨的な状況なのに救われる。これが、この顔が見たかった。

 白土は、目の前の彼と一緒にいたい。ずっと、その先も。
 強くそう願った時。楓は、絶望しきった顔で。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 断末魔がこの場を支配する。そして、見境なく優と白土に距離を詰める。
 魔導杖を向けながら、強力な魔術を使用する。
 しかし、どんな攻撃もマルナのエンド能力と白土の膨大なエンド量で打ち消される。
 楓は叫びながら、二人に攻撃を仕掛ける。

 だが、ビクともしないその壁に楓は地面に膝をつける。

「あはははは、そうなんだね、優はその汚い女の方が好きなんだね! 駄目だよ、それこそ私の言った通りに無理をしてるよ」

「なぁ、楓……最後にお願い事をしていいか?」

「な、なに!? もしかして、それをしたら許してくれるの?」

 何かをすれば許して貰える。楓は瞳孔を開きながら。呼吸を荒くしている。
 晴木の時は、お願い事を聞けば優しくしてくれた。許してくれた。
 様々な事をしてきた。体を差し出して、楽しませてあげたり。人を拷問したり、殺したりもした。
 仕方がない。しょうがないと自分に言い聞かせて。
 ここでもそれが通じると思っていた。だけど、現実と言うのはあまりにも残酷だった。

「白土さんの事を悪く言うな、後は、ここで惨めに俺に殺されてくれないか? それだったら許してやるよ」

「そ、そんなの!」

「今は無理してない、楓の言った通り、これも一つの結果なんだろうな!」

 優は白土の手を丁寧に振りほどいて。一気にその場から加速する。
 的確なエンド能力を発動させて。相手に魔術を使用させないぐらいに。
 速く、鋭く。気が付けば優は楓の背後に回り込んでいた。
 反応速度が追い付かない。楓は、足場を崩された事を確認出来たのは、優が自分に短剣を突き刺している時だった。

「いったぁ!」

 態勢が崩されて。そこを重点的に狙われる。
 優は方向を細かく変えながら。この、自動で発生する防御壁を打ち破るかのように。
 険しい表情で確実に削っていく。
 これが可能なのは、今までコピーしてきたエンド能力があるため。

 全ては、この歪な幼馴染に制裁を加えるために。

「いっけぇぇぇぇぇ!」

「がぁ!」

 一瞬にして。楓の防御壁は破られる。鬼のような形相で短剣を楓の口の中に押し込む。
 これ以上。無駄な事を言わせない為に。
 少しでも動かしたら口の中が血まみれになる。無言の脅迫は楓に通じた。

 凄まじい勢いは周りの砂煙が物語っている。

 これが、笹森優を生贄に捧げて好き勝手やった結果。

 沼田は蚊帳の外からこの一連の流れを見ながら。

「腐ってるな、くそ……」

 見ているだけで何も出来ない自分に腹が立つ。
 物語の、ただの傍観者というのはこういう気持ちなのか。
 相手にもされず、後ろで突っ立っているだけ。
 しかし、それでも今自分が出来る事をやろうと沼田は口を開く。

「御門、お前は白土の守りついてやれ! どちらにせよ、あいつを失ったらお互いにとってまずいだろ」

「どちらにせよ、そのつもりよぉ? 白土さんは、私にとっても大切な存在だし、少し妬けるけどなぁ」

「……はぁ? まぁ、動機は何でもいいけどよ、とにかく白土にとっては救世主かもしれないが、俺達にとってはまだ味方なのか、敵なのかも分からない、それが不安だ」

 御門は迷わず沼田の指示に従う。自分では何も出来ないが、御門なら白土を守ってやれる。
 そして、御門にとっても白土は守りたい存在。
 沼田は、特に笹森の為に。何て義理堅い友情など考えていない。まずは、自分が生き残る為に。
 そうでなければ、あの奴隷達やハルトに顔向けが出来ない。

 優が言った通り、あくまで自分本位に動くだけ。指示を出しているのは、結局は自分の為だ。
 そんな自分に舌打ちしながら。沼田は、白土に向かう御門を見ながら次の事を考える。

(俺や園田に戦う力はない、さっき夏目に馬が倒された……生きているのか? 見た所、動く気配がない! 逃げるにしても手段がなければ作戦もクソもないだろ)

 様々なケースは考えていた。だが、それを実行に移せる人員も戦力もない。
 駄目だ。頭に過るのはこのまま優に殺されるか。それとも、付近を徘徊するガリウス。あるいは、追っ手に殺される。
 時間的にそろそろラグナロの憲兵団が来る頃だろう。

 ハルトが命懸けで突破口を開いてくれたのに。沼田は、必死に打開策を考えていた。

 だが、そんな時。

「沼田君、近くにいる」

「はぁ? 何がだ!? 今、色々と考えてんだ! 邪魔……」

「違う、敵が、近付いている」

 突然と園田に話しかけられて。混乱する。しかし、その園田の情報に沼田は背筋が凍る。
 悪い予感はいつも当たる。渇いた笑いが沼田の心境を物語っていた。
 きっと、自分達よりも強い者達が迫って来ている。

 園田は自身のエンド能力によって、他の者よりもずっと遠くが見えている。

 ただ、焦る沼田とは対照的に。園田は驚く程に落ち着いていた。
 絶望的な状況なのに。声は荒立てず冷静に振る舞っている。
 いや、見えているからこそ。園田には理解出来ている。
 自分達に近付いている敵が、自分達にとって。

「あ、あぁ……」

「おいおい、何でお前がこんな所にいるんだよ、赤崎!」

 そこには、指を切られて地面を這いずりながら助けを求める。
 沼田にとって、恨んでも足りない。
 そして、あの時とは変わり果てた姿で再び自分の目の前に現れた。

 地獄。これが沼田の素直な気持ちだった。

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