最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第45話 自分の為に

 優はこちらに向かっている。
 白土はそのオーラを強く感じて。目の前の強大な敵を睨みつける。
 マルナは必死に補助をしてくれている。それに、自分の為に戦ってくれるクラスメイト。
 彼女、御門玲奈は白土に背を向けながら。

「大丈夫、貴方は私が何とかするから」

「それは無理ね! ここで惨めに死ぬのよ!」

 楓は叫びながら。御門と白土を高い位置から見下ろしている。
 敵の数も戦力も桁違い。御門は、周りを目視しながら。
 状況を確認して、武器を取り出す。

「鎖……? ふん、剣でも杖でも弓でもないって……相変わらず、変わってるわね」

「いいえ? 鎖は真っ当な武器よ、それに、変わっているのは、貴方自身じゃないの?」

「ち! あぁ! この女を殺して! 殺せ!」

 憲兵団は一斉に武器を構える。白土はヨロヨロと立ち上がり、このままでは御門が死んでしまう。
 マルナの強力な防御壁でも防ぐのに苦労した攻撃。
 その恐怖を知っている白土にとって、御門が心配でたまらなかった。

「シーファ!」

「了解です」

 今まで隠れていたシーファが構えている憲兵団を背後から短剣で切り裂く。
 首を的確に狙うそれは正に殺人者。悲鳴が聞こえる前に、シーファは相手を殺し尽くす。
 あまりの突発的な出来事に。周りの戦い慣れていない憲兵団は対応出来ない。

 普段は、書類の整理や事務的な事しかしていない。そういう所も、御門は事前に情報として頭に入れていた。
 次々と倒れていく、憲兵団。楓は、表情を強張らせながら、唇を噛む。

「うっざ」

「貴方で最後」

「目障りよ」

 楓は、向かって来るシーファに向かって魔導杖を向ける。
 シーファは素早く近付く。魔術を使用される前に。距離を詰めて、一気に勝負を決めようとする。
 だが、確かに攻撃は届いたはずだった。

「な、なぁ……」

「お願い、私の為に死んでくれる?」

 強固な短剣は簡単に折られてしまう。【自動防御】楓の白魔導士の力の一つ。
 エンドが続く限り、そして先程の白土の矢を受けた時から。既に楓は本気を出していた。
 いや、正確には全力で殺す為に。相手を痛めつける為に。
 後少しで。目の前の【魔女】のような女を葬れたのに。シーファの目の前が真っ白となる。

「だめぇ! 逃げて!」

 白土が大声でシーファに駆け寄ろうとした時。楓の魔導杖が光りだす。
 そこから、氷の槍が出現しシーファの胸を突き刺す。
 冷気を帯びたそれは、一瞬にしてシーファの動きを止める。
 赤く染まった氷の槍は、しばらくして消滅して、刺されたシーファは民家の家から落下する。

 御門はすぐにシーファを受け止めて、安否を確認する。

「……死んでる」

 瞳を見開けたまま。即死だった。治療をするまでもないぐらいに。急所を貫かれ。無残に血が流れている。

「あ、あぁ……そんな」

 白土は後ずさりしながら。また、自分のせいで多くの人が死んだ。限りない自己嫌悪に陥る。
 憲兵団も自分が行動しなければ生きていた。そして、御門の専属のメイドも。
 全ては自分が引き起こした出来事。それを自覚すると狂ってしまいそうだった。

 御門は、シーファを抱き抱えながら。静かに瞳を閉じさせる。
 怒りも、悲しみ、涙もなく。返り血を拭き取ることもせずに。
 シーファが握り続けている短剣を自分で手に取る。

 そして、その光景を見て楓は笑う。

「あは……あっはははは! ねぇ? どんな気持ち? 大切な人が死んじゃったよ? 私が殺したの、残念ね、でもしょうがないよね? 私の邪魔をしたんだから、当然の報いよ!」

「そうね」

「あれ? 遂に認めっちゃた? 御門さん? 私より胸が大きくて、少し可愛くてチヤホヤされているからって調子に乗らないで? まぁ、いいや! ここで死ね」

「み、御門さん! もう、いいです! 間違っていたんです……私が、私が! 幸せになる事が間違っていたんです! ずっと、あの地下牢で過ごす事が、私にとってもみんなにとっても……」

 白土の泣き声が混じった意見を聞いて。静かにシーファの遺体を地面に置く。頬を摩りながら。
 高い位置から、今最も殺したい。いや、それだけでは足らない相手。
 その女に向かって鎖の攻撃を仕掛ける。
 無言で表情は一切変えず。静寂の状態で、長い鎖は楓に巻き付こうとする。

「面白い、武器ね」

「……ち」

「あれ? 怒っているじゃない? ただのお人形さんかと思ったけどそうじゃなかった?」

 エンドの供給によって。自由自在に蛇のように動く鎖。御門の器用さもあり、楓を徐々に追い詰めていく。
 民家の死角から二本の内の一本を楓に向かわせる。

「ふーん、だけど、無駄ね」

 楓は魔導杖を打撃武器として使用しながら。それを鎖に巻きつけさせる。
 しかし、御門はそれを自分の方に引っ張り、手に取る。
 回避されたが武器が無ければ強力な攻撃は出来ない。
 だが、それは認識が甘かった。

「杖が一つだと思ったら大間違いよ!」

「……っ!」

 楓は空中で新たな杖を取り出す。先程の物よりもサイズが小さい。
 御門はすぐに奪った魔導杖に自分のエンドを流し込む。

「いた! な、なぁにこれ!?」

 だが、体中に電撃が走る。痺れながら地面に魔導杖を落とす。
 足から上半身にかけて。まるで、雷に打たれたのような。
 使おうと思った武器が使えない。機転を利かせて鎖で再び楓に攻撃しようとした時だった。

「その武器は特注品よ? 私以外の人が使おうとすると、電撃が走って使用不可能になるの! それで、もう終わり?」

「……! 狙いは私じゃない!? し、白土さん!」

 初めから楓の狙いは白土だった。御門はその後に、処理出来るという判断を下している。
 替えの魔導杖を白土に向けながら。シーファを殺した氷の槍を発生させる。
 さっきよりも、鋭く数も多い。

『ユイナ! 防御壁を発生させます』

「頼むわ」

 すぐにマルナは白土を守るために。残っている全ての力をそれに注ぎ込む。
 だが、それ以上に楓の氷の槍は威力が桁違い。
 弾こうと白土は歯を喰いしばる。だが、根性と気合いだけでどうにか出来るものではない。
 段々と発生させている防御壁はヒビが目立つ。汗を流しながら。両手を前に差し出す。

「砕け! くだいてぇぇぇ!」

「はい、おしまい」

 白土の叫びも虚しく。楓の魔術の氷の槍はマルナと白土の防御壁を打ち砕く。
 砕かれたのは氷の槍ではなかった。
 楓は終了を確信して、口元を緩める。無数の氷の槍が白土を襲う。
 直前まで迫った時。時間が緩やかに流れる。スローモーションのように。
 死が迫った時の感覚はこんなものなのだろう。生きている時間はこんなにも長いのに。

 ――――目を疑う。それは、白土を守るように。盾の役割として。

「あ、あぁ……」

「はぁ? 興ざめ何だけど、何でそんな無駄な事するかな?」

 体に突き刺さる氷の槍。御門は、それを確認しながら口から血を吐き出す。
 そして、一瞬の隙を見逃さず。御門は、捨て身の状態で鎖を楓に放り投げる。

「な、くそ! は、離せ!」

 見事に。二本の鎖は楓を縛り付ける。完全に油断していたのだろう。
 鎖に付着した血が生々しく思いながらも。御門は、やっと笑顔となる。

「捕まえた、ごほ! いたぁいけど、ま、守れてよかった」

「そ、そんな、いや、み、御門さん!」

 すぐにマルナに治療をするように命令しようとする。
 しかし、御門は苦しみながら。片手で優しく白土の胸を押す。
 これが何を意味するのか。白土にはすぐに理解出来た。
 だけど、それはすぐには決断が出来なかった。

「あぁ、うざったい! この鎖、何なのよ! はやく、優に会わないといけないのに! 晴木の目的を……」

「あ、安心して、貴方の願いは叶わせてあげる」

「いや、それだと御門さんが」

「ねぇ、白土さん……もう、いいんじゃない?」

 何とか鎖を解こうと努力している楓。
 頑丈なそれはすぐには動けない。御門が力を込めているのもあるだろう。
 こんな状態なのに白土の為に何とかしてあげたい。
 普段の力以上のものが出ている。気持ちの力。それが、御門を動かしていた。

 そして、白土に背を向けて。白土をこれから向かう幸せの道に送り届ける言葉をかける。

「貴方はあんな場所にいる人じゃないわぁ」

「で、でも……私は」

「皆の為に、他の人の為に生きようと何て考えない事よ! 貴方は貴方の為に! その道を進みなさい! 私は、やっと人間らしくなれたのも貴方のおかげだから」

 その瞬間。御門は、楓に向かって行った。短剣を握りながら。覚悟を決めた瞳で。
 それと同時に。白土も進んで行く。走り方など気にしなく、ただ突き進む。
 ただ、その瞳には涙を浮かべていた。泣かずにはいられない。ここに来て何回泣いただろう。
 しかし、すぐに手で拭き取り、真剣な表情になる。

(ありがとう、御門さん! 私、笹森君と必ず会って、自分の為に生きる! だから……)

 後ろから。御門の悲鳴が聞こえてくる。振り返る事は決してしない。そんな事したらまた足を止めてしまうから。

 白土は走り抜ける。そして、この出来事の裏で優も全速力で白土の元へと向かっていた。

 再会はもうすぐ。だと、この時は思っていた。

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