最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第41話 地下水路

 白土が御門に助けられた時。
 残された地下牢の中で。沼田は鎖に繋がれたまま地面に座る。
 このままではせっかくの機会が水の泡となる。
 悩めば悩むだけ。監視が戻って来る可能性が高くなる。
 最悪、逃げ出す途中で見つかれば確実に殺される。

 リスクは大きい。だが、成功すればこの地獄から抜け出せる。

「おい! 返事しろ! 起きてんだろ」

 この脱走計画は一人では絶対に無理。それを初期の頃から重々承知していた沼田。
 地下牢は三人一組の同室となっている。白土は特別で一人部屋だったが。
 この部屋の構成としては。沼田と知らない男性。そして、同じクラスメイトの女子一人。

 沼田の呼びかけにその女子は反応する。
 彼女もまた鎖に繋がれており動けない様子だった。
 しばらく無言だったが、沼田の怒り声に静かにそちらを向く。

「なに?」

 ボソッと呟くように。彼女はトレードマークの眼鏡を上にしながら。
 お腹が空いているのか。大声は出せないようだ。
 彼女、園田真理(そのだまり)は、この世界に来て笹森が生贄になった後。
 真っ先に地下牢に収容された人物。クラスでの立ち位置は沼田と変わらない。

 エンド能力は不明。基礎能力も大した事はないのだろう。
 一緒に地下牢に入れられて。話した機会は数える程しかない。
 そもそも、沼田はこの園田真理という女子が好きではなかった。

 ――――同族嫌悪か。根暗で口数が少なく、いつも赤崎などの女子に陰口を言われていた。
 たまたまその話題に参加していた沼田。一緒に笑っていた自分を殴りたい。
 結局。自分もこの園田と同じ。異性とは縁がない者同士。

 ちょうど良い。これで遠慮なく作戦の協力を話せる。
 沼田は一方的にこの状況と脱走する事を伝える。

「お前も気付いていると思うけど、今は監視の憲兵もいないし、恐らくだけど一箇所に人が集まっている」

 園田は全く興味を示さず。頷くこともしない。沼田は舌打ちをしながら。言葉を続けていく。

「外の状況はさっきから上から僅かだけど爆音が聞こえるし……何かやってんだろうな」

「……それで、言いたい事は?」

「ああ、俺達と残りの協力出来る奴でこの地下牢から抜け出して、ラグナロから脱出する!」

「無理」

「はぁ!? 即効かよ! ふざけんなよ!」

 だが、こうやって言い争っている時間はない。
 素っ気ない園田の反応に。沼田は激高する。必死にそれを少しだけ爆発させて。
 後は深呼吸をして落ち着かせる。園田は沼田と違い現実的な性格をしている。
 ここから抜け出せない事も。ラグナロからは逃げられない事。

 あの壺の存在がある限り。クラスメイトはさらに狂気化する。

 見ていられなかった。園田は引き目を感じながら。
 変わっていくクラスメイトの様子を眺めていた。
 いや、元々。この世界に来る前から。

「狂っていた」

「何言ってんだよ」

「……沼田君は、このクラスについてどう思っているの?」

 珍しく。口数が多い園田に困惑する沼田。このクラスとは自分達の事についてだろう。
 沼田は顔を強張らせながら。深くはあまり考えてこなかった。
 確かに、自分の立ち位置は低い。しかし、自分の面白くない冗談にも笑ってくれていたのも事実。
 赤崎には酷い目に遭わされた。だが、特に【虐め】られていたというのは記憶にない。

 すぐに頭に浮かんだ言葉を園田に返す。

「良いとは思えないけど、悪いとも思えない」

「普通ってこと?」

「いや、今となっては【極悪】だろうな、笹森を生贄って普通だったら有り得ないだろう」

 正常な思考を持っているのはクラスに少数ながらいる。
 自分もその一人だと信じたい沼田。だが、残念ながらそれは叶わない。
 有り得ないと思っていても反対はしてなかった。
 聞く所によると出水などは、あの勇者に歯向かっていたらしい。

 不可能だ。助けたいと思っても。止めたいと思っても。まず、【力】がなければ絵空事になる。
 ここに居る時点で従うしかない。沼田は黙り込む園田に語り掛ける。

「あの壺でクラスの奴らが変わったのは事実だが、それ以前に裏がありまくりだったんだろうな」

「……どうしてそう言い切るの?」

「ふん! この際だからはっきり言うけどなぁ! 俺は、赤崎に付きまとった気持ち悪い男なんだよ!」

 言った後。後悔する沼田。直接的には言われなかった。あの、トイレで聞いた発言以降。
 沼田は赤崎との関わりを極力避けていた。だが、避ける程に積極的になっていく。
 もしかすると。聞き間違いだったのか。あの時の赤崎は演技だったのか。
 自分の都合の良い方に。考えていくのはどうかと思う。
 しかし、こうでもしないと納得が出来なかった。

 だが、その幻想が打ち破られたのは。昼飯の時間。

 まるで、沼田に聞こえるぐらいの声量で。

『最近さぁ、クラスのある奴と外出したんだけどさ、もう女慣れしてないのがバレバレほんとキモくてさ!』

『あははは! 友愛ちゃん、可愛いからね! 何か変な事されてないよね?』

『うーん、まぁ、お金は出してくれたしいいかなって?』

『友愛! そんな奴がいたらあたいがビシバシしごいてあげるから安心しな! どうせ、殴ってもいい奴なんだろ! だははは!』

 沼田は自分のバイト代で買った購買のパンを食べながら。
 あぁ、これは自分の事何だろう。味も感じず泣きそうになりながらも。
 必死に普段通りの自分を演じた。

「知ってた」

「ま、まじかよ……何で?」

「私も言われてたし」

 園田も沼田と同様に。赤崎達から色々と陰口を言われてたようだ。
 図書室で本を読んでいる時に。
 廊下での話し声が耳に届いてきた。本に集中したいのに。
 大声で品もなくゲラゲラと笑いながら。

『ねぇ、修学旅行の班ってどうする?』

『考えたんだけどさ、園田さんと沼田を一緒の班って面白くない?』

『うわぁ、それマジ爆笑! きっと沼田の奴が発情するんじゃね? 園田さんも何考えてんだか分かんないし』

『何か家で実験してそうだよね! 気持ち悪い』

『口数も少ないし、暗いしね……容姿が悪い者同士いいんじゃない?』

 園田は過去に実際に繰り広げられた内容を洗いざらいに白状する。
 沼田は話し方すら似せようとする園田に思わず突っ込む。
 ただ、気になる所があった。

「お前は何とも思わないのかよ、赤崎達にそんな事言われて」

「別に、言わせておけばいいじゃない、可哀想な人達って思ってるわ」

 彼女は自分と同じだと思っていた。だが、似てるようで違った。
 眼鏡で見通せない彼女の瞳。表情が変化せず掴めない。
 沼田は、すぐに顔に出てしまう。だから、下心が丸出しになってしまう。
 そんな彼の反応を面白がって。彼女らは沼田の容姿の悪さも加わって子馬鹿にする訳だ。

 少し園田の芯の強さが分かった所で。沼田は複雑な心境のまま。
 それでも自分の作戦を話す事にした。

「自分で言うのも何だけど、俺はこの状況で【何をすればいいか、どうすればいいか】が分かる」

「それで?」

「お互いに色々と言われていた者同士……だったら、一緒にここから抜け出してやり直さないか?」

「……嫌だと言ったら? 私が沼田君と協力するメリットはあるの?」

 園田は見返りがあるのか。それが最重要問題だった。
 無理に危険を冒してここから脱出しなくても。
 不味いながらも食事は出るし、住む所には困らない。
 劣悪な環境の中でも。【死なない】環境は揃っている。

 しかし、対して沼田は違った。今ここで何をすればいいか。
 それは、人間らしい生活を取り戻す事。散々馬鹿にされてきた者達を【見返す事】。
 ここにいては死んでいるようなもの。家畜同然の扱い。

 違う二人の意見は噛み合わない。このまま平行線を辿っていては。
 話が進まない。沼田は園田の言うメリットについて。何も答えられなかった。
 確かに、例え成功したとしても。その後、どうする。
 食糧は? 住む場所は? ガリウスと遭遇した時どのように対応する?
 様々な問題が沼田を押し潰す。ここで破綻する。

「黙っているってことは、何も、ないわけね」

「……ち! あぁ、そうだよ! けど、しょうがねえだろ! 俺だって、本当は……」

「その話、俺も参加していいのか?」

 完全に諦めようとしていたのに。再び、沼田の作戦の針が動き出す。
 今までずっと眠っていた。いや、反応を示さなかった。
 一人の男性が立ち上がり、こちらに近寄って来る。

 強靭な肉体に、ボサボサの黒髪。青色の瞳は彼の美形に似合っていた。
 岩のように。ゴツゴツとした右手を沼田の前に差し出してくる。

「と、申し遅れたなぁ! 俺の名前は、『マーク・ハルト』! これでも、元は【騎士団】に所属していたんだぜ」

「き、騎士団って……何でそんな人がこんな場所に」

「……っ! まぁ、色々あったんだよ、それよりも今はお前のその作戦と言うのを聞きたい」

 この男性は最近になって。沼田と園田の部屋に来た。だから、話す機会もなく見た目的に怖かった。
 ただ、人は見かけで判断してはいけない。沼田はそれを再認識しながら。
 会話に時間を使い過ぎたと。反省しながら、すぐに立ち上がる。

「あんたの決意は分かった、でも、あまり時間はない! すぐにでも説明してここから抜け出す」

「おしおし! 話が速いのは助かる! その前に……」

 ハルトは力みながら。いとも簡単に、縛っている鎖を引きちぎる。
 その光景を唖然としながら。沼田は、口を開けながら。園田も珍しく興味を持っていた。
 地面に錆びた鎖は散らばる。耐久がなくなっていたのか。それとも、彼の筋力が凄まじかったのか。

「ほら、お前の鎖も破壊してやるよ」

「あ、いや、その……」

「そっちのお嬢ちゃんはどうする? あんまり乗り気じゃないんだろ?」

 ハルトはとても爽やかな笑顔を見せてくる。
 園田は半ば強引だったが。これを見せられたら断れるはずもなかった。
 二人は突然現れた【ヒーロー】のように存在に。
 鎖を破壊して貰い、予想外だったが手足が時間もかけずに自由となった。

 これで、作戦の遂行時間は大幅に確保された。

 沼田はとても感謝しながら。遂に、今まで眠らせていた計画を話し始めた。

 ――――――――

 ――――

 ――

「地下水路を通って逃げるだと?」

 すぐに事前に用意しておいた。地図を書いた紙を広げながら。
 沼田は園田とハルトに大まかな作戦を簡潔に話す。

 地下水路。これが確認出来たのは。就寝時間の時だった。
 監視の者が壁にある隠し扉から入っていく様子。
 何をするかと思って。感づかれないぐらいに。その光景を見ていた。
 しばらく経った後。監視の憲兵は大量の水を台車に置いていた。

「たく、貴族の奴ら、こんな時間に」

 文句を言いながら離れて行く。沼田は確かにその目で見た。

 ここから沼田の計画は開始された。

 そして、地下牢に置いてあった本。何気なく置いた本だと思われた。
 その中の本にラグナロの歴史や伝記が書かれた本があった。
 これが致命的。暇潰しに読んでいただけなのに。沼田はある事を発見する。

「そうだ、それでこの地下水路は【西門】に繋がっている」

「西門……そうか! 水路の水を引き上げるには、途中に上がれる場所が必要という訳か」

「本で読んだラグナロの全体図、これは昔のものだと思うけど、この地下水路は西門をくぐった先にある……【ネイル湖】の水を使っている」

「話しだけは俺も聞いたことがある、だが、そんなに詳しく知らなかった、勉強不足か」

 ハルトは申し訳なさそうに沼田に謝る。沼田は事前に騎士団の事も調べていた。
 失礼だが、戦闘能力は優れているが戦術や戦略はそれほどでもない。
 ただ、騎士団長やその補佐が両方いけると書かれていた。
 そして、沼田達にとって。この目の前のハルトという男は目的に合致している。

 つまりは、【戦える人材】がここにいる。
 沼田にとって一番恐れていた道中での敵と遭遇する事。
 一応、策は考えていたが。完璧ではない。失敗の可能性の方が高い気がした。
 だから、剣を扱えて。戦闘力が高いこの男と同室だった事。これもまた運が良かった。

 地下水路でもし憲兵と出会った時の対処。そのリスク。それらが解消された。
 沼田は、これほどまでに、自分の力の無さを実感する。

 ハルトがいなければ、鎖をこの地下牢の柱で削りきる所から。初めなくてはならなかった。

 だが、ハルトはそんな沼田の作戦を褒め称えた。

「しかし、地下水路から脱走はともかく、少ない情報だけでここまで練り上げたのは大した男だな」

「いや、偶然が重なっただけだ、地下牢に地下水路の道が通じていた事、西門まで繋がっている事を知れてこの本、これがなかったら元も子もなかった」

「でも、お前はその偶然を自分なりに纏めて一つの形とした、俺は戦う力はあるが、残念ながら頭の方はあまり良くなくてな……時に、戦術や戦略と言ったものは強敵を出し抜くのにとても有効的なものだ」

「や、やめろよ! べ、別に大した事はない」

 沼田にとって褒められる事は滅多になかった。それは、両親からも期待されていなかった沼田にとって。
 格別だった。焦りながら大したことないと否定する。
 ただ、その表情は若干赤面しており。内心はとても嬉しそうだった。

(調子が狂うぜ、たく……変に褒めなくていいんだよ!)

 ハルトは高らかに笑いながら。沼田はその口を塞ぎ静める。
 頭があまり良くないというのは本当のようだ。
 ただ、これで大体の情報は揃った。
 沼田はすぐに元の真剣な表情に戻る。後は地下水路に向かうだけだ。

 沼田が、そう決意して立ち上がった時。

「一ついいかしら?」

「……何だよ」

 今まで黙っていた園田が口を開く。

 そして、地下水路に向かう前に。大きな問題が残っていた。

「私達以外の人達はどうするの? このまま置いてくの?」

 こうして、沼田達は地下水路へと足を運んだ。
 果たして、三人が下した決断とは。

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