最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第32話 祈り

 扱いはまるで犬のように。
 白土は鎖に引っ張られながら。
 地下室を抜けて、何時ぶりだろうか。久しぶりに外の光を浴びる。
 欲していた自然の温かさが。白土の体を温める。
 しかし、直ぐにそれも消え失せる。その感傷に浸ることもなく。
 楓は笑みを浮かべながら。そして、白土の苦しむ表情を見たいために。

「ほら、さっさと来なさい!」

 どんなに、希望を感じようと。それは無駄である。
 目の前のクラスメイトにそれが全て叩き潰される。
 地面に這いつくばりながら。足の筋力がないため。そうするしかなかった。

 楓にとっては楽しくて仕方がない。先程の一件。優が好きという発言。
 許せなかった。憎悪と怒りで溢れ、取り乱してしまう。我ながら不覚だと思った。
 しかし、晴木の指示など忘れて。この、惨めな女を痛める事に。
 とてつもない快感を覚えていた。ああ、そうだ。
 この女は自分よりも劣っていて、自分よりも下の位置にいる。

 だから、こうして鎖に繋がれ奴隷のように扱われている。

 通路の真ん中でこれが繰り広げられており。
 通る貴族の人達は気にも留めない。それどころか、笑う者もいる始末。
 地下室に入る者をこの城で助ける人はいない。
 要らない存在なのだから。白土の場合は特殊な例だと思うが。

 そして、遂に二人は晴木の部屋の前まで到着する。
 楓は乱暴に白土を連れて中へと入る。

「晴木! 連れて来たよ!」

 一気に明るみになる楓の表情。
 疲れと怒りが吹き飛ぶ。入室と同時に楓は晴木の胸の中へと飛び込む。
 白土はその光景に吐き気を感じる。
 それにしても、白土にとって【勇者晴木】の姿を見るのは久しぶりだ。

 彼が、地下室に来ることは数える程しかない。
 白土はそれを記憶している。地面に両手を着けながら。
 土下座のような体制の状態で。顔を見上げて、その様子を見上げる。

 ――――気のせいだろうか。白土はその晴木の表情に目を疑う。

 虚ろな自分のその瞳には。喜びに溢れている楓と違い、晴木は顔を強張らせていた。
 嫌がっている。いや、面倒と感じてしまっているのか。
 自分の判断力が鈍っているというのもある。そう、見えるだけだろう。

 いや、むしろ判断を間違っているのは楓の方なのか。
 彼女はあの勇者に身も心も捧げている。それは本当に正解なのか。

 外部から見たら、今の楓はあの勇者に。

「よしよし、いつもありがとな」

「うん! ねぇ……地下室って臭くて最悪の場所だったんだ、だからさ! お風呂に入った後……」

「はぁ、盛んだな! いいぜ、激しく愛してやるよ」

 勇者に騙されている。利用されている。
 聞きたくない会話を遮断しながら。白土は必死に分析していた。
 あの様子だと、他のクラスメイトも。いや、この世界の人も晴木によって遊ばれているだろう。

 そう思うと、胸の高鳴りが止まらない。悪い意味で、白土は涙を流す。
 他の人を救おうと思って。優の二の舞になる人が出ないように。
 必死に訴え続けた結果がこれだ。多くの人を自分の力で幸せにしたかったのに。

 すると、白土が泣いていることに楓達は気が付く。

「何、泣いてるのよ……これから、働いて貰わないといけないのに!」

「んぐ!」

「ふふ、苦しいでしょ? 痛いでしょ? どうにもならないのよ」

 行動すればする程に。裏目に出る。泣かなければ、さらに苦しみを味わう事はなかった。
 白土は鎖を下に引っ張られて。地面に顔を密着させられる。
 そして、楓は履いているブーツで白土の顔面を踏みつける。
 その時の彼女の表情。見るに堪えないぐらいに。崩れていた。

 頬の皮が破れ、血がでても。力を緩められることはない。
 だが、それを近くで見ていた晴木が。楓の肩を軽く叩いて。
 白土を見上げながら優しくこんなことを言い出す。

「やめろ、これ以上やったらこれからの事に支障をきたす可能性があるからな」

「えぇ! 晴木はこいつの肩を持つ訳?」

「まぁ、やり過ぎは良くないな……所々に傷も目立つし、俺はお前に白土を連れてこいとだけ指示したはずだったが?」

 珍しく、楓に叱咤する晴木。すぐに白土の顔からブーツを離す。
 慌てながら弁明する楓を見て白土は哀れに思えてくる。
 これがこの二人の実体。愛し合っているように見えるがそうではない。
 結局、利用して。利用されるだけの関係。

 楓から晴木の唇を奪う。それから目を逸らしながら。
 白土は何故、自分でも気が付くこの事実に。彼女は気が付かないのか。

(何で……有り得ない)

 ただ、それを言う事は出来ない。したくないと思ってしまう。
 自分がこの事実を口にする。そうすれば、彼女が救われるかもしれない。
 それなのに。今までの憎しみ、仕打ち。それが、白土の抑止力になってしまう。

 救えるはずの人物が目の前にいるのに。
 その手を引いてしまう。白土はそんな汚い自分に涙をさらに流してしまう。

 彼女が笹森優にまだ好意を抱いている。その事実も白土の抑えつける気持ちが強くなる。

 ――死ね。死ねばいいのに。殺してしまいたい。苦しめ、そして死ね。

 暗闇の底に落ちるように。落ちてしまいたい。あいつ(楓)と一緒に沈めば。
 大事な人を。自分が一番好きな人をこれ以上傷つけずに済む。
 呼吸を乱し、思わず口元を手で隠す。吐き気が最高潮となる。
 そんな中で。晴木は、楓をこの部屋から去るように促す。
 不満そうだったが、晴木の頼み事は断れない。去り際に、楓に唾をかけて、晴木に投げキスをする。

 長い白髪に楓のそれが付着する。惨めに思いながらも。これで確信する。

 ――――――――ああ、彼女は救えない。自分の想いは絶対に届かないと。

 それだったら、もう自分の欲望に忠実になろう。

「さてと、邪魔な奴が消えたな、にしても、変わり果てたな」

 彼女は。

「それにしても、楓もやり過ぎだ、せっかくの上玉なのに勿体無いだろう」

 この屑で最悪な勇者に。

「綺麗な女には優しくしないといけないのにな……そう思うだろう? 白土」

 食い潰されて下さい。無残な最期を遂げて下さい。

 歩み寄る晴木を見ながら。白土は強くこう念じてしまう。
 考え方は増々最悪の方向に向かって行く。
 それほどに彼女から受けた仕打ちは計り知れないものだった。

 もう、白土に迷いはなかった。救えると思った自分が浅はかだった。
 これからは、戦っていく。自分が幸せになるために。大切な人を守れるようになるために。

 あの日、交わした約束を必ず果たすために。

 そして、その時だった。白土の頭の中にある情景が思い浮かぶ。
 戦っている。何処か、遠く離れた場所で。
 涙がその瞬間に止まる。泣いている余裕。そんな暇などなかった。
 彼女は、驚いた顔付きで。その浮かんだ光景を凝視する。

 自分と同じ変わり果てた白髪に。目付きは鋭くなっているが間違いなく彼。
 隠しきれない優しさが滲み出ている。最初は朧気(おぼろげ)だったその映像も。
 次第にはっきりとしていく。

 ――――彼、笹森優が戦っている。それを見て。自分も彼の助けになりたい。一緒の位置にいたい。

 白土の気持ちが強くなる度に。その浮かんでいる映像は鮮明になっていく。

 体を震わせながら、久しぶりに見る彼の勇姿に。何より、生きている事に感銘を受ける。

 先程までの負の感情が消え失せたかのように。体かとても軽くなる。
 同時に、体も胸も全てが温まる。人を想い続ける気持ちと言うのは。こんなにも心地が良いものなのか。

 この場所は絶望しかない。このまま何しなければ自分も利用され食い潰されてしまう。
 約束も果たせないまま。醜く死んでしまう。それだけは絶対に避けなければいけない。

 白土は祈る。晴木が色々と言っているが耳を貸さず。ただ、一点に届くか分からない。
 彼に全てを捧げるために。それでも、出来る事と言えば祈ることしかない。

 自分を救うために。彼を救うために。白土は有り余っているエンドを祈りに込める。
 意味がない行為。しかし、何もやらないより。何かやった方が後悔は少ない。

 気のせいか。体内のエンドが減り続けている。どういうことなのか。

 すると、その瞬間。白土の目の前に赤い光が輝く。

「どうした? お前にはこれから働いて貰う、余計な事は……ん?」

 晴木はその存在に気が付いていない。自分にしか見えないのか。
 そして、ここに奇跡は起こる。赤い光は白土を包み込む。
 この場に地響きが起こり、やっと晴木はその異常に気が付く。
 城が揺れ、天井が崩れるほどに。白土自身も驚いていたが、それが終わると同時に。

『貴方の願いとその想いを引き受けました、これから、貴方を導きます』

「え? どういう……きゃ!」

 凛としたその声。大人の女性の声が白土の耳に届く。
 それが聞こえた直後。白土の包み込む赤い光は眩い閃光を放つ。
 白土は突然働いた力によって。何処かに飛ばされてしまった。

 転移魔術とは違うもの。エンド能力が起こした一つの奇跡。
 祈りは本人には届かなかった。だが、少しずつその彼には近付いていた。
 白土の戦いは始まった。過去の果たせなかった約束を交わすために。

 そして、彼にはっきりと想いを伝えるために。白土は、戸惑いながらも決意する。

「な、何だ……どういう事だ、この地響き、ち!」

 周りを見渡しながら。白土の存在と起った出来事を整理する。
 不足な事態に。晴木は溜息と苛立ちを隠せない。
 この勇者の自分を差し置いて。逃亡とは考えられない。
 晴木はじっくりと時間をかけて自分の女に加えようという算段だった。
 しかし、それも幻想に終わり砕け散る。

 怒りを込めながら。晴木はデンノットを乱暴に掴み取り、シード全体に知らせる。

「動ける奴は急いで白土を探してくれ! 突然に何処かへ行ったけど、まだ遠くに行ってはないはず……いいか、探し出した奴はそれ相応の報酬をやる! 温情なんて要らねえぞ? 痛めつけてでも俺の所に持ってこい!」

 晴木は書斎の上の書類を手で弾き飛ばしながら。
 思い通りにいかない状況がもどかしかった。
 こんな思いにさせた白土を許すつもりはない。

 捕まえた後。まずは、純潔をかっさらい。無理やりに犯し続けるだけだ。
 抵抗する気力も残すつもりはない。やると決めたら徹底的にやる。

 ある意味。楽しみが増えて。晴木はにやついていた。
 嫌がる者を自分の手で支配した快感は忘れられない。

 ましてや。あの優に好意を持ってる女なら尚更だった。

 彼は勇者ではない。ただの、欲に溺れた男の一人であった。

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