最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第28話 連携

 戦いというものは急に開始される。
 現在。このマルセールではガリウスの侵攻が確認される。
 複数のスイーパー、イモラ。そして、出水達にとって初めて出くわす怪物もいた。
 赤い空のイレイザー。これも、初見で不気味な雰囲気に三人は硬直していた。

「しゃあねえな、即興だけど作戦を練ろうぜ」

 飛野は苦しみながらも状態を起こし、ララは慌てて出水の方を見る。
 時間はあまりない。ただ、事前に最低限の話し合いはやっておかなければ。
 驚く程に出水は冷静であった。
 まずは、お互いの名前を確認し合う。出水は、さらっと自分のことを紹介し、雑に飛野のことをララに伝える。

「宜しくお願いします」

「あっははは! 別に敬語じゃなくていいよ、年齢もララちゃんの方が年上っぽいし」

「お前さっき泣きながら俺の事心配してたのに、紹介の仕方雑過ぎるぞ」

「うっせーな、さてと、まずは……おわ!」

 どうやら三人に話し合いの時間も残されていない。
 民家を破壊し、イモラの大群が迫って来る。
 聞こえてくる、悲鳴と爆発音。瓦礫が出水を襲い、剣でそれを斬る。
 鞘から抜き出した二本のそれは、イモラを倒すのには申し分ない。

 囲まれる前に。出水はすぐに能力を発動し、イモラの肉質を掻っ切る。

 ララと飛野に突進を仕掛けるイモラ。距離を詰められて、囲まれたら不味い。

 剣先を伸ばし、瞬間的にリーチを伸ばす出水のエンド能力。
 しかし、多用は禁物。先程の御門との一件もある。
 息切れを起こしながら、出水は威力と範囲を抑えてイモラの急所を狙う。

 風を斬るような。その技術は見事と言うべき。
 ララはそれに思わずそれに見惚れる。

(凄い……私が、あれだけ苦労したイモラをこんな一瞬で)

 見届けるには気が速かったか。ララの方にもイモラが接近してくる。

 ――即座にララも鞘から剣を引き抜く。新調したそれは銀色に輝く。

 大丈夫と強く思い込みながらイモラと対峙する。
 武器も防具も備えて、短い期間ながら優に鍛錬して貰った。
 確実に相手を仕留める。ララの頭にはそれしかない。

(攻撃のパターンと相手の動きをよく見れば倒せるはず!)

 ララは、ステップをしながら。横の動きを意識しながらイモラの突進を回避する。
 気のせいだろうか。あのノースの森で戦った時よりも。
 脅威を感じない。そして、民家に突っ込みめり込んでいる隙を見逃さない。
 血相を変えて、ララは歯を噛みしめながら。有りっ丈の力で後ろから短剣を振り下ろす。

「やぁぁぁぁ!」

 振り下ろした剣。それは、イモラを倒すには十分な威力。
 肉が裂け、柔らかいその肉質から鮮明な血が噴き出る。
 すぐに後退し、ララは周りを見て次の襲撃に備える。

 しかし、心の中ではとても喜んでおり。それが、表情に表れる。

(やったぁ……私、強くなってる)

 その場で握り拳を作る。優も何処かで喜んでくれているだろう。
 そう思うと、もっと頑張ろうという気持ちになる。

 遠目から見ていた出水は彼女のその才能と度胸に驚いていた。

(おいおい、まじかよ? エンド能力からしてサポート系かと思ったけど、こりゃ反省しねーとな)

 ララが戦いに使えると分かると。出水も安堵の表情となる。
 これで大分楽になる。さらに、取り残したガリウスは飛野の弓による援護射撃もある。
 連携も何もない三人組だが、これならいける。

 出水がそう確信した時だった。

「おい……んだよ? ありゃ」

 しかし、それは甘い見立てだった。
 本来なら倒したら消滅するガリウス。ただ、今回は違った。
 それは、最悪の出来事。討伐したはずのイモラの中からまた新たなガリウスが生まれてきた。

 まるで、幼虫が成虫になる過程を見るような。絶望が三人に植え付けられる。

 情けない声が出るとともに。その、誕生したガリウスはイモラと違い背中には二枚の羽根。
 紫色の体に赤色の羽。さらに、イモラより大きさが上。有り得ないそのガリウスに出水は危機感を感じていた。
 蝶のような見た目のガリウスと言ったところか。

 そして、すぐに飛野が弓を構える。まずは、様子見で遠くからの射撃を試す。
 勢いよく放たれたそれは、真っ直ぐに向かっていく。

 だが、直前で飛野の弓矢は、相手のガリウスの羽搏きで吹き飛ばされてしまう。
 強風がこちらにも影響してくる。それほどまでに驚異的な風だった。

「何なんだよ、この威力!? は、反則だろ!」

「弓矢じゃ駄目だ! けど、こんなの接近戦でも近付けねえだろ!」

「……そ、そんな」

 街はさらに破壊され、出水はララの手を引っ張り民家の物陰に身を隠す。
 間一髪と言ったところか。幸いにも相手はまだこちらに気付いていない。
 隙をついて倒すか。いや、出水はそれも考えたがそれも限界がある。

「なぁ、あのガリウスの情報持ってないか? ララちゃんなら、ここの世界の人間だから分かるだろ?」

「ここの世界……?」

「あぁ!? いや、今のは気にしないで! それよりも、何かしらねーか? 少しでもあいつの情報を掴めれば突破口が見つかるかも」

「あぅ、えっと、あ! そうだ……」

 真面目にララは今まで学んだことを頭の中に思い浮かべる。

 ガリウスの名前、それは【フライヤ】と言う。
 イモラの姿が昆虫で言う幼虫なら。フライヤは成虫となり完全体となった姿。
 羽が生えて飛行能力が備わり、恐らくランクはAには劣るがそれに近いB+相当。

 先程の、風の力もエンドを消費して発生させたもの。
 まともに受ければタダでは済まない。

 そして、フライヤの最大の厄介な所。

 ララがそう言いかけた瞬間。フライヤが上空に飛び上がる。
 警戒しながら、出水は二本の剣を構える。
 だが、ララはすぐに大声を出して出水に危険性を伝える。

「危ないです!」

「……っ!? な、なんだ? これ」

 そう、フレイヤが上空に飛び上がった理由。
 二枚の赤色の羽から紫の粉が発生する。羽ばたきながら、それを街に落下させる。
 出水はそれを見てララと共にフライヤとの距離を取る。

 ララが言うには、これは毒の粉。浴びてしまえば、飛野の先程の状態と同じ症状が出てしまうという。

 さらに、あの粉には強力な【酸性】が含まれている。

 その真下の建物は見る見るうちに溶けていく。幸いにも出水達が戦っている箇所は優とのやり取りもあってもう誰もいない。
 しかし、これがまだ避難が進んでいない箇所でやられると不味い。

 厄介な敵だと実感して、出水は建物の壁に寄り掛かりながら。
 落ち着かせるように、その場で息をつく。

「やべーだろ……あれ」

「はい、書物でしか読んだ事がなくて正確なのかは分かりませんが」

「いや、サンキュー! これで相手の事は分かった、後は……どう、倒すかだな」

 ララにお礼をしながら出水は考える。
 接近戦はなるべくやめておいた方が良さそうだ。いや、【攻撃される前に近付ければ】あの厄介な風も毒の粉も使用させずに倒せる。
 残念ながら、出水にそんな芸当は出来ない。
 正攻法は建物を利用しつつ、毒の粉を防ぎながら。相手の死角からの攻撃で仕留める。

 そうなると、やはり鍵となるのが。

「おい! 聞こえるか? 飛野!」

「へいへい、生きてるよ」

 飛野は出水の問いかけに反応する。
 これは、【デンノット】と呼ばれる赤く丸い形をした魔導具。
 魔力を消費させ、持っている者同士で遠くから連絡が可能。
 現代で言うと携帯電話のようなものである。

 ラグナロ独自の技術で、他の都市などにも流通している。

 戦いや生活においてもなくては必要不可欠である。

 ララはその光景を見て、出水達がどのような人物か。察してしまった。

「ラグナロの憲兵団の方なんですか?」

「ん? あぁ、一応な」

「……そうなんですか」

 ララの表情が曇る。ラグナロとその憲兵団にはいい思い出がない。
 父親のこともあるし、何より母親の件がある。
 さらっと出水は言ったが、ララにとっては重要な情報だった。

 そして、ララに構わず出水は飛野とララに聞こえるように。

 フレイヤを倒す作戦を練る。

「基本的に、お前の弓の攻撃が鍵となるな! まずは、属性付きの弓矢でフレイヤに当ててくれ」

「属性付きか、でも、今持っているのは火の物しかないぞ、しかも本数も五本しか……」

「いや、それならいける! まずは、あの野郎を倒すことに全力で行くぞ!」

 属性付きの弓矢は火の他に。水、雷、氷と四種類とある。
 しかし、これらは貴重で多量のエンドを含んでいる。
 作るのにも手間がかかり、使い手もかなりの技術を必要とされる。

 命中した際にその効果は発揮される。つまり、火の弓矢の場合。
 当たった瞬間に、対象から炎が発生する。

 だが、飛野は自分の技術が心配だった。
 もし、外したら。貴重な属性の弓矢を無駄にしたら。
 しかし、その可能性は無意味だ。出水は黙り込むデンノット越しの飛野に発破をかけるように。

「なに、緊張してんだよ! いつものお前なら、調子よく馬鹿みたいに【任せろ】とか言うだろ?」

「……出水」

「外した事なんか考えるなよ、例え外しても、俺とララちゃんがバックアップに入る……俺はお前を信じてるぜ?」

 その言葉で決意を固め、飛野は背中から弓を手に取る。
 確かに、飛野は自分の性格からして。そんな事を考えるものではない。
 臆病じゃないからこそ。今までガリウスとの戦闘でも死ななかった。

 判断を誤らない。外さないその弓の技術。そして、敵に見つからないように潜伏する隠密能力。

 狙撃手にとってもう一度必要な事柄を思い込む。

(信じているか、お前も普段はそういうこと言わないだろ! たく……増々、外せなくなったな)

 しかし、明らかに表情は柔らかくなる。
 緊張がほぐれたのか。敵に見つからない建物から。
 良い位置で狙える箇所に移動する。フレイヤの死角と思われる後ろから。
 弓に属性矢をセットし、これで準備万端。飛野は合図を出し、出水達に伝える。

「いつでもいける」

「おし、ララちゃん、俺らも飛野が弓矢を放った瞬間に飛び出すぞ」

「……は、はい!」

 ララも私情は挟まず。戦いだと思って割り切る。それに今の会話を聞いていたら。
 ただの憲兵団とは違う雰囲気がするとララは思った。
 互いを信じあい、連携もしっかりしている。個々の力だけではない。しっかりと束となっている。

 小さく数字を口に出して、飛野がゼロと言った時。

 飛野の弓から弓矢が放たれる。勢いよく飛んでいったそれは。
 見事に相手に命中する。かなりの距離と視界の悪さ。条件は悪い。
 ただ、気持ちの強さと自分の技術が勝った。

 命中したそれは羽から炎が発生し、体へとうつる。

 出水とララも瓦礫を吹き飛ばし、姿を相手に晒しだす。
 フレイヤも出水達の存在に気が付く。
 体は燃えている。冷静な判断が出来ないのか。全く違う方向に強風を発生させる。

 そして、出水とララは暗雲の呼吸で。左右から同時に剣で体を斬りつけた。

 それは、相手を倒すのには。十分過ぎた。動きを止め、抵抗も不可能となったフレイヤは消し炭となる。

「よしよし、倒せたな」

「や、やりました……」

「ララちゃんもいい動きだったぜ? 飛野! お前も見事だったな! 流石は俺が認めた奴だ」

「よかったぁ、当たってくれて」

 集中力を使い切ったのか。飛野は両足を地に付けて項垂れる。
 よっぽど安心したのか。汗が額から流れ落ちる。
 出水は飛野はもちろん。ララも褒める。見事なタイミングで同時に攻撃を仕掛けた。

 ララは少し顔を赤面させる。和やかな雰囲気だ。

「さてと、街への被害を抑えるぞ! これ以上は……」

 出水がそう言いかけた時だった。一体を三人がかりで倒した。それだけでも功績と言える。
 しかし、敵はそれ以上に。出水達は空から来るフレイヤの大群。
 赤い空とそれは出水達を嘲笑うかのように。

 お前達では勝てないと。言われているように。

「どうすんだよ、ありゃ」

「こ、こんなの……」

「う、嘘だろ?」

 出水と飛野が絶望しきっている中。
 ララだけは空を見上げながら。何処にいるかも分からないある人物のことを頼っていた。

(スグル君……君なら、君がいれば……)

 ララがそう思っている時。優はまた別の場所で戦いを開始していた。

 事態は最悪の方向に向かいつつあった。

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