最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第27話 約束と因果

 あの赤い空を見ると。優はあの日のことを思い出す。
 夕焼けの空の下で待ち続ける自分。
 昼間の賑やかさは消えて。肌寒い、海の風が優の気持ちを盛り下げる。
 携帯を握り締めながら、その返信を待ち続ける。
 縁石に座りながら、信じ続ける。約束の時が来るまで。

 ――自分は、この世界で要らない存在なのか。

 やった方は大した出来事ではないかもしれない。
 だが、やられた方はいつまでも残っている。

 思い出という。輝いているが、汚れているもの。

 残したいものと、消し去りたいもの。

 この、葉月とクラスメイトが絡んでいる思い出は間違いなく後者だろう。

 鴎が泣き、空を飛んでいる。
 時間も夕方から夜へと移り変わる。
 夜の海というのはこんなにも冷えるものなのか。
 優は自然と涙が溢れ、既に誰もいなくなった海で下を俯く。

 携帯の着信もない。楓も晴木からも。当然ながら葉月からも。

 震えが止まらない。携帯をその場に置いて泣き続ける。
 大粒の涙を地面に落としながら。他の人物が楽しんでいる状況を想像する。

 どんな場所で。何をしているか。一切情報が入ってこない。
 不安が募り、優はさらに追い込まれていく。

 胸が締め付けられる。切迫感が溢れ、優は静かに立ち上がる。

「……帰ろう」

 これ以上。待ち続けても仕方がない。
 母親も心配してるだろう。帰る前に何処かで作って貰った弁当を食べなければいけない。
 余計なことで母親に迷惑かける訳にはいかない。

 様々な気持ちが混ざり合い。一言だけそう言ってこの場から立ち去る。

 背を向けた時。自分の後ろから声が聞こえることに気が付く。
 自分の名前を呼んでいる。聞き間違いかと思ったがはっきりと。
 それは、自分の耳に届いている。落ち着いた、凛とした声。
 声量はそんなにないが、小さな波の音と潮を運んでいる風しか聞こえてこないこの場所。

 ――そんな、彼女の声を見逃すはずはない。

 優は瞳に涙を浮かべながら。そちらに振り向く。

「あ、やっと見てくれた! 気付くの遅いよ!」

「白土さん……なんで、うぐ!」

「えぇ、何で泣いてるの!?」

 黒髪のショートがとても似合っている彼女。
 穏やかな雰囲気と整った顔立ちはクラスの中でも上位に位置するだろう。
 それも魅力的だが、彼女の真髄はその体つきにある。

 思わず、優は白土の胸に視線が移ってしまう。
 高校生でこれだけの大きさという事は、成長すればどれだけのものとなるのだろう。
 生唾を飲んで、優は少しだが気持ちが楽になる。動機は最悪だが。

 こんな時間に。この場所に。同じクラスメイトの女の子。

 白土結奈(しらとゆいな)は、泣き止んで優を見て安心している。

「落ち着いた?」

「ご、ごめん」

「それよりさ……どうして、こんな所にいるの? もう、誰もいないのに」

 白土は家からこの海が近いから。たまたま、暇潰しに夜の海に出向いていたとのことだった。
 神秘的なその海に惹かれてたまに散歩のついでに出掛けている。
 簡単な服装で、白のワイシャツにスカートで生足をだしている。
 身に着けている衣服を少なくして、肌で海全体を感じるのが心地いいとのこと。

 その大きな胸が強調されており。目のやり場に困る中。
 優は、理由を聞かれ、迷って黙り込む。
 彼女は縁石に座り込み、髪を押さえながらこの時間を堪能している。

 待っててくれているのか。優は、少し距離を空けて座る。
 隣同士で白土とは密着しそうでしない距離感。
 しかし、邪念は捨てて素直に今の状況を語った。

 彼女は目を瞑り黙っている。何も反応を示さず。
 これではただの独り言ではないか。
 途中。どもったりして、危なげなかったがなんとか最後まで話す。

 心が痛い。何故、このような暗い話をクラスメイトの女の子に打ち明けなければならないのか。

 申し訳なさと不甲斐なさに再び悲しみが一気に優を包む。

 しかし、白土はその話は切り捨てて。いい方向に持っていく。

「そっか……でも、それなら来てよかった、笹森君と海が見れて」

「ふぇ?」

「大丈夫、あたしなんてそもそも誘われてないし、仮に誘われても行かなかったかな? そんなの楽しくないしね」

 彼女ははっきりと優の悲しさを、吹き飛ばすように。
 葉月の事が嫌いなのか。そもそも、興味がないのか。理由は不明だが、白土からこんな事が聞けるとは。
 優は夢にも思わなかっただろう。
 元々、葉月程ではないが、白土は中々に相手に自分の意見をぶつけるタイプである。

 ただ、不快感はなく、喧嘩にはならない。
 それは、冗談も交えつつ。しっかりと相手の事をよく見ていて。優しく包んでいるからである。
 もちろん、今回のような件だと。流石に、白土も表情を険しくしている。

 そもそも意外と言えば。葉月が白土の事を誘っていない事実。

 彼女の明るさと社交性なら確実だと。優は強くそう感じていた。

 しかし、優が気になるのを察したかのように。白土は、悪戯っぽく笑みを浮かべながら。

 正直に、白い歯を見せながら口にする。

「後は……そうだね、あたしって自分で言うのも何だけど、結構他の人を見てしまう人なんだよね」

「それってどういうこと?」

「要するにさ、【本質を見抜いてしまう】というか……実はこういう人だった! とか、あ、笹森君のも教えてあげよっか?」

 彼女は指先を優の方に向けながら。
 優は一瞬だけ。ドキドキが最高潮となる。顔を凝視出来ない優。
 やはり、こんなに密着されると男なら誰もがこんな風になってしまうだろう。
 ましてや、こんな美少女に。この、暗く、ロマンチックな海に男女が二人っきり。

 白土は、膝に顔を着けながら語っていく。

 まずは、料理が上手いという事。これは、楓も晴木も知っていた。
 よく、二人に自慢の一品である【餃子】を御馳走したものだ。
 ただ、白土は調理実習の時に。包丁で指を切ってしまう。
 軽傷だったが、手当が必要という事で別室に移動した。

 せっかくの調理自習が台無し。溜息をつきながら。白土は椅子に座って怪我した指を見つめていた。

「白土さん?」

「あれ? えっと……笹森君? どうしたの?」

 白土は瞳を見開きながら。突然の来訪者に驚く。
 そこに来たのは、優しい顔付きの彼。
 担任に言われたのか。それとも、自分の意志なのか。それは分からないが、白土は軽く微笑む。

 絆創膏を渡し、そして片手には調理実習で作った餃子を持っている。

「こ、これなんだけど、一応さ、班のみんなの分も僕が作ったんだ」

「え? いいの? あたし何も……」

「う、うん! 僕の作ったやつでよければだけど……」

 作り立ての物を白土に提供する。
 こんな自分の作った物を女の子に渡すなど。優にとって楓以外はなかった。
 受け取ってくれるか。それが不安だった。
 しかし、白土は少しの間。混乱していたが、すぐに先程の焦燥感がなくなる。

「ありがとう! 笹森君の心意気に感謝するよ!」

 白土の話に優はそんな事もあったと思い出す。
 あの時は自分でもどうかしてたと。何故なら、関りのなかったクラスメイトの女子に個人的に会いに行く。
 担任に言われて、同じ班だったのもある。

 しかしながら、それでも気が引けるものだ。
 ここで、晴木とかだったら言葉で励ます事が出来ると思う。

 だが、内向的な優にとって餃子を作り、それを渡すだけで終わってしまう。

 優は後悔しながら。調理実習の反省の念を込めている。

 でも、白土はその時の事を鮮明に覚えていたようで。

「餃子、美味しかったよ、自分で作った奴なんかよりずっと」

「……それはよかった」

「どうしたの? 褒めたのにその薄い反応?」

「自信がなくてさ、白土さんにそう言われて嬉しいよ」

 照れながら優は褒められて素直にそれに応じる。
 白土は優のそれを見てからかう。しかし、それは嬉しさからくるものであった。

 他にも。印象が悪かった優の読んでいた一冊の本。
 表紙は胸の大きい美少女の表紙。だが、中身はとても複雑な人間ドラマが展開されている。
 伏線が散らばれており、最終的にとても感動出来る内容となっている。

 実は、白土もその本を読んでいた。しかし、葉月達が裏で言っていたこと。

【あんな気持ち悪い表紙の本を読んでいて恥ずかしくないのかしら?】

【やっぱり、誘わなくて正解だったよね、あいつ体が弱いとか言って調子に乗ってたしね】

【それで正解だったわね! あーあ、寒気がするわ】

 白土はとても嫌悪感を抱く。何も知らない状態で。人の気持ちを考えられない人達。
 掃除中の廊下で白土はホウキを握り締めながら。唇を軽く噛んだ。

 そして、優は白土が自分が読んでいた本を知っていることに驚く。
 まさか、と思ったが事実のようだ。

 白土は気持ちよさそうな声を発しながら体を伸ばす。
 その後に、神妙な顔付きで。困惑する優にこう言い放つ。

「表紙だけで本の中身を判断するような人はやっぱり好きになれないかな」

「しょうがないよ、それなら人間だってそうだよ、外面を見られてその後に内面をやっと見られるようになる……僕が、こんな風になっているのもきっと」

「あっははは! 何それ! 急に真面目になるの、やめて! 笑えるから」

 真剣な物言いなのに。白土は腹を抱えて笑う。
 不貞腐れながら。優は顔をほんのりと赤くさせて恥ずかしがる。
 話題を切り替えるためか。どんどんとネガティブになっていく優の考え方をあらためさせるものか。

 どういう意図かは、優には判別し難い。だが、白土は笑った後。
 口元を緩めて、こんなことを言い出した。

「でもさ、あたしは好きだよ、笹森君の料理が得意な所とか、面白い本を探したり、それを真剣に読んでいるその瞳、ぜーんーぶ!」

「……っ! 馬鹿にしないでよ」

「してないしてない! 本気で言ってるの!」

 優は思う。あまりにも可愛すぎると。楓以外の異性にこれだけ胸を躍らせるのは久しぶりだ。
 楓と違うのは、胸の大きさはもちろん。いや、外見的な特徴はこの際どうでもいい。

 決定的に違うのは、楓は何かあったら慰めてくる。
【頑張れ】【出来るよ】【安心していいよ】など。確かに、非常に有難い。
 ただ、どれも具体性がない。抽象的というか。誰でも言えると言うか。
 明確な解決策になった事はあまりないと感じる。自分が楓に答えを与えてあげる場面はあった思う。

 楓は優しい。助けてくれる。しかし、白土のように。細かい部分まで見てくれていただろうか?
 いや、自分のことで精一杯なのもあるだろう。ここまで、楓にはお世話になっているし、迷惑もかなりかけている。

 こんな風に考えてしまう自分が嫌いである。優はそんなことを思いながら白土の言葉を聞いている。

 そして、立ち上がり白土はこんな提案を優に持ちかける。

「よかったらさ、またあたしと一緒にここに海を見に来ない?」

「え? でも、ぼ、僕は……」

「はい、じゃあ決まりだね! 笹森君の都合もあると思うからさ、気軽に誘ってよ、あ! あたしの連絡先ね」

 一枚の紙切れを渡される。優は震えながらそれを受け取る。
 目の前に何が起こっているか理解出来なかった。
 同じクラスの。しかも女の子が自分に連絡先を渡している。

 彼女はそこから駆け出す。両手を後ろにしながら。
 風にたなびく彼女は今日一番美しかったと思う。

 最後に、彼女は優に求めるように。

「約束だよ? 一人だと寂しいからさ」



 ――――――――

 ――――

 ――


『どうした? 優?』

「いや、別に」

 回想はものの数秒で終わる。葉月と行けなかった海と行けた海の出来事。白土との掛け合い。
 一見、何も関連無さそうなエピソードは繋がっていたということ。
 優は上空の発生したイレイザーを見続けながら。ふと、僅かな思い出に浸っていた。

 話を戻す。状況は極めて危険。
 シュバルツによると大量のガリウスがこのマルセールに侵攻しているとのこと。
 イモラ、スイーパーはもちろん。更なるガリウスの匂いもする。

 ここからはこの街全体が戦場となる。

 優は頭で考えるより。先にこの自分の目的に決着をつけておこうと決断する。

 葉月を縛っている糸を解除して解放する。

 こうなった以上。エンドを無駄に消費する訳にはいかない。
 地面に足が付き、葉月はその場で頭をつける。
 安心感からなのか。それとも、吐き気からか。

 とにかく、まともな状態で無いことは確かである。

 優は距離を縮めて、短剣を即座に取り出す。

「さてと、もう少し痛めつけたかったが、状況が状況だ……すぐに終わらせる」

「呪ってやる、私をこんな目にあわせたことを……絶対に!」

「海での出来事、いや、それだけじゃない、お前はたくさんの人を侮辱し、差別してきた、呪うのは場違いだろ?」

 見下しながら。短剣をその場で振るう。強化を発動させ、首から一気に削ぎ落すようだ。
 呪うというのは少し表現が違うと優は指摘する。
 この程度で呪われては、後がもたない。

 優は同じ目線で話し合う。時間はあまりない。ただ、これだけは言っておかなければならなかった。

 地面を見続ける葉月の顔を無理やり引き上げる。自分と同じ目線にするためだ。

「お前は、今まで好き勝手に生きてきた、お嬢様だからなんとか知らんが、苦労も痛みも有難みも分からない、空っぽの人格がたくさんの人を困らせてきた」

「ち、違う、がはぁ!」

 優は葉月の首を掴み、そのまま上に持ち上げる。
 徐々に力を込めて。葉月は優の腕の中でのたうち回る。
 この期に及んで否定する葉月に優はさらに力を増す。

 もはや、何も聞きたくないし、言わせるつもりはない。

 無表情のまま、優は短剣を片手に持ち直す。

「所詮は人の表面しか見れないから、霧川の気持ちを察せず、大事な場面で裏切られた、お前がやってきた行為の全てがこの場面に凝縮しているんだ」

「あがぁ、ご、ころす……わだじはぁ」

「ほら、あれを見てみろ、ボロボロになった霧川の姿を」

 葉月はそれを見てさらに抵抗する力が強くなる。
 身も心も限界が近付く。そして、優は短剣を後ろに引く。
 必死に声を漏らそうとしていた。助けを求めているのか。
 ただ、それは無意味なこと。虚無過ぎる。本来、物語のヒロインなどのこういう場面に直面した時。

 白馬の王子様やヒーローが現れるものだ。しかし、それを期待するだけ無駄なだけ。

 これは葉月が今までしてきた行いの因果応報。

 優は、静かにこう言って短剣を葉月の首を目掛けて振り切った。

「楽に殺してやるだけ、有難いと思え」

 その瞬間。葉月の首は飛んだ。

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