最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第24話 区別

 実際の所。何処の世界でも自分の立ち位置というのは存在している。
 貴族、憲兵団、騎士団、冒険者と区別されるように。
 優のいた世界。現実でもそれは顕著にあらわれていた。

「ねぇ? せっかくの夏休み、みんなで海に行かない?」

 これは優達がこのワールドエンドに来る前の出来事。
 ちょうど期間は夏休み前だった。
 そして、葉月はクラスの中で呼びかける。夏休みという事で海にいかないかと誘っている。

 豊富な財力で全員をほぼ無料で連れてってくれるとのこと。
 正にお嬢様だからこそ出来ること。
 しかし、葉月の中のみんなという言葉の裏には自分が認めた者だけだった。

「もちろん、晴木は行くよね?」

 真っ先に晴木の元へ行く。恐らく、大部分の目的はここだろう。
 昼飯の時間。晴木は購買に行く所を引き留められて葉月と向き合う。

(あぁ、いつ見てもかっこいい!)

 年頃の恋する乙女。お嬢様と言ってもここは他の者と変わらない。
 普段の強気な性格は身を潜め。お願い事をする葉月は完全に雌の顔となっている。
 すると、晴木は爽やかな笑顔を見せながら快く了承する。

「別いいよ、サッカー部の練習がない日ならいつでもいいぜ」

「や……やった! じ、じゃあさ、この日なら」

「ただし、条件があるんだが、楓と優も一緒に連れてってくれないか? 頼む!」

「え、あ、あぁ、うん」

 二人の名前を聞いて葉月は急に暗くなる。
 夏目楓。自身が勝手にライバルと決めつけ、何事も敵わず敗北を認めた相手。
 他のクラスメイトと喋りながら、彼女の元にたくさんの人が寄っている。
 何もしてないのに彼女の元へは人が集まる。人望でもかけ離れて実力を感じる。

 しかし、別に嫌いではない。普通に会話もするし、見下したりしてこない。
 彼女から葉月も学ぶことがあった。だからこそ、こういう遊ぶ機会に色々な話をしたいと思っている。

 楓を見るのをやめて葉月は笹森優の方を見る。

 机に座り、作って貰ったであろう弁当を食べながら。ひたすら、読書に励んでいた。
 葉月は目に角を立てる。率直な気持ちとして。
 何故、笹森優を晴木は誘っているか。その意図が読めなかった。
 単純に友達として連れてってあげたいという気持ちは分かる。

 しかし、葉月から見ても。いや、誰から見ても晴木と楓が仲が良く、優がそこに加わっていることに疑問がある。

 楓はまだ幼馴染だからという点で合点はいく。ただ、優と晴木の接点が分からない。
 よく、漫画などの話で盛り上がっているのは聞いてて分かる。
 でも、それだけであれだけの関係を築けるものか。

(ふん、気に食わないわ! 私はこれだけアピールして全然近付けないのに!)

「どうした? 葉月」

「ううん、分かったわ、二人も誘ってあげるわ」

「おし、流石は葉月だ! 話が速くて助かるな! じゃあ、楽しみにしてるぜ」

 晴木は鼻歌まじりで購買へと足を運んで行った。
 ただ、葉月はとても不服だった。楓はともかく、優を連れて行かなければいけないことに。腹を立てて、誰にも見られていないが、顔を崩し苛立てていた。
 何度考えても。どんなに頭の回転を速めようと。葉月には理由が分からなかった。

(……悪いけど、笹森は連れて行かないわ、でも、一応、形上は連れて行けばいいんでしょ?)

 深呼吸をして自分を落ち着かせる。
 葉月は不穏な考えを思い付き、優に静かに歩み寄る。

「少しいいかしら?」

「……!? え、えっと、な、何かな? は、葉月さん」

(うわぁ……気持ち悪い、この読書オタク)

 表紙を飾っているのは何やら分からない女の子が書かれた文庫本。
 有り得ない目の大きさに、胸が大きい子が書かれている。
 理解不能な絵柄に葉月は顔を険しくする。
 そんな嫌悪感を抱きながら葉月は本題へと入る。

「今度、このクラスの人達と海に行くんだけど、あんたも来なさい」

「え? ぼ、僕がいいの?」

「まあ、晴木があんたを誘えって言ってるし、別にいいわよ」

「で、でも……」

(あぁ、うっざ! やっぱり無理、ち! 晴木も何でこんな奴)

 曖昧な回答に葉月は腹正しくなる。
 不愉快だ。ムッとしながら、葉月は優の机をバンっと叩く。
 思わぬ行動に優は体を小動物のように震わせる。

「行くの? 行かないの? はっきりしなさい」

「う、じゃあ、行くよ! 行かせてください」

「ふん! 詳細はまたメールとかで連絡するわ、じゃあね」

 一段落着いて。葉月はすぐに優の席から離れて行く。
 優は海に誘われて喜びに溢れていた。
 体が病弱で元々あまりクラスメイトと遊ぶ機会がなかった。
 なんとか、晴木と楓に連れられて外に出掛けていた。

 それ以外に誘われるのは初めてな為か。
 久しぶりに心を躍らせながら、本を読み進めるのであった。


 ――――――――

 ―――――

 ――

「おかえり、優」

「あ、うん、ただいま」

 家に帰ると母親である笹森夏希(ささもりなつき)が笑顔で迎えてくれる。
 しかし、仕事に出掛けるようで入れ替わりで出発して行った。
 優の父親が亡くなってもう結構な月日が経つ。
 当時は交通事故で亡くなったと聞いて信じられなかった。

 夏希はしばらくは悲しみで鬱に近い状態になっていた。

 ただ、周りの人の支えや優の励ましもあり少しずつ立ち直っていた。

 本人の優は母親だけが残っててくれてよかった。そう、自分に言い聞かせて必死に母親に泣く姿は見せないようにしていた。

 だが、この頃から。優は殻に閉じこもるようになる。
 それ前は楓とよく外で遊んでいたが、気が付けば。
 自分の部屋で過ごす時間が長くなる。

 自分でも何もないように振る舞っていた。
 しかし、実際は深淵のような深い悲しみ。
 それが、優を襲い、その悲しみで力が入らなかった。

 必死に自分のために働こうとしている母親のために。
 悲しみを振り切り、勉強をして楽をさせようと。
 病弱な体でも無視して夜な夜な机に向かっていた。

 今日もそれが続く。そして、携帯のアラーム音と共に。
 メールの通知が入っていることに気が付く。
 優は眠さが吹っ飛び、深夜に自分に転送されたメールに目を通す。


『日時は今週の日曜日、時間は昼の12時、場所は……それじゃあ当日は宜しく、宛先、笹森優』

 辛い感情が無くなり、優は椅子から立ち上がる。
 上手く喜びを表現出来ず、カレンダーを見る。
 日曜日なら母親も休みでちょうどいいタイミング。場所も笹森家からはそんなに離れていない。
 あまり無理しなくてもいいだろう。

(楽しみだなぁ、あ! 水着とかどうしよう? 後で楓とかに相談しようかな? い、いや、晴木の方が良いか)

 浮き足が立ちながら優は当日のことをとても楽しみにしていた。


 ――――――――

 ―――――

 ――

 遂に当日を迎える。優は母親から作って貰った弁当などを持って電車に乗っていた。
 距離としてはそんなに遠くない。窓から見える景色を眺めながら心を躍らせていた。
 楓と晴木と一緒に行こうとしたが、最終的に現地集合という形になった。
 それでも、二人とクラスのみんなと海で遊べるのがとても楽しみだった。

 電車から降りて、優は目的地の海へと向かう。
 多少の人はいたが、そんなに多くはない。天気も快晴。申し分ないといった環境条件。
 時間は11時ちょうど。少し速く到着した感は否めないが別に問題ない。

 少し、時間よりも速く来る人もいるだろう。優は潮の香りを感じながら心地よい風を浴びていた。

 一方で。葉月達と言うと。

 自宅のプールを貸し切り、そこにほとんどのクラスメイトを招待していた。
 最初は海だと連絡していた。だが、その前日に変更となってしまった。

 もちろん、これも葉月の狙いだった。

 これなら貸し切りだし、飲み放題、食べ放題。
 馴染みのある顔しかいないので遊びやすい。
 何より、急な変更にも対応出来るのが強みである。

「はーい! これで、全員集合ね! 突然の変更ごめんなさいね! 本当は最初は海に行く予定だったんだけど、家が空いて使えるようになったからせっかくだしね」

「わーい! ここならお金もかからないし、最高だね、プールって言ってもめちゃ広いし」

 霧川が喜びと共に。ここに来ているクラスメイトも歓喜の声をあげる。
 ここに優がいないことなど誰も気が付かなかった。
 そして、葉月はさらに追い打ちをかける。

「みんな、今日ぐらいは携帯を手放そう! それに、もしもだけど盗まれると厄介だしね」

 この何気ない葉月の提案。有頂天になっているクラスメイトは何も疑うことなく。
 携帯を葉月の用意した袋に入れていった。
 そして、楓が近付き携帯を預けようとした時。

「ねぇ? 優は……優は、まだここに来てないの?」

 直前で楓は心配をしながら携帯を預けるのを躊躇する。
 何か、ここまで仕組まれていないか。
 空白ができたような寂しさを感じる。いつも隣にいる存在だと思っていた優。
 それがないこの状況に。楓は胸を痛めていた。

 しかし、葉月は取り上げるように。楓から携帯を手に取って袋に入れる。

「大丈夫よ、ちゃんとメールは送っているし、ほら? あいつ、体が弱いから来れなくなったんじゃない?」

「そ、それなら尚更……連絡させてほしいな」

「後で、私からもう一度連絡しておくわ、あんたは気にしなくて結構よ」

 威圧に負けて。楓はこれ以上は言わないことにした。そして、すぐに葉月は霧川にその携帯を預ける。
 笑いを噛み殺しながら。葉月は霧川にこんな指示を出す。

「あいつ(笹森)からのメールは消しときなさい、どうせ、楓ぐらいしか送る奴なんていないんだから」

「あははは、酷いね、まぁ、面白いからいいけど」

「後は晴木だけど、適当に言い訳作れば大丈夫でしょ? ここであんまり口に出すとボロが出ちゃいそう」

「ふふん、頑張ってね、紗也華と風間が結ばれるように私は応援してるよ」

 ここまで優に対して辛辣な態度をする理由。
 優がいては楓と優と晴木。三人でいることが多くなってしまう。
 結局の所。その内の優が居なくなると、晴木と楓が一緒にいることは少ない。
 つまり、晴木が単独でいる機会を伺えば。チャンスは多く用意されている。

 葉月は力強い瞳で誓う。絶対に風間晴木を自分の物にする。

 その強い願いの裏で。笹森優が誰も来ない海で待ち続けている。

 この世界も。そして、優達がいた世界も。残酷だった。
 自分の立ち位置がはっきりとした出来事だった、

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