最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第23話 愉悦と出会い

 取り残された出水と飛野。
 必死に飛野は自身の感知能力で行方を追う。
 だが、距離があるのか。場所を移動しながらやっていたが、反応はない。
 再び元の位置に戻り、二人は馬車の前で項垂れる。

「出水、どうする? 笹森の感じからして二人は……」

「分かってるけど、お前の感知で反応ないんだったらどうしようもないだろう」

 気が付けば夕方から夜に変わっており、視界が悪くなる。
 捜索は困難だろう。ただ、そんな理由で諦めては絶対にいけない。
 出水は呼吸を荒くしながら、額の汗を手で拭う。
 探し回って、こんな小さな街といっても結構な距離はある。闇雲に探し回っても見つからない。

 馬車に寄り掛かりながら、出水は夜空を見上げる。
 何か打開策が見つからないかと考える。
 しかし、特に何も思い付かず、苛立ちを抑えきれず道の小石を蹴り上げる。

(もう間に合わないかもしれないが、俺がやれることだけはしたい、何もせずに見殺しにするのだけは……)

 ぎゅっと開けた拳を握り締める。決意を新たにしてまた目付きを鋭くする。

「いったぁ!」

「……!? 誰だ?」

「うえ? まだ、誰かいたの?」

 出水の蹴り上げた小石。それは本当にたまたまだが、地面に落ちず何者かの頭に当たる。
 即座に出水は剣に手を置き、飛野も弓を引き抜き身構える。
 しかし、二人はこの痛がる声に聞き覚えがあった。
 二人の前に姿を現した人物。

「はぁい! 風間君に命令されて助太刀にきたよぉー」

「あぁ、御門か」

「御門ちゃんまで来たの!? どれだけ、風間は警戒してるんだ?」

 片目でウインクしながら。御門は小石が当たった頭を撫でていた。
 しかし、表情は笑顔で二人の前に女神のような振る舞いで登場する。

 飛野は、驚きながらも自然な喜びが体を押し浸す。
 だが、出水は困惑しながら頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。

 というのも、出水には突っ込みたい所が多々あった。

「ていうか、なんでお前……今まで俺達の前に姿現さなかった?」

「ううん、違うのぉ! 着いたのは今日の夕方だけど、色々と手続きしてたらこんな時間になっちゃたし……当真君達を驚かせかったし」

「どうだかな? まあ、いいか」

 腑に落ちないが、ここで御門と言い争っていても仕方がない。
 出水は事細かく状況を説明する。御門は頷きながら出水の話を真剣に聞く。
 だが、実際はどうでもよかった。全ての流れを知っているため。知らないふりをして、いかにも初めて聞いた素振りを見せる。

(本当は全部見てたんだけどねぇ、それにしても鈍感よねぇ、この二人も)

 二人にバレない程度に口元を緩める御門。当然、出水と飛野は気付くはずもなくそのまま話が進んで行く。

 二人にとって葉月と霧川の救出が最優先。飛野はまだ望みがあると確信している。
 ただ、時間的に出水にとっては間に合わない可能性が高いと踏んでいる。
 それを考慮した上で、御門にも協力を仰いだ。

「でもぉ? 私の能力じゃあまり意味がなくない? 姿を消せるだけだし」

「いや、人数が多くなるだけマシだと思う、それに、飛野のエンドも使い過ぎで底が尽きて来ている……」

 ここまで、ガリウスとの戦闘。そして、優との戦闘や探索で動き回って来た。
 体力も限界に近く、飛野は肩で息をしている始末。
 出水は御門のエンドを飛野に提供してくれと頼み込んだ。

 基本的に、エンドには人それぞれに相性がある。

 つまり、相性の悪いエンドを他人に提供すれば拒絶反応を起こし、最悪の結果死に至る。
 だが、シードを結成した時に。ルキロスや晴木に言われ、全員のエンドの相性を調べていた。
 全員がその相性を頭に叩き込み、緊急の時に対応可能ということになった。

 出水はそれを思い出し、御門のエンドを別けてくれと頼み込んだ。
 最大出力で感知が使えるなら、もしかすると二人の位置を掴めるかもしれない。

 僅かな希望を抱くのはまだ時期早々だと思う。そうも考えていられない。

 だが、頼み込む出水を振り払うかのように。御門は口元に人差し指を当てながら笑う。

「うーん、嫌かなぁ?」

「……ちょ、いやいや、待てよ! あの、笹森が生きててやべーことになってんだぞ! 今頃、葉月と霧川は……」

「まぁまぁ! 当真君の言うことも一理あるけどさぁ、私も結構ここまで来るのにエンド使ってさぁ! お疲れモードなんだよね」

(まぁ、本当は余りにあるけど、その二人のために使うのは嫌かなぁ)

 建前上は二人のことを心配と言っておく。ただし、本音はこの有様。
 トロンとした目付き。可憐な見た目の彼女。普通にしてれば、か弱い女の子。
 出水もこれ以上は無理強いは出来ずに、舌打ちをしながら背を向ける。

 御門にとって。自分の欲望を満たす上でこの上ない場面だった。
 喜びに心も体も包まれる。横目で視線を逸らしながら。
 脳裏に浮かんでいる葉月と霧川の苦しむ姿を想像していた。

(あぁぁぁぁぁ! もぉ、最高ぉ! さっきの笹森君の変貌ぶりから見るに絶対に容赦なく二人を虐めてくれているはずだわ! 腕を引き千切られて、足もそうなって、血だらけになって……顔を焼かれて、爪も剥がされて! 想像しただけでゾクゾクするわ)

 透明化している時も。御門の興奮は実は始まっていた。
 想像が膨らみ、期待が持てる展開。
 自身の愉悦を満たすには必要なものだった。

「ん? 御門ちゃん? 何か嬉しそうだけど……どうしたの?」

「あぁ……飛野君の顔と髪型がカッコいいって」

「うぇ! そそそそ、そうかな?」

 軽く御門は顔を横に振っていつもの落ち着いた表情に戻す。
 即座に話題を逸らすように御門は飛野の事を褒める。
 全く疑わなく、陽気な性格の飛野は素直にそれを受け取る。

 こうやって、御門は立ち位置を間違えず要領よく行動してきた。

 ツンツンと飛野の自慢の黒髪オールバックを触りながら御門は褒め続ける。
 満更でもない様子で。肩に手を置きながら和気藹々(わきあいあい)としている。

 さり気無いボディータッチもお手のものである。

 顔を若干だが赤らめながら、情けない表情をしている飛野。
 それを見て、出水は物凄い嫌悪感がある。

(やっぱり駄目だ……こいつは苦手だ、何を考えてるか分かんねえし、今までの言っていることも本当なのか?)

 別に出水も御門の事を全く信用してない訳ではない。
 しかし、現実世界にいた時から。出水はこの御門玲奈という人物が好ましくはなかった。
 確かに、見た目は申し分ない。性格も男からしたら理想だろう。

 でも、出水には魅力的に映らなかった。

 飛野も含めて彼女が好きな男は多いだろう。出水は、溜息をつきながら。
 うんざりとして怒りを込めながらこう宣言する。

「もういい、お前らが行かないんだったら俺だけでも探しに行く」

「えぇ? やめときなって、もう間に合わないよ」

「……っ! てめぇ、本気でそれ言ってんのかよ」

 思わぬ、御門の発言に出水は激高する。
 しかし、それでも御門は全く意に介さない。
 感情を出さず、というか出せず。御門は両手を後ろに絡めながら。
 飛野の後ろに身を隠す。怯えているように見せる演技。

 可哀想に飛野は、御門を慰めようとする。

 だが、狙いが丸分かりな上に、仲間を軽視する発言。
 出水は今まで溜めていたものを一気に放つ。

「別にエンドの提供は強要してない……だけど、ここまで戦って来た仲間が苦しんでいるのに、助けに行こうともしねーのかよ」

「無駄なことはしない方がいいって! それにぃ? 目に見えない仲間より、今ここにいる仲間を大切にすべきじゃないのぉ?」

「どういうことだよ?」

「飛野君も疲れてるしぃ? この街って憲兵団にあまりよく思われてないんでしょ? ここに居ても得はないわよ」

 気持ちを落ち着かせ、飛野の方を見る。
 大量の汗を流しながら、息切れを起こしている。
 これはただのエンドの消耗だけではない。

 すると、飛野は突然。地面に倒れこんでしまう。
 吐血をして地面に赤い世界が広がる。

「お、おい! どうしたんだよ!」

「あ、あぁ、たいへーん! きゃ!」

 出水は御門を突き飛ばし、手に付着する血など気にも留めず。
 上体を持ち上げて、安否の確認をする。
 とても苦しそうにしながら、痙攣を起こしている。

(どうしたんだよ! なんで急に、ぐぅ!)

 先程までの元気の良さは消え失せる。
 それどころか、一気に危険な状態になり、出水は焦りながらなんとかしようと考える。

 葉月と霧川のこともある。ここで、時間を取られる訳にはいかない。

 だが、それ以上に飛野が異常の状態に陥ってしまう。
 必死に呼び止めながら出水は涙目になりながら仲間のことを気遣う。

 そんな光景を少し離れた位置から御門はほくそ笑む。

(あははは! もう少し決断が速かったら、よかったのにぃ……まぁ、これで二人が無残になった所を発見されて終わりか、結末としては及第点かなぁ?)

 左手に握っている注射器を持ちながら。御門はそれを懐にしまい、静かに立ち上がる。
 これはノースの森で採った【ゲババ草】を磨り潰し、それを液体化したもの。
 この草は猛毒が含まれており、口に含むだけで死に至るという。
 流石にそのまま使うと即死なため。御門はこれを中和し、効果を薄めている。

 医療知識があり、頭のいい御門はすぐに仕様を理解する。

 元々は弓矢や罠などに仕込みものだが、こういう使い方も出来ると知った。

 自分の作った毒でクラスメイトが苦しんでいる。

 この苦しむ姿を見るだけで御門はとても悦びを見だしていた。

 しかし、血相を変えた出水が遂に剣を抜き出し御門に寄り詰める。

 二刀の内。一本だけだが、それを首に近付ける。

「ざけんなぁ! これをやったのはてめぇだろ!」

「違うって……それよりも、いいの? 私に怒りをぶつける前にまずは飛野君の治療を」

「これは多分だけど毒だろ? 何かは分かんねーけど、こんな芸当出来るの数少ないからな……」

「ふぅん? 当真君は私の事、疑うんだぁ? 目の前で苦しんでいる仲間より自分の感情と推測を優先するだねぇ」

 御門の非は明らか。だけど、証拠がない。出水は、首を抑えながらのたうち回る飛野を見る。
 顔を崩し、涙でグシャグシャとなっている。
 何も出来ない自分に出水は途方に暮れる。

 選択肢の多さに混乱しているのもある。恐らく、これも御門の戦略だろう。

 これでもう余計な出来事が起こらない限り。飛野はともかく出水はここに留まらなければいけない。

 そうすれば御門の目的も全て達成され満たされる。

 考えていた計画が遂行し、出水が剣を鞘にしまう。
 もはや、自分だけではどうにもならない。

(ちくしょう……ちくしょう! 誰かに縋るしかないのかよ!)

 遂に涙を流し出水は願った。

「だ、大丈夫ですか!? い、一体何があったんですか!?」

 出水はその声に救われた気分になる。
 彼女は他の者より遅れて登場した。綺麗な緑の髪を揺らしながら慌てて。
 涙を手で拭いて、出水はその人物を呼ぶ。

 御門にとっての余計な出来事。そして、出水にとって誰かに縋りたい気持ち。

 彼女。そう、ララとの出会いがこの状況を変えていく。

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