最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第22話 告白と罠

 薄暗い街の裏通り。そこで、葉月達は優のコピーしたエンド能力。
 元々は霧川の能力である銀の糸【スパイダー】によって拘束されていた。
 強度も多量のエンドを使用しているためか。並みの攻撃力ではちぎれない。
 両足と両手を縛られ、その糸は無数に壁に張り付いていた。
 この場所は空の木箱や、廃棄物が一箇所にまとめられている。そのため、臭いが強く近寄り者は滅多にいない。

 そんな場所で、行動を制限されて葉月も霧川も嫌気がさしていた。

 それも、あの笹森優にこんな状況にされたと思うと。さらに、二人の怒りを加速する。

「あぁ! くそ! あの野郎……絶対に許さない」

「まぁまぁ! 出水っち達がすぐに助けに来てくれるって! 紗也華は心配性だよ」

 ケラケラと笑いながら霧川は葉月を勇気づける。
 ただ、葉月が見ても。いや、誰が見ても霧川は怯えているように思える。
 体の震えが糸に伝わり揺れている。必死に恐怖を抑えながら弱音を吐かないように。
 逆にそれが葉月には心が痛かった。長年の付き合いだから分かる。
 無理に元気付けなくても、葉月に瞳に色は失っていない。ここで諦めては話にならない。

 水滴が落ちる音が耳によく届く。どんなに抵抗しようと縛られたこの糸からは抜けれそうにない。
 時間が無限のように感じ、葉月はここまでのことを振りかえる。

 この世界に来る前から。学校内でも学校外でも常に上の立場で振る舞っていた。
 自分の発言で雰囲気は変わる。人が動いてくれる。そういうものだと思い込んでいた。

 少なくとも、あの人物と出会うまでは。

 高校一年生の頃。有名な進学校やお嬢様学校に入学しようと考えた。
 だけど、葉月の考え方は違った。中学でも様々な分野で上位の結果を残してきた自分。
 正直、高校でもそれだけの成績や地位を確立出来るか。

 葉月は不安だった。自分らしくなかったが。プライドや高飛車な性格が災いしたのだろう。

 最終的に、葉月は最初に予定していた高校には及ばないが、中々の高校に入学する。

 ここなら、また中学のように苦労することもないだろう。
 別に、自分から壁を作ることはない。敵わないと思ったら逃げればいい。
 自分の両親は常々にそう言っていた。それを信用し、葉月は今まで面倒ごとは回避してきた。

 言うなれば、自分よりも格下の相手と絡んでいけばいい。

 自信満々に葉月はクラスの自己紹介に臨んだ。
 一人一人を観察し、今後の経験に役立てようとしている。
 人を見る目を養う上で、色々な所に行って体験し、様々な人を見ること。

 それは、優秀な人物はもちろん。凡俗で低俗な人物も含まれる。

 だけど、こんな所はそんな低俗で良くて凡俗な人間しかいない。

 そして、自己紹介を終えて葉月は満足気に席に座る。
「お嬢様」「可愛い」「凄い」などと言う羨望を一身に浴びる。
 これでこのクラスの地位。学校の地位すらも確立したと言える。

(楽勝ね、ここでも高い位置から見下ろして……)

 足を組み、偉そうに腕を組む。だが、その幻想はすぐに消え失せることとなる。

「夏目楓です! 葉月さんの後で申し訳ないんですけど……私は友達を多く作ることが目標なので、皆さん仲良くして下さい!」

 一瞬にして、注目は葉月からこの夏目楓になってしまう。
 葉月にはその後ろ姿が悔しいがとても輝いて見えた。
 自分は輝かせるように努力してきた。なのに、この夏目楓は自然に人を惹きつける何かを持っていた。

 さらに、全く知らない自分を褒めながら。周りとの交友関係を築きたいと言える社交性。

 認めたくないが、自分よりも優れている容姿。

 優しく、穏やかな彼女の性格がそれに加わる。

 拍手が自分の時よりも大きい。輝く彼女は照れながらそれを一身に浴びる。

「今の子可愛いよな!」

「うんうん! 凄い優しそうだったし、感じが凄いいよね」

「後で連絡先聞こうかな? 楽しみだな」

 こんな言葉が飛び交う。自分の時にはなかったのに。もっと深く具体的な会話が葉月をさらに追い込む。
 軽く舌打ちをしながら、葉月は表情を歪める。

(こんなはずじゃ……でも、まだ! 化けの皮が剥がれるのは時間の問題よ! あんな女に負けるはずがない!)

 それからというものの。葉月の勝手な思い込みと勝負が始まった。

 所詮はその場限りの天下。必ず、自分が一番になるものだと思った。

 それなのに、敵わなかった。
 勉強でも夏目に一位を譲る始末。あれだけ中学では独走していたのに。
 葉月は成績表を握り締めて、夏目に寄り添うクラスメイトを遠目で眺めていた。

 運動でも彼女はテニス部で優秀な成績を収めて表彰された。
 何かの因果なのか。葉月もテニスを中学の頃から始めた経緯がある。
 自宅に練習場もあり、日々の練習も欠かさなかった。
 誰にも負けることはなかったし、負けるはずもないと思い込んでいた。

 だけど、それは大きな勘違いだった。

 夏目との一騎打ち。そこで完全に力の差を見せつけられ、葉月はグラウンドで倒れ込む。

 勝てない。何度やっても。

 最後にとどめをさしたのが、生徒会長の立候補。
 そこでも、人望で勝っている夏目に白羽の矢が立つ。
 もはや、彼女に勝てるものは何もなく、葉月は勝負を仕掛けるのもやめた。

 それも、夏目にとっては何も知らないし、勝負とも思っていない事実が余計に葉月を苦しめた。

(こ、こんな奴がこんな学校にいるなんて……不覚だったわ)

 葉月は我に返り、現在の状況を分析する。
 足も手もこの糸によって縛られている。
 だけど、笹森にもエンド量に限界が必ずある。これだけの、糸を保ってるには消耗も激しいはず。
 反撃のチャンスは幾らでもある。今は相手の策略に嵌ってあげているだけ。

 希望を捨てず、葉月は諦めない。霧川を激励し何とか励まそうとする。

(あいつがここに来るまでになんとか蓮に戦う意欲を取り戻させないと……)

 と、思ったのも束の間。赤い光がこの空間を支配する。
 二人は目を瞑り、その光のから現れる人物を細目で見る。
 こんな場所に転移魔術でやって来る人など一人しかいない。

 白髪に厳しい目付き。背丈は小さいが、感じるのは謎の威圧感。
 黒の服に身を包み、その姿は正に暗殺者。
 赤い光は輝くのをやめ、葉月は険しい表情でその姿を見つめる。

『ララの父親も俺の空間魔術で保管した……これで、心置きなくお前の目的に移行出来る』

「サンキュー! さてと、どうするか? こいつら」

「さ、笹森! こんなことしてどうなるか分かってんの!?」

「そうよ! この拘束が解かれたら絶対に、紗也華と一緒にあんたを殺す!」

 烈火の如く。葉月と霧川は怒りを現れた優にぶつける。ただ、全く動じず、優は腹を抱えて笑う。
 何を言おうと状況はこちらが有利。どんなに喚こうが。叫ぼうがここに助けが来ることもない。
 出水と飛野も流石にここには辿り着けない。

 この場所は事前に優が用意した宴の場所。
 目立たないここなら好き放題に出来るし、時間をかけることも可能。

 優は木箱に座り込み、縛られている二人を見て冷笑の影が頬を掠める。
 暗く、日が当たらないこの空間と同化するように。

 しばらく黙り込んでいたが、優は二人に話しかける。

「生贄にされた奴に縛られた気持ちはどう? まあ、そんなこと答える余裕もないか」

「ふざけるな! あんたなんかに……殺されてたまるか、それだったら舌を噛み切ってでも死んで」

「おいおい、ちょっと待てよ! 俺は別に二人を殺そうなんて思っていないんだぜ?」

 優の意外な言葉に葉月と霧川は目を丸くする。
 その表情は先程のものとは違って柔らかい。
 もしかすると助かるかもしれない。相手を刺激しなければの話だが。
 流石に優にもまだ人の心が残っていた。葉月は、希望の光を感じて舌を噛む力を弱める。

 もちろん、これはブラフ。本当にここで亡くなったら元の子もない。
 同情や焦りを誘うのにこのような行為は効果的。思い出したくないが、これもルキロスから学んだ術。

 ただ、優が持ち出してきた提案は二人にとって最悪のものだった。

「どちらか片方だけどな、今から俺の質問に答え続けた方を生かしてやるよ」

「……っ!? はぁ? そんなこと、あんたに答える訳ないでしょ!」

「し、質問ってどうしてそんな」

「それじゃあいくか、まずはお前だ、霧川」

 糸の強度と縛り付ける力を増す。これ以上やってしまうと血液の流れが悪くなり、最悪そこで死んでしまう。
 容赦はない。ただ、痛めつけることだけを最優先としている。
 優は二人の意思など関係なしに、口を開き問いかける。

「じゃあ、お前の好きな奴は誰なんだ? もちろん、俺のクラスメイトだった奴で」

「……それを答えてどうなるの」

「いいから、お前だってこんなところで終わる訳にはいかないだろ?」

 霧川は痛みで堪え切れず、苦しそうにしている。
 葉月は優のことを睨んでいるが全く気にしていない様子。
 そして、沈黙の後。霧川は覚悟を決めて自分の意中の相手の名前を言う。

「い、出水っち……出水」

「へぇ? あいつか……これは意外だな」

「ま、マジで? そ、そうだったのね」

 驚いた顔付きで葉月が霧川の好意を持つ相手が出水という事が信じられないようだ。
 優も興味本位で聞いただけだった。だけど、優はこれは使えると思い頭に埋め込んでおくことにした。
 霧川を縛る糸の強さを緩め、優はこれを機に葉月の方を向く。

「次はお前だ、葉月」

「んぐ……」

「そうだな、お前は誰かに告白されたことがあるか? いや、誰に告白されたことがある?」

 瞬時に質問の意図を変える。女として見たら葉月は中々の上玉。それは、優も理解している。
 それに彼女はプライドが高い。無駄に怒らせる場面ではないだろう。
 そのため、自尊心を尊重するために敢えて、あた方も告白されたことを前提として話を進めた。

 全くと言っていい程に。何故、このような質問をするのか。狙いが読めない。
 しかし、ここで途切れさせては駄目だ。相手である笹森優は油断している。
 なるべく話で時間を稼いでエンド切れを待つしかない。
 そう、判断して葉月は正直に今までの経験を伝える。

「本気のは三人よ! 大森に黒川に……それで」

「あと一人は誰なんだ? というか意外と少ないんだな」

「ぐ……後はその」

 ちらちらと葉月は霧川の方を見る。これ以上は言ってはいけない。そう言っても、ここで嘘をつくのはまずい。
 仮に優が知っていての質問だとしたら。色々な可能性を考慮して葉月は、とても申し訳無さそうに。
 三人目の名前を低い声で言い放つ。

「い、出水よ! あいつにも告白されたのよ! これで満足!?」

「え……ど、どういうこと? 紗也華が出水っちに告白されたって?」

「ありゃ、これは一波乱ありそうだな、お互いが知らなかったのか」

 霧川の顔が急に曇る。それに葉月が言うにはその告白を断ったという事実。
 これがさらに足枷となり、状況はより複雑となる。
 修羅場になると察した優はさらに問い詰めることに。

「それじゃあ、霧川に聞くよ、この事についてどう思う?」

「どう思うって? な、何よ」

「出水のことが好きだったんだろ? なのに、その本人は親友である葉月に興味がいっている、こんなの許せるはずがないよね?」

 これでは優が霧川に誘導しているようなもの。いや、実際の所そうなのだが。
 確かに、話を聞くと霧川は下を俯いて体を震わせる。
 先程までの優による憎悪が一瞬でどうでも良くなり、気が付けば葉月にそれは向いていた。

(私も出水っちに告白した、だけど、断られた、それなのに!)

 我ながら短絡だと思う。結果だけ聞いてこれだけ親友に対して怒りや恨みを抱いてしまうのは。
 だけど、それは一度抱いてしまったら抑えられない。
 人間の欲望が限りなく湧くように。人の感情も限りなく存在している。

 優はそんな霧川をやれやれ、という風に力なく笑う。

(親友なんて本当に笑わせてくれるな)

 座っている木箱から降りて、二人に歩み寄る。
 そして、霧川の前に近付きこんな提案を耳元で囁く、

「出水のことをキープしている葉月、しかも、告白されたことを黙っていたなんてそれって本当に親友と言えるのか?」

「……っ!? ぐぅ」

「蓮! そいつの言う奴なんか無視していいから! 何を言っているか分からないけど、私が蓮を想って出水の告白を断ったのは事実だから」

「……は?」

 霧川の表情と声が一変する。優も思わず見たことがない霧川に背筋が凍る。
 葉月にとっては何気ない発言。だが、今の霧川にとってそれは地雷を踏んでしまった。
 優は横目で葉月を見ながら、溜息をつく。

(箱の中のお嬢様は人の気持ちが分からなかったか)

 そして、優の考えていた最悪のシナリオは着々と進む。

「だから、こいつを倒してまた一緒に頑張って……」

「ふざけないで」

「え?」

「ふざけないでよ! なんで、そんな上から目線で言ってんのよ! 私のために断った? それって……【私は出水のことなんていつでも堕とせるから、譲ってあげる】って言っているようなものよ! 舐めないで」

 霧川は涙声に怒りが混ざり、はっきりと伝える。静寂のこの空間には響き渡り、葉月は霧川の反応に怯えてしまう。
 何度も、何度も喧嘩した。だけど、お互いが激しくぶつかり合う。所謂、本気の言い争いはしてこなかった。
 だからこそ、関係を維持出来てきたし、親友として立ち振る舞うことが出来た。

 けど、葉月は想う。なんで霧川と友達になったのか。
 思い返せば、気が付けばそういう仲になっていた。
 何となく。だからこそ、大切な存在だった。お互いに気兼ねなく話せる。

 そういう関係こそが葉月にとっては貴重だった。

 だけど、葉月は霧川のことを知っているようで知らなかった。

 彼氏と別れたこと。趣味。好きな食べ物。体重。その他、そういう記号という名の情報を知っておけば、良いものだと錯覚していた。

 しかし、それは大きな間違いだった。本当に大切な事。

 葉月は冷や汗を大量にかきながら。何とか霧川を鎮めようとする。
 だが、一度燃え盛った炎が消えないように。その行為こそが余計に霧川の感情に油を注ぐようなものだった。

「慰めなんて要らない! ていうか、ずっと前から思っていたことなんだけど……その香水臭いがきついんだけどやめてくれない?」

「れ、蓮?」

「露骨にお嬢様をアピールするのやめてよ! うざいわ! 自分が少し生まれがいいからって仕切ってさ! そんなんだからまともな友達が出来ないのよ! この愚図!」

「わ、私は……だって、蓮は私の友達……」

「後は、風間のことが好きだって言ってるけどさ、あんたじゃ駄目でしょ、無理して下の名前で呼んでるけど、迷惑だって気が付かないの? もういいわ、この際だからはっきり言うけどあんたなんか……」

 硝子の破片が心に突き刺さるように。一つ一つの欠片が葉月のそれを抉る。
 耐え切れない心身の痛みに葉月は思わず吐きそうになる。
 鬱憤を晴らしたのか。霧川は今まで溜まっていた悪口を全て出し切る。
 いや、実際の所はこれだけではない。あくまでこれは一部分に過ぎないと思うが。

 最後に、葉月の精神を大幅にすり減らすかのように。

「紗也華なんて親友なんて思ったこと一度もないんだから!」

「……って言ってるけど、葉月はどう思うの? ってあれ?」

 それを最後に葉月は反応を示さない。放心状態に陥り、ただの糸に吊るされる操り人形のような形になってしまう。
 無様に感じながら、優は霧川を縛っている糸を解除する。
 解放された霧川は我に返り、地面に尻餅を着く。

「あ、あぁ……ち、違うの、こ、これは」

「約束通り、解放してやるよ、ほら、俺はもう殺さないから後は自由にしろよ」

「んぐ、紗也華……ご、ごめんなさい、本当に」

「速くした方がいいよ? 俺の気が変わらない内に」

 霧川は服の汚れなど気にせず。地面に這いつくばり、精神崩壊した葉月に土下座する。
 既に興味を失った優は視線を逸らし声だけを聞いていた。
 だけど、ここで仲間のために。親友のために戦うのが物語の軸。本来の有り方。

 霧川が優に怒りをぶつけ、葉月を救うためにこの身を投げ出すものかと。そう思い込んでいた優。

 しかし、現実というものはあまりに非情。霧川は葉月との想いでより。この、今の優に殺される恐怖心が勝ってしまう。

 優はよろよろと歩きながら去って行く霧川の後ろ姿を見つめていた。

 ただ、このままで済ます程。この笹森優という人間は甘くない。

「あがぁ! ど、どうして?」

「あぁ? 俺は殺さないけど、【罠には気を付けた方がいい】って言うの忘れてた」

 再び地中から糸が発生し霧川を襲う。しかし、今度は縛るためのものではない。
 形を変形させ、強度を硬くしたもの。これはもはや糸ではなく一つの凶器。
 槍のような形に変形させ、優は仕掛けておいた。どちらにせよ、優の頭の中では殺すつもりだったらしい。

 注意が散漫し、気が付かなかった。では、済まされない。それは、霧川の体全体を突き刺し、多量の血がこの場に流れ落ちる。

 もはや、コピーした優の方が力を把握し、応用していた。

「こ、殺さないって……あがぁ、い、言ったのに」

「初めて試してみたけど案外上手く言ったな、今後の戦いにも使えるかもな」

「あ、悪魔……あ、あんたなんて」

「こうさせたのは誰なんだよ、自業自得だろ」

 肉片一つ残さぬ勢いで。優はさらに槍の糸を作り出し霧川に突き刺す。
 手加減など一切しない。滅多刺しの状態で霧川は倒れ込んだ。
 優は無表情のまま見るに堪えない姿になった霧川を木箱の中に放り込んだ。

「さてと、まずは一人……後は、あいつか、でもどうしたものか」

 優は霧川など元々いなかったような立ち振る舞いで。
 静止している葉月に近付いていくのであった。

「最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く