最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第14話 マルセールの状況とララの父親

遂に優は目的地である小さな街【マルセール】の中へ行けた。
ララの紹介もあって割とすんなりと検問は済んだ。
ついでに通行許可書も発行して貰い、これでいつでも入れることとなる。
ただ、門の前にいた兵士達の顔に覇気がないように感じた。


そして、それは街の中に入っても変わらなかった。


最初に来たニール村よりかは確かに発展している。
武器や防具が売っている店。食事が出来る施設。
さらに調味料が出回っている店など。村にはなかった施設が並んでいる。


香ばしい匂いが鼻につく。パンや焼いている肉。
見ているだけで涎が出てくる。
しかし、店の方も自分のことを見るなり、何やら警戒している。


それでもララは一つ一つの施設を丁寧に説明してくれている。


しかし、優はララにこの街の雰囲気の悪さを指摘する。


「なあ? なんでこんなに街が元気ないんだ? 人通りも少ないし、何か理由があるのか?」


「あ、ああ……それは」


素直な優の質問にララは黙り込む。
しかし、すぐにその答えは分かる。
ララに説明される前に、優達の目の前で鞭の叩く音が聞こえた。


叩かれているのは一人の男性。見るからにだらしない恰好をしている。
優は遠目からそれを見て、シュバルツに語り掛ける。


「シュバルツ、あれって?」


『ふむ、このような街でああいう光景を見るのは久しぶりだな、簡単に言うと【奴隷】か? いや、ただ単に何かに巻き込まれているかに見えるが』


奴隷にしては鎖に繋がれていないし、痩せているようには思えない。
ただ、周りの一般人からしてみたら薄汚いように見える。
ムチを叩く音はどんどんと強くなっていく。鞭を叩く男は怒りを込めながら、罵倒している。


「てめぇ! いい加減にしろ! いつになったら返すんだ!」


「すみません、すみません」


「あらら、そういうことか、でも、こればっかりはどうしようも……ん?」


理由を察して優が通り過ぎようとした時。
隣にいたララが一目散にそこまで駆け出す。
こればかりは本人の問題だし、優にも助ける余地はないと判断。
しかし、ララには見過ごすことは出来なかったのだろう。


激しいムチの攻撃を受け止めて、両手で静止させる。


「や、やめて下さい! お金は、こ、今週中になんとかします! ですから、このようなことはやめて下さい!」


「お前に用はねえんだよ! こんな出来の悪い父親を庇ってもしょうがないだろ」


「そんな言い方はやめて下さい! 父は、私にとって大切な存在なんです!」


会話を聞きながら、優は口を開きながら驚きを見せる。
出会って間もないが、あれだけララが必死になるってことはよっぽど大切な存在なんだろう。
自分だったら剣を使って脅したり、斬りつけたりしている。それなのに、ララはそれをしようとしない。


あの優しさは必要だけど、不必要になる場面もある。


『どうする? あれがララの父親だということに驚いたが、このままだとララも父親も痛めつけられるだけだ』


「分かってるよ、たく、本当にララは訳が分からん奴よ」


『助けに行くのか?』


「まあ、俺もあのムチの親父は気に食わないしな」


(それにしても周りの奴らもどうして助けたりしないんだ? 同じ街の仲間だろ?)


街の人達に疑問を持ちながら優は鞭の親父の前に立ち塞がる。
鞭を片手で受け止め、それを下に叩きつける。
親父はあまりの力の差に体をよろけながら、バランスを崩す。地面に尻餅を着いて、声を荒げる。


優は奪い取った鞭を放り投げ、薄く笑いながら親父と向き合う。


「落ち着きなよ、親父さん?」


「なぁ? 誰だ? この白髪」


「す、優君!?」


身長が低いため、見上げられる形となるが、全く動じずむしろ強気に出る。
ララは自分の父親に寄り添いながら、鞭が命中した左頬を抑える。
親父は、怖がらない優に少し動揺している。これだけ、堂々とされると逆に恐怖を感じる。
そして、優は腰に手を置いて冷静に詳細を聞く。


「こいつは俺の友達なんだ、これ以上やるってんなら俺も容赦しないよ?」


「ふ、ふん! 小僧が何を言っているんだ! それに悪いのはこいつの方なんだ!?」


鞭の親父は求められる通りに優に解説する。


一か月前に貸した50000メル。これはおよそ、金貨5枚分。


話を聞き続けるとこのマルセールはとても貧乏な街と言う。


優秀なエンド能力者などは他に行ってしまい、資金の援助もない。


一応、ここにギルド協会はあるが、やはり大都市と比べて依頼の量も質も悪い。


憲兵団、騎士団を目指す者はやはりラグナロと行った大都市に行きたい者が多い。


ララの父親がこんな大量のメルを借りた理由はララを冒険者にさせるため。


そこで初めて知る真の理由にララは涙を流す。
冒険者になるといってもやはり初期投資はかなりいる。
武器や防具。依頼をこなすための食料や水の確保。仲間への給料など。


憲兵団や騎士団なら全て国や大都市から賄われる。


そこがまず大きな違いだった。


そのため、ララの父親も娘の心配を願うなら憲兵団に入って欲しい。
ただ、ララの実力と家柄や資金ではそれは幻想。
危険な冒険者になるしか道は残っていなかった。


一通り、話を聞いて優は腕組みをしながら頷く。


そして、一つの結論に辿り着いた。


「ということは、親父さんに貸したメルを返せばそれでいいという訳だな?」


「簡単に言うな! 金貨5枚となると、最近出没しているイモラを何匹倒せばいいと思っているんだ?」


『銅貨だけだと500枚、銀貨だと50枚……流石にこれは厳しいな』


小声でシュバルツが優に補足してくる。
期間が今週中だと仮定するとかなり厳しい。自分より格上のガリウスを倒さなければいけない。
そんな都合の良い依頼があるとも思えない。


ただ、優は考えることなく親父に真っ直ぐな瞳で言い切る。


「いや、出来るさ! 必ず、今週中にララの親父さんの借金をあんたに返してやるよ」


「ぐぅ……は、はははは! 驚いたな、まあいい、やれるもんならやってみろ! ただし、出来なかったら借金は二倍に膨れ上がる! 覚悟しとけよ!」


高らかに響き渡る笑い声を発しながら親父は去って行く。
服装見るに、貴族か何かだろうと優は予想する。
最も、あんなのが貴族だと思うと先が思いやられる。


ほとぼりが冷めて、優は涙を流すララに手を差し伸べる。


「悪いな、勝手に決めちゃって!」


「うぐ、ぐす! ううん、どっちにしたってあたし一人じゃどうしようもなかったし」


白く、柔らかく小さな手を引っ張り起き上がらせる。
やはり女の子の手というのは自分のものとは違う。


あの時。ララが適わないイモラに対してあれだけ果敢に挑んでいた理由。
それは、この父親による影響だったのか。
言ってはいけないと思うが、間近で見ると甲斐性が無さそうだ。


娘を冒険者にしたいために借金したらしいがこれでは本末転倒ではないか?


本当に娘のことを考えるのなら、冒険者にさせるより普通に働いた方がいいのではないか。


余計なお世話かもしれない。だが、優はララと向き合ってから今度はその父親に話しかける。


「初めましてだな? いきなりだけど、あんたは働いているのか?」


「……あ、あぁ! 君だったのか、ありがとう、助けてくれて」


ララの親父は無精髭を微妙に生やしながら、優に情けなく縋り付く。
優しい印象というのは変わらないが、これほどとは思えなかった。
これでは、あの鞭の親父に良いように利用されても仕方がない。


お礼を言われてもこんなに嬉しくないのは初めてだ。
溜息と哀れみを感じて優は軽く親父を突き放す。


「あんたの娘さんは命懸けで自分よりも強いガリウスを倒そうとしていた」


「それは、凄いな、よく生きて帰ってこれたな」


「ぱ、パパ?」


どうでも良さそうにララの親父は笑うだけ。
心配そうにその姿を見つめるララと眉を少しだけ動かす優。


この街には希望も夢も失われている。重税による搾り取られる街。
昔は人と人が支え合って生きてきた。
しかし、周りを見てみればこの事に誰も関心を持っていない。
それが、大きな証拠である。優は、異様な街の雰囲気もそうだし、このララの父親にも文句があった。


完全に生気を吸い取られているように。


(なるほど、この親父さんに期待しても無駄か、やっぱり俺とララでなんとかするしかないか)


大体状況を飲み込めて優はララの親父に背を向ける。


「残念だけど、ララの親父さんはこの状態だし、働けないだろ? ここは俺達で借金を返すしかない」


「そ、そんなの……だって、パパは」


「悪い、ララ! お前を冒険者にしたくて無理して借金をしたのは本当だ! だけど、本当はお金がなくて、ララが冒険者になって依頼をこなせば……少しでも足しになると」


「あんた最低だな、娘の前で言う事じゃないだろ」


『そこまでだ! 何か事情があるんだろ、確かに許されることではないが、優も言い過ぎだ!』


シュバルツに諭され、優は不満そうにここは引く。
ただこれだけ言われてもララの父親は笑顔を崩すことはない。
不気味さと壊れている感が馴染めない。


ララは口元に両手を押さえながら必死に悲しみを抑える。
今すぐにでも号泣しそうだった。こんなこと目の前で言われたら当然の反応だろう。


優はララの片手を引いて、この場から離れて行った。


親父さんは酔っ払いのように石壁に寄り掛かりながらもよろよろと立ち上がった。


(なんでこんなに熱くなってんだろ、俺)


他人事なのに、こんなにも関わるのは初めてだ。


自分ではあまり気にしていないと思ったが、欲しているんだろう。
仲間の絆や愛情などといったものを。


弱弱しくララは優の手を握っている。
しかし、時間と共にそれが強くなっていることが分かる。


優は駆け足で街の中心部に向かっている中。
前を向きながらララにさっきのことを聞く。


「さっき、俺も言い過ぎたよ、ごめん」


「……ううん、スグル君のせいじゃないよ」


「傷をえぐり返すようで悪いけどさ、なんでララの親父さんはあんな風になっちゃたの? 何か理由があるんでしょ?」


足を止めることなく、優はララに遠慮なく聞く。
ここまで来たらもう最後まで知りたい。
もしかすると、自分の目的のための情報も聞けるかもしれない。


そして、ララの次の発言に優は足を止めることとなる。


「実はね、あたしのママは……【狂化の壺】の生贄となってしまったの」

「最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く