最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

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第15話 力の無さ

葉月達は合流地点であるマルセールまで着いた。
しかし、四人の表情はとても暗い。ここまで来るのに会話が全くなかった。
着くなり、近くの宿屋に入り、四人は同じ部屋で予約する。
ただし、この密室でも静かなのは変わらない。


そして、最初に口を開いたのは葉月だった。


「ど、どうして、あんな風になってたの? 冴島も大森も、や、八代先生も!」


木の椅子から勢いよく立ち上がり、涙を流しながら訴える。
どうしようもなく項垂れる霧川。震えて何も答えられない飛野。
悲しみと同時に怒りを抑えきれない。
葉月は壁に拳をぶつけながら、体に力が入ってしょうがない。


何かに発散しないとどうにかなってしまいそうだ。
それぐらいに葉月達が見たものは衝撃的だった。


飛野の感知能力で追跡した所まではよかった。
イモラを倒しながら進んで行って、その先に八代達が待っていると思っていた。
合流してこの街でみんなで食事をするつもりだった。


それなのに、待っていたのは血の森。思わず口を抑えて、吐き気を我慢する。
体が真っ二つになる女性。首が斬られ、誰の顔なのか分からない者が転がっている。
何かを伝えたいかのように。未練を感じながら動かない死体。


それを見た直後。悲鳴がノースの森に響き渡る。


泣きながら、葉月達は死体を慣れない手付きで処理する。後ほど、正式に墓を作る予定。


血の匂いと肉片の塊。何より、この前まで一緒にいた仲間がこんな悲惨なことになっている。


精神は擦り減り、異臭に気が狂いそうだった。


服や顔や手に付着する血液など気にせず、四人は袋に死体を詰め込むだけだった。


そして、現在に至る。葉月にとって三人の死も衝撃的だが、このことをどういう風に報告するか。


【まあ、お前なら大丈夫だよな? なぁ? 葉月?】


我ながら情けないと思う。晴木のあの発言が頭に残ってしょうがない。
様々な要因が重なり、葉月に頭痛が襲う。
何が正しくて、何が悪いのか。葉月の判断力がとても鈍っていた。


しかし、出水は今までの出来事を振り返りながら自分の意見を口走る。


「だから、言ったんだよ! これを誰がやったかは分からないけど、好き勝手やってんだからこうなるぜ」


「ちょっと! こんな時に何言ってんのよ! 三人が死んだのよ! それに誰がやったかなんてこんなの明白でしょ!」


「い、いずみっち! 紗也華の言う通りよ! 飛野の言うことが本当なら、これをやったのなんて一人しかいないよ!」


無意識に出水は思っていることを表に出す。
ただ、それに当然だが葉月は反論する。鬼の形相でまるで剣で出水を斬りつける勢い。
霧川も葉月に同調するが、服の袖を掴みながらさり気なく動きを止めている。


飛野が言っていたあの場に笹森優のエンドの反応がある。
これが何を意味しているか。四人には理解するのに時間がかからなかった。


三人を殺したのは笹森優。仮にそうだとしたら自分達も標的だろう。


笹森には満場一致で自分が生贄に選んだと思われている。
実際のところは、ほぼ笹森のことを生贄にすることを望んでいた。


会って説明したところで信じて貰えるはずがない。今の笹森はクラスメイト達に限りない憎悪を持っており止められない。


再会したら本気で殺しに来るだろう。


葉月と霧川は同時に笹森の名前を口に出す。ほぼ、それで間違いないだろう。
出水も飛野もこれらを笹森がやったことは確かだと思っている。


しかし、出水は泣くことも怒ることもない。


ただ、冷静に的確に今の状態を言うだけ。


「確かに笹森がやったかもな」


「出水……なんであんたはそんなに落ち着いているのよ?」


「いや、仮にこれが笹森がやったとしても俺達は何も文句は言えねえよ」


「出水っち、どうしたの? さっきから可笑しいよ! 笹森が絶対に悪いよ! 今度こそ、ちゃんと殺さないと」


葉月と霧川は出水の言うことが信じられないようだ。
惨めに生贄になった使えない人物。不必要な人材。集団の中で浮いた存在。
遅かれ早かれ、あの笹森の状態ではすぐに終わっていた。


(何が文句言えねえよって、あいつが弱かったら仕方がなかったんでしょ! それで、あいつは私達の大切な人を殺した! 許されないわ)


睨みつけながら葉月は出水に視線を向ける。
ただ、動じずに。むしろ、強気に静めるように出水は胸を張る。


「お前ら、それ本気で言ってんのか? あいつは何も知らないまま殴られて、目の前で裏切られて、それで殺さない方がおかしい」


「アンタだって、同罪なのよ! あの時に知ってて見過ごした! 綺麗ごとなんてどうとでも言えるわ」


「それはそうだな、だけど、俺はお前らと違って自分が殺されても仕方がないと思っている! それは、冴島だって大森だってみかちゃんにだって言える」


出水は言う。自分は止められたのに止めなかった。それは、少なからずこんな気持ちがあったから。


(笹森が生贄になれば、晴木に勝てるだけの力が手に入るかもしれない、ずっとあいつに良いように使われていた自分を変えられるかも)


【そんなんだから、お前は……俺のパス役なんだよ】


だが、それは大きな間違いだった。
むしろ、笹森を生贄にすることが晴木にとって都合のいい出来事。
自らの武器を強化し、多量のエンドを取得出来る。


自分の恋敵である笹森も処理を出来る。迂闊だった、出水は過去の自分を殴りたい。
それぐらいに後悔しており、何より笹森に償いたかった。


深呼吸をして出水は硬直する葉月と霧川に言葉を放つ。


「本当に今更だけど、俺は後悔している、一年前の自分に」


「……っ! 黙ってれば都合の良いことばかり言って! あんたは裏切り者よ!」


裏切り者と言われ、出水は言葉を失う。核心をつかれ、唇を震わせる。
すると、ここまで黙っていた飛野が口を開く。


「俺が言うのも何だけどさ、どちらの言い分も分かるし、この事は悲しいし、許されないと思う! でも、俺達が言い争っても仕方ないでしょ? どちらにしろ、俺達は戦うしかないと思う」


霧川も飛野の意見に元気よく賛同する。
葉月にもそんなこと分かっている。ここで、仲間同士で喧嘩しても何も生まない。
仲間割れなどしても意味がない。
それでも、葉月には納得が出来なくて許せなかった。


対立する出水も、飛野の言葉に一歩退くしかなかった。
言いたいことは色々あったが、とにかく体を休めることにした。


(ちくしょう! やっぱり、あの時……もう少し強く言っておけば!)


髪を乱暴に掴みながら出水はあの日ことを思い出す。


――――――――


――――


――


優が眠っている間にも戦闘訓練は激化していた。
生贄は本人が意識がある時に捧げないと効力がない。
だから、優が目覚めるまでの間。すぐに、生贄を捧げられるように段取りが行われていた。
村人、クラスメイト、ルキロスが真剣に話し合い、既に作戦は確定だった。


主に晴木が先頭に立ち、村人と協力的なクラスメイトが先導する光景。


出水は遠目からそれを見ながら剣を磨いていた。
あの発言以降。出水はクラスの中で浮いていた。しかし、笹森とは違い実力はある。


彼のエンド能力は、衝撃波【ソニック】と呼ばれるもの。


これは、剣先を瞬間的に伸ばし、衝撃波を発生させ相手を斬るようなもの。かまいたちの現象に近い。
武器の性能に依存せず、使用者のエンド量と技量で決まる。
出水は抜群のセンスでこれを使いこなし、ルキロスにもその実力が認められる程。


だから、出水に付いて行く者は少なからずいた。


ただ、それ以上に晴木が驚異的だった。勇者というエンド能力を持ち、あの自信溢れる言動の数々。


とてもじゃないが、臆病者で踏み切れない出水にとって目の敵であった。


例え、出水がガリウスを自らのエンド能力で真っ二つにしようと。
晴木には到底敵わないと思ってしまうぐらいだ。


それぐらいに晴木の力は偉大で驚異的だった。


(ち! せめて、協力してくれる奴が二人……いや、一人でもいれば)


指を噛みながら出水は自らの力の無さと人望の無さにイライラする。
近くにあった小石を蹴り上げて、少しでもそれを発散したつもりでいる。


あの、話し合い以降。出水は普段、絡みがあって仲が良い人達に頼み込んだ。


このままでは晴木の思い通りになってしまう。晴木の本性もついでに話す。


絶対に一人ぐらいは協力してくれるものだと思っていた。


しかし、出水のその願いはすぐに砕け散ることとなる。


「え? 風間君がそんな訳ないじゃん! だって、怪我した私も優しく手当てしてくれたんだよ」


「出水……あいつに敵わないからって変な噂を流してんじゃねえよ! だっせーぞ」


「悪いけど、俺も笹森を生贄にすることは賛成だな! お前とは友達だけどこればっかりは無理だな」


愕然としながら出水は悔しがる。結局、自分と晴木と比べた時。あちらの方が上。
出水は遂に最終手段として、あまり関りはないが、ある人物に相談することにした。


「どうしたのかな? こんな所に呼び出して……出水君?」


食事の後。誰もいない村の端っこに夏目楓を呼び出した。
伝えたいことがあると言って、無理言って来て貰った。
出水は座っている丸太から立ち上がり、不思議そうな顔でこちらを見つめている楓に向く。


こう見ると笹森が羨ましい。誰もが振り向く美少女というのは納得。


煩悩を振り切り、出水は遠回りせず伝えたいことを真っ直ぐ言う。


「夏目! 笹森を生贄にすることに反対してくれないか? お前と俺が組めば、晴木もあのじいさんの考えも変わるかもしれない」


意外な出水の告白に楓は目を見開きながら驚く。
風が強くなり、楓の下ろしている髪が揺れる。いつもと違う雰囲気に出水は目を奪われそうになる。
ただ、それ以上に楓には協力して欲しかった。戦力的にもそうだし、笹森も喜ぶだろう。


しばらく、お互いの間に沈黙が続く。嫌な時間だ。


楓は自分の長い髪を手で優しく押さえる。そして、微笑みながら出水にはっきりとこう言い放つ。


「ごめん、無理かな?」


「お前も晴木に脅されているのか? だったら気にするな! 俺とお前でなんとかして……」


「違うの、そうじゃないの!」


楓は否定する。いつもの柔らかな物腰で表情ではない。微笑んではいるが、何処か芯の強さを感じる。
これだけ自分の意見をはっきりと言う楓を見るのは初めてだ。
出水は楓に理由を聞く前に、自らの口で楓は本音を暴露する。


「脅されているんじゃなくて……私が決めたことなの! だから、出水君は晴木の悪口を周りの人に言わないでくれるかな?」


「いや、悪口じゃなくて事実なんだけど、お前あいつに騙されてるよ! 今からでも遅くないから俺と一緒に……」


「そういうのうざいからやめてくれない? これ以上言うなら、容赦しないよ?」


思わず生唾を飲み込んでしまう出水。目を細めながらこちらに威圧をかけてくる楓。
これまた見たことがない楓に、頭の中が渦が巻いているように崩壊する。
そして、楓は出水の想像とは裏腹の発言を口にする。


「優のことは好き、生贄になるのはとても悲しいと思ってる」


「そ、それなら!」


「だけど、私が好きなのは……【私のことが好きな優】なの」


「は? それってどういう意味……」


理解出来なかった。出水にとってあまり異性を好きになった経験はない。
恋愛のことを言われても、出来の悪い頭には察することが出来ない。


楓はそれだけ言って、出水に軽く頭を下げて立ち去って行った。


「な、何なんだよ! どういう事なんだよ!」


追いかけようと思っても混乱していて出水は頭を抱え込む。
そして、何気なく後ろを見た時だった。


そこにいたのは、金髪の髪型が特徴的な一人の少女。
あそこは笹森が寝床にしている村の家。
家から出て来て、とても嬉しそうに少女は木の皿を運んで行く。


何かを思い出水はすぐに少女の元へと近付く。


「ねぇ? そこって笹森の家だろ? 君が何してるの?」


少女は出水の呼びかけに小動物のように体を震わせる。
怯えているのか。いや、突然話しかけられて驚いているだけだろう。
ここが、笹森の寝床というのは、左腕を喰われた時に運んで来たから覚えていた。


ただ、見た感じ誰も笹森の見舞に来てない。
この少女、アイリスも笹森がお腹を空かせていると思って食事を運んできたようだった。


(意識を取り戻していたのかよ……誰も報告しないし、気にも留めてなかったからか)


出水は溜息をついて周りに呆れる。知り合って間もない村人に何をやらせているんだと。


「あの、あなたは?」


「ああ、俺は出水! 笹森は元気なのか?」


「出水さん……わざわざここまで来て頂いてササモリさんも喜んでおられます」


とても丁寧にアイリスは出水の出迎えに感謝する。目的は違ったが、出水は軽く頷く。


この子も笹森と同じく生贄候補。それなのに、とても明るく振る舞っている。


「なぁ? お前は笹森のことをどう思っているんだ?」


「え? いや、それって? どういう意味ですか?」


意味深な楓の発言とアイリスの行動。それらが合致するために出水は質問する。
意を決して出水はアイリスの今の笹森の気持ちを聞いてみる。
ただ、思った以上にこの少女が笹森を想う気持ちは異常だった。


「そうですね、ササモリさんは優しいです! 出来の悪い村人の私にも話しかけてくれて、美味しくない食事も全部食べてくれて、それで……」


「ああ、もういいよ、そういうことか」


途切れなくアイリスは笹森のことを褒める。
あまり会話は出来ていないと本人は言っている。
それでこの反応ということは幾ら鈍感な出水にも把握出来る。


この子は笹森のことが好きだと。笹森の気持ちは分からないけど、こんな子に話しかけられて嫌な気持ちはしてないだろう。


出水は口元を手で当てながら羨ましいと思う。
ただ、すぐに惚気顔をやめてアイリスに真剣に向き合う。


もはや、クラスメイトに頼るのは危険だと判断。
だからこそ、出水は周りを見て誰もいないことを確認してあることを伝える。


これは何も出来ない出水にとってせめてもの抵抗。


出水はアイリスに静かに小さなお願い事をした。


「アイリスちゃん! まだ諦めてねえけど、もし笹森が生贄になったら……」


出水のお願いにアイリスは思わず泣いてしまう。


この瞬間に再び風が強くなる。


これは、一人の少年が一人の少女に切なく願ったこと。


優しい顔付きで出水は少女の手を握る。


「君が泣くことじゃないし、君が生贄になることもない! それは俺が保証するよ」


力強くそう言って出水は少女を抱き締める。


ただ、出水が暗躍している中で。


出水とアイリスにとって最悪の出来事が起こることとなる。

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コメント

  • ワールド

    ありがとうございます。そう言って頂けて光栄です。そちらの作品も時間のある時に読ませて頂きますね。

    1
  • さすらいの骨折男

    まだ少ししか読めてませんが、一話一話のボリュームがあり、それでいて読みやすいいい作品だと思います。
    お気に入り登録するので、良かったら僕の作品の方もよろしくお願いします!

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