最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第12話 予感

優が八代達三人を惨殺した後のこと。


イモラを倒しながら合流地点であるマルセールへと向かっている葉月一行。
ただ、気がかりなことがあって四人は休憩中に話し合っている時だった。


「飛野! みかちゃん達の反応は?」


「さっきから発動させているけど? 反応なしだな」


お手製のパイを口に運びながら、葉月は目の前にいるオールバックの黒髪の男に何度も聞き返す。
彼は飛野翔太(ひのしょうた)。そして、彼のエンド能力は感知【マーキング】というもの。
対象者のエンドで位置を把握出来て、味方にも敵にも有効である。とても、便利なもの。


今回は、それを主としていたのにあまり役に立っていない。
いや、イモラとの交戦中はまだ反応があったらしい。


ということは、そこで戦闘が起きて八代達がやられたのか。
それとも、感知範囲外まで移動してるのか。


飛野がどれだけ集中力を高めても無駄だった。


舌打ちをしながら葉月は頭を抱え込む。


「はぁ、肝心な時に使えない」


「いやいや! これでも真剣にやってんだって! お願い信じて!」


横目で葉月は慌てふためく飛野の頬をつねる。
同時に霧川も笑いながらこれまた葉月の作成したサンドイッチを頬張っていた。
三人がいい雰囲気の中で、少し距離を開けている赤髪の人物が口を開く。


「……なぁ、三人とも死んでるって可能性ないか?」


短髪の赤髪の人物、出水当真(いずみとうま)が不穏を口にする。
他の三人が動きを止める。最悪の結果と考えていたのか。
しかし、葉月はすぐに顔を横に振って否定する。


「ばかぁ? みかちゃんの他に冴島と大森もいるのよ? あの二人は強いし、防御壁だってあるし大丈夫よ」


「どうだかな? まあ、その話は置いといてせっかくだし、お前たちだけにでも聞いとくか」


遠回しに話題を切り替え、出水は一口でパイを食べ切る。
味を楽しむこともなく、ただ本能のままに言いたいことを口に出す。


「いやさ、お前らこのままでマジでいいと思ってんの?」


口の汚れを手で擦って落としながら出水は三人に質問する。
まるでずっと先まで見通しているかのように。


いつもは楽観的で物事をあまり考えていない出水。
だが、この世界に来てから様々なことが重なった。


裏切り、貶しあい、とてもじゃないが見ていて良いものではない。


「何が言いたいのよ! はっきり言いなさいよ!」


「いや、ただこのまま晴木の操り人形でいいかと思ってな」


葉月の表情が一変する。霧川も飛野はまるで出水が禁断の地に足を踏み入れたように。
言ってはいけないこと。出水は越えてはいけない境界線を越えた。
当の本人は何とも思ってないが、他の三人とっては言葉を詰まらせる発言。


「どうなんだよ? 特に葉月! お前はクラスの中でも、はっきりと口に出すタイプだっただろ?」


「そりゃまぁ……このままでいいなんて思ってないわよ、ねぇ?」


腕組みをしながら葉月は共感を得るために横目で霧川を見る。
だが、咄嗟に霧川は葉月から視線を逸らす。
これ以上は何も言わず、どうやら晴木に対しては何も言いたくないようだ。
それは飛野も同じで、先ほどまでの威勢の良さは消失していた。


「俺達はこの一年間の間に確かに強くなった、部隊も作って、この世界でも中々の地位を手に入れたと思うし、不満はないと思っていた、ただ」


「そんなこと分かってるわよ! だけど、晴木はもう私達とは立場も格も違う」


珍しく声を荒立てながら葉月は出水に怒る。


『【狂化の壺】の生贄になる覚悟は出来ているよな?』


『まあ、お前なら大丈夫だよな? なぁ? 葉月?』


この依頼の前に言われたことが頭によぎって仕方がなかった。


染みる汗を感じて、我ながら平静さを失っていることに気が付く。
同じクラスメイト。同じ年齢。それなのに、これだけの差がある。
悔しい、届かない。大きな壁というものを感じてしまう。


霧川は葉月に寄り添って優しく肩に手を置く。
耳元で大丈夫と囁いているが、それだけでは駄目だ。
唇を噛みながら、体を震わせている。


出水は染めた赤髪に触りながら申し訳無さそうに謝る。


「わりーお前を追い込んでも意味ねえしな」


「はぁ……ふ、ふん! このぐらいどうってことないわよ」


強がっていることは誰の目から見ても明らか。
しかしそこに出水は突っ込むことはない。
葉月はいつもの生意気な口調に戻り、出水を見上げる。
霧川も安堵の表情で励まし続けた。


ただ、そんな時。飛野は驚いた顔つきで出水達に伝える。


「……え? いや、まさか? そ、そんなはず」


寒気で鳥肌を感じながら飛野は自身のエンド能力による反応に疑っていた。
その変化に葉月はすぐに切り替えて飛野に状況の説明を求める。
ただ、次の飛野の報告は三人にとって信じられないものだった。


「さ、笹森が……笹森優のエンドの反応がある」


「は? はぁ!?」


「どういうこと? だって、あいつはあの臭い壺の生贄に」


「いや、あの爺さんが言ってたように生贄といっても完全に死ぬ訳じゃない……それでも、おかしいことに変わりはないよな」


三人がそれぞれ違う反応する中。共通するのは驚き、疑念、そして、不穏。
もしかすると、八代達は笹森優の手によって殺められたかもしれない。
だが、可能性としては考えにくい。元々は、優の戦闘能力の低さとエンドの使えなさ。


生贄を捧げる報酬。それと、自分達が死ぬかもしれない恐怖。
それを解消させる武器の取得。安全安心な大都市【ラグナロ】への移住の強化。


全てにおいて、笹森優を生贄に差し出すことで解決する。


ただ、出水はあの日のことを思い出す。


そして、さらに状況を混沌とさせる一言をこの場に放つ。


「やっぱり、笹森を生贄に差し出したこと間違いだったんじゃねえか?」


「……! はぁ? 今更何言ってんの! あれは多数決というか話し合いで……」


「だったら、何で本人がいない時にやったんだ、この時点で可笑しいだろ?」


葉月と出水は互いに意見をぶつけ合う。


葉月の言う多数決。そして、出水の言う会議。


それは、ちょうど一年前まで遡る。


――――――――


―――――


――


◆一年前◆


それは優がキメラによって左腕を捕食され、戦闘不能となった夜のこと。
衝撃的な光景を目の当たりにし、クラスメイト達は静まり返っていた。
これは、架空の世界なんかでなく、これもまたしっかりとした現実の世界。


怪物が現れ、それを倒す。倒さなければ死ぬ。


簡単なことだが、今日の出来事で戦意を失いかける者までいた。


そして、ルキロスがそんなクラスメイト達を一カ所の大広間に集めた。


もちろん、気絶している優はそこにいない。


「さて、これより反省会を行いたいと思いますが、今日はやはりあれについてじゃ」


クラスメイトはもちろん。村の人達も全員集められる反省会。
これだけで察した人物は多いだろう。
反省会というのは名目上。本題はやはり狂化の壺により生贄を選ぶということ。


異変に感づき、すぐに楓が真ん中の椅子に座っているルキロスに手を上げる。


「はい! まず、なんで優がいないんですか? 反省会なのにこれは可笑しくないですか?」


「彼は気絶している、無理は禁物じゃ」


「で、でも!」


「楓……ここはあの人の言う事を聞こう! ここで無理に優を起こしても悪化するだけだ」


静止させるように晴木は激高する楓を座らせる。
思えばこの頃から始まっていたのかもしれない。
出水は離れた位置からそれに感づいており、口を挟もうと思ったが黙ることにした。


元々、出水と晴木は同じサッカー部。だが、晴木はエースで点取り屋。


対して、出水はボールを奪い、晴木にパスを出すアシスト。


二人の黄金コンビで何度も強豪校を打ち破ってきた経緯がある。


だからこそ、出水には晴木の偽りの性格を誰よりも分かっているつもりだった。


そして、話は進んでいく。


「単刀直入に言うが、私は生贄に笹森優を推薦する! というか、そうしなければこの先、お主達はさらに酷い目に遭うぞ?」


「だからそれは!」


「今日の風間殿の戦闘途中での武器の破損、あれを見ても何とも思わなかったか?」


声を張り上げて説得しているのは楓だけ。
周りもやはり自分が一番可愛い。あんな自分達よりも一回りのキメラを見て、死にそうな思いを経験したのに。
他人のことなど構っていられない。


晴木も顔を下に向けながら、黙り込むだけ。


楓にとって全員が敵に思えてしまうこの状況。これでは空気の読めていない馬鹿な女。


しかし、時間が人の心を動かす。


「……っ! 聞いてれば、笹森を生贄を出さないと何も出来ないって言われているみたいじゃねえか!」


遂に出水が耐え切れなくなったのか。立ち上がり、ルキロスと黙り込むクラスメイトに喝を入れる。


「俺たちにだってプライドあるし、何より笹森を生贄に差し出したら、その事実がずっと残る! そうなったら、戦いに大切な連携とか戦術も機能しないじゃねえのか?」


嘘などつかずはっきりと自分の意見を言いきった出水。
普段はお調子者の出水がこんなに真剣になるなんて珍しい。
雰囲気の違うその人物にこの場はざわつき始める。


だが、そんなに簡単に収まる問題ではない。


今度は、スカートの裾の埃を払いながら葉月が厳しい目付きで出水に物申す。


「あんたさ、それ本気で言ってんの? まず使える武器と戦える力がないとそう言うのも成り立つ訳ないでしょ?」


ビシッと指を差しながら、いつも通りの上から目線。
厄介と思いながら出水は顔を引きつる。
戦える武器がないというのは確か。でも、戦う力というのはある。


出水にとって葉月のように天敵もいるが、クラス全員でこの窮地を乗り越えたいと思っている。


二人が言い争う中。さらに、意外な人物が葉月を後押しするように口を開く。


「俺も葉月と同じ意見だ! 話を総合的にまとめて、状況を打開するにはそれしかないと思ってな」


出水と葉月が同時にその声の主の方を見る。
そこには、楓の前でもお構いなしに胸の内をだす晴木がいた。
耳を疑う発言に、楓は烈火の如く。晴木の前に体を突き出す。


「な、何で! 晴木がそんなこと言うのよ! 晴木と優は親友なんじゃないの? それなのに、そんなの酷いよ!」


「……もちろん、苦渋の選択だったと思うよ、辛いし、俺も優を失うのは心が痛い……だけど、それ以上に守りたい存在があるんだ! それは」


それは突然のこと。晴木は楓のことを自分の前に引き寄せる。


いけないこと。恥ずかしいこと。
大勢が見ている前で、晴木は楓を抱きしめた。
力強く、女性のか弱い力では引き離せなかった。それ以上に晴木の気持ちがその力を強くしていた。


楓は最初の内は、顔を高揚させて、晴木の体を押し返そうとする。
なのに、段々と大きな体とその包容力。今日あった出来事を忘れさせてくれる。


「ど、どうして? だって……」


「優のことも大切だけど君の方が大事なんだよ! このままだと楓もあの怪物たちに喰われてしまうかもしれない」


ふと、楓は晴木の瞳を見ると見たことがないぐらいに真面目なものだった。


いつもは陽気で自分のことなど恋愛対象なんかに見られてないと思っていた。


抱きしめられる力はどんどんと強くなっていく。


その光景に出水は唖然として見ており、葉月は体を震わせながら見ていた。


お構いなしに、晴木は楓の自分の想いを伝えた。


「俺は楓のことが好きだ! お前と付き合いたい」


「え、えぇ!? そ、そんなの急に言われても」


「そ、そうよ! 今はそんな青春してる場合じゃないでしょ? だ、大事な話なのよ!」


満更でもない様子の楓に葉月は噛みつく。
ただ、周りはあまりの理想過ぎる二人に文句は何も言えなかった。
葉月はうろたえてしまい、ただそれを認めるしか出来なかった。


ルキロスはそれを見て、頷きながら話を元に戻す。


「……それでは、決定で宜しいですかな?」


「ちょっと待て! 話は終わってねえぞ! 結局、あいつを生贄にするってことだろ?」


出水が止めるように話を遮る。
ただ、今度は晴木は楓に離れて出水に睨みつける。
その目は見た者を怯ませ、硬直させる。
同じクラスメイトなのに。この差は何だと思うばかりに。


低い声で冷酷に晴木は出水にこう宣言する。


「お前にそんなこという権利ないんだよ、それに足が震えてるぞ」


「……っ! お前こそ、さ、笹森は、夏目のことが好きだったんじゃないのか? それなのに、こんなのありかよ」


「欲しい物は手に入れるのが、俺のやり方だからなぁ! どんなことをしようと知ったことか!」


晴木は悪人面で周りなど気にせず本性を曝け出す。
これだ。この晴木の本性を出水は知っていた。
恐らく、優を生贄にすれば楓の心は自分に向く。
出水に楓の本心は分からないが、とにかくここで晴木の思い通りにさせるのはまずい。


言葉を続けようとした直後。晴木は、今の出水にとって心に刺さる発言をぶつける。


「そんなんだから、お前は……俺のパス役なんだよ」


「て、てめぇ!」


「話は終わりだ! ルキロスさん、これ以上は無駄な争いだと思います!」


完全に風向きは晴木の方にあった。言っていることは最低だが、ここで晴木に逆らっても何も良いことはない。


さらに、村人や村長達も立ち上がり、自分達の現状を伝える。


「この【ニール村】はとても貧乏です、このままでは満足な食事も出来ない状態です……ただ、あの壺に生贄を差し出せば、貧困は解消されます! あの壺の現在の所有者、皆さんも知っていると思いますが、【ラグナロ】という大都市……そこからの援助も貰えますので」


「じゃあさ、そっちから生贄出せないの? 食事とか面倒になって悪いけど、それとこれとは別でしょ?」


「もちろん、それは考えております、ただ……」


その言葉と同時にニール村側から一人の少女が立ち上がる。
美しい金髪に大きな青い瞳。
背は小さく、豊満な体が目立つが、年齢は自分達より下だろう。
彼女は全員の前で立ち、軽くお辞儀をする。


可憐な見た目の少女は、悲しげな表情で口を開く。


「皆さん始めまして【アイリス】です! 私が……その、い、生贄候補です」


「ほほぉ、可哀想ですな、こんな小さな女の子が生贄になるなんて、でもこれも仕方がないことですな、さて、このままこの子を生贄にするんですかな?」


クラスメイトからは可愛いや可哀想などと言った声。


「え? あんな可愛い子って、昨日の交流会の時に話した子だ」


「可哀想……ねぇ? 考えてみればうちって笹森君って全然話したことないし」


「うん、彼は体が弱くて、いつも引っ込み思案だったよね?」


「これってさ、笹森っている?」


先程までの流れが大きく変わる。
もはや、完全に生贄は笹森優。あいつはいらない。いてもしょうがない。


着々と優が生贄になるという結論に導かれていた。


楓は何か言いたそうだったが、空気を読んだのか。
晴木に手を握られ、思わず下に俯いてしまう。


この時の晴木の顔は笑っていた。


(優……悪いけどお前はここで終わりだ、生贄はお前だ)


葉月も晴木のことを楓にとられたショックで立ち直れず、悔しがりながら座り込む。


そして、出水も味方が誰一人いないことに気が付き、手を引いてしまった。


こうして、こんなにもあっさりと生贄が確定してしまったのだ。


そのことを優は知らない。

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