最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

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第13話 冒険者を目指す少女

あれから全速力で森を移動して街に向かった優。
その結果。なんとか夕方にはマルセールに到着することが出来た。
シュバルツの水魔術でさっぱりと血を洗い流し、消臭もしていたら時間がかかった。


大木の上から街の風景が見える。
外灯があり、夕焼けに照らされている街の外観はとても美しい。
最初に来た【ニール村】と比べてやはり人が住むに適していると感じさせる。


小さな街だが、生活していくのには十分だろう。


優が初めて見る街に胸を躍らせていると相棒の声が聞こえてくる。


『あれが、マルセールか久しぶりに来たが変わってないな』


「シュバルツも来たことあるの?」


『当たり前だ! 俺はこの世界の各地を回っていた貴族だったからな』


「ふーん……まあ、いいや、えっと……確か街に入るには何かいるんだっけ?」


適当に受け流し、優はシュバルツに問う。
何となく覚えているが、優にとって初めて来る街。
もう一度おさらいをしておきたい気持ちはあった。


まず、街に入るためには通行許可書がいる。
これは、外部の者が侵入出来ないようにするため。安全のためだ。


どんな小さな街にもこれはあり、マルセールにも真ん中の門の前に何人か兵士がいる。


幾ら、優でも見つからずに侵入するのは不可能。
かと言って、何も恨みがなく、罪がない人を殺すのは優もやりたくはない。
そうなれば街中が大騒ぎになる。流石に、穏便に済ませたい。


ただ、これがなくてもその街の者に紹介して貰えば街の中に入れる。
言わば身元を証明して貰えばいいということだ。


「ところで、シュバルツがその通行許可書を持ってるんでしょ? なら、問題ないな」


『……』


「え? まさか、持ってないのか」


『流石に実体のない私を期待するのは間違いではないか? 転移魔術で飛ばしてもいいが、それだとまた別の問題が出てくる』


一方は解決出来ても、一方で塞がる。終わりのない迷路に優は頭を掻く。
このままここで待っていても何も動かない。
強行手段でやはり無理やり入るしかない。と、思った時だった。


戦闘音。爆音。付近でガリウスと何者かが戦っている。
優は表情を一変させてそちらに耳を傾ける。
これもまた先ほどと同じようにクラスメイトによるものなのか。


「悪い、そっちにいっていいか?」


静かに優は左腕に語り掛ける。
今日は本当に忙しい日。街に行くまでに何人と戦えばいいのか。
シュバルツはいつも通りの言葉で優に聞き返す。


『それはお前次第だ』


「はいはい、じゃあ……もう少し寄り道してこうぜ」


優はマルセールを引き返し、音のした方に一目散に向かう。


剣の入っている鞘に手を置きながらいつでも斬れるように。
準備は万端。後は、誰がいるかを確認するだけ。


目的地まで到着し、優は物音も立てずに戦況を見つめる。


ただ、優はため息をついて普段の穏やかな表情へと戻る。


「なんだ、違ったか」


不満そうに優は鞘から手を離す。
そこにいたのは、一匹の巨大なガリウスと一人の少女。


それは芋虫のような見た目のガリウス【イモラ】。
優も何度か交戦はあるが、そんなに強くはない。
肉質もキメラよりかは柔らかい。さらに、今回は単独で行動している。


倒すのは容易だと優は判断。無駄足だったと思いながら引き返す。


だが、その瞬間に人が吹き飛ばされる光景が見えてしまう。


思わず、優は前を向いてそれを見る。


小柄な少女は木にぶつかり、背中を強く打ち付ける。
イモラの体当たりをあれだけまともに直撃すれば唯では済まない。


自分だったら撤退するだろう。失礼だが、あの少女はまだまだイモラを倒す力量ではない。


武器もあの村で貰った物と同じぐらいに質が悪い剣。
あれでは倒せる敵も倒せない。
脆くなったその銀色の剣はイモラには全く通さない。


『ふむ、あれではイモラを倒せない、パワー、技術、経験、どれをとっても足りない』


のんびりと解説しているシュバルツ。それは優にも分かっている。


いつ、逃げるのか。優は少女の選択を待っていた。
その後に、あのイモラを倒すのが最善の策だと思う。


【一つ、戦場で情けは無用、それが命取りになる】


少女にとってもあのイモラを倒さないと成長にならない。
余計な助太刀が必要かどうかなんて分からない。


イモラの攻撃はさらに過激化していく。
それに対して少女はボロボロになりながらも立ち向かって行く。


勝てる見込みなどないのに。追い込まれているのに。


優には理解出来なかった。


「おいおい? 逃げないのか」


思わず口に出してしまう。気が付けば、その戦いを食い入るように見ている自分がいた。


今まで関わって来た人達は、こういう場面で逃げろという教えが当たり前だった。


勝てない戦いに挑んでも仕方がない。しかし、あの少女は違った。


どんなに攻撃を受けようと立ち向かうその姿勢。
気が付けばもう一度自らの鞘に手を置いていた。


そして、優は自然に笑みを浮かべる。


「いるんだな、ああいう奴」


『どうする? 助けに行くなら今しかないぞ』


「ああ、助けに行っていいのか?」


『お前がそう決めたんなら何も異論はない』


イモラが少女に向かってのしかかって押し潰そうとした瞬間。
優はエンドを発動させ、一気に距離を詰める。


「瞬間加速【アクセル】」


空中で回転しながらその遠心力でイモラに向かって行く。
切れ味や武器を消耗しないようになるべく弱いところを狙う。


イモラの弱点は腹部。そこはとても柔らかく強化【シファイ】を使用しなくても簡単に斬れる。


ふところに潜り込み、素早く的確に。


敵は優の姿を見ることなく呆気なくその場で崩れ落ちる。
緑色の液体を噴出しながら、それを優は避けて消滅していくイモラを見ていた。


完全に形がなくなった後。優は微笑みながら呆然としている少女に話しかける。


「大丈夫だったか? お前、なんで逃げなかったんだ?」


剣を鞘にしまって、優は少女と向き合う。


少女は驚きを隠せず剣を胸の辺りに持ってく。
ただ、それと同時に悲鳴を上げながら優に突っ込んでいく。


どうやらこちらのことを敵だと認識したらしい。


隙だらけの突進に優は片手で少女のおでこを押さえる。


「落ち着けって、俺は敵じゃない……現にイモラは倒しただろ?」


「あ……そ、その、すみません!」


少女は剣をすぐに取り下げて優に深く頭を下げる。
本当に申し訳ないと思っているのか。しばらく、頭を上げようとしない。
ただ、しばらくして優は困惑しながら後ろに腕を組む。


「いいからさ、顔上げろよ! 俺だってお前の標的を奪ってごめんな! お前、名前は?」


「え? はい! あたしは、あたしの名前は【ララ】です!」


「俺は笹森優……スグルでいいよ! 後、別に敬語じゃなくてもいいぜ、普通に話そう」


ララという少女はきょとんとした表情で優の名前を聞く。
この世界では珍しい名前なのか。スグルと小さくつぶやいた後に、もう一度名前を発する。


「じゃあ、スグル君でいい?」


「ほうほう、ちなみに俺は20歳は過ぎているよ」


「え、えぇ! す、すみません! てっきり同い年かと思いまして」


「嘘、本当は18歳! 多分、ララの方が年上だと思う」


目を細めながら優は難なく嘘をつく。
それに対してララは顔を赤くしながら軽く優を叩く。
からかわれたのが恥ずかしかったのか。それを両手で受け止めながら優は笑っている。


ちなみに、実年齢はララの方が一つ年上だということはまた別の話。


『おい! 優、こんなに可愛い子になんて冗談言っているんだ?』


シュバルツの可愛いに反応し、優はララに顔を近付ける。
まるで初見なのにとても親密な関係のような振る舞い。
急にこんなに密着され、再びララは顔だけではなく体全体が熱っぽくなる。


小顔で宝石のように輝いている瞳。上手く表現は出来ないが存在がキラキラとしている。
風に揺れる緑色の長髪。それは、少女の美しいが、まだ幼い顔立ちを引き立てていた。


確かに、シュバルツの言う通りにこの少女は。


「可愛いな、お前」


「ふえぇぇぇぇ」


「あれ? どうしたんだ? 何か、俺は気に障ること言ったか?」


『初めて会った女の子を口説くな、ほら、見ろその子を』


水が沸騰したようにララはまるで顔から湯気が出るぐらいに高揚している。
脱力感が体を襲い、優の前で崩れ落ちてしまう。
優は頭をポリポリと掻きながら、舌を出しながら悪戯っぽくしている。


気を取り直して、数分後。事情を説明して優はララに相談を持ち掛ける。


「あぁ……そういうことね、なら、安心していいよ! あたしがなんとマルセールの人だから!」


「おぉ! やっぱり助けて正解だったな」


『ふむ、これでこの子に優のことを紹介して貰えばいいのだが、どんな風に言えばそれが問題だな』


「うわぁ! さっきから気になっていたんだけど、スグル君の体から聞こえる声の人って誰なの?」


「ああ、こいつは俺の相棒の、シュバルツって言うんだ」


優は自慢げに自分の左腕を補っている相棒の紹介をする。
そして、話は本題へと入る。これは、優もシュバルツとの修行の期間に学んだこと。
だが、口に出して漏れがないように確認しておこうと思った。


基本的に、シュバルツが言っていることは何処の組織、部隊に所属しているかと言うこと。


大きくそれは三つに分けられている。


国や大都市を守りながら、ガリウスを倒す【憲兵団】と呼ばれるもの。
現実世界で言う警察みたいなものである。
恐らく、優のクラスメイト達もそこに属すると予想している。


補助も出るし、大人数の組織として区分化されている。力も絶大で安全。
難点としてはあまり自由度が利かないところ。上からの指示に忠実にしなければ解雇。最悪、処刑される場合もある。


優はここは絶対にないと思っている。そもそも、自分の立ち位置的にここだとやりたいことが出来ない。


何より、あのクラスメイト達と一緒の組織というのが絶対に有り得ないからだ。


二つ目は、ガリウスを倒すだけに結成される【騎士団】。


民衆の意見を聞きながら、雑用もこなす憲兵団と違い、完全にガリウスを倒すために特化された組織。
これまた、国や大都市からの補助によって賄われている。
しかし、ここの組織はガリウス倒せばそれで評価される。面倒ごとには巻き込まれないが、戦士率は高め。


ここも、聞いた時はありだと思ったが、やはり国や都市が絡んでいる以上。優にとってやり辛い所はある。


そして、三つ目こそが優にとても都合のいい組織だと感じた。


それこそがララが目を輝かせながら言ってきたものである。


「じゃあさ! スグル君は【冒険者】ってことなの!? 凄いね!」


「いや、まあ、形上はそうか? うーむ、微妙な立ち位置だ」


最後に【冒険者】というもの。これが、シュバルツに聞いた中で興味を持ったものだった。


縛られず、自由奔放に活動している組織のことである。
本来なら依頼などの報酬金などは国や大都市に分配される。
しかし、補助を受けていない冒険者はほとんどを受け取れる仕組み。


夢があり、とても魅力的な組織だと思われている。


ただ、実際は三つの組織の中で死亡率が高い。


そのため、シュバルツが言っていたのは相当の覚悟と実力がなければ入らない方がいいと釘を刺されている。


しかし、優は結構当初から冒険者に入ることを決めていた。


(まあ、今も冒険者みたいなものだけどな)


本来の冒険者は街にあるギルド協会と呼ばれるものに登録しなければいけないらしい。
部隊の名前、人数などなど。依頼を斡旋してくれる大切な施設であると学んだ。
だが、ララは冒険者の話になると、生き生きとしている。


その理由はすぐに分かる。


「あたしも実は冒険者なりたいなぁと思っているの!」


「へぇ、それまたなんで?」


「あれ? 『お前は無理とか』『絶対に危ないからやめとけ』とか言わないの? あははは……周りからはそう言われるんだよね」


ララは渇いた笑い声で優に胸の内を明かす。
さっきの戦いぶりを見るに確かに優から見ても冒険者には向いていない。
まだ、エンド能力などは不明だが、現状では一年前の自分を見ているみたいだった。


しかし、それでも優は否定しない。


「でもさ、ララが冒険者に入るって決めたんだろ? 周りがどうこうより、自分がそう決めたんだからそれでいいだろ?」


「……! そうだね、スグル君みたいな人ばかりだったらいいんだけどな」


「別に俺は変なこと言ってないだろ、でもなんで危険な冒険者になんで入りたいんだ?」


ララの意見を推進すると同時に優はララに動機を聞く。
こんな子が冒険者にならなきゃいけない理由。
きっと訳があるに違いない。優は、それを見抜いてララのことを詮索する。
せっかくお互いに助け合った仲。ここで、仲良くなっておくのも悪くない。


不思議とララからは悪意などは感じられないと優は判断した。


「うーん……とにかくお金【メル】が必要なの! 理由は、その」


「借金か? 誰かから借りていたり?」


「あっははは! スグル君には何も隠し事も出来ないね、初めて会うのに見透かされているみたい」


予測で言ったのがたまたま当たった。
優は心の中で頷きながら、それ以上のことは話さなくてもいいと言った。
ここから先はララのプライベートだし、この領域までが自分が入れる範囲。


お金と聞いて優はポンっと手を叩きながらこんな提案を持ち掛ける。


「よし、こうなったら二人でララの借金を返そうぜ」


「え? いやいや! そんなの悪いよ」


「気にするなって! 代わりにララは街を案内してくれ、ここの街は始めて来るから分からんからな」


「うぅ、でも」


『三つ、助けて貰ったまた恩がある相手には必ず借りを返すこと! という訳だ、ここは優の珍しく親切な行為に甘えておいてもいいんじゃないか?』


シュバルツの後押しもあり、ララは遠慮しながらも了承することとなった。
ここまで関わるほどの相手なのか。そう思っていた優だったが、気が付けば自然と打ち解けていた。
これも、シュバルツの教えの一つ。人と人の関りは大切であると。


それは、自分の目的や困っている時に役に立つかもしれない。打算的だが、冒険者などそのような考え方が多い。


しかし、ララは本気で優には感謝しているようで、笑顔でマルセールへと向かって行った。


その後ろ姿を見て、優はグッと拳に力を込める。


(あいつを俺の復讐に巻き込む訳にはいかない、ささっと解決して、情報を得てからこの街もおさらばだな)


駆け出し、優も手を振りながら案内しているララを追いかけた。


そして、優がマルセールに行く頃。葉月達も、到着寸前まで迫っていた。

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