最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第11話 終結

冴島にとって八代が命の恩人というのは、彼の家庭環境にあった。


彼の母親は幼い頃に病死しており、父親も仕事で家にいないことが多かった。
食事や身の回りのことなど自分でしなければならない。
それが、冴島にとっていつの日か当たり前になっていた。


ある日、日々の疲れか溜まったからか、学校で授業中に倒れてしまう。
その理由を聞いた八代先生がご飯などを作ってくれることがあった。
不定期だったが、冴島にとってとても有難かった。


自分に母親が居たらと。冴島は八代のことが母親のように思えてきた。


もちろん、個人的な生徒と担任の先生との介入は良くないと知っている。


それでも、冴島はそこに目を瞑っても八代のことを信じていた。


ただ、真実というものはとても残酷だった。


(俺は八代先生の家に行ったことはない……ふ! そういうことか)


全てを悟ったように冴島は過去を振り返りながら、大剣を持ち直す。


横目で八代先生を見ると、惨めに泣きながら、鼻水を垂らしまくっていた。
あれが自分を助けて貰っていた命の恩人。
冴島は下を俯きながら胸がとても苦しくなる。心臓を直接掴まれているかのように。


それに、聞くだけで吐きそうなぐらいに気持ち悪い話の数々。


本当に助けるだけの価値があるのかと。冴島は、目の前の敵である優を確認しながら葛藤している。


しかし、ここまで助けて貰った恩はきっちりと果たさないといけない。


(八代先生、俺は貴方がどんな人であろうと、きっちりと守ります! そして、その後にじっくりと話し合いましょう)


腹をくくった冴島は先ほどよりもさらに表情を険しくさせる。


それに感づいた優も攻撃に対応出来る姿勢に入る。


「やっぱりお前はそうするんだな……予想通りだな」


「何とでも言え、笑われても、可笑しいと思われても、この人は俺の命の恩人だ」


再び戦闘が開始される。
素早く、互いの気持ちがまるで剣に乗り移っているかのように。
激しい、耳に届く衝撃音と武器のぶつかり合う音が目立つ。


武器としての性能は圧倒的に冴島の方に部がある。
多量のエンドを練りこませたのとラグナロの開発技術はこの世界でも有数。
性能では勝っているがそれは優にも分かっていること。


何度も鍔ぜり合いをしている途中で、武器はどんどんと消耗している。


このままでは耐久性がなくなり、使い物にならなくなってしまう。


『優! このままでは不味いぞ! 一応、予備の剣はあるが、ここでそれを失う訳にはいかないだろ』


シュバルツに注意を促され、優は後退して考え直す。


こういう時に役に立つのがやはり経験と知識。
優はじっと冴島の動きを見極めながら、この一年間の間に詰め込んだものを整理する。


(相手の武器は大剣、耐久力、攻撃力と共に俺のより上、剣の捌き方も俺に負けていない、まともにやり合っても勝ち目はない)


『そうだ、しかしこちらには豊富なエンド能力と敵に攻め込んでいる! 相手はあの女を背にしている以上やはり不利なことに変わりはない』


「ああ、そうか」


思わず声を出して優は納得する。
どんなに強者でも後ろに守る者がいる以上こちらに部がある。
即座に行動に移し、ボロボロになりかけている剣で距離を詰める。
剣は変更しない。それは優に考えがあるからだ。


待ち構える冴島。だが、優の狙いはそちらではなく、人形のように動かない八代だった。


既に戦意喪失をしており、防御壁を使用することもない。


「させるか!」


つられるように冴島は八代の前に立ちはだかる。
これ以上好き勝手にはさせられない。
黒い大剣を盾のように扱い、優の攻撃を受け止めようとする。


しかし、それも違った。冴島は把握しているかは分からなかった。


だが、優には全体を見る落ち着きがまだある。
戦闘能力、武器、エンドそれ以外にも戦いにおいて重要な部分はある。


直前で左に移動し、器用に木の上に登っていく。
茂みに隠れながら、優はその上を素早く動いて行く。
攻撃の意図が読めない冴島はただ八代の前で攻撃に備えることしか出来ない。


(何を考えている? あの木の上から遠距離攻撃? そう言えば、あいつは最初の戦闘訓練で弓を使っていたな……ということは?)


思い出す記憶。冴島には一年前の最初の戦闘訓練の出来事が蘇る。
ただ、見たところ優には相手のエンド能力をコピーしてそれをそのまま使える。
こんな回りくどいやり方しなくてもいいはずだ。


若干だが茂みが移動のたびに揺れており、なんとか動きは補足出来る。


ただ、相手の目的、攻撃手段、意図が不明なため冴島は待つしかない。


そして、遂に優は冴島の前に姿を現す。


ちょうど八代が寄り掛かっている木の上から。
ここで、消耗した剣から予備の新しい短剣へと入れ替える。
冴島は上空から落ちてくる優に大剣を両手で持つ。


どうやら武器の強度の差でそのまま押し切りつもりのようだ。


(いくら、強化【シファイ】を使ってこようとこの武器の強度の差は埋まらない)


冴島は、そう確信して武器を壊し、その後に反撃すればいい。
そのような流れが頭の中に思い浮かんでいた。


これで勝ったと。しかし、優はさらにエンド能力を使用する。


『いけ、優!』


「ああ、瞬間加速【アクセル】」


木の上から落下する速度。冴島のエンド能力による瞬間加速【アクセル】。
二つを組み合わせ、その優にかかる短剣の力は想像以上のもの。
加速する勢いのある攻撃は幾ら強度のある冴島の大剣でも止められない。


防ぎきれず、大剣は真っ二つになり、そのまま冴島の頭に命中する。


力を緩めず、最後まで。地面まで到達した時には、冴島は戦闘不能の直前まで追い込まれる。


意識は保っているが、これも気力で補っているだけだろう。
優の強烈な一撃は人を殺すには余りにも大き過ぎる。加減など一切なかった。


「残念だけど、お前が見落としていたのはこの森の地形……それに、俺はこの森のことは熟知している、その違いが出てしまったな」


「んぐ……がはぁ! なるほど、先生に気を取られて周りが見えてなかっか」


「命の恩人のつもりが、最期は命を奪った人になってしまったな」


冴島は返り血を浴びている優を鋭く睨みつける。
ただ、もはや何も迫力がない。負け犬の遠吠えのようにも思える。
優は剣を納刀し、何も言葉を発しなくなった八代先生の前まで向かう。


「先生」


「……」


「先生! 八代先生」


「ひぃ! た、助けて!」


命懸けも虚しく。冴島は指先を僅かに動かし、抵抗を見せる。
気にも留めず優は泣き叫んで駄々をこねる八代の前にしゃがみ込む。


「……こいつは、いや、冴島は命懸けで先生を守ってくれた、でも、先生はまだ何もしてない、恥ずかしくないのか?」


「うぐ、そ、それは」


「先生のやっていることは最低で情けなさ過ぎる、なぁ? 先生は本当に教師だったのか?」


追い詰めているのか。それとも救いの手を差し伸べているのか。
浴びている血など気にせず、優は八代の本心が聞きたかった。
冴島は力を振り絞って八代の前までジリジリと近付いて行く。


上体を少し起こして呼吸を荒くしながら必死に声を出す。


「そいつの言うことなんて気にするな! 先生……八代先生! 俺は先生のことが好きだった! ひ、一人の女性として!」


意外な事実に優は目を見開く。考えてみれば恋愛感情を持つのは当たり前のことかも。
冴島はあまり女子との交流がなかった。というか、あまり興味を持っていなかった。
そういう事だったのかと、優は一人で頷く。


死に間際で意中の人に告白。冴島は本気で八代のことを自分に振り向かせたかった。


しかし、八代からの返答は限りなく残酷なものだった。


「え? え、ええ! あ、ああ……そ、そういう気持ちにさせちゃっていたか」


「先生?」


「ごめん、冴島君をそんな風に見れないし、何より晴木のためだったの! 晴木が、『冴島に元気付けさせれば先生の役に立つから』って言われたからなの」


「……は?」


先ほどの話の続き。晴木に恋愛感情を持っており、そして一線を越えてしまった話。
それだけでも冴島は心が破裂しそうなぐらいの事実。
でも、誰にだって間違いはある。羽根を伸ばしたい時はある。
だから、少し八代は限度を誤ってしまっただけ。


ただ、聞けば聞くほど冴島の激痛はさらに加速し、死へと近付いていく。


「母親がいないから母親代わりのことをすれば、冴島はもっとやる気出して勉強でも運動でも結果を出してくれる……晴木はそう言っていたの」


「やめて下さいよ」


「先生のクラスの評判が上がるし、何かあったら冴島が味方してくれるかもしれない」


「やめて……」


「ごめん、私は冴島君のことなんて晴木に言われなかったらどうでもよかった、本当にごめん」


これ以上詮索する必要はない。聞いているだけで胸糞が悪い。
優は残っているエンドを全て短剣に流し込む。
強化と瞬間加速のエンドを同時に発動させ、何か言われる前に八代の体を斬る。


感じたこともない痛み。自分の体から流血している。


八代は斬られた箇所を抑えながら目尻を引きつりながら怒号を上げる。


「何で? 全部打ち明けたら許してくれるって言ったじゃないの!」


「ふざけるな、あんたはもう教師でも何でもない、目の前で血だらけの生徒がいるのに助けもしないのか?」


「だってそれは」


「今までの話もそうだけど、あんたは自分の保身に走り過ぎている、それがこの報いだ」


躊躇することなく優は八代に剣を振りかざす。
呆気ない。八代の体は半分となり、そこで息が途絶えた。
悲しむこともなく、しばらく優は立ちすくんでいた。
色々と思うところはあるが、これで復讐の第一歩が終わった。


まるでスッキリしてないのは確か。


最後に、冴島の前に立つ。既に死にそうだったが、最後に優は語り掛ける。


「少しは同情するよ、でも、これで分かっただろ? 大切な人に目の前で裏切られる気持ちは?」


「……ああ」


「お前と俺は状況とか違うけどある意味似た者同士だったかもな」


「……ふん、生贄に選ばれた奴が調子に乗るな、だけど、お前に一つ頼みがある」


最後まで冴島は優に屈しなかった。
だが、頼みというのに反応して優は聞き返す。


「なに? まさか見逃して欲しいなんて?」


「いや、強くなったお前に必ずあのクソ勇者を倒してくれ! 絶対に!」


力強く優に願った後。冴島は息をついた。三体一という人数的に不利な中。
優は様々な技と戦術を使用し勝利をおさめた。
最後の冴島の願い事に優は空を見上げながら拳に力を入れる。


「言われなくても絶対にやってやる」


『見事だ、俺の教えは無駄ではなかったようだな』


「ふぅ、これで一段落、色々あったけど感情的にならないで済んだ」


『俺はこいつらに会うのは初見だったんだが、情で助ける必要はなかったな、当たり前だが』


久しぶりに登場したシュバルツ。今回の戦いぶりに優のことを褒め称えた。
決して目的に惑わされず、戦いに集中した優。
これはガリウスとの戦いにも役に立つ。いや、日常にも。


さらに、クラスメイトの弱みも握った。


十分すぎるほどの戦果だった。


「さてと、目的地の【マルセール】に行くとするか! あ、でもこの血を落とさないと不味いよな」


『問題ない! 移動中に俺の力でなんとかしてやる』


「いいねぇ! 流石は俺の相棒」


気を取り直して、優は三人の遺体を無視して目的地まで向かって行く。


その後。この場に葉月達増援が着いたのは、既に戦いが終結した時だった。


優は突き進んでいく。自分の復讐のために。

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