最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第9話 葉月の憂鬱

「あぁ、もぉ! 何なのよ!」


晴木の部屋を立ち去った後。葉月は、ドレスから戦闘服に着替えている最中だった。
愚痴を漏らし、鬱憤を吐き出すかのように止まらないようだ。
シードの組織の中で葉月は一二を争うぐらいにガリウドを倒すことに貢献している。
いや、葉月がいなければラグナロの数多くある組織の中でも上にはいけなかった程。


それぐらいに葉月の力と能力は高い。


初めの方は段々と強くなっていく自分。
ラグナロの平和のために貢献していること。
仲間と共に成長していき、新鮮味のある毎日。


元居た世界では味わえない。


ただ、最近は不満が爆発し葉月は鏡に映る自分を眺めていた。


(私が生贄? なるわけないでしょ!)


優と同じ境遇に自分がなってしまう。
そんなことあってはならない。


目力を強くしながら葉月は力強く誓う。


「すみません、紗也華? どっちの方が似合っていると思いますか?」


凛々しく、透き通るように美しい声。
葉月にとっては聞きなれた声の質問に迷うことなく差し出された戦闘服に指をさす。


「流石ですね! 紗也華様のご判断はいつも的確で……」


「ちょっと! その話した方やめなよ! なんで、同級生同士で教えられた気持ち悪い口調で話さないといけないのよ」


嫌悪しながら葉月は同じ同級生である【霧川蓮(きりかわれん)】の作られたその話し方を指摘する。
豊満なその体は発育がよく、それを羨ましいと多々思う葉月である。
髪は赤く染めて、葉月同様に長く美しいそれは顔立ちが整っている彼女にも似合っていた。


そして、霧川は口元に手を当てながらおしとやかに振る舞おうとする。


だが、そんな鏡に映っている自分が嫌だったのか。
溜息をついて作り上げた自分を崩すかのように。
体の力を抜いて粗暴に椅子に座る。


「あーあー! それがいいわね! はぁ、社交とか何だか知らないけどあのじいさんもうるさいわね」


いつもの口調に戻り葉月は満足げに霧川の愚痴を聞いてやる。
霧川が言うのは自分達をこの世界に呼んだ張本人ルキロス。


あれからというものの。戦闘訓練以外に、様々な嗜み(たしな)を身に着けられるに言われる。


女性は特に厳しく。元々、容姿が優れている葉月と霧川は重点的に指導を受けた。


要領が良かったのか、二人は他の元居る貴族を追い抜く勢いで学習していく。
気が付けば、二人は戦闘以外の面倒ごとも任されるようになる。


それがとても大変なことは言うまでもなく。


「この間の爺も体ばかり触りやがってほんとにうざいわ!」


「まぁまぁ、でもあたしなんて『彼氏いるのとか?』『もう経験はしてるの?』とか、これ訴えたらセクハラよ」


「あら、あんたいなかったけ? 確か……」


「ああ! それ以上は言うのやめて! あんな奴のことなんかもう忘れたいわ」


苦い思い出を蒸し返してくる葉月に霧川は慌てて止める。
やり取りを見る通り二人は仲がいい。現実世界にいた時もプライベートでも遊ぶ機会がたくさんあった。


談笑しながら二人は戦闘服に着替え終わり、今回の依頼を確認しながら長い通路を歩いて行く。


討伐目標は【イモラ】という芋虫に似たガリウド。
スイーパーと同じぐらい大量発生しており、キメラよりかは強くはない。
ただ、このままではラグナロ周辺付近にも被害が出る。


そのため、緊急的に葉月と霧川が揃って出撃する羽目になった。


「今回のチームは?」


「私と蓮と出水と飛野だったかしら……はぁ、まあこうなるわね」


「ふーん、先にみかちゃん達が行っているんだっけ?」


「まあね、私達は残ったイモラを倒すっていうことね」


眉間にしわを寄せながら葉月は書類に目を通していた。
霧川は久しぶりの葉月との依頼に心を躍らせていた。
今回のチームは四人構成。これは、基本的に葉月が決めており、最終的に晴木に通して最終決定となる。


先に担任の八代を含めて四人の部隊がイモラの討伐に向かっているとのこと。


既に八代は生徒から完全に舐められており、葉月に従うばかりであった。
自分よりも一回りも年上なのに。
情けないと感じて自分はあんな風にはならないと半ば反面教師の存在になりつつある葉月。


そして、肝心のルキロスは最近は何をやっているか見当がつかない。


葉月にとって不気味である意味怖い存在。


あの老人を自由にさせては不味いと思いながらも打開策はない。


(考え過ぎ? いや、あの爺さんも後々には私達の害になる存在……始末するチャンスがあればそうするしかないわね)


状況を整理しながら葉月は肩の力を抜く。
これから大事な戦いなのに余計なことは考えてはいけない。


晴木のあの発言も気になるが、戦いで死んでは元も子もない。


葉月はそう感じて地図を広げながらあることを考える。


「……敵の数と発生範囲的に結構な規模を移動しないといけないわね」


「そうなんだよねぇ、それでどうするの? 紗也華には何か考えがあるの?」


「そうね、飛野の探知のエンド能力を使って、みかちゃん達と合流しましょ」


「え? 合流? そんなことしなくてもあたしたち四人だけで……」


霧川は足を止めて葉月と向き合う。
密着されると胸の大きさの違いに萎えてしまう葉月。
軽く離れるように言って霧川は不貞腐れる。
気を取り直して話を真面目にするようにする。


「私達は攻撃には特化してるけど、反面に守りの面が薄いわ、だからみかちゃんの防御壁のエンドは役に立つ訳」


「あーそういうこと」


ガリウドの侵攻が激化しており、部隊を拡散しないといけないのは葉月も理解している。


ただ、人数が手薄になるとどうしても部隊のバランスは悪くなる。


だから、一度散らばった部隊を合流させるのは一つの手段だと考えた。


問題は合流地点を何処にするかいう問題。


葉月は頭を悩ませながら作戦を練る。
霧川にも考えて貰いたいが残念ながら作戦面は疎い。
今回は合流地点を決めるだけなるべく多くの人と相談した方がいいだろ。


飛野と出水も呼び出そうとした時だった。


「ほほ、元気にやっているようですな」


背後からの声に二人は同時に振り向く。
そこには葉月が警戒している老人ルキロスが立っていた。


余裕のある立ち振る舞いと表情。
とてもじゃないが現在の自分の力で適うはずはない。
葉月は悔しいながらもルキロスの強さを認めていた。


「何よ、何か用?」


「相変わらず、口調が強いですなぁ、まあいいでしょう、私は寛容な心の持ち主ですからな」


「御託はいいわ! 用件を言いなさい、用件を!」


一刻でも速くこの老人から離れたい葉月。
霧川は隣できょとんとしていた。
二人の間には知らないうちに探り合いが開始されていた。


こんな時に相手の感情や心が読めたらと。葉月はそう思うばかりであった。


ルキロスは常に持っている杖を地面に軽く叩く。


間を開けた後、落ち着いた口調で葉月に提案する。


「話を聞く限り、合流地点は私が思う限り【マルセール】がいいと思いますがな」


「話を聞く限りって……盗み聞きしてたの!? 信じられない!」


同時に怒りと気持ち悪さが襲う。
しかし、葉月は地図に目を通してみる。
確かにマルセールという場所は現在の状況で最も合流地点に最適だと感じる。


イモラを倒しながら進んでいって、落ち着いたところでマルセールに到着。
そこで、八代の部隊と合流がベスト。


一瞬にして的確な指示を出せる頭の回転の速さ。
それが余計に不気味さに拍車をかけていた、


(盗み聞きされていたのは許さないけど、これじゃあ言い返せない……く)


地図を握り締めてグシャグシャになりながら怒りを込める。
ただ、それは相手にぶつけるものではなく自分に対するもの。
最も、速く気が付けば目の前の気に食わない老人に文句も言えただろう。


それが出来なくなり、虫唾が走る。


「……す、素晴らしい提案をあ、ありがとうございます」


「ふむ、いつもそんな素直ならこちらも嬉しいんですがね」


「でも、マルセールってここから遠いし、小さな街だよね? ほんとに行く価値あるの?」


勝手に進んでいく話に霧川は思わず食い付く。
確かに葉月もそれは気がかりでもある。


合流地点としてはマルセールは数多くある街の中で考えられる中で一番いい。


だが、霧川の言う通りこのラグナロから距離がとてもある。
イモラの侵攻がそれほど進んでいることに問題がある。


それも含めての判断なのか。


ここは何も余計なことは言わずに従っておこう。


葉月は霧川に無言で頷き納得させる。
何かあったら自分が責任をとる。


本来、葉月は口では色々言っているが、自分が信じた人。仲間に関してはとても大切にする。
だからこそ、霧川も八代先生もその他仲間も、葉月にとっては絶対に守りたい存在。


(まあ、あの生贄になった奴は残念だったけどね、でも、一人の犠牲でこれだけの力を皆が得て救われた、しょうがないわよね?)


葉月は目を閉じて歩き出す。霧川も微笑みながらそんな葉月の後を付いて行く。


「紗也華!」


「なに?」


「いつもありがとう!」


「な、なぁ! ふ、ふん! い、いいわよ別に」


真っ赤にしながら葉月は霧川から顔を逸らす。
だけど、内心はとても嬉しかった。
いつまでもこのような日常が続けばいいと葉月はそう願った。
今日もそのために剣を振り続けるだけだ。



「さて、どのように運命が転がるか、本当に楽しみじゃの」


しかし、ルキロスの策略。そして、ガリウドの侵攻。ラグナロの闇。


黒いマントを羽織りながらルキロスは静かに去って行った。

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