最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第8話 男と女の関係

大都市【ラグナロ】はワールドエンドの中でも一二を争う程の大きさの街。
街というよりかはもはや国の規模である。
各地のエンドを集めて武器の開発、人材育成に力を入れている。


もちろんのこと、ガリウドに狙われる機会も多い。
そのため、強力なエンド能力者や優秀な戦闘能力を持つ者しか基本的には入れない。


その中に、あの優のクラスメイト達も多数いた。


「晴木、次のガリウドの討伐依頼と今月の依頼書のまとめ」


「ああ、いつもありがとな、楓」


何人は入れるか分からない広さの王宮にいる晴木と楓。
床には赤絨毯(じゅうたん)が敷かれており、周りには一般人には到底買えない照明器具。
窓は高級な硝子で出来ており、外部からの攻撃も受け付けない。
そんな裕福な環境に移動したのは優を生贄にして数日のこと。


元々、上位エンドに位置する晴木と楓。
狂化の壺による放出されたエンドによって開発された武器。
あの村での武器とは比べ物にならないぐらいの強さを誇った。


それらもあり、晴木達は【シード】という組織を作り、それは瞬く間に戦果を上げていく。


気が付けば、このラグナロの下手な貴族より地位が上になっていた。


晴木は現在、ラグナロに貢献を認められた者だけに与えられる部屋でくつろいでいたのだ。


「たく、最近ガリウドの侵攻が酷くて書類ばかりじゃねえか! あー休みたいな」


「流石、勇者様は大変だよね」


「楓……お前だってあまり寝てないだろ? 辛いのはお互い様だ」


ふかふかの椅子に深く腰を寄りかけながら、楓の睡眠不足を指摘する。


楓は優しく断れない性格のため晴木の願い事はほぼ何でも受け入れる。
雑用から実務まで。ただ、無茶をする性格は晴木も理解している。
また、はっきりと思っていることを言えないのもある。


周りの空気を読み過ぎて、気が付けば自分のやりたいことを見失っていることも少なくない。


(まあ、そういう性格だったから、あいつ(優)を生贄に出来たんだけどな)


決して楓には悟られないように。
気付かれないようにここまで洗脳しているかの如く。
楓には優のことを忘れさせるように晴木は色々と施した。


そう、既に楓の体の純潔は晴木によって失われていた。
何度も求め合い、晴木にとって楓は完全に自分に体も心も向いているのかと思った。


だが、それは間違いだった。楓はまだ優のことを思い続けていたのだ。


(あの時、私はやっぱり反対しておけばよかった? でも、例え私が言ってもみんなに押し切られるし、わ、私が生贄になる可能性だって)


「楓? どうした? 顔色がよくないな?」


「あ、いや! 何でもない! やっぱり、少し寝ようかなって! あははは……」


必死に自分の気持ちを押し殺しながら楓は笑う。
それが愛想笑いなのは言うまでもないが。
優に対して想う気持ちはあるが、今更引き返すことは出来ない。


この一年という月日の流れは楓の立場も人間関係も環境も劇的に変化してしまったからだ。


「晴木! 南西のガリウドの討伐は終わったわ! 次は……ってお邪魔だったかしら?」


豪華絢爛(けんらん)なドレスを身に纏い(まと)いながら現れたのは葉月紗也華。
髪色もピンクに染めて、バッサリと長かった髪も切っていた、
現在、彼女はこの【シード】の戦闘面でのリーダーとして任命されていた。


他にも、その社交的な性格や礼儀もあり、葉月には楓と共に食事会やダンスパーティーといったものにもよく呼ばれる。


今回は他のクラスメイトがガリウドを倒したという報告を葉月が直々にしてきた。


だが、部屋に入るなり葉月は楓がいて不機嫌になる。


「いや、そんなことはない! いつもありがとな!」


「ま、まあ? 晴木はいつも大変だからこれぐらいやらないとね……って! それとあんたね!」


「へ? 私?」


「そうよ! 最近は戦闘に全然参加してないじゃない! あたしばかり頑張って馬鹿みたいじゃない」


葉月の指摘に楓は目を泳がせながら黙りこむ。
すぐさま晴木がフォローして葉月は不服ながら納得する。
晴木にとって楓は傍に置いておきたい存在。言ったことは何でもやってくれるし、イライラした時の掃き溜め所でもあるため。


過去に葉月が楓のポジションになりたいと言ったことはある。
ただ、やんわりとそれっぽいことだけ言って晴木は断った。


(葉月は楓と同じぐらい優秀……ただ、女としての格は楓の方が上だからな)


晴木は不毛な葉月の意見にほくそ笑む。
恐らく、葉月は自分のことを好きである。余程の鈍感じゃなければ気付く。
だからこそ、最大限に利用してから廃棄物になったら捨てればいい。


このラグナロは二人以上に優秀で絶世の美女がいる。


自分の容姿と勇者という地位を使えば堕とせない女などいない。


晴木にはそんな絶対的な自信があった。


そして、もう一つ晴木にはこんな脅しをかけている。


「後、いつも言ってるけど、仕事が出来ない奴は俺の組織に要らない……もし、俺が使えないと判断した場合、【狂化の壺】の生贄になる覚悟は出来ているよな?」


冗談ではない。晴木はクラスメイトでも仲間でも関係ない。
冷酷で切り捨てられるその能力は上に立つ者に必要不可欠。
この年で晴木は手に入れてしまった。権力という大きなものを。


本気の言葉に楓と葉月は戦慄が走る。
一年前の穏やかで陽気な晴木は影を潜めている。


葉月は生唾を飲んで晴木の恐ろしい顔を見ている。


(いつ見ても晴木のこの脅しは怖いわ……あの壺に生贄を捧げる効果は絶大だから仕方がないけど)


狂化の壺は現在このラグナロに保管している。
使用する際に取り出すルールとなっている。


驚いたのは、一か月に一度のペースであの壺に生贄が捧げられているという事実。


壺にはエンド能力やその者のエンド量。
それが希少、強さによって壺から放出されるエンドの量は変わるとのこと。
優でさえ、絶大的な効果があった。


だからこそ、晴木にとって一度、葉月や楓といった上位のエンド能力者を捧げたいと考えている。


足を組み直し、晴木は口元を緩ませて氷のように冷たくあしらう。


「まあ、お前なら大丈夫だよな? なぁ? 葉月?」


「……っ! 引き続きガリウドの討伐に行ってくるわ! 今度はあたしも」


逃げるように葉月は部屋から出て行く。ドレスが汚れることなど気にせず。
残った楓は心配そうな顔つきで人相が怖い晴木を見ていた。


だが、いつもの柔らかい表情に戻る晴木。
楓の前ではあまり怒った所を見ない。
それどころか仕事で失敗しても慰める程だ。


「悪いな、怖がらせてあいつの場合……ああやって発破をかけて言った方がよく働いてくれる」


「晴木、さっきのって嘘だよね?」


「心配しなくても楓はどんなことをしようと生贄にしないからさ! ただ、他の奴が失敗したらさっきも言った通り……生贄になるだろうな」


その時の晴木の表情は今まで見た中で酷く歪なものだった。
思わず、楓は逸らしてしまう。
ただ、自分は安心という領域にいる。他のクラスメイトには悪いとは思っている。


(こんなのよくない、よくないと思っているけど……もう苦労するのは嫌だ)


自分の汚さに嫌悪しながらも、立場を揺がす発言は決してしない。


ただ、晴木の話を聞いて、言うことを聞いていれば楽が出来る。
楓は自分の白いドレスの姿を鏡で見ながらそう考える。


そして、いつの日か。また、優と再会できて一緒になれればすべてが丸く収まる。


考えれば考えるほどに自分が醜い存在だと自覚する。
罪悪感を感じながらも、求められるままに今日も楓は晴木に……。


「なぁ? 今夜もいいか? 楓」


「……うん」


楓はドアの鍵を確認し、晴木に寄り掛かる。
唇を重ね、二人はまた愛し合う。


優の知らないところで二人はもう一線を越えていた。

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