最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第7話 修行の成果

今日の獲物は厄介。
森を駆けずり、木と木を渡って素早く移動する。
まず、移動は目標以外に見つからないように。
隠密かつ素早く機敏に。


そして、獲物を見つけるなり、剣を取り出しじっと見つめる。
基本的にあちらがこちらに気付いていない場合は隙を見せるまで動かない。
攻撃のチャンスは幾分ある。


獲物が水を飲んだ瞬間だった。


「いくぞ……」


微かに森の空から出てる光。
特徴的な少年の白髪を照らしながらその時はくる。
迷いもなく、少年より巨大な獲物に立ち向かう。


今回の獲物の名前は【キメラ】。
そう、この少年。笹森優がかつて左腕を喰われ、敗北したガリウド。
このノース森にもエンドを求めて侵攻していた。


キメラも優のことに気が付き、体を回しながらその場で体当たりを仕掛ける。
だが、読んでいたのか。優は高く飛び上がり、その攻撃を難なく回避する。


取り出した細く長い剣を、キメラに向かって斬りつける。
機動力と手数を重視した武器である。ただ、武器には多量のエンドが含まれている。
そのため、多少の肉質の硬さでは防ぎきれない。


キメラの硬い甲羅を貫き、そこから鮮明な血が流れ出す。
奇声を上げながら優に怒りをぶつけるように。
牙を光らせ、優を噛み殺そうとする。


「もうその攻撃は通じない」


よほどの勢いと速さなのか。
ボリュームのある白髪を揺らしながら、優はキメラの背後に回り込む。
そして、ここまでの修行の期間で身に着けた技を披露する。


「強化『シファイ』」


優はあの日のことを思い出しながら。
自分の装備している武器にさらなるエンドを流し込む。
細い剣は切れ味と強度が増す。
もはや、キメラの肉質が柔らかいと思えるほどに。


優は静かに獲物に近付き、連続で斬りつける。
ザシュ、ザシュという気持ちのいい音と共に。


キメラは巨体な体を地面に預けてその場で動きを止めた。


武器をしまい、今度は小さなナイフを取り出す。
殺したことを確認すると、躊躇いもなくナイフで肉をえぐり取る。
生臭さと血だらけの肉を片手で掴み上げる。
それと同時にキメラは優の前から跡形もなく消滅した。


「これで、今日の食糧も確保出来たな、シュバルツ」


『よくやった、単独でキメラをこんなに簡単に倒せるようになるとは』


「まあ、これもシュバルツのおかげだな」


『水を差すようで悪いがキメラの肉はしっかりと火を通さないと硬くて食えたもんじゃないぞ』


「分かってる、たく、シュバルツは相変わらず心配性だな」


キメラの肉をシュバルツの転移魔術で優の住処に転送して貰う。
やっと軽く笑顔になる優にシュバルツは優しくアドバイスを送る。


こうして、今日の狩りは終了した。
優はいつもの真剣な表情となり、自分の家へと帰って行った。


あの、全てを失った日から約一年。
これまで優はシュバルツの激しく、辛い訓練や鍛錬で成長した。
身も心も。そして、考え方も変わった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


日は落ち、辺りは暗くなる。
ノースの森は全体的に薄暗く夜になると本当に何も見えないと思ってもいい。
最初は優も戸惑ったが、慣れというものは怖い。
今では暗視出来てある程度なら、地形を把握しているのもあるが、見えるようになった。


現在は焚火をしながら、じっくりとキメラの肉を焼いている。


そして、森で採った木の実なども一緒に調理する。
シュバルツからは食事は人を強くするという言葉。
元々優は現実世界でも料理はしており、得意だった。


それらはガラクタで作った鍋に投入してスープにした。


香ばしい匂いが空腹を加速する。そわそわと優はシュバルツの問いかける。


「これぐらいでいい?」


『これぐらい焼けばいいだろう』


「よし、キメラの肉なんて調理するの初めてだから心配したけど上手く言ったな」


にやり、としながら優は手を合わせてからスープを口に含む。


上手いと静かに言ってスプーンでキメラの肉を食べる。
意外なことにこれが美味かった。見た目はあれだが、調理すると高級な肉に負けない程に。


(こんな美味しい物みんな食べないなんて勿体ないな)


休むことなく大量のスープを完食する。
満腹になって満足になったところでシュバルツが語り掛ける。


『思い返せば、今日のキメラの戦いで実感した……この一年の間でお前は成長した、身も心も』


「まあね、全てを失ったあの日はどうなるかと思ったけど」


左腕から聞こえる渋い声に優は真っ暗な空を見ながら返答する。
辛かった。苦しかった。
まずは体力作りから始まった。走って、走りまくって。限界まで走ってその繰り返し。
自分でもよく途中で放り投げなかったと褒め称えたい。


そして、戦える体力が付いた後は、戦闘訓練。
ガリウドの特性、武器の使い方、心得。
全てを叩きこまれたが、元々優は物覚えは悪くない。


水を含んだスポンジのように吸収していく。


同時に優のエンド能力【フォース】もそれと共に成長していく。


『お前のフォースは他の使い手と比べても汎用性が高い……驚いた、何故なら』


「【一度見たエンド能力をコピーして使うことが出来る】」


『おいこら! 俺が言おうとしたのに言うんじゃねえ!』


「ごめんごめん! 悪気はなかったんだけどさ」


軽く笑いながら優はそんなシュバルツに謝る。
そう、優が言った通り。最大の強さは相手のエンド能力をコピーして使うことが出来る点。
だから、先ほどの強化(シファイ)も葉月のエンド能力をそのまま使用した。


ただし、上位のエンドはコピーすることが出来ず、例え出来てもエンドが足らなかったり、適性がないと使用出来ない。


中々に面倒くさい仕様だと思っても強力なことに変わりはない。


そして、話はこれからのことに移る。


強くなった。心も鍛えられた。知識も経験もある。
これから何をするかは優次第だとシュバルツは話す。


木に寄り掛かりながら優は下を俯く。


「それはもう一つしかないよ」


優は懐からある一枚の紙を取り出す。
そこには、クラスメイトとその詳細が書かれていた。
これは自分で作成したリスト。自分を除いた39人分のそれがあり、優は曇った表情でそれを見ていた。


焚火による炎がゆらゆらと揺れる中。
落ち着いていた優の気持ちはそれを見るなり、激しく燃える炎のように動き出す。


深呼吸をして、全く表情を崩すことはない。
低く、聞くだけで寒気が立ってしまうほどの迫力で優は答える。


「こいつらを殺す、一人残らず」


『ふむ、それでやり方や方法はどうする?』


「止めないの? シュバルツとは一年近く一緒にいるけど、性格的に復讐には反対かと思ったけど」


『お前が決めたことだ、俺にとってお前はこうやってまた外の景色を見れれている命の恩人でもある、何度も言っているが、最終的に決めるのはお前だからな』


無責任に聞こえてくるかもしれないが、シュバルツは優のやることに反対しない。
アドバイスや解決方法は出してくれるが、決定は全て優に委ねている。
もちろん迷う時はあるが、自分で選択すること自体が成長に繋がる。


シュバルツに感謝しながら優は紙を木に貼り付けて解説する。


「まず、単独や少数で行動している奴らから狙う! 多勢に無勢、幾ら俺が強くても流石に大人数で来れると勝てない」


『それにあちらもこの一年で確実に強くなってる、無理は禁物だな』


「ああ、それに情報が把握してない中で戦闘は危険だ、まずは情報収集を含めてこの森から近い街に行きたい思うんだけど」


すると、今度は大きな地図を取り出す。
シュバルツの知識の元作成したこのワールドエンドの全体図だった。


優がいるこのノースの森は大都市どころか街からもかけ離れている。
だから、比較的この森から近い小さな街【マルセール】を目標地点として定めた。


目的も目指す場所も決まった。優は安心して今日はひと眠りにつこうとした時。


『最後に寝る前に、俺から守って欲しいことを言おう』


「えー今日もやるのかそれ」


『約束だろ? お前のことだ忘れていないとは思うが……一応だ』


優が眠たそうにしながらシュバルツに文句を言う。
ただ、何を言っても細かいところは頑固なシュバルツ。
いつもの穏やかな表情に戻り、優は目を瞑りながら口を開く。


「一つ、戦場で情けは無用、それが命取りになる! 二つ、迷ったら今までの学んだことを生かして最前の選択をしろ! 三つ、助けて貰ったまた恩がある相手には必ず借りを返すこと」


『よく言えたな、偉いぞ』


「馬鹿にしてるだろ? はぁ、まあいいや」


こうやってシュバルツと優は訓練が終わった後や就寝前に今までのことを振り返っている。
今日起きたこと、良かったこと、失敗したこと。
疑問や反省点を解消するのも立派で大事なこと。


それだけではなく、シュバルツの過去の話や人として生きている時の話も聞いたりしていた。


優は三つのことを常に頭と心に保管しながら就寝する。


こうして、一人の少年による復讐劇が幕を開けた。
ただ、待っていたのは優にも予想出来ない出来事ばかりだった。

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