最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

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第6話 真実の力 フォース


臭い、辛い、苦しい。
その他にも壺の中はとても熱い。
気が狂いそうなぐらいに負の要素が詰まっている。
優は泣き叫びながら助けを求める。


だが、それも空虚。まるで、深い水の中に沈むように。
体がふわふわとしてきた。自分はこのまま死ぬのか。


「応援するぜ、お前と楓」


「優は何があっても私が守るよ」


「俺はどんな所でもお前の親友でありたい」


「三人はいつまでも一緒だね!」


全てが嘘だったのか。
まぼろし、ゆめ。
優は表情を変えることなく、底に沈んでいく。感覚はあまりない。
自分がどうなるか。何処に行くのかどうでもよかった。


(ああああああああああああああああ! 僕は、僕はぁぁ!)


出来ることは意味もなく叫ぶだけ。
優が怒りをあらわにして必死に声を発した時だった。


『諦めるな、小僧』


「……!」


渋い声が確かに優の耳に届く。こんな所で人の声が聞こえるなんて有り得ない。
幻覚、それともただの気のせいか。
だが、望みをかけて優は反応してみることにした。


「お願いします、た、助けて下さい」


『それは無理だ、私は実体化はしていない、既に死んでいるからな』


「どういうことですか?」


『説明後だ、まず一つ聞こう! 私が君を助ける代わりに……君の体を貸してくれないか?』


どうやら謎の声の主が言っていることは本当のようだ。
口ぶりからして嘘をついてるとは思えない。
迷っていても壺の熱さと劣悪の環境でやられてしまう。


迷っている時間はない。


高まる憎悪を抑えながら、優は覚悟を決めて選択する。


「いいですよ、別に、好きにして下さい」


『ありがとう、これで私も君も救われる』


すると、優の体が黄色く光りだす。
その瞬間。先ほどよりも激しい痛みが優を襲う。
拒絶反応か。よだれを垂らしながら優は思わず気絶してしまう。
しばらくして黄色の光は輝くのをやめる。


体を浮かばせながら、優はそのまま闇の底へと消えていった。


――――――


――――


――


いつまで寝ていたのだろう。
長い眠りから覚めた優は濃霧のかかる森の中にいた。
はっきりとは見えないが、小動物や小鳥が動き回っている。
そして、優はまず自分の傷が完治していることに気が付く。


(そう言えば僕は……)


あの壺での出来事を思い出す。
突然と変な声が聞こえ、その指示に従った。
記憶が薄れているのか、優は近くの切り株に座り整理する。


『気が付いたか、坊主』


「っ!? またこの声だ! 一体……あなたは誰なんですか?」


『落ち着け! 俺は【シュバルツ】……そして、お前と俺は既に一体一心となっている』


「一体一心? それは、あ! まさか」


『俺はお前の体の中に住み着いている状況という訳だ』


優は自分の胸を手でさする。
知らない老人が自分の体の中に入り込んでいる。
その事実にまた吐きそうとなる。


『おい! 俺はおっさんじゃねえぞ! まだ若い』


「いや、もう死んでるじゃないですか」


『まあいい、とにかくお前に危害を加えるつもりはない、お前をこんなことに追い込んだ奴らとは違って』


そのシュバルツの一言で優は見えない人物に睨みつける。


(話してもないのに分かっているということは……僕の心の内も丸分かりという訳か)


『そう怒るな……ただ、お前は運がいい、あの壺に入れられこうやって肉体を維持しつつ、なおかつ、精神崩壊してないのだからな』


余計なことは考えず優はまず話を聞くことにした。
色々と気になることがあるし、何より力が手に入ると思ったからだ。
体の調子もいい。これも、このシュバルツが体の中に入っている影響なのか。


シュバルツは間を置いて説明を始める。


『まず、あの狂化の壺は生贄に捧げられたと言って絶対に死ぬ訳ではない、最も、生き残ったとしてもそれまでの壺に入った経緯と壺の中の劣悪の環境で廃人になる者がほとんどだ』


「そう思うと僕が助かった理由が分からない、だって、エンドも基礎能力もクラスの中でも最弱で、そのせいで……」


優は唇を軽く噛みながら悔しさを混ぜながらの声で訴える。
生き残ったとしても何も自分には残っていない。
生贄になるべくしてなった。そんな自分が助かった理由がますます不明であった。


だが、弱気な優にシュバルツは力強く否定する。


『いや、それは大きな間違いだ』


「間違いって、あのじいさんが見せて貰った各個人の能力が」


『確かに、お前の能力【フォース】は現時点では使い物にならない……ただ、このエンド能力は、後々この世界で中でも最強になる』


「最強? 何言ってんすか? ランクもGなのに」


勿体ぶってなかなかシュバルツは教えてくれない。
ただ、フォースが最強のエンド能力ということ。
これが本当だと考えたら、優は少し落ち着きを取り戻す。


『そもそも、基礎能力はお前たち転生組は元にいた世界でのスペックが重要となる、例え低くても修行すればなんとかなるものだ』


「そんなこと説明されなかった、どういうこと?」


『……これは予測だが、何か急いでいるんだろうな、ガリウスの侵攻、それによって即戦力の戦士が必要となるのだろう』


それによって生贄を狂化の壺に捧げる人材が必要となった訳だ。
大量のエンドの獲得。強力な武器の開発。育成環境のいい大都市の移住。
そうなれば合致する。優はそう考えると怒りが再び込み上げてくる。


「僕はそのためにこんな目に」


『そう、これもお前が弱いからこうなった、だからこそもっと強くなれ! お前を裏切った者を……倒すために』


「……それは」


『ほれ、私は実体化はしてないが、お前の力にはなれる、知識や戦い方も提供出来るし、何より、お前の失った部分を補填することが出来る』


言っている意味が分からない。
優は復讐心を剥き出しにしながら、自分の感覚のない左腕が再生していくことに気が付く。
情けない声を出しながら、優は思わず切り株から勢いよく立ち上がる。
この目で起きていることは、本当なのかと疑いたくなるぐらいに。


一瞬にして優の左腕は元に戻った。
そして、声の出どころが胸の辺りから左腕へと変化する。


『俺のエンドとお前のエンドを繋ぎ合わせて左腕へと変化させた、これは斬られようと焼かれようと痛みは感じないし、失ってもエンドさえあればまた再生する』


「な、なぁ!? あんたは一体? 腕が再生するって、こんなの神様ですか?」


『実体化はしてないがエンドは大量に持っている、それに何故だか知らないがお前と俺は相性がいい……そうでなければ、拒絶反応が出るし、何よりこうやって融合すら出来てないからな』


様々な偶然と悪運の強さが重なり優は助かったということか。
左腕を動かすと、普通に回すことも出来るし、物を持つことも出来る。
さらに痛みを感じないし、失ってもまた再生する。こんな便利なことがあるか。


そして、話は本題へと入っていく。


『それでここからが本題だが、お前はまだ俺からしてみれば未熟者』


「それは分かってます」


『だから、俺がお前の左腕となり、この【ノースの森】で戦い方を教えてやる、どうだ? 悪い話ではないだろ?』


自分の左腕を見ながら優は言葉を詰まらせる。
またこれも裏切られるのではないか。
人間不信に陥っている優は助けてくれた者も信用出来ない状態だった。


ただ、同時に楓や晴木達に対する憎悪。それが膨れ上がって来ている。
爪を噛みながら、指先から血が出てこようと気にも留めない。


不安や苦痛と言ったものが優を飲み込みそうになる。


どうせ、一度死にかけた身。このシュバルツに利用されようと。


優は無表情のまま了承しようとした時だった。


『別に俺の言う通りにしなくてもいい……俺は体を借りている身、最終的に決めるのはお前の判断』


「無責任なんですね、結構」


『そうしなかったから、いつも他人に流されてきたからお前は今の状態があるんじゃないか?』


「……っ! それは」


『さっき、お前は俺の問いかけに了承した、あれもまた最終的に決めたのはお前の判断だ、だからお前はこうやって反撃のチャンスを手に入れた、さぁどうするんだ?』


シュバルツの口調は厳しい。だが、何処か優しさも感じる。
優は目を閉じて、気持ちを集中させる。
風によって木の揺れる音。草木の匂い。小動物の鳴き声。
全てを遮断して優は決断のために目を開けた。


「やります……いや、やるよ、あいつらを……」


優はしたこともない程の鬼の形相で低い声で宣言する。
こうして、名前の通りに優しい『優』は消滅した。
豊かな感情が消え、優は戦士として覚醒することを決意した。


最後に優は自分と左腕のシュバルツに向かってこう言った。


「殺す、ただそれだけだ」


優とシュバルツの出会い。これもまた運命。
二人だけの、この森の過酷で辛い鍛錬が開始されるのであった。


全ては自分の復讐のために。

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