最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第4話 戦闘訓練そして左腕を失う


この世界に来て一夜が明ける。
前日は村の人たちに歓迎され、様々なおもてなしを受ける。
交流もして打ち解けながら村の人達に食事を提供して貰う。
そして、クラスメイトはルキロスが用意した戦闘服に着替える。
赤と白を基本としたもので、男は長ズボン、女はスカートだった。


比較的お洒落な部類であのうるさい葉月からも評判が良かった。


これには敵の攻撃を受けても多少は弾かれる性質を持っているという。


武器は昨日、これは村の人達に用意して貰った物。
何度見てもすぐに壊れそうなものだが、これで戦うしかない。


全員が自分のエンド能力に適した武器を選んでいく。


晴木が盾と剣が両立したもの。
楓が魔術の持続時間が長くなるという杖。
葉月が速さを重視したレイピア。八代は防御壁を張れるという盾。


そして、優は遠距離から攻撃出来るという弓。


それぞれの武器が決まり、ルキロスを先頭に村の外へと出て行く。


比較的この村の近くは誰でも倒せるガリウドしか出て来ない。
油断はならないが、それを聞いて皆の者安心している。
ただ、最弱の優はどんな相手であっても気が気ではならない。


(考えてみれば謎の世界に来ていきなり知らない老人に怪物倒せと言われて……何かここまで仕組まれてないか)


しかし、優が何を言おうと状況が変わることはない。
下手なことを言えば、生贄の標的になる。
ここは素直に従うしかないと優は考えた。


歩き続けることおよそ20分。
ルキロスが杖をある方向に向ける。そこには大量のガリウドの群れがいた。


蜘蛛のような見た目をしており、ゾロゾロとこちらに近付いて来ている。


「ほれ、あれはガリウドの中でも楽な部類の【スイーパー】と呼ばれているガリウドじゃ」


「あれがガリウド、まじでモンスターみたいじゃん」


「多くて、きっも! さっさと片付けたいわ」


「ただ、油断はしない方はいい、見た感じ数は多い……いいか? 昨日の話し合いの通りに隊列を維持しながら退治して行け」


ルキロスの言葉にクラスメイト達は元気よく返事をする。


作戦会議で話し合ったのはガリウドは倒すと死体を残さず消滅する。
隊列や戦術のこと。その他、武器の使い方、エンドの有効的な使用。
過去に戦ってきたルキロスの知識を叩きこまれた。


ここまでくれば後は実践で慣れるだけ。


しかし、果たしてそんなに上手くいくのか。
優にとってそれが気になって仕方がなかった。


そして、スイーパーは不規則な動きでこちらに迫ってきた。
それぞれのポジションについて全員がガリウドに備える。


前列は晴木と葉月が中心に。真ん中は楓。後列は八代がリーダーに任命された。


そして、優は能力の無さと武器からか後列に真っ先に移動した。


「とりゃ! 動きは不規則だけどそんなに強くねえな」


「遅いわね! 余裕じゃない?」


前列は晴木と葉月が見事な動きでほとんどのスイーパーを瞬殺していた。
そして、漏れたスイーパーは楓が攻撃魔術で殲滅させていた。


「みんなここは私がやるから! 怪我したらすぐに言ってね! 治療してあげるから」


戦闘中でも笑顔は絶やさない。
優はそんな幼馴染と親友を唖然として見ていた。


(凄い)


この一言しか思いつかないぐらいだ。


「後列は私がやるわ! 生徒は絶対に傷つけない!」


一方で八代もスイーパーによる糸の攻撃を防御壁で防いでいる。
数も多く、量は多いが見事に防ぎきっている。
優はすぐ後ろで見ているがそれは圧倒だった。


他の生徒も戸惑いながらも、エンド能力と武器を使いこなし、スイーパーを倒している。


優は何も出来ず、ただ突っ立っているだけだった。


歯ぎしりをしながら自分の不甲斐なさに苛立ちを隠せなかった。


【二人がなんとかしてくれる】【二人が守ってくれる】


それはこの世界に来ても一緒だった。
ただ、優にとってこの状態は甘えているだけかもしれない。
そう思う時が多々あった。確かに、二人に付いて行けばこの先も安心出来る。


だけど、優自身自分の力でなんとか成し遂げたいことがあった。


(今度は……僕も二人と一緒の位置で戦いたい!)


ぎゅっと装備している弓を持ち直す。
狙いを定め、交戦しているスイーパーに標準を合わせる。
例え、状況がこちらに傾いていても油断はならない。
優はじっくりと弓矢を装着し、引く力を込める。


一発で仕留めなければ、ただ自分がこちらにいるという合図にしかならない。


集中力を高めて、スイーパー目掛けて弓矢を放つ。


(届け! そして当たれ!)


優が放った弓矢。それは見事にスイーパーの頭部に命中した。


威力こそ低いが的確に命中したそれは一発で倒し切った。


「やった!」


思わず声をあげて優は体全体で喜びを表現した。
しかし、ちょうど全てのスイーパーを殲滅した時だった。
ここまではルキロスの予測内。
戦闘訓練もここで終了の予定だった。だが、戦いは常に予想外と考えなければならない。


「な、なんだ!?」


「こ、今度はムカデ? それに大きい」


「まさか【キメラ】もここまで侵攻しているとは……これは少々やばいのぉ」


(あれはルキロスさんが言っていた大型ガリウドのキメラ!? でも、なんで)


全員が隊列を崩し、慌てふためいている中。
ムカデに似ているガリウド【キメラ】は何本も生えている足を小刻みに動かす。
巨体の割りに動きが速い。
それでも晴木は怯むことなく盾で攻撃を防ぎながら仕掛ける。


「確かに動きは速くて大きいけど、俺の攻撃にはついてこれない」


晴木は盾を放り投げて、攻撃に集中する。
剣を両手で持って上空から落下しながらの攻撃。
これならキメラの硬い肉質も貫ける。はずだった。


「な、なに!?」


「武器が……壊れた、いやぁ! 逃げて晴木!」


キメラの死角からの攻撃。
だが、思った以上に相手の甲羅が硬かった。
牙を剥き出しにして至近距離の晴木を喰い殺そうとする。
楓は叫びながら魔術を行使しようとするが、間に合わない。
他の者も混乱しており、もはや組織として機能していなかった。


そんな時だった。
優は晴木の絶体絶命の状況でも動揺せず弓矢をキメラに向かって放つ。
当然の如く、攻撃は弾かれビクともしない。
それどころか、キメラは優に向かって狙いを定めてしまう。


だが、優は自らの危険のことは考えず大声でこう言った。


「化け物! こっちだ!」


「す、優!?」


「駄目だって! こんなの相手にしちゃ!」


楓と晴木はすぐにフォローをしようとする。
だが、晴木は武器が壊れてしまい、対抗手段がない。
そして、肝心の楓も強力な魔術を使い過ぎて、その反動で装備している杖ではもう発動出来ないようだった。


黒い肉質の怪物キメラは優に向かって真っすぐに正面から。
小細工などしてこない。
優は必死に後退しながら逃げ続ける。ただ、優の基礎能力ではすぐバテテしまう。
息切れを起こし、後ろを振り向くとそこにはキメラが牙を光らせていた。


「先生! 防御壁を! ……先生?」


呼び叫んだ声は虚しくこの場に響き渡るだけ。
既に先生と後列のメンバーは移動していた。
必死に逃げ続けていた優は全く周りが見えていなかった。
いや、逃げ遅れたと言った方が正しいか。


(八代先生の防御壁で相手の攻撃を防いでいる時に一斉攻撃すれば倒せたかもしれないのに)


優は再び背中に向ける。ただ、この距離で自分の足で逃げ切ることは不可能。
だが、キメラは今度は楓の方に向かって来た。
強力な魔術を警戒しているのか。既に、魔術を使うための武器はない。
楓は怯えながらその場に尻餅を着いてしまう。


「楓! くそ!」


晴木は残っているスイーパーの殲滅で手一杯のようだ。
予備の武器はあるとは言え、自分のことで精一杯。
この状態で他人のことを気にかけている余裕はない。
誰もがそう思う状況だが、優は最後の体力を振り絞って駆け出す。


(怖い、僕も逃げたい……だけど、楓、楓だけは何があっても助ける!)


優は涙目になりながら全力で楓の前に立つ。


「こ、来い! お、お前なんか……怖くない!」


「優!? 待って、そいつは」


楓の叫びと共にキメラは優の左腕に噛みつく。
鋭い牙は貧弱な優の腕など一瞬にして粉々となる。
肉も骨も砕き、鈍い音と共に優の左腕はキメラによって捕食されてしまう。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「そ、そんな……優!?」


「ち! 予備の武器も使えねえし……どうする?」


優は失った片腕の感じたこともない激痛に耐えられず地面に崩れ落ちる。
楓は優に寄り添いながら涙を流しながら、返り血を浴びながらも無事を祈る。
しかし、キメラは動きを止めることはない。
今度は二人を捕食するように。キメラは動きを止めている恰好の獲物に喰いつく。


楓は目を瞑り、諦めかけたその時。


「何、諦めて死のうとしてんのよ、ばーか」


「は、葉月ちゃん……」


スイーパーを狩って葉月は素早く、武器の消費に目を配りながら戦ってきた。
最低限のスイーパーしか倒してこなかったのは武器が壊れるのを防ぐため。
葉月はまるでこの状況を予測してかのように。
キメラを見ながら真剣な眼差しで立ち向かっていた。


「強化(シファイ)」


低い声で葉月がそう口で唱えると装備している短剣が青く光る。
これは一定時間武器の切れ味ど強度が増強される。
この状態なら硬い肉質のキメラも関係ない。
背後に回り込み、葉月は背中を何度も斬りつける。


「後は任せたわ、晴木」


「よし! 任せろ」


葉月は後ろに後退し、晴木と交代する。
弱っているキメラに晴木は心臓辺りを剣で突き刺す。
見事、自分達より格上のガリウドの討伐に成功する。


「優! 大丈夫か?」


「うぐ……すぐる、優!」


晴木はすぐに楓と優の側まで駆け寄る。
悶絶としている優を見て晴木は顔をしかめていた。
楓はどうしていいか分からず、ただ寄り添うしか出来なかった。


「だから言ったのよ、そいつは生贄にすべきって……」


血だらけの短剣を拭きながら葉月は左腕を失った優を哀れに見ていた。


「葉月! そんなこと言うな」


「いやいや、見事な戦いぶりでしたな」


すると、今まで何処かに隠れていたのか。それともただ傍観していたのか。
どちらか分からないが、ルキロスが遅れてやってきた。
楓はそんなルキロスに激高する。


「どうして助けてくれなかったですか!」


「私は後列の避難を手助けするのに精一杯だった……全体の隊列が崩れた中で私は出来ることをやったまで」


(そうか、だから……)


優はもはや意識を保ってもいられず気絶する。
それを見てルキロスは止血と回復魔術でとりあえずの応急処置を済ませる。


そして、残っている三人にこんなことを言い出す。


「これでお気づきになったでしょ? 現状の武器ではあなた達は今日は凌いでもこれから生き残れる保証はない」


「……何が言いたいんですか?」


「狂化の壺、あれにこの左腕を失った者を捧げれば全てが解決する」


「だからそれは」


「それに、この村から離れた都市【ラグナロ】……そこに招待される権利も与えられる」


ルキロスが言う。現在いる村では食事も安全面も保証出来ない。
壺と大都市は裏で繋がっている。
大量のエンドを獲得、それを提供することで武器や防具の開発。
そして、報酬を受け取ることが出来る。


もはや、迷っている余地はない。


それを聞いた晴木と葉月は心が揺らぐ。


しかし、それでも楓は優の右腕を握り続けていた。


「今度はお嬢さんの腕が失われるかもしれないぞ? そうなれば……あなたも生贄の候補となる」


「……!?」


「今後のために何を犠牲にしたら自分達にとって都合がよいか、よく考えるんですな! それでは、今日の戦闘訓練は終了じゃ」


ルキロスは髭を整えながらよぼよぼと歩いて行った。
晴木は苦い表情。葉月は冷たく笑いながら。
そして、楓は涙が止まり気が付けば優の手を離していた。

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