付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~
第25話 魔術対決
先に動いたのはレオだった。流れるように指を動かし、空中に魔術文字を書く。僕はその意味を読み取り、同じ魔術文字を書き終えると同時に《火玉》が放たれた。
熱で周囲の空気を歪めながら直進し、中間地で二つの《火玉》が衝突。小規模な爆発が発生すると、熱風が僕のところまで届き、髪がなびいた。
「猿真似が得意のようですね!」
レオは笑っているが、口元はヒクついている。怒鳴り散らしたいのを我慢しているようだ。まぁ、それも無理はないか。
相手の動きを見てから、同じ魔術を放つ。これは実力が同等以上でなければ、出来ない芸当だ。つまりレオと同じか、それ以上の実力を持っていると、この場で証明したのだ。
「これなら、どうですかっ!」
プライドを傷つけられたレオは《火矢》を連続で放ち、時折、視認の難しい《空気砲》を混ぜて攻撃してきた。
途切れることなく僕に向ってくるが、冷静に同じ魔術を放って撃ち落とす。偶にミスすることもあるけど、体をひねって避ければ問題ない。
まるで難易度の低いシューティングゲームで遊んでいるような感覚だ。この程度なら魔力が尽きるまで、ずっと遊んでいられる。
「ちっ。これ以上は無駄ですね」
残念。遊びの時間は終わったようだ。僕の実力は分かったんだから、諦めてくれないかな。
「降参します?」
「バカなことを!」
馬鹿にしたつもりはなかったんだけど、言葉が悪かったみたい。レオを怒らせてしまった。
「でも、あなたを見くびっていたのは認めましょう。付与師として同格だとも…………認めましょう。ですが、勝つのは私ですっ!」
レオのまとう雰囲気が変わった。
好戦的な笑みを浮かべ、両手で魔術陣を描き始める。次期公爵様の家庭教師にふさわしい、美しく正確な動きだ。当然、宙に浮かぶ魔術陣も機械で描かれたように整っている。
「すごい……」
僕は思わず、試合のことを忘れて感嘆の声を上げる。
見くびっていたのは僕の方だった。動きを見ただけで魅入られ、己の未熟さを実感してしまうほど、本気を出したレオは輝いている。
どうやら僕は、アーティファクトが作れるようになってから、調子に乗っていたようだ。この試合が終わったら、一から勉強し直そうかな。
「ですが、お嬢様が見ているのです」
そんなことを考えている間にも、レオは複雑な魔術陣を描いている。どのような魔術を放つか分からない。同じ魔術をぶつけるのは不可能だけど、魔術の系統程度なら特定できる。
意識を切り替えよう。目の前の敵は強い。全力を出せなければ、アミーユお嬢様の前で無様な姿を晒す羽目になる。うん。それは絶対に嫌だ! その内ボロが出るかもしれないけど、一日でも長くカッコいい先生でいたいんだ!
「負けるわけにはいきませんっ!」
左右に両腕を伸ばし、魔術陣を描くと、周囲に六重の《球状結界》が出現。その直後、上空から発生した《光柱》が僕に直撃した。
周囲は白い光に包まれ、地面は熱せられて赤い。この魔術の効果範囲は狭いけど、対象を高熱で焼き殺す。数多ある魔術の中でも、威力は飛びぬけて高い。現に僕の《結界》の第一層は、すでに半分ほど溶けていた。
「《光柱》の効果は長くても数秒。なのに、20秒経過しても消えない……。連続して放ってる?」
すぐに効果が終わる魔術だからこそ、受け止めようとしたのだ。さらに魔力の消費量は《光柱》の方が多いはずなのに……。
こんなに効果が続くのであれば、避ければよかった。ジリジリと溶けていく《球状結界》を見ながら、焦りが出始めたことを自覚していた。
「どうしよう」
結界を維持するのに精一杯で、歩くことはできない。僕の結界が破られるのが先か、相手の魔力が尽きるのが先か…………。
「!?」
残された時間は少ないみたいだ。ガラスが割れる音と共に、第一層の《結界》が破られた。今度は二層目が焼かれている。そのスピードは速くなっているようで、かなりの範囲が溶けていた。
このままではジリ貧だ。慌てて左右に伸ばした両手に魔力を込めて《球状結界》を強化する。けど、無駄な抵抗だったようだ。再びガラスが割れるような音と共に、第二階層、第三階層が破られた。
「…………仕方がない……ね……」
賭けに出るなら今が、最初で最後のチャンス。
右手の魔術陣を消すと、すぐさま魔術文字を書き《空気砲》を、自分の体に向けて放つ。
「ゴフッ」
肺にたまった空気を吐き出しながら、反動で吹き飛ぶ。計画通り《球状結界》が消える前に《光柱》から逃げ出すことができた。
無様にも地面を転がり、ヨロヨロと立ち上がる。全身が痛い。骨のきしむ音が聞こえる。もう少し威力を落としておけばよかった……。
「生きてましたか」
どいつもこいつも、試験のルールを無視しやがって!
僕は痛みを押し殺し、何事もなかったかのように、顔を上げてレオを睨みつける。
「顔が青いよ。魔力の使いすぎだ。もう魔術は使えないんじゃない?」
「一流は、準備を怠らないものですよ」
レオは懐からビンを取り出すと、フタを開けて一気に中身を飲み干した。すると青白かった顔が元に戻る。
マナポーションか……高い上に希少だから持ってないんだよね。
「私の魔力は補充され、あなたは減ったまま。さらに怪我をしている。負けを認めるなら今ですよ。それとも……まだ、勝つつもりですか?」
「この程度、ピンチにすらはいりません。レオ様こそ、無様な姿を晒す前に負けを認めた方がいいですよ」
「チャンスを与えたのに、それを理解できないとは……あの世で後悔しなさいっ!」
レオが手を前に出すと、指先から服に隠れている腕にまで、魔術陣が浮かび上がった。僕の刺青と同じ原理だ。
違う点といえば、僕は永久付与液を使っているから一度描いてしまえばずっと使える。レオの場合は数時間で体に描いた魔術陣が使えなくなることだろう。
そんな違い。今この場では何の意味もないんだけどね。
複数の魔術が絶え間なく襲いかかってくる。《光柱》より威力は低いけど、その代わり範囲は広い。避ける隙が無いのは、一目見ればわかる。
「仕方がないっ!」
右手を前に出して、手首から腕にかけて刻まれた刺青に魔力を注ぐ。永久付与液が光りだし、半球状の三重結界が前面に現れた。
時間をかけてじっくりと効果を高めた魔術陣だ。先ほどとは違い、魔術が当たってもビクもしない。何発当たろうが完全に防ぎきれる…………僕の魔力が続く限りはね。
炸裂音が中庭に響き渡り、土ぼこりが舞い、観客から歓声が聞こえる。先ほどとは違った派手な魔術の連発だ。さぞかし見応えのある試合なのだろう。レオは優勢な上に、歓声が聞こえるので、ご機嫌だ。声を出して笑っている。
一方の僕は、またしてもジリ貧だ。どうやって切り抜けようかな。逃げても避けてもダメだ。反撃するしか状況を好転させる方法はない。そう思って切り札を出そうとしたところで、偶然にも異変に気付いた。
先ほどの歓声が悲鳴に変わっていたのだ。観客席に視線を向けると、全員が上を向いている。つられて僕も見上げると、鳥にしては大きい、羽を持った生き物が上空を旋回していた。それも1、2……5匹もいる。
「あれは?」
一歩遅れて異変に気付いたたレオがつぶやいた。さすがにモンスターに関する知識はあまりないようで、遠目では正体がわからないみたいだ。
でも僕には、心当たりがあった。老婆の頭に腕が羽のモンスターといえば一つしかない。
「……ハーピー」
「あれが……。よく分かりましたね」
「今、兄さんが追っているモンスターですから」
「なぜ、この場に?」
「それが分かれば苦労しません。と、言いたいところですが、モンスターが人里に下りてくるときは決まって……!!」
話している途中で、何を狙っているの予想できた僕は、とっさに走り出した。けど少し遅かった。
隊列を組んだハーピーが、子供のアミーユお嬢様に向かって降下したのだ。
熱で周囲の空気を歪めながら直進し、中間地で二つの《火玉》が衝突。小規模な爆発が発生すると、熱風が僕のところまで届き、髪がなびいた。
「猿真似が得意のようですね!」
レオは笑っているが、口元はヒクついている。怒鳴り散らしたいのを我慢しているようだ。まぁ、それも無理はないか。
相手の動きを見てから、同じ魔術を放つ。これは実力が同等以上でなければ、出来ない芸当だ。つまりレオと同じか、それ以上の実力を持っていると、この場で証明したのだ。
「これなら、どうですかっ!」
プライドを傷つけられたレオは《火矢》を連続で放ち、時折、視認の難しい《空気砲》を混ぜて攻撃してきた。
途切れることなく僕に向ってくるが、冷静に同じ魔術を放って撃ち落とす。偶にミスすることもあるけど、体をひねって避ければ問題ない。
まるで難易度の低いシューティングゲームで遊んでいるような感覚だ。この程度なら魔力が尽きるまで、ずっと遊んでいられる。
「ちっ。これ以上は無駄ですね」
残念。遊びの時間は終わったようだ。僕の実力は分かったんだから、諦めてくれないかな。
「降参します?」
「バカなことを!」
馬鹿にしたつもりはなかったんだけど、言葉が悪かったみたい。レオを怒らせてしまった。
「でも、あなたを見くびっていたのは認めましょう。付与師として同格だとも…………認めましょう。ですが、勝つのは私ですっ!」
レオのまとう雰囲気が変わった。
好戦的な笑みを浮かべ、両手で魔術陣を描き始める。次期公爵様の家庭教師にふさわしい、美しく正確な動きだ。当然、宙に浮かぶ魔術陣も機械で描かれたように整っている。
「すごい……」
僕は思わず、試合のことを忘れて感嘆の声を上げる。
見くびっていたのは僕の方だった。動きを見ただけで魅入られ、己の未熟さを実感してしまうほど、本気を出したレオは輝いている。
どうやら僕は、アーティファクトが作れるようになってから、調子に乗っていたようだ。この試合が終わったら、一から勉強し直そうかな。
「ですが、お嬢様が見ているのです」
そんなことを考えている間にも、レオは複雑な魔術陣を描いている。どのような魔術を放つか分からない。同じ魔術をぶつけるのは不可能だけど、魔術の系統程度なら特定できる。
意識を切り替えよう。目の前の敵は強い。全力を出せなければ、アミーユお嬢様の前で無様な姿を晒す羽目になる。うん。それは絶対に嫌だ! その内ボロが出るかもしれないけど、一日でも長くカッコいい先生でいたいんだ!
「負けるわけにはいきませんっ!」
左右に両腕を伸ばし、魔術陣を描くと、周囲に六重の《球状結界》が出現。その直後、上空から発生した《光柱》が僕に直撃した。
周囲は白い光に包まれ、地面は熱せられて赤い。この魔術の効果範囲は狭いけど、対象を高熱で焼き殺す。数多ある魔術の中でも、威力は飛びぬけて高い。現に僕の《結界》の第一層は、すでに半分ほど溶けていた。
「《光柱》の効果は長くても数秒。なのに、20秒経過しても消えない……。連続して放ってる?」
すぐに効果が終わる魔術だからこそ、受け止めようとしたのだ。さらに魔力の消費量は《光柱》の方が多いはずなのに……。
こんなに効果が続くのであれば、避ければよかった。ジリジリと溶けていく《球状結界》を見ながら、焦りが出始めたことを自覚していた。
「どうしよう」
結界を維持するのに精一杯で、歩くことはできない。僕の結界が破られるのが先か、相手の魔力が尽きるのが先か…………。
「!?」
残された時間は少ないみたいだ。ガラスが割れる音と共に、第一層の《結界》が破られた。今度は二層目が焼かれている。そのスピードは速くなっているようで、かなりの範囲が溶けていた。
このままではジリ貧だ。慌てて左右に伸ばした両手に魔力を込めて《球状結界》を強化する。けど、無駄な抵抗だったようだ。再びガラスが割れるような音と共に、第二階層、第三階層が破られた。
「…………仕方がない……ね……」
賭けに出るなら今が、最初で最後のチャンス。
右手の魔術陣を消すと、すぐさま魔術文字を書き《空気砲》を、自分の体に向けて放つ。
「ゴフッ」
肺にたまった空気を吐き出しながら、反動で吹き飛ぶ。計画通り《球状結界》が消える前に《光柱》から逃げ出すことができた。
無様にも地面を転がり、ヨロヨロと立ち上がる。全身が痛い。骨のきしむ音が聞こえる。もう少し威力を落としておけばよかった……。
「生きてましたか」
どいつもこいつも、試験のルールを無視しやがって!
僕は痛みを押し殺し、何事もなかったかのように、顔を上げてレオを睨みつける。
「顔が青いよ。魔力の使いすぎだ。もう魔術は使えないんじゃない?」
「一流は、準備を怠らないものですよ」
レオは懐からビンを取り出すと、フタを開けて一気に中身を飲み干した。すると青白かった顔が元に戻る。
マナポーションか……高い上に希少だから持ってないんだよね。
「私の魔力は補充され、あなたは減ったまま。さらに怪我をしている。負けを認めるなら今ですよ。それとも……まだ、勝つつもりですか?」
「この程度、ピンチにすらはいりません。レオ様こそ、無様な姿を晒す前に負けを認めた方がいいですよ」
「チャンスを与えたのに、それを理解できないとは……あの世で後悔しなさいっ!」
レオが手を前に出すと、指先から服に隠れている腕にまで、魔術陣が浮かび上がった。僕の刺青と同じ原理だ。
違う点といえば、僕は永久付与液を使っているから一度描いてしまえばずっと使える。レオの場合は数時間で体に描いた魔術陣が使えなくなることだろう。
そんな違い。今この場では何の意味もないんだけどね。
複数の魔術が絶え間なく襲いかかってくる。《光柱》より威力は低いけど、その代わり範囲は広い。避ける隙が無いのは、一目見ればわかる。
「仕方がないっ!」
右手を前に出して、手首から腕にかけて刻まれた刺青に魔力を注ぐ。永久付与液が光りだし、半球状の三重結界が前面に現れた。
時間をかけてじっくりと効果を高めた魔術陣だ。先ほどとは違い、魔術が当たってもビクもしない。何発当たろうが完全に防ぎきれる…………僕の魔力が続く限りはね。
炸裂音が中庭に響き渡り、土ぼこりが舞い、観客から歓声が聞こえる。先ほどとは違った派手な魔術の連発だ。さぞかし見応えのある試合なのだろう。レオは優勢な上に、歓声が聞こえるので、ご機嫌だ。声を出して笑っている。
一方の僕は、またしてもジリ貧だ。どうやって切り抜けようかな。逃げても避けてもダメだ。反撃するしか状況を好転させる方法はない。そう思って切り札を出そうとしたところで、偶然にも異変に気付いた。
先ほどの歓声が悲鳴に変わっていたのだ。観客席に視線を向けると、全員が上を向いている。つられて僕も見上げると、鳥にしては大きい、羽を持った生き物が上空を旋回していた。それも1、2……5匹もいる。
「あれは?」
一歩遅れて異変に気付いたたレオがつぶやいた。さすがにモンスターに関する知識はあまりないようで、遠目では正体がわからないみたいだ。
でも僕には、心当たりがあった。老婆の頭に腕が羽のモンスターといえば一つしかない。
「……ハーピー」
「あれが……。よく分かりましたね」
「今、兄さんが追っているモンスターですから」
「なぜ、この場に?」
「それが分かれば苦労しません。と、言いたいところですが、モンスターが人里に下りてくるときは決まって……!!」
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