ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい
冒険者
私の目の前には赤黒い血の塊のような魔石があり、周囲には死にかけている人が三人。女性は両足がない。残りの男性はそれぞれ、腹に大きな穴が空いていて、止血はしているが臓器が損失しているので、このままだと間も無く死に絶えるだろう。
”困っている人がいたら助けてあげなさい”
偉大なる創造主の言葉が脳内に蘇る。
弱く、ズル賢い人種を救う必要は感じない。が、シロ様が守ると決めたのであれば、私が拒否するなどあり得ない。人は年老いて死ぬように、当たり前のことである。
先ずは瀕死の男性二人に近づく。ジャイアントスケルトンは、何らかの魔法を使ったのだろうか、キレイににくり抜いたような穴だ。気絶してて幸運だな。万が一、意識があったらショックで死んでいたかもしれない。少なくとも、痛みに耐えられず、のたうち回って死期を早めていただろう。
「彼の者を癒やせ、ヒーリング」
シロ様に授けていただいた回復の魔法を使う。時間が巻き戻るかのように、ケガが治り、失われた臓器が再生される。普通はここまでの効力はない。ホワイトドラゴンに連なる私だからこそ、何もなかったことにできるのだ。
人よ、何度も言うが、運が良かったな。
魔法が終わると、乱れていた呼吸が落ち着き、血色も良くなった。もうこれで死ぬことはないだろう。臓器が新しくなったのだから、むしろ健康になった可能性もある。うむ。お言葉通り助けたな。
後でご報告する時が楽しみだ。きっと褒めてもらえるだろう!
感情が高ぶり、勝手に尻尾が地面を叩く。
おっと、危うく最後の一人を叩き潰してしまうところだった。私がとどめを刺してしまったら……うん、考えないようにしよう!
気を取り直して両足を失った女性の容態を確認する。
足の切断面は刃物で切り落とされたようだった。ジャイアントスケルトンの剣で両断されたのか……? まぁ、あり得ない話ではないだろう。よく見れば、レザーアーマの胸部が凹み、壊れている。触ると肋骨が折れているようだった。
切られた後に殴りつけられたか。その後に追撃されなかったのは仲間のおかげだな。
人は群れる生き物だからこそ、他者を命がけで守ると、シロ様からは聞いていた。なるほど、一人でも生きていけるドラゴニュートには理解できないが、その通りなのだろう。その結果、私に助けてもらえる時間を稼げたのだから、生き方としては間違ってはいない。
「うっ……」
意識が残っている? いや混濁しているのか。長い銀髪が顔にかかり、わずかに目が開いて金色に輝く瞳が見えるが、焦点が合っていない。
「私が助ける。今は眠るが良い」
「あ……う……」
言葉にならない声を発すると、かろうじて開いていた瞼が完全に降りた。
よし、観察はここまでにしておこう。先ほどの二人より状態は少しだけマシだが、死にかけているのは間違いないからな。
先ほどと同じくヒーリングの魔法を使う。
体の中に眠る記憶を読み取り、砕けた骨は正しくつながり、肉が盛り上がるようにして足が生えてきた。これで彼女も死の淵から生還したことになる。
「早く魔石を持って街に帰りたいところだが……」
意識のない三人を放置したら、魔物の餌食になってしまうのは、流石の私でも分かる。助けたのに見捨ててしまえば後でお叱りを受けてしまうだろう。それは私のプライドが許さない。
仕方がない。時間は惜しいが、しばらく待つことにするか。
◆◆◆
陽が頂点に達した頃に、男性の一人が目を覚ました。
「こ、ここは? 生きているのか?」
「倒れたときと同じ、冥界の森林だ。先ほどの質問だが、生きているぞ。私が助けたからな」
「だ、誰だ!?」
私の声に反応すると、警戒しながら勢いよく立ち上がる。
足下に仲間の二人が横たわっているのに気づくと、殺されかけた記憶が蘇ってきたのか、戸惑うような声を出しながら、こちらを向いた。
「ドラゴニュート……しかも白。珍しい……いや、そんなことより、俺たちは死にかけていたはずだぞ。もしかして、助けてくれたのか?」
「先ほどの言った通りだ。お前たちに回復魔法を使って助けた」
「そうか、助かるはずはないと思っていたが、ドラゴニュートなら可能だったのか?」
下を見ながら、ぶつくさと呟いていたが、しばらくすると中断した。
「私はゴンド。下に倒れている二人は弟のケインと妹のシンシアだ。代表して、お礼を言わせていただく」
ゴンドと名乗った男性は深々と頭を下げた。
短く刈り上げられた銀髪に、盛り上がった筋肉。人を大勢見たわけではないが、種族の中でも体つきはかなり良い方だと察せられた。
動きの隙も少ないので、武術もそこそこやれるのだろう。もちろん、私には劣ると思うが。いや、多少の技術など、圧倒的な種族差の前には何の意味もないか。
「助けてくれてありがとう。あなたのおかげで命拾いをしました」
「うむ。礼は、このホワイトが確かに受け取った」
なぜか照れくさくなって顔を見ることが出来ない。人を助けると、こういった気持ちになるのか。不思議だが、まぁ、悪くはない。また人を助けても良いと思えるぐらいには、な。
「そろそろ、二人も起きそうだ」
ゴンドと会話から逃げるように話題を変える。
まさか生まれてすぐに、人から逃げる日が来るとは思わなかった。人というのは、意外と侮れないのかも知れない。
「天国にご到着か? 可愛いねーちゃんいねーかな」
「軽薄そうなケイン兄さんの声……天国でも一緒なのは少し複雑、かな」
周囲を見渡しながら、ゆっくりと二人は起き上がった。
ゴンドの姿を見ると、嬉しさが爆発したように抱きつく。
「ゴンド兄さんも無事だったのね!!」
「残念ながらここは天国ではなく、現実だ。そこに居るホワイトさんが我々を助けてくれた」
「お前たちの例はいらない。すでに受け取ったからな」
また先ほどのような気まずい空気になったら困るので、先に釘を刺しておく。
だが、シンシアの気は済まないようで、頭を下げながらしきりに礼を言っていた。
「せっかくなら、可愛いねーちゃんに助けて欲しかったぜ」
肩まで掛かる長い銀髪に、ゴンドやシンシアからは感じられない、性格が軽そうな雰囲気。だがその口調と反して、両手にはショートソードを持っており、警戒しているようだ。
二人を守るように私と対峙する。
「助けてくれたことには礼を言うが、何が目的だ? 個人主義のドラゴニュートが人助けをするなんて聞いたことないぞ」
「ケイン!」
「ケイン兄さんっ!」
「黙っててくれ」
行動を諫めようとしたした二人をケインが止めた。
普通ならここで気分を害してしまうところかもしれないが、先ほどまであまりにも無警戒に礼を言われていたので、このぐらいがちょうど良い。何を言われるのかワクワクしてくる。
「普通では治らないケガを治療。でかいスケルトンもお前が倒したのだろう。何が目的だ?」
私の持っている魔石をめざとく見つけると、そう質問してきた。
目的などない。強いて言えば人助けになるが、にらみ付けてくるケインが納得するとは思えない。だが嘘を言っても仕方がないので事実だけを伝えることにするか。
納得しなくても私が去れば良いだけの話だ。どちらに転んでも問題はない。
「私の主であるシロ様が”困っている人は助けろと”と言われていたので助けただけだ」
「ドラゴニュートの主だと!?」
ケインから動揺を感じる。私に主がいることが、そこまで珍しいことのなのだろうか?
先ほどまで生意気だった口が閉じたままだ。
「ケイン兄さん。しっかりして! シロ様って、もしかして首都を守護しているホワイトドランのことではないかしら?」
「あぁ、なるほど、彼を主と定めているのであれば、あるいはあり得るのか?」
シンシアのフォローに動揺から立ち直る。切り替えの早さは素晴らしい。戦闘を生業にしているのだから、こうでなくてはな。
「死者ですら蘇らせるほど、回復能力に特化しているとのことだ。我々のケガを治すなんて、造作もないことだろう」
「失った足を再生させるなんて、噂以上にすごいのね……」
ふふふ、シロ様の名前は末端の人に知れ渡っているようで、気分が良い。今の私ならなんでも許せてしまいそうだ。
意見を言い合っている三人を眺めながら、悦に浸っていた。
”困っている人がいたら助けてあげなさい”
偉大なる創造主の言葉が脳内に蘇る。
弱く、ズル賢い人種を救う必要は感じない。が、シロ様が守ると決めたのであれば、私が拒否するなどあり得ない。人は年老いて死ぬように、当たり前のことである。
先ずは瀕死の男性二人に近づく。ジャイアントスケルトンは、何らかの魔法を使ったのだろうか、キレイににくり抜いたような穴だ。気絶してて幸運だな。万が一、意識があったらショックで死んでいたかもしれない。少なくとも、痛みに耐えられず、のたうち回って死期を早めていただろう。
「彼の者を癒やせ、ヒーリング」
シロ様に授けていただいた回復の魔法を使う。時間が巻き戻るかのように、ケガが治り、失われた臓器が再生される。普通はここまでの効力はない。ホワイトドラゴンに連なる私だからこそ、何もなかったことにできるのだ。
人よ、何度も言うが、運が良かったな。
魔法が終わると、乱れていた呼吸が落ち着き、血色も良くなった。もうこれで死ぬことはないだろう。臓器が新しくなったのだから、むしろ健康になった可能性もある。うむ。お言葉通り助けたな。
後でご報告する時が楽しみだ。きっと褒めてもらえるだろう!
感情が高ぶり、勝手に尻尾が地面を叩く。
おっと、危うく最後の一人を叩き潰してしまうところだった。私がとどめを刺してしまったら……うん、考えないようにしよう!
気を取り直して両足を失った女性の容態を確認する。
足の切断面は刃物で切り落とされたようだった。ジャイアントスケルトンの剣で両断されたのか……? まぁ、あり得ない話ではないだろう。よく見れば、レザーアーマの胸部が凹み、壊れている。触ると肋骨が折れているようだった。
切られた後に殴りつけられたか。その後に追撃されなかったのは仲間のおかげだな。
人は群れる生き物だからこそ、他者を命がけで守ると、シロ様からは聞いていた。なるほど、一人でも生きていけるドラゴニュートには理解できないが、その通りなのだろう。その結果、私に助けてもらえる時間を稼げたのだから、生き方としては間違ってはいない。
「うっ……」
意識が残っている? いや混濁しているのか。長い銀髪が顔にかかり、わずかに目が開いて金色に輝く瞳が見えるが、焦点が合っていない。
「私が助ける。今は眠るが良い」
「あ……う……」
言葉にならない声を発すると、かろうじて開いていた瞼が完全に降りた。
よし、観察はここまでにしておこう。先ほどの二人より状態は少しだけマシだが、死にかけているのは間違いないからな。
先ほどと同じくヒーリングの魔法を使う。
体の中に眠る記憶を読み取り、砕けた骨は正しくつながり、肉が盛り上がるようにして足が生えてきた。これで彼女も死の淵から生還したことになる。
「早く魔石を持って街に帰りたいところだが……」
意識のない三人を放置したら、魔物の餌食になってしまうのは、流石の私でも分かる。助けたのに見捨ててしまえば後でお叱りを受けてしまうだろう。それは私のプライドが許さない。
仕方がない。時間は惜しいが、しばらく待つことにするか。
◆◆◆
陽が頂点に達した頃に、男性の一人が目を覚ました。
「こ、ここは? 生きているのか?」
「倒れたときと同じ、冥界の森林だ。先ほどの質問だが、生きているぞ。私が助けたからな」
「だ、誰だ!?」
私の声に反応すると、警戒しながら勢いよく立ち上がる。
足下に仲間の二人が横たわっているのに気づくと、殺されかけた記憶が蘇ってきたのか、戸惑うような声を出しながら、こちらを向いた。
「ドラゴニュート……しかも白。珍しい……いや、そんなことより、俺たちは死にかけていたはずだぞ。もしかして、助けてくれたのか?」
「先ほどの言った通りだ。お前たちに回復魔法を使って助けた」
「そうか、助かるはずはないと思っていたが、ドラゴニュートなら可能だったのか?」
下を見ながら、ぶつくさと呟いていたが、しばらくすると中断した。
「私はゴンド。下に倒れている二人は弟のケインと妹のシンシアだ。代表して、お礼を言わせていただく」
ゴンドと名乗った男性は深々と頭を下げた。
短く刈り上げられた銀髪に、盛り上がった筋肉。人を大勢見たわけではないが、種族の中でも体つきはかなり良い方だと察せられた。
動きの隙も少ないので、武術もそこそこやれるのだろう。もちろん、私には劣ると思うが。いや、多少の技術など、圧倒的な種族差の前には何の意味もないか。
「助けてくれてありがとう。あなたのおかげで命拾いをしました」
「うむ。礼は、このホワイトが確かに受け取った」
なぜか照れくさくなって顔を見ることが出来ない。人を助けると、こういった気持ちになるのか。不思議だが、まぁ、悪くはない。また人を助けても良いと思えるぐらいには、な。
「そろそろ、二人も起きそうだ」
ゴンドと会話から逃げるように話題を変える。
まさか生まれてすぐに、人から逃げる日が来るとは思わなかった。人というのは、意外と侮れないのかも知れない。
「天国にご到着か? 可愛いねーちゃんいねーかな」
「軽薄そうなケイン兄さんの声……天国でも一緒なのは少し複雑、かな」
周囲を見渡しながら、ゆっくりと二人は起き上がった。
ゴンドの姿を見ると、嬉しさが爆発したように抱きつく。
「ゴンド兄さんも無事だったのね!!」
「残念ながらここは天国ではなく、現実だ。そこに居るホワイトさんが我々を助けてくれた」
「お前たちの例はいらない。すでに受け取ったからな」
また先ほどのような気まずい空気になったら困るので、先に釘を刺しておく。
だが、シンシアの気は済まないようで、頭を下げながらしきりに礼を言っていた。
「せっかくなら、可愛いねーちゃんに助けて欲しかったぜ」
肩まで掛かる長い銀髪に、ゴンドやシンシアからは感じられない、性格が軽そうな雰囲気。だがその口調と反して、両手にはショートソードを持っており、警戒しているようだ。
二人を守るように私と対峙する。
「助けてくれたことには礼を言うが、何が目的だ? 個人主義のドラゴニュートが人助けをするなんて聞いたことないぞ」
「ケイン!」
「ケイン兄さんっ!」
「黙っててくれ」
行動を諫めようとしたした二人をケインが止めた。
普通ならここで気分を害してしまうところかもしれないが、先ほどまであまりにも無警戒に礼を言われていたので、このぐらいがちょうど良い。何を言われるのかワクワクしてくる。
「普通では治らないケガを治療。でかいスケルトンもお前が倒したのだろう。何が目的だ?」
私の持っている魔石をめざとく見つけると、そう質問してきた。
目的などない。強いて言えば人助けになるが、にらみ付けてくるケインが納得するとは思えない。だが嘘を言っても仕方がないので事実だけを伝えることにするか。
納得しなくても私が去れば良いだけの話だ。どちらに転んでも問題はない。
「私の主であるシロ様が”困っている人は助けろと”と言われていたので助けただけだ」
「ドラゴニュートの主だと!?」
ケインから動揺を感じる。私に主がいることが、そこまで珍しいことのなのだろうか?
先ほどまで生意気だった口が閉じたままだ。
「ケイン兄さん。しっかりして! シロ様って、もしかして首都を守護しているホワイトドランのことではないかしら?」
「あぁ、なるほど、彼を主と定めているのであれば、あるいはあり得るのか?」
シンシアのフォローに動揺から立ち直る。切り替えの早さは素晴らしい。戦闘を生業にしているのだから、こうでなくてはな。
「死者ですら蘇らせるほど、回復能力に特化しているとのことだ。我々のケガを治すなんて、造作もないことだろう」
「失った足を再生させるなんて、噂以上にすごいのね……」
ふふふ、シロ様の名前は末端の人に知れ渡っているようで、気分が良い。今の私ならなんでも許せてしまいそうだ。
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