最強の異能者なら現代日本でハーレムを築いても良いな?

パープルビーンズ

3話 辻斬り1

 虎浦高校は正式名を私立虎浦大学附属高等学校という。
 これは市長が、虎浦市というそこそこ大きな町に住む子供たちが学校に通うのに不便がないようにと設立した学校で、幼稚園、小学校、中学校まで一貫で進学できるようになっている。
 中高一貫とはいえこの虎浦高校に入るには受験は必須だ。
 これは中高一貫校のデメリットである受験を経験しないが故に起きる意識の弛みを防ぐためだという。
 単純に、学力の低い者をふるいにかける意図もあるのだが、そこまで偏差値は高くないので、極端なまでに頭が悪くない限りは落ちることは無い。
 新設ということもあって敷地は広く、校舎も綺麗で大きい。
 特に食堂やテラスはガラス張りになっていたりと、とてもお洒落だ。
 風紀委員の気合も入ってるお蔭で学校全体の雰囲気も柔らかく、実績は少ないものの保護者からの評判はいい。

 そんな虎浦高校の生徒の正也であるが、今は二時限目の英語の授業中にも拘わらず、頭の中は今朝のやり取りの事でいっぱいだった。

(青セン……マジで何モンだよ。何で朱雀が昨晩出たことを知ってる。朝にエゴサーチした時はどこの掲示板にも投稿されてなかったぞ)

 正体は隠すものの割と自己顕示欲の強い正也は自分が活躍した翌日には必ずエゴサーチをしていた。
 虎浦市には正也扮する朱雀のファンクラブや専用の掲示板(アンチ含む)が存在する。
 何なら正也も掲示板に「朱雀っていい奴だよな」などと書込んだりもしている。
 時々アンチに対して噛み付き、「こいつ朱雀じゃね?」と看破されたりもする。
 しかし朝、学校の準備に追われながらもエゴサーチした結果、昨晩の事はまだ知れ渡っていないようだった。
 何故、青島教諭は知っているのか。
 悪意を持ってるとは考えにくいが、とはいえ簡単に正体をバラすには得体のしれない男だ。

(当分は様子見か……なーんか、もうバレてる気もするが)

 一先ず青島順一の件に関しては思考をやめた正也は、気だるげに板書をノートに写す作業を再開した。
 正也の成績は体育以外、かなり微妙なラインである。

 突然だが、居眠りは成績に響くからと開発した秘技「意識飛ばし」は、目を開けたまま脳ミソの機能を半分ほど停止させる――つまり、睡眠をとる高難度の技だ。
 これを正也は授業中、特にヒーロー活動に勤しんだ翌日によくやっている。
 今日も英語の板書を書き終えた正也は早速「意識飛ばし」を発動した。
 結局、耐えられたのはそこまでで、以降の授業は最初から「意識飛ばし」でやり過ごした一日だった。
 そのため昼飯以外の記憶は曖昧である。
 この「意識飛ばし」が自身のアビリティに起因するものなのか、それは正也にも分からなかった。

「おい、四堂。もうホームルーム終わったぞ」

「……ハッ」

 クラスの友人に声を掛けられ、正也は再起動した。
 見れば、周りではクラスの何人かが机と椅子を教室の後方に寄せていた。
 放課後の掃除である。
 今週は正也の班が教室掃除の当番であった。
 正也はこれから部活があるその友人に「頑張れよ」と声援を送り、自身も掃除をするべく立ち上がった。
 正也の席は窓側から二列目の一番後ろの席だったため、その列は見事に放置されていた。
 他にも未処理の列はあったが、この列が放置されているのは間違いなく正也が居座っていたからである。
 正也は列の一番前の机を掴み、五セットの机と椅子を一気に押し出した。
 それを見た他の班員が「相変わらずゴリラみたいだな」と茶化すが、それに対して正也は「ゴリラは心優しい生き物だからな。俺とそっくりだ」と冗談めかして返す。
 アビリティを使わずとも馬鹿力な正也の手によって掃除は急ピッチで完了した。

 掃除を終えた正也が向かうのは、部室である。
 正也は【英雄実践部】というボランティア系の部活の部長だ。
 略称は英実。校内では有名である。
 といっても、英実は正式な部活ではない。
 部長会議などに出席できる権利は無く、部費も学校からは出ない、完全に非公式な部活だった。
 理由は、部員が二人しかいないからだ。
 一人は部長である正也。
 そしてもう一人。

「おいーっす。来たぞー」

「おいっす! 掃除終わるの早かったんだね」

 明るい性格が透けて見える元気な言葉で正也を迎えるこの少女、鬼崎 蛍きざき ほたるが英実の片割れ、現時点で唯一の一般部員だった。
 正也と同じ二組の生徒で、子犬のような裏表のない可愛らしさから男女問わず人気がある、変わり者としての側面が強い正也とはまた違った意味で有名人だ。
 恵まれた容姿と肩に掛かるくらいのツインテールがよく似合う美少女だが、その性格の良さから同性に敵を作ることもない。もっとも、勝手に嫉妬している連中も一定数存在するのだが。
 教室では各々の友人と会話することの多い二人も、この部室に入れば気の知れた友人として接する。
 何せ二人きりなのだ。お互い明るい性格であるのも手伝って、常に会話は絶えない。

「俺の手に掛かれば、んなもん一瞬で片付くぜ」

「さっすがー。虎浦の朱雀は頼りになるねー」

 にこにことそんな事を言う蛍だが、彼女は正也が朱雀であると知っているたった一人の人物でもある。
 そもそも鬼崎蛍と出会ったとき、彼は朱雀だったのだ。
 彼らの出会いは今から大体一年前で、奇妙な―――というか少々馬鹿げたドラマがあったのだが、それはまた追々語られる話である。

「そういうお前は虎浦の透明人間だけどな」

「ぶー。その呼び名は好きじゃないなー」

 唇を尖らせて不満を漏らす蛍。
 彼女も正也の「朱雀」と同じように、虎浦市内で噂になっている存在だった。

「いいじゃねえか。都市伝説っぽい、ミステリアスな感じがイカしてると思うぞ」

「でも、正也くんの朱雀に比べたらだいぶしょぼいよ。あーあ。私もカッコいい呼び名が欲しいなぁ」

 窓際に設置されている私物入れのロッカーの上に座って足をプラプラさせる。
 確かに、朱雀は中国の神獣から来ている名前で、ゲームなどでも散見される著名で恰好のいいイメージが強い。
 正也はふーむと唸り、腕を組んだ。

「だったら、今日の活動はお前の新しい呼び名を決める、にしないか?」

「えっ、良いの!?」

「透明人間が朱雀と一緒に行動することもある、って投稿は既にある。だったら、朱雀の相方として相応しい呼び名があった方が、お互いの為になるんじゃないか?」

 正論のようで根拠も何もない提案だが、蛍はそれに「いぇーい! やたー!」と手を上げて喜んだ。
 もしこの場に誰かいたら、あまりの超理論の多用に頭を痛めることだろう。
 何せ二人が喋る時、多くの場合は頭の中を空っぽにしている。
 脊髄と声帯が直結してるような会話を聞いて、内容を理解するには同じく空っぽの頭か、逆に高いIQを要するのだ。
 頭空っぽの方が夢詰め込めるとも言うし、決して悪い事だけではない……筈だ。

 そんな二人のもとに、ある人物が訪ねてきた。

「あ、あの~」


「はい私の勝ち~!」

「あぁぁあああああ! お前それ入れてたのかよ! 知らなかったぞ!」

「ふふーん。昨日当てたばっかだもんね~」

「そんなん知るわけねえし……くそぉ……」


「え、あ、あの~」


「もう一回だ! 次はこっちのデッキを使う」

「だったら私はこれ~」


「あ、あれ……?」

 自身の入室に気付かないまま床にクッションマットを敷いてTCG(トレーディングカードゲーム)に興じる英実の二人に、「部屋間違えたかな」と訪問者は困惑した。
 ドアに『英雄実践部』と雑な文字で書いた紙が貼ってあるのをを見て、やはりここで間違いないことを確認する。
 そして今度は姦しい二人の会話にかき消されないよう、もっと声を張り上げて言った。

「あ、あの!」

「んえ? あ、もしかして依頼か!?」

「えっ、依頼!?」

「え、あ、ぁう……」

 今度はすごい勢いで食い付く正也と蛍に来訪者は委縮してしまった。
 正直逃げ出したい気分にもなったが、それで困るのは自分であるということを思いだし、何とか踏み止まって本題を切り出した。

「そ、そうです。依頼、しにきました」

 ***

 英実の部室は元は柔道部の男子更衣室であった。
 だが数年前、柔道部の部員数の増加に対応してより広い専用の更衣室が作られ、ここは開かずの間状態となっていた。
 去年になって正也と蛍が目をつけ、以降は不当占拠ではあるが教師陣からも黙認される形で利用を続けていた。
 広さは六畳ほど。あるのは数人分の小物を入れるための小さなロッカーだけだ。
 蛍が持ち込んだ緑色のクッションマットを床に敷いているため、土足は厳禁である。

「さあ座って座って。狭いけど、そこは勘弁してね。私たち非公式の部活だから」

「あ、はい。失礼します……」

 上靴を脱いでおずおずとマットに足を踏み入れる女生徒。
 これといった特徴もない、しいて言うなれば見た目からして大人しそうな長い黒髪の少女が、今回の英実の依頼人であった。
 ちなみに、蛍の呼び名決めは五分で終わった。原因は、単純に二人が飽きたからである。

「えと、十三組の吉河 美鈴よしかわ みれいです」

「私は二十二組の鬼崎 蛍。で、こっちが」

「四堂正也。こいつと同じ二十二組だ。よろしくな」

「は、はい。よろしくお願いします」

 ぎこちなく挨拶をする吉河美鈴。
 十三組とは一年の三組と言う意味で、正也たちの一個下、つまり後輩である。
 先輩相手に緊張するのも無理はないが、どうもこの美鈴は元来引っ込み思案な性格のようだった。
 それでもここにきたのは、余程の一大事なのか。
 ともあれ勇気を振り絞って一人でここまで来たのだと察した正也と蛍は目配せし、なるべく優しい態度で話を聞き始めた。

「それで、今日はどんな依頼なのかな? お姉さんに話してごらん?」

「お姉さんて柄じゃないだろ……はい黙ってまーす」

 無言の威圧を受け素直に黙る正也。
 蛍に促された美鈴は「実は……」と依頼の内容を話し出した。

「き、昨日、見ちゃったんです。学校の帰り道で、わ、わたし吹奏楽部に入ってるんですけど、部活で昨日は帰るのが少し遅くなったんです。夜の、七時くらいに虎鉄橋を歩いていたら、前を歩いてた男の人が……」

 そこまで言って美鈴は顔を青ざめさせた。
 一体、何を見たのか。
 正也と蛍の間に緊張が走る。

「男の人が……?」

「……斬られたんです。刀か何かで、前からきた黒いマスクをした人に……!」

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