プリンセス・シールド
将軍の決断
これは面白くなってきた。愛をこの場に居合わせないようにするのは失敗したが、これはこれで良かったようだ。
さて、将軍はどう返すのか? 武士団の先頭にある東条将軍は、クラリスなる女性騎士を見据え、堂々と構えているが……。
クラリスの言の裏側に気づいているのか? 釈明次第で報復措置を取るということは、逆も然り、ということでもある。うまく言い訳をしてくれれば、戦わなくて済むと、クラリスは言っているのだ。愛の先制攻撃により、すでに実害が発生しているにも関わらず、大変寛大な対応だと言えるだろう。
クラリスが怒り心頭というポーズをとっているのは、アヴァロンの面子にも配慮しての事だ。これはクラリス自身の判断か? それとも、あの船には他にこのような交渉に長けた人物がいるのか? どちらでも、私にとってはただ楽しみな事である。
「わしは倭の国征夷大将軍、東条英忠である! 王族専属護衛騎士団プリンセス・シールド団長、クラリス・ベルリオーズにお応えする!」
東条将軍の大音声が、クラリスが支配した空気を解き放った。アヴァロン人より比較的背の低い倭人にあって、ひと際巨躯の目立つ将軍だ。その立派な緋色縅の甲冑と相まって、並の者ならこの一声で平伏してしまう威厳がある。
「使者を送ったと言われたが、我が方が承知した覚えはない! 手紙は受け取ったが門前払いし、返答も致しておらぬ! 確かに本日訪問すると書いてあったのは記憶しておるが、だが、しかし!」
将軍はいまだ空で船底から黒煙を噴いている飛空船を指差した。
「我が領内にここまで侵入されては黙っておれぬ! 礼を尽くすと言われるならば、まずは領外にて停船し、改めて訪問の旨を告げるべきであろう! これは寝ている人を踏みつけて寝所に上がり込むに等しい所業ぞ! しかもその無礼者は、上からいつでも爆弾を雨あられと降らせるが可能であると知っておる! これに自衛力を振るわぬ馬鹿がどこにおる? 従って、我が方に落ち度は一切無いと言い切れる! この理や如何に!」
将軍はまるで決まり切った演説であるかのように、淀み無く滔々と語った。
ほう、これはうまい。確かに、いきなり自国の街中までこのような巨大兵器を乗り入れられては脅威に過ぎる。まあ、だからと言って呼びかけもせず攻撃するのはいただけないが……さて、クラリスはどう出るか?
「なるほど。それは確かに非礼であったかも知れん。だが、事前にこれは親善交渉の為の訪問だ、と伝えているはずだ。一方的であったにせよ、そこは分かっていたのではないのか?」
クラリスは、その紅い隻眼で将軍を睨めつけた。凄い圧だ。これに怯まない者はなかなかいまい。
「分かっていたとも。それが、我らを油断させる計略であるやも知れぬ、という事も。奇襲の常套手段であるからな」
そのクラリスの視線すら、将軍は鼻で笑って受け流す。やはり大した胆力だ。
「それは、アヴァロンに信無し、と。そう言っているのだな?」
クラリスは左腰に提げていた剣の柄に手をかけた。いい流れだ。この問いを受け損なえば即開戦。しかし、戦力差は歴然だ。さあ、どうする将軍?
「ふはははは。アヴァロンに信を置ける理由などなかろう。我らには、疎まれ虐げられ攻められた覚えしか無いのだからな!」
将軍はクラリスを完全に馬鹿にした。いや、アヴァロン全てを否定した。なんと愚かな選択なのか。しかし、これが倭の魂だ。不撓不屈の精神だ。例え一歩先に死があろうと、誇りを守る為には絶対に退かない。それが侍たちの美学なのだ。
「よくぞ言った!」
クラリスが剣を抜き放った。逆立つ夕陽色の髪と両刃の直剣が、夏の陽光をぎらりと弾く。
「……無念。すまぬ、民たちよ」
将軍は瞑目し、ひと言小さく呟いた。その後、
「総員、抜刀!」
刀を抜いて天にかざすと、武士団にそう言い渡した。
さて、将軍はどう返すのか? 武士団の先頭にある東条将軍は、クラリスなる女性騎士を見据え、堂々と構えているが……。
クラリスの言の裏側に気づいているのか? 釈明次第で報復措置を取るということは、逆も然り、ということでもある。うまく言い訳をしてくれれば、戦わなくて済むと、クラリスは言っているのだ。愛の先制攻撃により、すでに実害が発生しているにも関わらず、大変寛大な対応だと言えるだろう。
クラリスが怒り心頭というポーズをとっているのは、アヴァロンの面子にも配慮しての事だ。これはクラリス自身の判断か? それとも、あの船には他にこのような交渉に長けた人物がいるのか? どちらでも、私にとってはただ楽しみな事である。
「わしは倭の国征夷大将軍、東条英忠である! 王族専属護衛騎士団プリンセス・シールド団長、クラリス・ベルリオーズにお応えする!」
東条将軍の大音声が、クラリスが支配した空気を解き放った。アヴァロン人より比較的背の低い倭人にあって、ひと際巨躯の目立つ将軍だ。その立派な緋色縅の甲冑と相まって、並の者ならこの一声で平伏してしまう威厳がある。
「使者を送ったと言われたが、我が方が承知した覚えはない! 手紙は受け取ったが門前払いし、返答も致しておらぬ! 確かに本日訪問すると書いてあったのは記憶しておるが、だが、しかし!」
将軍はいまだ空で船底から黒煙を噴いている飛空船を指差した。
「我が領内にここまで侵入されては黙っておれぬ! 礼を尽くすと言われるならば、まずは領外にて停船し、改めて訪問の旨を告げるべきであろう! これは寝ている人を踏みつけて寝所に上がり込むに等しい所業ぞ! しかもその無礼者は、上からいつでも爆弾を雨あられと降らせるが可能であると知っておる! これに自衛力を振るわぬ馬鹿がどこにおる? 従って、我が方に落ち度は一切無いと言い切れる! この理や如何に!」
将軍はまるで決まり切った演説であるかのように、淀み無く滔々と語った。
ほう、これはうまい。確かに、いきなり自国の街中までこのような巨大兵器を乗り入れられては脅威に過ぎる。まあ、だからと言って呼びかけもせず攻撃するのはいただけないが……さて、クラリスはどう出るか?
「なるほど。それは確かに非礼であったかも知れん。だが、事前にこれは親善交渉の為の訪問だ、と伝えているはずだ。一方的であったにせよ、そこは分かっていたのではないのか?」
クラリスは、その紅い隻眼で将軍を睨めつけた。凄い圧だ。これに怯まない者はなかなかいまい。
「分かっていたとも。それが、我らを油断させる計略であるやも知れぬ、という事も。奇襲の常套手段であるからな」
そのクラリスの視線すら、将軍は鼻で笑って受け流す。やはり大した胆力だ。
「それは、アヴァロンに信無し、と。そう言っているのだな?」
クラリスは左腰に提げていた剣の柄に手をかけた。いい流れだ。この問いを受け損なえば即開戦。しかし、戦力差は歴然だ。さあ、どうする将軍?
「ふはははは。アヴァロンに信を置ける理由などなかろう。我らには、疎まれ虐げられ攻められた覚えしか無いのだからな!」
将軍はクラリスを完全に馬鹿にした。いや、アヴァロン全てを否定した。なんと愚かな選択なのか。しかし、これが倭の魂だ。不撓不屈の精神だ。例え一歩先に死があろうと、誇りを守る為には絶対に退かない。それが侍たちの美学なのだ。
「よくぞ言った!」
クラリスが剣を抜き放った。逆立つ夕陽色の髪と両刃の直剣が、夏の陽光をぎらりと弾く。
「……無念。すまぬ、民たちよ」
将軍は瞑目し、ひと言小さく呟いた。その後、
「総員、抜刀!」
刀を抜いて天にかざすと、武士団にそう言い渡した。
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