アリス ー黒の旅ー

黒の旅ー人喰いの家 1章ー

扉は簡単に開けられた。鍵はかかっていなかったものの錆びているようで中々開かなかった。剣で扉をこじ開け中に入る。その瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。それで分かった。……この家、「何か」ある、と。その「何か」は分からないが何かがあることだけは確信があった。早めに出た方が良さそうだ。回れ右をして扉に向かう。だが何故か扉は綺麗に直っていてガッチリと鍵がかけられたように開かない。剣を振りかざす。ガキィィン、金属音が響く。手にジンジンとした痛みがはしる。どうやらこんな剣では開けられないらしい。しょうがなく家の中を散策する。1番近くにある部屋に入る。リビングだろうか。大きなテーブルが置かれていて椅子もそれに合わせるように4つ、置かれている。枯れかけた観葉植物に破れかけたカーテン。皮がボロボロに破けたソファ。電気をつける。どうやら電球が切れているようだ。数回、チカチカと点滅して消えた。何か出そうな雰囲気だ。でもここには特に何も無いようだ。そのままキッチンに向かう。キッチンは意外と綺麗に整えられていた。シンクはピカピカだった。蛇口を捻る。水は出ないようだ。ガスコンロも綺麗で油汚れは見えない。食器棚にはたくさんの食器が並んでいた。何故か食器はひび割れていたり、蜘蛛の巣が張っていたり、汚かった。まるで見た目だけ綺麗で中身は汚い人間のようだと思った。しばらくキッチンを歩き回り、興味深いものを見つけた。小瓶に入ったカラフルなトゲトゲのもの。お菓子だろうか。コルクの蓋がされていてタグが付いていた。読んでみるとこう書かれていた。
       ーコンペイトウ   外国のお菓子ー
なるほど。これはコンペイトウと言うのか。こんなに可愛らしいお菓子を作る国があるなんて。美味しそうだな。タグをよく見ると裏にも何か書いてあるようだった。
       ーこれを1粒食べれば世界は縮むー
  ーこれをもう1粒食べれば世界は広がるー
どういうことだろうか。世界が縮む?世界が広がる?意味がわからない。でも一応貰っておこう。コンペイトウの入った瓶をエプロンのポケットにしまう。他にもないかと探したが気になるものはなかった。次の部屋へ向かう。ここは、寝室?シングルベッドが1つ置いてある。その枕元に小さな電気スタンド。そして目覚まし時計。その横にはいい匂いのするアロマポットが置いてある。布団は時計や兎、リボンの絵柄の可愛い布団だ。枕カバーも布団とお揃いの柄だ。恐らく女の子の部屋だろう。カーテンは白と黒のタテ縞模様だ。ベッドの逆側の壁にはドレッサーが置かれている。白の可愛いらしいドレッサーだ。ドレッサーの鏡の前に座って自分の顔を見る。ゾッとするほど疲れた顔をしていた。真っ赤に染まった自分の顔。後で洗おうと心に決める。流石にこれでは本当に人殺しだ。引き出しを開ける。中には香水が入っていた。可愛い形の瓶にピンク色の液体が入っている。裏にはシールが貼ってある。目を凝らして見ると、
        ーこれを一吹きすれば誰もが虜ー
そんなにいい匂いなのか。良い機会が来たら使おうと、コンペイトウの瓶が入ったポケットとは逆のポケットにしまう。立ち上がり今度はドレッサーの近くのクローゼットへ向かう。中を開ける。服が何着か入っていた。その中から新しい服を貰おうと探す。見つけたのが白いブラウスに水色のワンピース。ブラウスは真っ白で黒いリボンのネクタイがセットになっているようだった。水色のワンピースは胸元が四角く大きくあいていてこのブラウスと合わせれば丁度良さそうだった。ブラウスを着て、上からワンピースを着る。スカートの下がスースーする。何かないかと探すといい感じのスパッツがあった。サイズもピッタリで丈も丁度いい。そしてもう1つ、白いフリルのエプロン。これを付けておけば血が付いても大丈夫だろう。足の血を隠すものも探す。これまた丁度いいものがあった。ニーハイソックスだ。白と水色のヨコシマ模様。今の服にピッタリだ。服が掛かっている場所の下の引き出しも見る。靴が入っていた。歩きやすそうなぺったんこの靴。黒いエナメルで足首の所にベルトが付いている。それもサイズはピッタリだった。同じくらいの歳の子がここに住んでいたのだろう。そしてもう1つ便利なものがあった。カバンだ。大きめの布のカバンで、肩にかけられるようになっている。白いカバンの中心に大きな赤いハートが飾られていた。まるでラブレターのようなデザイン。その中にコンペイトウと香水をハンカチに包んで入れる。これで荷物が増えても大丈夫そうだ。引き出しを元に戻し、再び立ち上がる。ここにはもう何も無いようだ。




                  ー次の部屋へ進もう。ー

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