アリス ー黒の旅ー

黒の旅 ー出発の時ー

           不思議な世界に行ったなら
             まずは猫を探しましょう
          ピンクと白のイジワル猫さん
            イジワル猫を〇〇したら
             次の目的地が分かるはず
                   邪魔する植物は
               〇〇して進みましょう
                 ほらね 意外と簡単さ


   本の続きを読み終わり、どれくらい経っただろうか。辺りは段々と夕暮れ時に向かっていた。そろそろ家に戻ろうと立ち上がり、家に向かう。季節は春の終わり。そこまで寒くはないが、やはり夕暮れ時は肌寒い。早く家に向かって夕食の準備をしよう。昼の遅れを取り戻さなくては。急ぎ足で家に戻る。それにしてもいつもこんなに静かだっただろうか。いつもの夕暮れ時は、五月蝿いくらいカラスが泣き喚き、木々もザワザワしているというのに…今日は何の音も聞こえない。本に夢中になりすぎていたのか聴こえないが、いつもこの位の時間になるとお姉ちゃんのピアノの音が聴こえてくる時間だ。お姉ちゃんと違って器用な方ではない。そのため、以前ピアノをやってみた時も散々だったのだ。お姉ちゃんは飲み込みが早く、すぐ弾けるようになっていた。その器用さが羨ましい。だがその分、勉強はお姉ちゃんより出来る。とはいえ、あまり勉強する必要も無いのでお姉ちゃんの特技の方がいいと思うのだが。……それにしても本当に何の音も聞こえない。この世界に、1人になってしまったようだ。そんな不安が頭を埋め尽くす。
不安を抱えながらさっきよりも急ぎ足で、否、走って家に戻る。勢いよく扉を開け、中を見る。……誰も、いない?
「お母さん…?お姉ちゃん…?ノア…?」
呼びかけても返事はない。
「お母さん…!!お姉ちゃん…!!ノア…!!」
さっきより大きい声で呼びかける。返事が返ってくる様子はない。急いでキッチンに行くが、夕食の準備すらもされていなかった。まるで最初から誰もいなかったように。部屋中を見渡す。誰もいる気配がない。他に変わったことはないかとよく見てみる。1つだけ、おかしな部分があった。リビングの壁に掛けられている鏡だ。いつもは普通なのに、今日は何故か光が当たっている。そばに行くとその考えが間違っていたことに気づいた。光が当たっていたのでは無く、鏡自体が光を放っていたのだ。
虹色に光輝いている。そばに行き中を見るが自分の顔が映っているだけだった。思わず鏡に触れた。すると鏡が赤黒く染まった。その色は…まるで血のような、赤だった。それは一瞬の出来事だったが、その色が脳裏に焼き付いていた。だが鏡を見て、ハッとした。目の前の景色が全く違うのだ。鏡の中には自分の顔ではなく、森が映っていた。見たことの無い森。この森よりも、もっと深く、もっと暗い。そして何より、光っているものがある。道しるべだと言わんばかりに綺麗に森の奥へと続いている。その先の景色が気になってもう一度鏡に触れる。そこに鏡の冷たく、硬い感触はなかった。まるで空気に触れたかのようにすり抜けた。まさか、あの世界へ行けるのか…?そんなことあるわけがないと思いながらもお母さん達はこの世界に入ったのかもしれないと思い、手をさらに奥へと伸ばす。






アリスは身を乗り出し鏡の中に入っていった。次の瞬間、鏡はもう一度虹色に光り、もとの鏡に戻った。



              ーアリスの黒い旅の始まりー

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