霊視探偵ミエル

星河

学校の怪談?中

 あの事件から三日が経った月曜日、大地と合流し、学校へ向かっている。
「じゃあおじさんは何らかの方法でその女の子を調べるのか?」
「そういう事らしい。父さんは色んな方面にコネ持ってるからな」
 そんな会話をしながら学校に到着した。
「じゃあまたな」
「うん」
 教室の前で大地と別れ、教室に入った。




 チャイムが鳴り、ホームルームが始まった。
 担任の薄川が入ってきた。
 「えー、皆、先週の金曜日学校で二人の生徒、一人の先生が倒れた。原因は分からない。だが倒れた人の為にも皆には一生懸命勉強してもらいたい。じゃあ出席とるぞ」
 薄川が出席を取り始めた。
 渡辺さんは秩父病院だけど他の二人も秩父病院なのかな。


 ホームルームが終わり、一時間目の授業、数学の準備をして僕は座って待っている。
 西田が倒れたって事は副担任の桜井が来るのか?


 案の定桜井だった。
 「西田先生が倒れた為今日は私が授業をします。じゃあ教科書二十ページ開いてください」
 教科書を開き、目をやると簡単な問題ばかりだった。やはり今日も寝よう。






 僕は一度も起こされる事なく数学の授業を終えた。
 チャイムの音で目覚めた僕は非常に目覚めが良く、次の授業は眠らずに済みそうだ。
 次の授業何だっけ? 立ち上がり、教室の前に貼ってある時間割を見て、国語だという事が分かった。
 石沢の授業か。まぁ石沢はいい人だし真面目に受けるか。
 席に戻ろうとしたその時――
 ジリリリリリリリリリリ
 何の音だ? 学校中に響いている。すると放送があった。
 『只今、火災報知器が鳴りました。生徒は速やかに校庭に出て下さい。学級委員長の指示に従い、速やかに校庭に出て下さい』
 どっかで火事でも起きたんか? このクラスの学級委員長は中本だ。
 「皆! 早く外に出て!」
 だが危機感がない生徒たちはのっそりと歩いて校庭へ向かう。まぁ僕もその一人だが。




 全校生徒が校庭に出たところで教頭が皆の前に出た。
 「先程火災報知器が煙を感知しました。場所は体育館です。消防、警察には既に届け出てあります。体育館には当時誰もいませんでした。幸い火は確認されていませんのでご安心ください。今日は皆さんお帰り下さい。今日中に明日以降の連絡をしますので家で待機していてください。以上です」
 体育館か――。偶然じゃないな。
 教室に一旦戻って荷物を持って下駄箱で大地を待った。
 それから間もなくして大地が来た。
「お待たせ」
「おう」
 帰り道で体育館の幽霊について話をした。
「じゃあ火災報知器も奴の仕業って事か?」
「断言はできないけど多分そうだろう。だとしたら何の為にやったかだ」
「だよなぁ。火災報知器が鳴った時誰も体育館にはいなかったんだろ?」
「教頭の話ではな」
「誰かいたっていうのか?」
「恐らくな。学校が隠したがる何かがあるんだろう。ピンキーの出番だな」
「何させるんだ?」
「当時の体育館の様子を見る」
「そんな事できるのか?」
「過去を探るのは疲れるからやりたくないらしいんだけどな」
「あのピンキーだ、絶対に協力してくれないだろ」
「まぁ――釣るしかないな」
「何で?」
「ネズミ」
「あぁ。大好物だもんな」
「じゃあ何か分かったらすぐに連絡するから」
「分かった。じゃあな」
「おう」
 寺の前で大地と別れ、家に入った。
「ただいまー」
「おかえり。早かったな。どうしたんだ?」
「学校でボヤ騒ぎがあってね。でもそれが体育館でね」
「例の奴か」
「多分ね」
 そして詳しい話を父さんにした。
 「そうか――。確かに誰かいた可能性が高いな」
 父さんが顎を触りながら言った。
「でしょ?」
「ピンキー呼んでもらえるか?」
「分かった」
 僕は心の中でピンキーを呼んだ。
 「何なんだよ。寝てたのに」
 ピンキーがファサファサゆったりと飛びながら来た。
「悪いな。ちょっとやってもらいたい事があって」
「何か嫌な予感」
「体育館の一時間前の様子が知りたいんだ」
「そんな事だろうと思ったよ――やだね!」
「ピンキー頼むよー。活きが良いモルモット買うからさ」
「ホントか――?」
 ちょろいな。
「本当だよ」
「ちょろいって聞こえたぞ」
「え、気のせいだろ……」
 やばいやばい。ピンキーとは心が繫がってるから心の壁を使わないと心をお互いに読まれちゃうんだ。
「本当に活きの良いモルモットくれるんだろうな?」
「本当だよ。父さんが買ってくれる」
「え? 俺!?」
「まぁどっちでも良いけど。分かったよ。やれば良いんだろ。何が知りたいんだ?」
「体育館に火災報知器が鳴った時体育館、物置に誰かいなかったか見てほしい。その他何か気づいた事があれば言えよ?」
「分かってるよ!。じゃあ始めるから待ってろ」
「分かった」
 するとピンキーは目を閉じ、青い光を体中にまとわせ、羽ばたいていないのに空中に浮かんでいる。
 「父さん、モルモット代頼むよ」
 僕がボソッと言うと父さんは苦笑いをした。
「お前もお寺の手伝いしてて金持ってるだろ」
「まぁあるっちゃあるけど実験用マウスっていくらくらいするの?」
「分からないけど普通のマウスが三千円位だからプラス千円から二千円じゃないか?」
「その位なら僕でも払えるや」
 父さんとの会話が終わり、ピンキーを見てみると目が開いていた。しかし、黒目はなく、真っ青になっていた。





 暫くしてピンキーが徐々に元の状態に戻ってきた。
 「ふぅ。疲れた――見たぞ」
 ピンキーが大粒の汗をかきながら言った。
「どうだった?」
「確かに人はいた。だが学校の生徒じゃないな。あれは――大学生くらいの女だった」
「何でそんな人がいるんだ? それに何でそんな見ず知らずの人なのに学校は隠すんだ?」
「いや、隠しているわけじゃない。学校側が体育館に来る前にその女は逃げた」
「そういう事か。他に何か分かった事ないか?」
「女は多分例の奴が憎んでいる女だろう」
「何で分かるんだ?」
「俺様の勘だ」
「勘かい――」
「どんな女だったか投影出来るか?」
「有志の頭に入れればいいんだな」
「あぁ」
 するとすぐに僕の頭にピンキーが見た大学生風の女が見えた。
 髪は長く、茶髪だ。鼻筋が整っており、いわゆる美形だ。
「何でこの人が例の奴が憎んでるって思った――勘が騒いだんだ?」
「勘は勘だよ」
「そうかい」
「じゃあ活きの良いモルモット頼むぞ。出来ればアダルトが良いな」
「アダルト?」
「大人のネズミって事だよ」
「あぁ。分かったよ。今日中に注文しておくよ」
「頼むぞ」
 逃げた女がどこの誰か分かれば解決に一歩近づけるんだけどな。
「父さん、この近くに大学か専門学校ある?」
「んー、キャンパスはないけど演習林があるな」
「演習林?」
「まぁ簡単に言うとでかい森で自然の勉強をするところだ」
「ほぉ。それは何大学?」
「東大だ」
「って事は東大生の可能性が高いのか――」
「ピンキー俺にも逃げた女性の姿を見せてくれるか?」
「何だよ、庄司までもかよ。分かったよ」
「――なるほど。この子が東大生だとするとこの近くにいる期間は短いな」
「何で?」
「演習林は一時的な勉強場だからだ」
「そういう事ね。じゃあ早く見つけないと。僕大地と演習林行ってくる」
「待て待て、演習林は五個あるんだ。一つ一つ回るのは骨が折れる。俺の式神を使え」
「分かった。ありがとう」
「お前と大地は東大演習林を見に行け。俺の式神には他の演習林周らせる」
「分かった。行ってくる。ピンキー、行くぞ」
「はぁ!? 何で俺様が」
「良いから来い! お前は俺の使い魔なんだから!」
「分かったよ――」
 僕は走って大地の家まで行った。




 ピーンポーン。
『はい』
「おばさん、こんにちは。大地いますか?」
『あら、有志、ちょっと待ってね』
「はい」
 少し待つと大地が玄関から出てきた。
「どうしたんだ?」
「体育館に誰がいたか分かった」
「マジか!? 誰だ?」
「あ、いや、分かったっていうか女がいた。東大生の可能性が高いからこの近くにある東大演習林に行くから大地も一緒に来てくれ」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
「おう」
 大地は家の中に入ってった。
 ピンキーはダルそうに僕の上を飛んでいる。



 「お待たせ。行くか」
 大地が小さなリュックを背負って来た。
「ピンキー、大地にもあの女の姿見せてやってくれ」
「妖精使いが荒いな!」
「良いから!」
「分かったよ!」
 少しして大地がピンキーから映像を受け取ったらしい。
「この女を探せばいいんだな」
「あぁ。とにかく時間がない」
「何で?」
「父さんが言ってた、演習林は一時的に勉強する場所だから時間がないって」
「そうか――。その演習林はどこにあるんだ?」
「日野田町。さっきスマホで調べた」
「じゃあ走っていった方が早いな」
「五キロ位だからな」
 僕たちは走って東大演習林に向かった。
 僕も大地も体力はあり、足も速い方なので十五分程で着くと思う。
 ピンキーは少し後ろから着いてきている。








 日野田町に着いた。
「演習林ってどの辺にあるんだ?」
「税務署の近く」
「よし、急ごう」
 税務署はすぐそこだ。演習林は税務署から徒歩一分位だ。
 少し走って税務署の前に着いた。そこから北に少し歩いて東大演習林に着いた。
「そもそも俺ら入れんのか?」
「いや、立ち入り禁止だ」
「どうすんだよ」
「忍び込む」
「無理あるだろ」
「ピンキーに任せれば大丈夫だ。ピンキー、僕たちの姿を他人には見えないようにしてくれ」
「毎度毎度変なお願いばっかだなー。やれば良いんだろやれば」
 ピンキーが小さな指をパチンと鳴らすと僕たちの姿が消え――てない。
「消えてないけど?」
「他人には見えないようにって言ったろ」
「あぁ。他の人には見えないんだな?」
「あぁ」
「分かった。ピンキーも女を見つけたら言えよ」
「分かってるよ。俺は上空から探す。お前らは下を探せ」
「分かってるよ。大地行こう」
 演習林の敷地に忍び込み、ピンキーは上空から、僕たちは下から女を探し始めた。







 しかし建物内をいくら探しても見つからない。
「ここにはいないのかな」
「他にのところかもな。父さんが式神を使って探してくれてるけど」
「じゃあ連絡を待つか」
「そうだね」
 すると、
 「おい、見つけたぞ。A棟だ」
 ピンキーから連絡があった。
「ピンキーが見つけたらしい。A棟だ」
「よし、行こう」
 僕たちは走ってピンキーのいるA棟に向かった。
 「ここだ!」
 でかでかと書かれている『A棟』の前に着いた。
 するとピンキーが空から降りてきた。
「ここの二階にいる」
「よくやったピンキー!」
「そうだろそうだろ、もっとあがめ――おい!」
 ピンキーの言葉を最後まで聞く前に僕たちは建物の中に入った。
 階段を探し、二階に上って一つ一つ部屋を見て回った。
 そして三部屋目を見た時、いた。
「いたぞ大地」
「確かにあの女だな。ピンキー、姿を元に戻してくれ」
「俺は主人のいう事しか聞かないの」
「はいはい。有志」
「ったく面倒だな。元に戻してくれ」
「あいよ」
 ピンキーが指を鳴らし、僕たちは元に戻った。
 そして部屋に入った。
 「誰? 見た事ない顔だけど」
 女が僕たちに気づき、話しかけてきた。
「僕たちは秩父高校の者です。実はあなたに話があってまいりました」
「秩父高校の? でもどうやって入ったの? 守衛がいるはずだけど」
「それはまぁ良いとして、あなた今日秩父高校の体育館にいましたよね?」
「!? 何でそれを?」
「分かってもらえないかもしれませんが僕には特殊な力があります。それを使って調べました」
「調べたのは俺様だけどな」
「お前は黙ってろ」
「?」
 女はピンキーが見えないので僕が何もない空中に話しかけた事に首を傾げていた。
「とにかく、あなたが体育館にいた事は分かっています。そしてその体育館に恐らくあなたと同級生だと思われる生霊がいます。さらにその生霊のせいで現在三名が昏睡状態です」
「それを信じろっていうの?」
「事実です。何ならここで力を見せましょうか?」
「どんな?」
「あなたの経歴を見てみましょう。――千九百九十八年六月二十八日生まれ、女性、名前は柴田由美、高校生の頃友人を自殺に追いやった」
「何でそれを――」
「あなたの守護霊に聞いたんです」
「あなたはいったい何者なの?」
「霊能力者です」
「そう――。友達の名前は中村咲代。クラスで私は馴染めずにいた。そんな時に声をかけてくれたのがクラスの人気者の咲代だった。すぐに仲良くなった私たちは一緒に遊びまわったりした。でもそんな時クラスで人気者だった咲代がいじめにあうようになった。私はそれを止められずに咲代は自殺した。体育館の物置で。でも自殺は未遂に終わって三年間昏睡状態になった。一生目が覚めないかもしれない。私は毎年咲代が自殺した日にあの体育館に行ってる。助けてあげられなくてごめんねって」
「それが間違ってるんですよ」
「え?」
「咲代さんはまだ生きてる。柴田さんがやってる事は死者を弔う行為だ。生きている間は病院に行ってあげて下さい。ただ、あなたが病院に行ったら何をされるか分からない。一緒に咲代さんの生霊がいる体育館に行きましょう」
「行って何するの?」
「まず聞きたいんですが咲代さんは私を殺した奴を許さないと言っていました。どういう事か分かりますか?」
「多分私だと思う。私は当初からクラスで独りだったし咲代がいじめられている時も友達なのに見て見ぬふりをしてしまった」
「そういう事ですか――。では心からの謝罪をしてください」
「許してもらえるの?」
「いいえ、簡単には許してもらえないと思います。しかし咲代さんは三年間体育館の物置でひとりぼっちだ。だが今日あなたが来ている事に気づき、火災報知機を作動させた。当然あなたには来てほしくないと思っているでしょう。しかし逃げても新たな犠牲者が生まれるだけです。今咲代さんに必要なのは愛です」
「愛?」
「はい。咲代さんはいじめを受けている時もあなたの事を思っていたと思います。だからこそ許せなかった。だからこそ今愛が必要なんです。あなたは独りじゃないと。三年越しの愛を伝えて下さい」
「分かったわ。今から行きましょう。タクシー代は私が出すからすぐに行きましょう」
「分かりました」
 僕たちはこの後行く場所が戦場と化す事に気づくはずもなかった。

コメント

  • 鳳 鷹弥

    面白かったです!
    更新楽しみにしております、

    お互い頑張りましょう!

    良かったら私の作品もよろしくお願いします!

    1
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