霊視探偵ミエル

星河

学校の怪談?上

 五月中旬、僕は学校で授業を受けている。まぁ学生だから当たり前なんだが。
 ちっとも面白くない授業を受けていると、とてつもなく眠くなる。そして実際に寝る。
 案の定先生に目を付けられ、起こされ、問題を解かされる。僕はそれをすらすらと解いていく為先生はそれが面白くないのか、いつも舌打ちや僕を睨みつける。



 授業が終わり、休み時間になった。するとクラスの女子がこんな話をしていた。
「ねぇねぇ知ってる? この学校の体育館の物置に幽霊が出るんだって」
「うっそー。マジでー」
「うん、マジで。バスケ部の一人が荷物を忘れて体育館に取りに行ったんだけどその時に物置から物音がして見たんだけど誰もいなかったんだって」
「うわー。マジもんじゃん」
 くだらない。幽霊なんてあちこちにいる。例えばこの教室にも。いつも後ろのロッカーの前に立っている。女子高生の霊だ。多分この学校の生徒だった子だろう。
 まぁそんな訳で幽霊にいちいち反応しているのが悪い。僕には関係ないね。すると突然、
 「ねぇ、沢田はどう思う?」
 え? 僕?
「い、いや、幽霊なんている訳ないでしょ」
「もうー、沢田はすぐそう言うー。夢がないんだからー」
 幽霊が夢かよ。と心でつっこんだ。
 女子が言っている幽霊は何もしていないみたいだから問題なし。
 実際幽霊の九割が何もしない。ちょっと人を嚇したり、物音を立てるだけだ。たまに物を動かすモノもいる。いわゆるポルターガイストだ。




 次の授業は体育だ。体育着に着替え、体育館に行き、授業が始まるのを待った。
 チャイムが鳴った。皆整列し、先生の話を聞いて、準備体操を始めた。
 体育は僕が唯一学校で楽しいと思う授業だ。体を動かすのは好きだし足だって結構速いんだ。


 今日の授業はバスケだ。一クラス四十二人いる。僕のクラスは男子十八人、女子二十二人いる。
 男子と女子に分かれて、さらに男子は三チーム、女子は四チーム作り、総当たり戦を行う。
 チーム分けはドラフト形式だ。三チームの代表、僕と中川、石井が選出され、ジャンケンで勝った者から一人ひとり取っていく。中川と石井はバスケ部だ。僕は何もやっていないが運動神経が良い為いつもリレーの代表やらこのバスケの代表などに選出される。
 チーム分けが終わり、総当たり戦が始まる。まずは中川チーム対石井チームだ。僕のチームは審判と点数係をやる。
 試合は拮抗し、五分ハーフで結果三十二対三十で中川チームが勝った。
 十分の休憩を挟んで次は僕のチームと石井チームだ。
 この試合は僕のチームが二十四対四十で負けた。僕一人が良くても他がダメじゃぁな。
 次は僕チーム対中川チーム。
 この試合も負けた。この試合に僕たちが勝っていれば石井チームの優勝の可能性があったが僕チームが負けた為石井チームの優勝はなくなり、中川チームが優勝した。
 それにより石井から少し馬鹿にされた。まぁ笑いながらだったから良いか。



 「よーし良いか、この授業で結束力の大切さを学んだと思う。これからもしっかり仲間との絆を大事にするように! 以上! 解散!」
 先生がそう言うと授業は終わった。




 体育館から出ようとした際、体育館の入り口の横にある物置から大きな音がした。
 「うわ! 何だ?」
 複数の生徒がびっくりして声を上げた。先生が物置の扉を開けると、跳び箱のロイター板が倒れていた。
 しかし物置には誰もいない。窓も開いていないから風も考えられない。しかし僕は見た。物置に幽霊がいるのを。戸惑っている生徒を見て笑みを浮かべている。
 「さぁさぁ、皆次の授業があるだろ。帰れ」
 先生がそう言って生徒達を追い返した。







 教室に帰っても女子の一部は先程の物音について騒いでいた。
 全く――。何で女子ってすぐ反応するのかな。
 まぁほっとこう。
 次の授業が始まる。準備しなきゃ。
 次の授業は面倒な数学だ。寝る準備もしておかなきゃ。



 ところが――。
 数学の副担任がやってきて数学は中止と言って、自習となった。
 どうやら数学の西田が倒れたらしい。
 副担任が教室を出ると周りの生徒は大丈夫かなとか何で? とか話している。
 確かに西田は嫌な奴だけど心配は心配だ。
 自習か――。何もする事ないから寝ようかな。
 おやすみ。




 チャイムが鳴った。昼食の時間だ。僕はいつも売店で昼食を買い、大地と学校の屋上で飯を食べる。
 一階の売店に行き、サンドイッチとカフェオレを買って屋上に向かった。
「おう」
「おう」
 大地とグータッチで挨拶し、隣に座って食事を始めた。
 「そういえば知ってる? 体育館の物置の話」
 大地が弁当を食べながら聞いてきた。
「あれね。知ってるよ」
「あそこいるの?」
「一人女の子がいたな。いたずらした後笑ってた」
「へぇ。俺のクラスにちょっとだけ霊感ある女の子がいてその子バレー部なんだけど、体育館で掃除してたら女の子の声がしたって言ってたんだ」
「そうかぁ。まぁ当然だな。いるんだから」
「お前は冷たいなー」
「だっているんだもん」
 僕は笑いながら言うと屋上のドアが勢いよく開いた。
 須々木原さんだった。
「先輩、助けて下さい!」
「どうしたの?」
「今体育館で昼休憩してたら私の友達が倒れて、倒れたのに何かブツブツ言ってておかしいんです!」
「とうとうか――。ピンキー! 来い!」
「ピンキーって他の人に見えるんじゃないの?」
 大地が聞いてきた。
 「いや、僕が許可した相手にしか見えないよ。昔ピンキーに大地には姿を見せて良いって許可したから大地には見えるんだ」
 僕がそう言うと大地は納得したようで頷いた。
「何だいきなり呼び出してー」
「ピンキー、すぐに体育館に行って様子を見てきてくれ。その様子を僕の頭に投影してくれ」
「ただのお使いかい……。全く俺様を何だと思ってるんだ」
「良いから早く行け!」
「分かったよ!」
 ピンキーは素早く体育館の方へ飛んでいった。
 すると僕の頭に体育館の風景が流れ始めた。
 女の子が一人倒れている。生徒が数名取り囲んで声をかけている。
「ピンキー、倒れている子の声を拾ってくれ」
『分かった』
「私を殺した奴を許さない。この学校も許さない。だからこの女の体を利用して復讐してやる」
「ピンキー戻ってこい」
『あいよ』
 暫くするとピンキーが戻ってきた。
 「ありゃあ生霊だな」
 戻ってきた途端ピンキーがそう言った。
「でも私を殺したって言ってなかったか?」
「多分今昏睡状態だろう。しかしそれを殺されたと思っているに違いない」
「そうか――」
「おいおい、二人で納得してないで俺らにも説明しろよ」
「あぁ、ごめん」
 僕は二人に説明した。
「そういう事か。でも生霊って何で分かるんだ?」
「俺様の勘は確実だ! 大地、お前はいつも俺様を否定する事ばかり言う!」
「ごめんって」
「でももしそうならお祓いは出来ないんですか?」
「出来る事は出来るんだけどちょっと難しいんだよね」
「私の友達はどうなるんですか?」
「多分救急車がもうすぐ到着する。そしたら病院に運ばれて最悪は精神科に入院させられる事だね」
「そんな――」
「ピンキー、もう一回あの子の所に行って喋らないように出来るか?」
「うーん、生霊は難しいからなー。まぁやってみよう」
「頼んだ」
 僕がそう言うとピンキーは飛んでいった。
 「あれ? そういえば何で須々木原さんピンキーの話聞こえてるの?」
 僕がふと気づき、須々木原さんに聞いた。そういえばピンキーに須々木原さんに姿を見せて良いとは言っていない。勿論姿は見えない場合声も聞こえない。
「そういえば何でだろう――。先輩が許可してくれたんじゃないんですか?」
「いや、僕は許可してない。っていうか忘れてた」
「まぁそんな事よりピンキーを待とうじゃないか」
 大地がそう言うと僕たちはそれに同意し、ピンキーを待つ事にした。




 暫くするとピンキーが戻ってきた。それと同時に救急車も校門を通った。
「どうだった?」
「何とか成功したぞ」
「よくやったピンキー」
「もっと褒めろ。崇め奉れ!」
「調子乗りすぎだ」
「はい――。俺様はもう帰って良いか?」
「あぁ。良いぞ。助かった」
 ピンキーは飛び去った。
「あの、ピンキーっていったい何者なんですか?」
「ピクシー妖精っていう妖怪だよ」
「妖怪なんですか!? 悪い事しないんですか?」
「はは。ピクシー妖精は知能が人間の百二十倍くらいあってね、主に術者に仕えるんだ」
「仕えるってどういう事ですか?」
「契約するんだ。使い魔って言えば分かるかな?」
「あぁ。それなら分かります。先輩と契約したんですか?」
「うん。僕がまだ幼い頃にね」
「へぇ。あ、そろそろ次の授業始まります。あの女の子は渡辺ゆりっていうんです。病院が分かり次第お知らせします」
「分かった」
「どうやって知らせるんだ?」
「この前連絡先交換したから。例の事件で」
「あ、そう」
「じゃあ失礼します」
「うん」
「もしかして体育館にいた霊が渡辺って子に憑りついたのか?」
「え? 今更?」
「あ、ごめん」
 大地は苦笑して僕に謝った。
「じゃあ僕たちも教室に戻ろうか」
「そうだな」
 僕と大地はクラスが違う。僕は五組で大地は一組だ。学校は五階建てで僕たち二年は三階だ。
 屋上から三階へ下り、各々教室へ戻った。
 今日だけで二人も学校で倒れた。西田は職員室で倒れたらしいから関係ないっぽいけど――。




 教師からは渡辺さんの説明はなく、五時間目が淡々と進んでいった。だが――
 「キャー」
 廊下に女子の叫び声が響いた。
 周りの生徒もざわついている。
 「ちょっと待っててくれ」
 国語の石沢がそう言うと教室を出て様子を見に行った。
 何だろう。石沢が走って帰ってきた。
 「皆、後の時間は自習だ。静かにするように」
 石沢はそれだけ言うと走って教室を出た。
 いったい何があったんだ? しかもあの慌てよう。もう一回ピンキーを呼ぼうか――。いや、ピンキーに怒られそうだし辞めとこう。
 にしても気になる。廊下はざわついているし。五組の教室は階段の目の前だから教師たちの行き来がすぐ分かる。今は複数の教師が行き来している。





 何の説明もないままチャイムが鳴り、授業の時間が終わった。まぁ、自習だったけど。すると――
 『全校生徒の皆さん、突然ですが、時間割を変更し、今日はお帰り下さい。部活動も今日はなしです。帰宅後も家を出ずに自宅で待機していてください。もう一度お知らせします――』
 六時間目がなし? 早く帰れるのは嬉しいけど何があったんだろうか。廊下に出ても何かあった様子はない。教師陣が片づけたのか?
「有志!」
「大地、何があったんだ?」
「今日の昼に霊感がある奴がいるって話したろ? そいつが発狂しちゃって倒れたんだ」
「マジで? これで三人目だ」
「俺んとこの担任と渡辺さんと湯川か」
「湯川っていうのか?」
「あぁ。湯川美奈。不気味だな」
「まぁ帰るか」
「そうだな。俺荷物取ってくるわ」
「僕も」
「じゃあ下駄箱で待っててくれ」
「分かった」
 僕たちは一旦別れ、下駄箱で落ち合う事にした。





 下駄箱で大地を待っていると僕のスマホにメールが来た。
 『ゆりは県立秩父病院に入院したそうです』
 須々木原さんからだった。秩父病院か。あそこは精神科ないから安心だな。
 「悪い悪い。行こうか」
 大地が来た。
「渡辺さん秩父病院だって」
「そっか。じゃあ今から行くか?」
「それはマズくね?」
「あぁ、そうだったな」
「父さんとピンキーに相談して対処法を見つけて大地と須々木原さんに連絡するよ」
「了解」
 その後も同じ日に学校で三人も倒れた事を話しながら帰った。
「じゃあな」
「おう」
 大地と別れ、家に向かった。




 「ただいまー」
 返事がないって事は父さんは寺にいるのかな?
 まずは自分の部屋に行き、荷物を置いた。
「帰ってきたな」
「そこはおかえりだろ」
 ピンキーが天井に付いている電球にぶら下がりながら言った。
「その後どうなんだ?」
「また一人倒れたよ」
「ふーん」
「ふーんって」
「だって分かってたもん」
「どういう事だ?」
「あの生霊魂三つあったもん」
「あったもんって――何で言ってくれなかったんだよ」
「だって聞かれなかったから」
「お前なー。少しはお仕置きした方が良いか?」
「あ、いや、それは――勘弁して下さい」
「これからは少しでも何か分かったら言うように」
「はい」
「父さんは寺?」
「そうだよ」
「じゃあ僕も行ってくる」
「俺様も付いていった方が良いよな?」
「頼む」
「あいよー」
 僕とピンキーは隣にある寺に向かった。
 「父さんいる?」
 寺の本堂に入りそう言うと奥から父さんが出てきた。
「大変だったな。ピンキーから聞いたぞ」
「うん。しかもその後もう一人倒れてね」
「そうか――。お前はどう見てるんだ?」
「僕はピンキーが言った生霊の魂が三つあるっていうのが気になる。どういう事なの?」
「生霊っていうのは魂が分裂しやすいんだ」
「そうなんだ。生霊が言った事ピンキーから聞いた?」
「あぁ聞いた。復讐か――厄介だな。無理矢理お祓いしようとすれば体が死んでしまう」
「だよね――」
「その生霊の女の子がどこの子か調べてみる必要があるな」
「どうやって?」
「そこは父さんに任せろ」
「? 分かった」

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