気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

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「本当にお心遣い感謝致します。服もそうなのですが、腕に覚えが有り過ぎる外科医としては、部下が素晴らしい手技を成し遂げたら多少は嫉妬の念を覚えると思うのですが」
 嫉妬?と首を傾げてしまう。
 祐樹はそんな自分の顔から首筋までを輝く視線で照らすような感じで見つめながら唇には極上の笑みを浮かべている。
「祐樹のあの神憑り手技は素直に凄いと思ったし、ここまで成長してくれたのだなと本当に嬉しかった。
 そして、N〇Kのカメラマンが、放送出来ないシーンだったにも関わらず撮影してくれたことも幸運以外の何物でもなかったし、世界に公開すべきだと思った。それだけの価値は有るし、見事過ぎる手技は医学界全体で共有しなければならないと思っているので。
 あんな素晴らしい手技の持ち主になってくれたのだと思うと嫉妬どころか心の底から嬉しく思った。
 プライベートでは素晴らしすぎる生涯の恋人で有ることはずっと変わりのない事実だが、心臓外科医医として異例のスピードで追いついて来る祐樹のことは末頼もしい外科医だと思っている。いつかは追いつかれてしまうのでは……と内心危惧する気がないわけではないが、そういう後続者のプレッシャーを背中に感じる方が自分の手技に慢心することなく日々向上しようと思えるので、寧ろ祐樹が後ろから物凄い勢いで成長してくれる方が私にとっても良いのだろう。ほら、ライバルが居ないと伸びないとか言うだろう?スポーツの世界とかで。
 それを実感している。地震のあの日、あの時の手技をこなした日から」
 整髪料やコームなどを鞄に仕舞いながら心情を吐露する。
「貴方って人は……。更に惚れ直しました。プライベートではもうこれ以上深くは行けないほど愛していますが、人柄というか性格がこれほどまでに良いとは思っても居なくてですね。
 嫉妬はなされないだろうと思っていましたが、嬉しいとも思って下さったのですね」
 祐樹の感動したような声が深く低く響いた。
「まだ税関などを通る時間には早いですよね。貴方が手早く髪を整えて下さったお蔭です。
 展望デッキに参りませんか?それとも食事をしますか」
 前髪を上げた祐樹は何度か見てきたが今日はイタリアのスーツを――森技官御用達のブランドは何だかハリウッド映画を彷彿とさせるとかで世界の医学界の評判はイマイチなので避けてある――隙なく着こなしている上にメガネまで掛けているのでより一層祐樹の魅力を引き立てている。
 飛行機の発着が間近で見られる場所で祐樹と二人眺めるのも捨てがたいが、レストランに向かい合って座って誰にも気づかれないように細心の注意を払って惚れ惚れと祐樹を見ていたい。
 そちらにしようか。

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