気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

23

「確かに銀行員というか絵に描いたようなエリートビジネスマンに見えます。
 ドラマでい言うと医師役ではなくて弁護士役というか……。そんなので大丈夫でしょうかね?」
 大学病院の確執を描いた往年のベストセラー小説のドラマでーー何回かドラマになっているーー二人で観たDVDの中でもこういう格好をしていたのは主人公の「浪速大学教授」でもなければ親友の熱血医師でもなく、医療裁判に発展した時に主人公が大金を積んでーー主人公を愛娘と結婚させて資金援助は惜しまないというお義父さんが用意した物凄い量の札束だったーー雇った敏腕弁護士のような感じだった、メガネのレンズを通して見る鏡に映る自分の顔は。
「いや、良く似合っていると思うし、あの学会では普段はラフな格好をーーバカンスの時にプールサイドで本を読んでいるようなーーしている人でも、まるで別人のようにきっちりとした身なりで来るので、この程度が無難だろう」
 「プールサイドで読書している外国の人」という言葉に笑ってしまった。
「その表現、とても可笑しいです。ほらシンガポールのラッフル〇ホテルのプールでもそういう格好の人がトドのような身体で……本を読んでいましたよね?せっかく目の前にプールがあるのだから、少しは体重を減らすために泳げば良いのにと囁いたのを覚えていますか?」
 鏡に映った最愛の人が懐かしそうな表情を浮かべながら花のような笑みとその花の香りのような笑い声を小さく立てていた。
「そんなこともあったな……。
 私はシンガポールで一番印象に残っているのは大衆の面前でも手を繋いで普通に歩けることだったが……」
 なぜだかは知らないが、同性愛を厳禁しているイスラム教の寺院もあるというのにシンガポールでは、男性同士が白昼堂々と手を繋いで歩いている姿がちらほらと目についたので、自分たちもしてみた。
 それでも、誰も気に留めたふうはなかったので、なんだか解放感と爽快感を覚えたものだった。手を繋いで歩きながらも。
「この真っ赤なネクタイも派手ではないですかね?」
 最愛の人がわざわざ折鶴勝負までして買ってくれた品物にーー祐樹はせいぜいが利回りも雀の涙ほどの定期預金でしか貯められていないが、最愛の人はアメリカ時代に築いたかなりの資産をプライベートバンクで運用してもらっている身の上だ。ただ、そのお金をあてにして一緒にいるわけでは断じてないので、お土産などの「一般的な」贈り物以上の物は貰うつもりは毛頭ないーーケチをつけるわけではないが、何となく締めるのが気恥ずかしい。
 それでなくとも。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品