気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

21

「祐樹の晴れ舞台に行けないせめてものつぐないに、これくらいのことをさせて欲しい」
 最愛の人が眼差しに晴れがましさと寂しさそしてその他の感情をオパールの虹のような煌めきで雄弁かつ穏やかな虹色の光で物語っているようだった。
 その切れ長の目とか唇に咲かせた淡い色の花のような笑みも一際綺麗で、そして何だか曇天の太陽の光を浴びている花を彷彿ほうふつとさせる。
 しなやかな長く細い指が鞄を開けると、祐樹の小さなボストンバックには入っていない――何しろ飛行場から学会会場に移動してそのまま講演して、学会が終わると親睦会というか祐樹にとってはお目見え会が開催された後にホテルに移動して一泊した後に帰国の途につくという強行軍なので、替えの下着とかシャツしか用意していない――頭髪用の整髪料とか、見覚えのある眼鏡のケースなどが顔を覗かせている。
「そこに座って欲しい」
 国際空港に有りがちなのかもしれないが関空のトイレは、噂とか雑誌でしか知らないちょっと贅沢な女性用のトイレみたいな感じで洗面とか整髪のための椅子と鏡まで備え付けられた手洗いスペースが有る。
 長時間のフライトから直ぐに商談に向かうビジネスマンなどを想定しているのだろうが。
「髪の毛を整えて下さるのですよね?地震の後の特別休暇の時みたいに……」
 最愛の人の大きなカバンを見て咄嗟に思いつかなかったのは我ながら迂闊うかつだったが、白魚よりも綺麗で、誰よりも緻密に動く指で頭髪を触られるのはとても気持ちいい。
 それ以上にそんな最愛の人の心配りが嬉しかったので、ついつい口調が弾んでしまう。
「そうだ……。東洋人は若く見えるというのは映画の中だけでなく実際に私も散々言われていたし……。あちらで医師免許を取得した後は病院の威光のせいで面と向かっては言われなくなったが、IDカードに記載されている生年月日はマジマジと見られることはしょっちゅうだったな。
 だから少しでも年上に見えないと第一印象で『若いので、説得力に欠ける』とか直感的に思われたら嫌だろう。講演内容は万全なのに、若さだけが気になって頭に入らなくなってしまったら困るし……」
 白い掌にジェルを適量垂らして右の指で前髪を手際良く巻きながら後ろへ撫でつけられていく。
「ああ『人は見た目が9割』とかいう本がありましたよね。アメリカでは更にそれが顕著だとか……。お心遣い有り難うございます」
 すると。

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