気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

17

 今は脳外科の白河教授が、手術室の悪魔こと――どうやら「オペラ座の怪人」という本に、パリのオペラ座に「住んでいる」妖怪だか「悪魔」だかがあだ名の由来らしい――悪性新生物科の桜木先生が偶然発見した悪性脳腫瘍の外科的アプローチが出来るという画期的な発見を実用化すべく手術室を使っている。
 悪性脳腫瘍が外科的アプローチは無理とされている病気で、ホスピス的な治療しか出来ない不治のやまいなだけに、もし手術法が確立されればウチの病院の脳外科は一躍脚光を浴びる存在になるだろう。
 それを期待している斉藤病院長が、手術室の占有率を落とせと言って来たのはある意味仕方ないことだと思っている。
 狂気の元研修医が起こした事件のせいで逼塞ひっそくしていた脳外科の白河教授と桜木先生――手技は確かだし、元々が悪性新生物科の教授は論文派で教授執刀とか患者にアナウンスしているものの、難しい手術は桜木先生が密かに執刀を任されていたのは外科の医師なら誰でも知っている――その放置状態が幸いして、好き勝手に手術が出来る桜木先生の立場が生み出した奇跡的な外科的アプローチだったが、今海を眺めて唇に鮮やかな笑みの花を咲かしている最愛の人が外科の親睦会で未来の病院長選挙出馬を桜木先生に言ったせいで、脳外科と桜木先生の共闘が実現したのだから祐樹としても文句は言えない。
 それに専門分野が異なるものの、病院がこれ以上の実績を上げるという点には組織の一員としてプラスになることだったので祐樹としても陰ながら応援している。
「そうか……。金属アレルギーがないなら本当に良かった……」
 最愛の人が瑞々しい笑みの花を咲かせて祐樹の方を見ている。
 その切れ長の目に視線を絡めて笑いあえるのがとても嬉しい。
 金属アレルギーを何故気にするのかは分からないままだったが。アクセサリーを身に着ける習慣がなかったので――といっても時計などは最愛の人に貰ったものだった――確認したかったのだろう。
「降りる準備をしないといけませんね……」
 車内のアナウンスが関西空港到着を告げていた。
「そうだな……」
 スーツ姿の最愛の人は、仕事帰りとは思えないほど大荷物だった。デートでどこかに行く時には最高に美味しい手作りのお弁当とかコーヒーなどを入れた大きな荷物を持っていることが多いものの、出勤時には最小限のカバンを持っているか手ぶらというのが普通だったので何か祐樹のために準備して来た物が有るのだろうな……ということは分かる。
 ただ。

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