気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

16

「祐樹、海が見える。それに飛行機がこんなに低く飛んでいる……」
 いつの間にか関西空港の近くまで来ていたらしい。祐樹が運転しているならともかく電車なので親密な話に夢中になっていたせいもあって全く気付かなかった。
 それにいつの間にか眠りの神様もどこかに行ってしまったようだった、どうせ一時的な離脱だろうが。
「今度は二人で飛行機に乗るのでも良いですし、ドライブでこの近くまで来るのもデートになりますよね。
 どちらが先になるかは分かりませんが」
 笑みを浮かべてそう告げると最愛の人は露を載せた大輪の薔薇に朝日が当たった感じの笑みを浮かべて、とても綺麗で目を奪われてしまう。
「そうだな。どちらでも良いが、とても楽しみにしている……。
 それはそうと……」
 瑞々しい笑みから一転して真顔になった。その一瞬の変化も鮮烈な感触で瞳に焼き付いていく。
「それはそうと?」
 何かアメリカの学会のローカルルールめいたものをレクチャーしてくれるのだろうか?
 何しろ大学病院の臨床医、しかも執刀医まで務める立場になると国際学会どころか国内で開催されるモノもご無沙汰しがちになってしまう。
 学会出席に熱心な医師も居るが、生憎あいにく祐樹はそういうタイプでもないし、最愛の人が凱旋ふがいせん帰国を果たす前は世をねた研修医だったし、それ以降は救急救命室勤務とか横に座って静謐な笑みを浮かべている人と過ごす恋人としての時間で忙しくてそれどころではなくなったのも事実だった。
「祐樹はアクセサリーをつけないだろう。細いチェーンのネックレスは大丈夫だろうか?金属アレルギーとか肩凝りとか……」
 予想外の質問に戸惑ってしまったが、こんな時にわざわざ質問してくるからにはきっと理由が有るに違いない。
 多分、何故そんなことを聞くのか?と言ったら答えが返ってくるだろうが、楽しみは後に取っておこうと咄嗟に判断した。
「金属アレルギーはないですね。それに肩が凝るのはむしろ貴方のほうでしょう。執刀医を務めるのが一番肩に来ますから。
 今は学会準備に専念しろと病院長直々じきじきに仰って下さっていますし……、有り難いことに」
 手術は好きだし向いているとも祐樹自身は思っていたし、そちらに専念したいのが本音だったが、脳外科に割り当てられてた手術室を白河教授の厚意というか――脳外科の元研修医が起こした「事件」のせいの、心臓外科に対する遠慮で特別に借りているのだから文句は言えない。そもそも心臓外科の執刀医は最愛の人が唯一無二のカリスマだ、いずれ肩を並べたいと強く願っていたが。
 それに。

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