気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

15

 最愛の人は大輪の花の風情で微笑んだ。しかも風薫る五月の空気のような緑色の艶やかさを含む眼差しで見つめてくれている。
「それは私も同じだが……。
 祐樹が居ない休暇なら、仕事をしている方が良いような気がする。それでないと無聊ぶりょうを持て余してしまいそうだし。
 部屋で寛ぐ休日の過ごし方も――祐樹が救急救命室で勤務中の時は一人で家事などをしながらテレビで寂しさを紛らわしているようなものなので全然気持ちの弾みが異なる――祐樹が居てくれるだけで嬉しいし、どこかへ出かけるのもとても宝石のような煌めく時間がまた一つ増えたと思うと本当に生きていて良かったと思えるし。
 最近は、そうだな……、あ、そう最近ではないが、呉先生と森技官で行った遊園地とかもとても良い想い出だった」
 最愛の人の声は抑えた声量ながらも縷々るる心情を述べているのだなと思わせる切実さに煌めいていた。
 それに呉先生達と行った――勿論と言うか当たり前というか森技官の密かな企てが有ったのは言うまでもない。ただ、ごくごくプライベートな秘め事を最愛の人に話して貰うという件だったので、そういうことには疎いしあまり言わない人なのでどうなるかこっそり案じてはいたのだが、大丈夫だったようだし、捉え方もポジティブな感じだったようなので内心安堵してしまった――遊園地という、二人だけのデートではなく、いわゆるダブル・デートの楽しさも味わうことが出来たのも収穫だった、今思い返してみると。
「長期間の旅行はそれこそ停年を迎えないと無理っぽいですが、お盆とかお正月休みなどのまとまったお休みの時には是非二人きりで海外に行きましょうね。香港のマンゴープリンを食べるという約束も果たしていませんし……」
 最愛の人の笑みが一際瑞々しさを増して咲き誇っている。
「そうだな……。あのマンゴープリンは果物のマンゴーよりも更に美味しいので。それに程よい酸味も有るので祐樹もきっと気に入ってくれると思うのだが……」
 ひんやりとした指が深く絡めた祐樹の指の体温で温められている。何だか繋いだのが手だけではなくて心までのような気がしてとても嬉しい。
「最近は、かなり甘いモノを食べることが出来るようになりましたよ。貴方があまりにも美味しそうに召し上がるので、その喜びもご一緒したくて……。一人の時は絶対に食べませんが、二人の時はかなり食べられるようになったでしょう?」
 しめやかな感じで言葉を交わしていると、最愛の人の笑みがより一層の煌めきを放っているようだった。
 そして。

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