気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

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 機種変更をしたスマホのお蔭でフェイスブックにも――そこのCEOがかつて最愛の人に臆面もなく言い寄った過去は忘れてはいないものの、その後北教授を地震の時にアメリカから即座に帰国させるべく骨を折ってくれた件でチャラになったと思っている――接続可能なので顔を見ながら通話は出来る。
 ただ、祐樹が見ていたいのはやはりひんやりとした体温とかしなやかな肢体とかを含めた最愛の人の全てなので。
 いくらインターネットのお蔭で世界が狭くなったとはいえ、やはり最愛の人と物理的に離れるのは寂しさが付きまとってしまう。
 理性では数日間の我慢だとは思っても、本能めいたものが束の間の別離を惜しんでいる。
「私の顔に何かついているのか?」
 最愛の人が大輪の花の笑みを浮かべながら若干不審そうな煌めきを湛えた眼差しを送ってきた。
「私が愛してやまない綺麗で端整、そして怜悧でいながら艶やかなお顔がついていますね」
 最愛の人の頬が更に鮮やかな紅色の花が咲いたような趣きを帯びた。
「今回は名だたる救急救命医や隣接する外科医の先生達の前で話すだけなので気楽です。
 ただ、アメリカの学会なので当たり前といえばそうなのですが……日本から離れるとなるとやっぱり寂しいですね……特に貴方と直接会えないというのが……」
 最愛の人のひんやりとしたしなやかな指にさり気なく手を重ねた。
「それはそうだが……私の場合、以前に行ったベルリンの時と異なった点が有って……」
 国際公開手術の場合は名だたる外科医が一堂に会するなかで手術をしながら見物人の専門的な質問にも答えなければならないし、ミスをすれはそれこそ名声が一気に地に堕ちるという過酷な側面を持っている。その代り成功すればより一層のはくが――いや箔は箔でも金かプラチナだろう――つくのは言うまでもない。そもそも成功か失敗かで外科医としての評判が全く異なるのだから必死さは比べ物にならない。
 その相違を言っているのかと思ったが、薄い唇が紡ぎ出したのは予想とは全然異なった言葉だった。
「ほら、共著の本を書いただろう?その時からかな……。もちろん一緒に過ごす時間は私にとっても至福で煌めいた時間だが……しかし、離れていても何だか心が繋がっているというか、魂が溶け合ってしまったような気がして――気のせいだとは分かっているけれども――何だか祐樹が不在でも満ち足りた気分になってしまっていて……。
 だから」
 

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