気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

11

 最愛の人は安堵したような五月の薔薇に似た晴れやかな笑みを浮かべた。
「試着室の段階で似合うとは思っていたが、実際に壮行会の時に皆と居る時は一人だけ輝いて見えたので、学会の演壇でも物凄く映えると思う。
 ああいう席では見た目も重視されるので」
 ああ、それでか……と思った。「貢物みつぎもの」という感じのプレゼントは何だか抵抗感の有る祐樹の内心を察して二人きりの折り鶴勝負に勝ってまで「言うことを聞く」という権利を手にした最愛の人が名だたる高級ブランドが並ぶ百貨店のフロアにまで連れて行ってくれたワケも。
 多分、アメリカの学会にも人脈を持っている最愛の人はーー祐樹も24時間以内にはキチンと直接の知り合いを獲得する積りではいるーーそういう事情にも知悉ちしつしているのだろう。
「そうですね。ありがとうございます。ただ患者さんからは『普段よりも派手ですね。しかし、とてもよく似合います』とか言われてしまいましたよ。ああ、関空行はこのホームです」
 車で移動ということも考えたのだが、引き継ぎなどの雑務とかいろいろあってかなりの睡眠不足だった。仕事ならば仕方ないが、自動車の運転をして万が一にも事故を起こしては社会にも病院にも迷惑をかけてはならないので他人が運んでくれる方を選択した。人身事故などを起こしてしまっては、犯罪者にもなってしまう上に学会にも間に合わないというリスクも考慮すれば妥当な判断だと思う。
 体力的には自信があるものの、睡魔に襲われて判断力が鈍ってしまうことも考慮に入れたのは言うまでもない。
「関空行きの電車はいかにも海外に行くという感じで何だか新鮮だな……」
 隣に座った最愛の人が瑞々しい紅い薔薇の微笑みを浮かべている。
「そうですね。車でドライブはしたとは思いますが、それだと空港に行く以外でも同じですから」
 周りには海外出張と思しきビジネスマンとか観光旅行に行くという感じの女性のグループなどが楽しそうに談笑していたり、スマホで記念写真を撮っている。
「この電車に乗った瞬間から何だか海外モードですよね?非日常というか……。貴方もご一緒に飛行機に乗れないのがとても残念です……」
 祐樹が出席予定の学会レベルでは上司として呼べないのも当たり前で、救急救命の北教授などが常連の国際学会だ。そして北教授も同時に呼ばれていることを最近知ったが、北教授はフランスでの学会からの移動だし、単独行動だった。
「そうだな……。まあ、それは次の機会を楽しみにしている」
 最愛の人が薄紅色に煌めく笑みを浮かべて祐樹だけを見つめていた。
 それだけで最高に嬉しい気持ちになってしまうが。
 ただ。

 

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く