気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

「壮行会を開くのも――田中先生だけではなくて、例えば遠藤先生などが――講演者として呼ばれた場合に恒例行事にしたらどうかと思っているのだが、医局長やゆ……田中先生はどう思いますか?」
 最愛の人の言葉に「です・ます」の丁寧語と「だ・である」が混ざっているのは、先ほどまで祐樹と二人きりで話していた時とは異なって元同級生ながらポジションが天と地ほどの懸隔けんかくが出来たからだろう。
 それでも、お互いがそれぞれの職務の合間に奇跡的なタイミングでスケジュールが合った時には旧交を温めているとは聞いていた。
 それに、柏木先生は救急救命「センター」への昇格に伴って准教授とほぼ同じの職階を謝絶してまで医局に留まって次期黒木准教授を目指すことを決意した。その悩み相談は受けていたし、祐樹が知る限りのメリット・デメリットの説明もした。
 そして手術室勤務の奥さんとも話し合った末に医局という道を選んでくれた。
 そして、その正式報告も最愛の人に伝えたと――実際は――二方向から聞いていたのも事実だ。
 黒木准教授と同じく調停能力や縁の下の力持ち的な能力は祐樹が見ていても素晴らしいと思う。手技は――あくまで大学病院レベルではあるが――偏差値55程度だろうが。ちなみに偏差値50が平均点ピッタリになるように計算式が有るけれど、そういうのに当てはめることなく主観的な感想だったけれども。
 壮行会というのも、お祭り騒ぎ好きな柏木先生らしい思いつきだった――というのも本来は出張用休暇を取得した祐樹は本来ならば今日職場に来なくても――主治医を代行してくれる先生方には迷惑は掛かってしまうことになってしまうが――良い日だと病院長直々のお言葉まで貰っていたのだから。
 だから朝出勤した時に驚かれたという一幕も実は有った。
「ああ、それは良いですね。今回は急なことだし、車で来ている先生も多いのでウーロン茶とコーラ、そしてポテチやハッピータ〇ンしか用意出来ていないのですが、こんな感じで大丈夫ですか?」
 交通事故は――お酒に大変厳しいモノになったと新聞で読んだ。まあ、運転手も被害者も命に関わるような大きな事故が多発している――加害者が医師の場合はバッシングに拍車がかかる気もしたの妥当だろうと思ったが。
「ウーロン茶で乾杯!というのと、私の挨拶、そして田中先生の『短め』の決意表明程度を10分程度で終わらせるなら、行った方が良いと思う。
 医局の団結力を深める良い機会だから。
 しかし、田中先生はフライトまでの時間がそれほどないし……。私は……」
 元々が言い訳も下手な人だ――そういう点も大好きなのだが――だから何を言って誤魔化すのか、それとも祐樹が助け舟を出したら良いモノなのかを考えつつ、仄かな紅色の唇を眺めた。
  以前なら躊躇うことなく助け舟的な発言をしたと思う。しかし、最愛の人も自分の力で何とかコミュニュケーション能力を高めようと努力していることを知っていたので敢えて黙っていることにした。
 すると。
 黒木准教授と異なる点は「お祭り騒ぎが大好き」という点だけのような気がする。

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