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ノベルバユーザー329392

②終わりと始まり…

 闇の中から目覚めたもう一人の人物がいた。
 「目覚めたか…」
 目覚めた人物は状況を確認し、言った。
 「私の記憶がないという事は……負けたのですか?…」  
 「そうだ…だが、君が負けた事により多額の資金が入った…デキレースと言う者もいたが…まぁいい…」
 「手間を掛けさせたようですね…」
 「だがほとんどの客は満足したようだ…」
 「ほう……見ごたえがあったと…」
 「そうだ…大金を叩いたかいがあったと…皆は満足したようだ」
 「後で記録を確認しますが……やはり月島葵ですか?」
 「ああ……君の言うように、彼は我々の想像を遥かに越えていた…」
 「でしょうね……私が負けたのですから…」
 「で……次はどうする?…」
 「そろそろ次の段階に行ってもいい頃合いでしょう…『あれ』を使います…」
 「『あれ』か……また君も参加するのか?」
 「この私が負けたまま黙っていると?…」
 「あまり深入りはするなよ…」
 「わかってます…目的はただ一つ……月島 葵とのゲームは目的達成までの余興に過ぎません…」


 「蒼き星を天に還すまでの…」




 ……2011年…秋……




 あれから二ヶ月が過ぎ、葵は日常に戻った。
 あれだけ未知なる刺激を与えられた後だ……日常がつまらなくなるのも無理はない。
 葵は今日……美夢の兄、宗吾に別件で合う予定だ。今抱えている事件の事で意見を葵に聞きたいようだ。
 葵は自宅を出て、宗吾との待ち合わせ場所に向かう。
 時刻は午後7時……話ついでに晩御飯を奢ってくれるようだ。
 少し肌寒いので、黒のパーカーを羽織って待ち合わせ場所へ向かう。
 その道中だった……背後から視線を感じる。
 「やれやれ……またか…」
 初めてではなかった。あの事件以…降背後からの見張るような視線は、何度も感じていた。
 葵は振り向くこと無く言った。
 「付けてきてるのは、わかってます……出てきて下さい…」
 葵の言葉に反応して、電柱の陰から、小柄な人が出てきた。
 「やれやれ……またあなたですか…」
 電柱の陰から出てきたのは、小柄な女性だった。
 身長は150cm前半で、ショートカット、カメラをぶら下げている。
 その女性は言った。
 「私から逃げようたって無駄よ!」
 「僕は逃げも隠れもしていませんが?…現に堂々と道の真ん中を歩いています…」
 「ぐっ、屁理屈を…」
 「僕を付け回しても、良い事ありませんよ…」
 「何を言うっ!『天変 月島のいくとこに事件あり』って、言うでしょっ!」
 「言っているのは……あなただけでは?…春野五月はるのさつき先輩…」
 五月と呼ばれる女性は…葵の言うことに、聞く耳を持たない…。
 「隠したって無駄よ!あんたが半月入院していた、真相をつきとめるのよっ!」
 葵は五月を無視して、すたすた先へ進んでいった。
 「待ちなさいっ!無視するなっ!」
 葵は待ち合わせ場所の居酒屋に到着した。
 宗吾はすでに店の前に来ており、葵を見つけるなり呼んだ。
 「葵っ!こっちだ!」
 葵は呼ばれた方へと向かう。
 「警部殿……こんばんは…」
 宗吾は黒のスーツがよく似合い、清潔感の漂う、好青年といった感じだ。
 宗吾につれられ、居酒屋の個室に案内された。
 宗吾が言った。
 「なぁ、葵……その娘…誰?」
 五月はちゃっかり付いてきていた。そして、ちゃっかり葵の隣に座っている。
 葵は気にする事無く答えた。
 「ただのストーカーです…」
 五月は声を荒げた。
 「違うっ!ストーカーじゃないっ!」
 宗吾が言った。
 「じゃあ何?」
 五月は胸を張って自己紹介を始めた。
 「春野 五月 東鷹大学の 21歳……オカルト研究サークルの美人代表です…」
 宗吾は笑って言った。
 「ははは……自分で美人って、言っちゃったよ……あ~、面白れぇ…」
 葵は言った。
 「変わった人です…」
 宗吾が言った。
 「気に入ったよ……君も飲んで行ったら?奢るよ…」
 五月は目を輝かせた。
 「ほんとですか?…でも…」
 葵は言った。
 「あなたに遠慮なんて言葉は似合わないでしょ…」  
 「ぐぐっ……月島葵…言わせておけば…」
 宗吾が五月を落ち着かせる。
 「まぁまぁ……五月……ちゃんだっけ?とりあえず乾杯しようよ…ビールでいい?」
 五月は割れに帰った。
 「あっ、はいっ!有り難うございます!」
 「僕は……そうですねぇ…久々の警部殿との食事ですので…甘い梅酒でも、もらいましょうか…」
 なにわともあれ、三人はグラスを重ねて、乾杯した。


 ……30分後…… 


 「ぐぅ~、ぐぅ~、ぐぅ~…」
 宗吾が寝ている五月を見て言った。
 「寝ちゃったぞ……この娘…」
 「そのようです…」
 「わかってたのか?」
 「ええ……美夢から聞いています、酒が入るとこの方はすぐに寝ると…」
 「それで、つれてきたのか…」
 「ええ……警部殿もこういう人は好きでしょう?だったら無理にまかず、つれてきました…」  
 「まぁ…いいか……気持ち良さそうに寝てるし…」
 「うるさい方も静かになった事ですから…さっそく資料を…」
 葵がそう言うと宗吾は、資料の入った封筒を手渡した。
 葵は中身を確認することなく封筒を鞄にしまった。
 「では、家で確認し……すぐ連絡します」
 「おいっ!もうちょっと興味もてよ……まぁ、今のお前には刺激が足りないか…」  
 「すみません……事件の資料はしっかり確認しますので…」
 宗吾はおかわりしたビールを、飲み干して言った。
 「で、なんだ……アマツカだったか?お前が追ってるの…」
 「何かわかりましたか?」
 「公安にいる知り合いに聞いたり、俺も色々調べたが…何も…」
 「そうですか……にわかに信じ難い話ですから…」
 「お前と美夢が言った事だから、信じてない訳じゃない…」
 「そう思っていただいてるだけで、ありがたいです」
 宗吾は顔をしかめて言った。
 「葵……もう、いいんじゃないか?皆無事だったわけだし…警察も動けないぜ…」
 「まぁ……何も起こってませんからね……すぐ港に置き去りにされたわけですら…拉致監禁の立件も難しいですね…」
 「だろ……だからお前もさっ、警察に入る準備をそろそろ…」
 「警部殿、どさくさにまぎれて何を言ってるんです?僕は警察官になるつもりは毛頭ありませんよ…」
 「でも、もったいないぞ…その能力は…」
 葵は苦笑いして言った。
 「僕には『国民を守る』使命を持って、捜査するなんて、できません。僕を動かしているのは、好奇心と刺激です…」
 「その好奇心と刺激をくれるのが…そのアマツカってか?…」
 「言い切れませんが…興味深い……アマツカの原動力は何なのかと…」
 宗吾は呆れて言った。
 「やれやれ……こりゃ美夢も大変だ」
 葵は表情を固めて、宗吾に言った。
 「警部殿……くれぐれも、美夢には……僕がアマツカの事を調べてるとは…」
 「言わないで……だろ?…」
 「ええ…彼女を巻き込みたくない…」
 「だったらやめろよ…」
 「それはできません…」  
 そう言うと葵は立ち上がった。
 立ち上がった葵を見て、宗吾が言った。
 「もう帰るのか?」
 「ええ……ストーカーさんが寝てる間に…」
 「この娘どうしたらいいの?」
 「起きたら、飲み相手にでもして下さい…」
 葵はそう言うと、さっさと帰ってしまった。
 残された宗吾は呟いた。
 「やれやれ……落ち着きないなぁ…」
 葵が帰ってしばらくすると、五月が目覚めた。
 「ううん……あれ?私……」
 「起きたかい?」
 五月は現状を把握した。
 「私、またやっちゃった……。あれ?月島 葵は?」  
 宗吾は笑顔で言った。
 「帰ったよ……ストーカーさんによろしくって…」
 五月は顔を真っ赤にして言った。
 「ストーカーじゃっ!ありませんっ!」
 「まぁまぁ……葵も帰っちゃったし、俺も一人じゃ寂しいからさ…もうちょっと付き合ってよ…奢るから…」 
 五月は少し考えたが、笑顔で宗吾に言った。
 「私なんかで良かったら…」
 「全然っ!君…面白いから、ただ…アルコールはもうだめだよ、君寝ちゃうから…」
 五月は申し訳なさそうに言った。
 「面目ないです…」
 こうして奇妙な二人組の飲み会が始まった。
 宗吾と五月と別れた葵は一人帰路に着こうとした。
 すると前から美夢がやって来た。
 「葵っ!」
 「美夢…どうしてここに?」
 「友達と買い物行った帰り…葵とお兄ちゃんが、いつもの店にいると思って…」
 「警部殿とは……今……別れた」
 「お兄ちゃん……一人で飲んでるの?」
 「いや、ストーカー先輩と一緒…」
 「あぁ、五月先輩ね……まだあんたの事、追ってるの?物好きたねぇ…」
 「だから今は行かない方がいい…」
 「そうする……お兄ちゃんに任せよう。帰ろっか…葵…」
 美夢も五月に絡まれ、根掘り葉掘り聞かれて少し『五月アレルギー』になっている。
 葵と美夢は五月を宗吾に任せて、帰る事にした。
 今日は綺麗な月が出ている。
 葵が月を眺めて言った。
 「今日は……半月か……」
 「綺麗だねっ!やっぱ人間…太陽と月は必要だよ」
 「そうだな…」
 「お兄ちゃんが言っていたよ…「昼は太陽で夜は月…それだけで酒は美味い」って」
 「酒好きの警部殿が言いそうな、酒を飲む口実だな……でも…その通りだと、僕も思う…」
 やはり人は太陽や月の光に照され、地に足を着けて生きて行けるから…。
 命は…儚くもあり、美しい…。




 ……某日…午後……




 葵は秋の少し肌寒い中、人が溢れる街中を歩いていた。
 葵は歩と有紀に合う約束をしていた。
 人混みの中葵は待ち合わせ場所の喫茶店へ向かう。
 街の大きな交差点を、覆うように架かっている、巨大交差点を渡っている時だった。
 交差点の上も人が多い…だがその中で確かに聞こえた。


 「I saw again.(また会えましたね)」


 その声に葵は反応した。


 「I do not lose is time.(今度は負けませんよ)」


 声の主を探すが、人が多すぎて…わからない。
 辺りをキョロキョロする葵の、服の袖を引っ張る者がいた。
 葵が袖先の方へと視線を移すと、子供がいた。男の子だ。
 「君は?…」
 男の子は言った。
 「これお兄ちゃんに渡してって…」
 「誰に?…」
 「もう行っちゃった…」
 笑顔の可愛らしい男の子から、茶封筒を手渡された。
 葵は辺りを見渡したが……人が多すぎてわからない。
 やがて男の子を呼ぶ声がした。
 「ママだっ!…バイバイ」
 男の子は母だと思われる女性の方へと、走って行った。
 葵は男の子に手を振り、そして封筒の中身を見た。
 それを見た葵は、思わず笑った。
 「ふふふ……面白い」
 

 「僕も…楽しみですよ…」


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