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ノベルバユーザー329392



 パジャマ姿の愛美が、部屋のドアの前に倒れている……血を流して……。
 葵はこの最悪の状況を確認すべく、有紀に説明を求めた。
 「有紀さん……なるべく簡略な説明を…」
 「私も今来たところだ。葵……検死を手伝ってくれ…」
 「わかりました、僕は上半身を……有紀さんは下半身をお願いします…」
 二人のやりとりに山村は止めに入った。
 「何をするつもりです!?人が………こんなに血を流して…何なんですかっ!?あなた達はっ!?」
 山村はかなり動揺している。何を言っているのか、いまいち理解できない。
 九条が山村を抑えた。
 「山村さんっ!落ち着いて……今はこの二人にまかせよう!」
 しかし山村は引かない。
 「九条さんはっ!どうして落ち着いてられるんですっ!?人が…人が…」
 九条は大声で言った。
 「僕だって!…気がどうにかなりそうだよっ!でも…周りを見てよっ!」
 山村はハッとして周りを見た。
 女性陣はこの状況と二人のやりとりに怯えている。
 九条は気を落ち着かせるように言った。
 「僕たちが……できるだけ冷静でなければ……誰が皆を守れるんですか?…」
 九条にそう言われると、山村は肩を落とした。
 すると光一が山村の肩を叩いた。
 「船長殿……九条殿のいう通りだ…」
 葵が言った。
 「では、検死にとりかかります…」
 歩が言った。
 「ちょっと待って葵君……ここは二手に別れよう……検死組と待機組にね……女性陣にここの空気は辛い…」
 有紀が賛同した。
 「そうだな……女性陣と山村氏、それに未成年の順平を連れて九条氏は、パーティールームで昨夜の各自の状況を聞いてくれ…警戒は怠るなよ…」
 九条が言った。
 「そうするしかないね……了解した…」
 そう言うと九条は有紀に言われるまま皆を連れて、パーティールームへ向かった。
 葵が言った。
 「それでは検死を始めます。歩さんと堂島先生は周りを見張って下さい…」
 葵に言われ二人は黙って頷く。
 葵は愛美のパジャマのシャツに手をかけて、言った。
 「愛美さん……失礼します…」
 シャツの右胸元には丸い焦げあとがある……それを確認すると葵はシャツを脱がせた。
 愛美のつめたい肌が露になる……出血元は…右胸元の傷。位置的に動脈を傷付けてしまったのだろう。
 葵が言った。
 「死因は……動脈損傷による、出血多量死か……おそらく肺も損傷してますから、呼吸不全のどちらかですね。シャツの焦げ跡と傷の形状から、拳銃による他殺ですね…因みに弾丸は貫通してません」
 有紀が言った。
 「死後硬直の感じから、死亡推定時刻は……6~7時間前の、午前1時~2時の間だな」
 歩が言った。
 「この出血量だ……紫斑は、おそらく出てないな…」
 葵は愛美の部屋の中を調べようとし、ドアに手をかけが……しかしドアは開かなかった。
 だが、葵は閉ざされたドアの淵を見て何か気づいたようだ。
 「部屋の中で殺害されたようです…」
 歩が聞いた。
 「どういう事?」
 「ここを見て下さい…」
 葵が指す方を、歩と光一が見た。
 葵が言った。
 「ドアに血痕が付着してません……弾は貫通していないので、それは不自然ではありませんが、問題はドアの淵です」
 明らかに引きずった血の跡が、ドアによって完全に切れている。
 歩が言った。
 「じゃあ、犯人は部屋の中で殺して……外まで引きずって来たって事?でもそれって…」
 葵が言った。
 「ええ……そうです……犯人は『死体を見つけさせたかった』て、事になります」
 光一が言った。
 「どういう事だ?」
 葵が言った。
 「殺害したのを隠したいのなら、部屋の中で殺して……鍵を奪い、ドアを施錠して、死体を隠しておけばいいのですから…」
 光一が言った。
 「だが、それでは……時間が経てば異変に気付くぞ…」
 葵が言った。
 「その通りです……何時間、何日も引きこもるのは無理があります。ですが……1~2日後くらいに、遺書か何かを、隙を見てドアの隙間に挟んでおけば?…」
 歩が言った。
 「自殺を装おえる…」
 「そうです……だが、犯人はわざわざ死体を外まで引きずり出してます…「見つけてくれ」と、言わんばかりに…」
 光一は考え込むように言った。
 「いったい何の為にだ?そもそも誰がこんな事を?」
 葵が言った。
 「確かに犯人が誰なのか?……それは重要ですが、それよりも厄介な事が…」
 歩が言った。
 「相手は拳銃を所持している…」
 葵が言った。
 「ええ……ですから、まず身の安全の確保からです…」
 「とりあえず、弔ってやろう…」
 歩が愛美を抱き上げようとすると、葵が言った。
 「どうするつもりですか?」
 歩は葵に対して、不信感を漂わす感じで言った。
 「どうするって……このままじゃ、可哀想だろ?」
 「ダメです……死体はこのままにしておきます、試したい事があるので…」
 歩は勢いよく立ち上がり、葵の胸ぐらを掴んで葵に怒鳴った。
 「試したい事だってっ!?これ以上何をするってんだ!」
 葵は歩の目を見て、歩とは対象的に冷静に言った。
 「必要な事です……だから死体はそのままに…」
 歩は葵が言葉を言い終えるのを、待つことなく葵の左頬を勢いよく殴った。
 葵はそのまま倒れこみ、歩は葵に馬乗りになり、またも胸ぐらを掴んで勢いよく言った。
 「君はっ!……君は人の命を何だと思ってるっ!?仲間だったんだぞっ!会って間もないけど……仲間だったんだぞっ!」
 葵に抵抗する様子はまるでない。
 だが、葵はまたも冷たく歩に言った。
 「気がすみましたか?…」
 葵の言葉に歩の感情はさらに爆発する。
 「君はっ!………」
 さらに葵を殴ろうとする、歩の右手を有紀が止めた。
 「そこまでだ……」
 有紀に右手を抑えられ、歩も少しだけ落ち着いたのか……黙って葵の胸ぐらを離した。
 葵はゆっくり立ち上がり、そして言った。
 「歩さん、僕は……この歳で、多くの人の死に関わってきました…」
 歩は葵に背を向けたままだ。
 葵は気にせず続けた。
 「ですが、僕は今まで一度でも……人の命を軽んじた事はありませんよ。もちろん、今回も……」
 歩は声を振り絞るように言った。
 「わかっているよ……」
 歩は少しだけ震えている。仲間を死なせた悔しさ……自分の無力さか……。
 すると光一はいつの間にやら、転送倉庫から何かを取り出している。
 葵と歩か揉めている間に用意したのか……因みに光一の部屋は愛美の隣の06番なので、転送倉庫は光一の部屋の裏にある。
 光一は取り出した物を持って来て、揉めていた二人に言った。
 「収まったか?二人とも」
 有紀が聞いた。
 「堂島氏、それは?」
 光一が有紀に答えた。
 「防臭機能がある寝袋だ。二人の言い分はわかった……だが、彼女をこのままにしておくわけにはいかん…」
 有紀が言った。
 「なるほど……その寝袋に入れて、寝かせてやると…」
 「そうだ……。二人とも異論はないな?」
 葵が答えた。
 「ええ……ご配慮感謝します……堂島先生…」
 「いや、渡辺殿が殴らなかったら………儂が貴殿を殴っていたかもしれん……儂も激情家だからな…」
 「……でしょうね……」
 「ただ、月島殿の今までの言動から、貴殿が非凡なのはわかる。だから殴らなかった……それだけだ…」
 有紀が言った。
 「そろそろ戻ろう……皆をあまり待たすと、余計な不安がでる」
 パーティールームに戻る道中、有紀が葵に言った。
 「派手に殴られたな…」
 有紀の言うように、葵の左頬は少し痣ができている。
 有紀は葵に聞いた。
 「なぜ、避けなかった?お前なら避けれただろう?」
 葵は答えた。
 「僕に油断があったからですよ……この島に来た時点でもっと警戒するべきでした。完全に油断しました…」
 「気を引き締めるためにも、わざと殴られたと?」
 「そうです……自分への怒りでいっぱいですよ…」
 そう言った葵は拳を握りしめている。
 そんな葵に有紀は言った。
 「あまり自分を責めるな。お前のせいではない……現に我々大人達も呑気にしていたのも事実だ…」
 葵は返事をすることなく黙っている。
 有紀は続けて葵に言った。
 「歩の事だが………許してやってくれ…」
 「僕には非があります……殴られて当然です…」
 「それもあるが………あいつは誰よりも人の命を重んじている……ここにいる誰よりも…」
 葵は少し考えて言った。
 「それはわかってます……それもあったので殴られました。彼はただのカメラマンではありませんね…」
 有紀は葵の問いに、答える事はなかった。
 葵は有紀の様子を察して言った。
 「有紀さんに聞くことではありませんね……後で本人に聞きます…」
 「そうしてくれ……今のあいつなら答えてくれるだろう…」
 葵は歩に殴られた左頬を、さすって言った。
 「痛いですね……色々な意味で…」
 

 色々な思い残す左頬は……。


 ただ…ただ…痛かった……。





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