choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

殺害方法

葵が取り出した物を見て、有紀が言った。
「それは……絵か?」


有紀が言うように、葵は1枚の絵を包まれた布から取り出した。


葵が言った。
「そうです…絵です。これを使って祥子さんは、九条さんを毒殺したんです…」


五月は意味がわからないと、いった表情だ。
「絵?…そんなんでどうやって?」


五月の言うこともわかるくらい…とても殺人を犯すような絵には見えない。


キレイで自然を最大限に表現した、森の絵だった。


葵が言った。
「見ればわかりますが…森の一部が削れています…」


五月は言った。
「ほんとだ…森が削れてる…、勿体ない…。でもそれが何?」


葵は言った。
「この削った部分を使って、九条さんを殺害したんですよ」


有紀も五月も目を見開いた。
祥子に至っては下を向いた。


有紀が言った。
「説明してくれ、葵…」


葵は言った。
「シェーレグリーンです…」


有紀が言った。
「シェーレグリーン……。そうか…」


葵は言った。
「そうです絵の感じからしておそらく18世紀位の絵です…。その頃使われていた顔料はシェーレグリーン…」


有紀が言った。
「ヒ素化合物…そうか、だから九条氏から胃液の臭いがでていたのか…」


葵が言った。
「ヒ素による症状は…嘔吐、下痢などもありますからね」


五月が言った。
「ヒ素って、あのヒ素?…。そんな危ない物を顔料に使っていたわけ?」


葵が言った。
「当時はさほど珍しくなかったそうです…。現在は使われていません…」


祥子はまだ下を向いている。


葵は続けた。
「そうしてヒ素を手に入れ、九条さんの部屋に侵入し、紅茶やコーヒーに使用するポットに、ヒ素を混入させた…」


五月が言った。
「でも、九条さんがそれを飲むとは限らないんじゃ?」


葵は首を横に振った。
「九条さんは、朝昼晩の集合時間に遅れる事はなく、いつも一番か二番にだいたい来ていました…」


有紀が言った。
「そうか…祥子の部屋は九条氏の隣…」


葵は言った。
「そうです…、つまり祥子さんは九条さんが部屋を出た後に、九条さんの部屋に侵入し…食器や生活用品などをチェックし、ある程度の行動パターンを把握したのです」


有紀が言った。
「なるほど…九条氏は几帳面だ、したがって、行動パターンも読みやすい…」


葵が言った。
「つまり、この殺害方法ができるのは…、絵画に詳しい人間である…」


「祥子さんっ!…あなたにしかできない犯行なのですっ!」


葵に真相を暴かれる格好となった祥子は…呆然とした。


葵は言った。
「何故ですか?…何故こんな事を…。ただ絵を描きたいがために人を殺したのですか?」


祥子は立ち上がった。


「まだよ…まだ終わりじゃないわ…」


祥子は薄ら笑いで包丁を取り出した。


祥子は言った。
「さぁ出てきなさい…」


すると祭壇の裏から、ロープで両手の自由を奪われた亜美とマリアが現れた。


二人とも口は布で結ばれ、声が出せなくしてある。


祥子は言った。
「そうよ…私がやったの…」


異常とも言える光景を目の当たりにし、葵ら3人は反射的に身構えた。


葵は言った。
「屋敷に火を放ったのも…」


祥子は答えた。
「そうよ……火を着ける前に、愛を刺したわ…」


愛を刺した事実を聞いた3人は唖然とした。


五月が言った。
「どうして…愛さんまで…あんたいったいどういうつもりっ?!」


五月は怒りを露にした。
しかし、祥子は気にすることなく言った。
「取り乱したからよ…、彼女は渡辺歩とこの世界で生きていく事を選んだのに…、渡辺歩に説得され心が動いた…。だから殺した…それだけよ…」


淡々と語る祥子に五月はさらに怒りを露にした。
「あんたはっ!…」


有紀が五月を制した。
「待て…五月…。祥子、歩はどうした?…」


祥子は答えた。
「あなたは彼の相棒みたいなものでしょ?…ふふ、でも残念…、私をすぐに追えばよかったのに…。彼は愛の延命処置を選んで、行動が遅れたわ…、そのおかげで、私の放った火から逃げ遅れた…」


有紀は祥子を睨み付けている。


祥子は気にせず言った。
「彼も、逃げ遅れた赤塚も…今頃消し炭よ…。ふふ、あはははははっ!」


祥子は気が狂ったように笑い出した。


葵は言った。
「そこで火から逃れるように出てきた二人を拘束し、今の状況ですか?…」


祥子は笑うのを止めて言った。
「ふんっ…、この状況でも冷静なのね…可愛くない…」


葵は言った。
「あなたこそ…わかっているのですか?もうこのゲームは詰みですよ…」


しかし、祥子は引かない。
「それはどうかしら?…」


葵は言った。
「冷たい言い方ですが、彼女二人に…人質としての価値はありませんよ…、脱出すれば生き返るのですから…」


確かに葵の言う通りだか、それでも祥子は引かない。
「刺し違えてでも、月島君…あなたを殺せばこの世界は崩壊しない…」


葵は言った。
「解せませんね…どうしてそこまでこだわるのですか?怪我でしょ…」


祥子はまた笑い出した。


葵は続けた。
「医学は日々進化を遂げています…あなたの手が重症でも、生きてさえいれば…まだ可能性がありますよ…」


葵の話を聞いても、祥子は笑うのを止めない。


葵はさらに続けた。
「もう止めましょう…僕はあなたを殺してでも、この世界から脱出しますよ…」


葵はかなり物騒な事を言っているが、葵は本気だ。


人質が殺害されても、誰か一人が脱出すれば…全員が生き返る。


しかし、祥子は引かない。それどころか、さらに笑いながら言った。
「ふふふ、あははははは…、もう…遅いのよ…」


葵は顔をしかめた。
「遅い?…」


祥子は言った。
「取り返しがつかないのよ…、だから刺し違えても、あなたを殺す…」


葵が言った。
「何故そこまでこだわるのですか?」


祥子は言った。
「言われたのよ「この世界はあなたの物」だと…だから、あなた達を全員殺して、人を入れ替える…私の思想にあった人間に…」


葵は呆れた。
「神にでもなったつもりですか?…」


祥子は言った。
「それもいいわね…」


葵は考えていた。
祥子は何故そこまでして、この世界に執着するのか…。


画家のプライドか?いや、違う…。
最初は画家のプライドかもとの世界に戻るのを拒否していると、思ったが…どうもそうでは無さそうだ。


ではこの執着心は?
この異常さは、生に対する執着に近い…。だとすれば、脱出に賛成するはず。


その時葵の脳に一つの可能性が現れた。
「祥子さん…あなた、まさか…」


祥子は笑って言った。
「やっと気付いたみたいね…あなたは一つだけ間違えた…」


「私は…すでに死んでいるの…」


祥子の衝撃告白にその場にいる全員が、言葉を失った。


すでに死んでいるとは?いったい…。

















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