choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

独占欲の果てに…①

葵、有紀、五月の3人は屋敷を出て、湖へ向かった。


するとすぐに異変に気付いた。


予想通り陸の遺体は、歩が用意したビニールシートを残し、キレイに消えていた。


葵は言った。
「やはり…消えていますね…」


五月は目を丸くして言った。
「これが……、リセットのルール…」


五月の反応を見て有紀が言った。
「五月の反応が普通だ…驚くのもムリは無い…。遺体が消えたのだから…」


葵は険しい表情で、髪をクルクルさせている。


それを見て有紀が言った。
「どうした?そんなに考え込んで…」


葵は唐突に言った。
「陸さんは……、本当に正午以降に殺害されたのでしょうか…」


五月が言った。
「急に何を…」


葵は続けた。
「僕は根本的に間違っていたのかも…」


有紀は興味津々で聞いた。
「どういう事だ?」


葵は自分の考えを言った。
「リセットのルールを逆手にとって…『死亡したのは正午以降』と、思い込ませたのでは?」


今度は五月が興味津々で聞いた。 
「つまり?…」


葵は説明した。
「陸さんは正午前に刺され、正午を過ぎた時に生き絶えた…。つまりこれなら、正午前に犯行を行うことは可能です…」


有紀が言った。
「犯人は時間を逆算して犯行を行ったと?…」


葵は言った。
「そう考えると、つじつまが合ってきます」


葵は続けた。
「犯人は11時30分頃に、陸さんを湖に呼び出し…陸さんの腹部と胸部を、それぞれ刺して逃走した」


有紀が言った。
「その時間なら屋敷を密かに抜け出すのも可能だな…」


五月が言った。
「じゃあ、12人目は?…部屋には人がいた痕跡があったよ…」


葵は言った。
「それが、そもそも引っ掛かります…。確かに使った形跡はありますが、生活感は全くありませんでした…」


有紀が言った。
「まさか……」


葵は言った。
「一つの仮説ですが、12人目は……最初から居なかった…」


五月はよくわからないと、いった感じでだ。
「もう訳が…」


葵は言った。
「犯人は…空き部屋を利用して、僕たちに『12人目』という、架空のじんぶつを植え付けた…」


葵の衝撃的な架設に、五月は呆然とした。


……同刻…屋敷……


葵ら3人が屋敷を出て行った後、歩ら…屋敷に残ったメンバーは、陸の部屋を調べる相談をしていた。


歩が言った。
「とりあえず、俺…見に行くよ…」


すると愛が言った。
「私も行きます…一人じゃ危険です」


歩は少し考えた。
歩はマリアを連れていくつもりだった。


マリアを置いていく訳にはいかない理由があった。


葵にマリアから目を離すなと、頼まれた手前…マリアを食堂に残して行くわけにはいかない。


歩は言った。
「じゃあ、マリアちゃんも行こう…。いいかな?愛ちゃん…」


歩の提案に愛は少し考えたが、受け入れる事にした。
「わかりました…、じゃあ、3人で行きましょう…」


結局、陸の部屋には…歩、愛、マリアの3人で行く事になり…、赤塚と亜美は食堂に残る事になった。


歩は言った。
「じゃあ、赤塚さん…、亜美ちゃんを頼みます…」


赤塚は不安を圧し殺した表情で言った。
「わかりました…、扉を締め切って閉じ籠りますので……戻ってきたら何か合図を…」


歩は少し考えて言った。
「う~ん、そうですね…じゃあ、ノックを3.3.7拍子でするんで…」


赤塚は納得するしかなかった。
「わかりました…くれぐれも、気を付けて…」


そうして、3人は食堂を出て陸の部屋に向かった。


陸の部屋に到着した3人は辺りを警戒しつつ、部屋に入る心の準備をする。


歩がドアノブに手をかけて言った。
「……開けるよ?…」


愛は黙って頷いたが、マリアは無反応だった。


歩は扉を開けた。


歩はある程度予想していたので、驚きは少なかったが…愛は目を見開いて驚いている。


マリアは相変わらず無反応だった。


愛は言った。
「聞いてはいたけど……いざ目にすると、やっぱり驚きます…」


陸の部屋には何も残されていなかった。


歩が言った。
「これがリセットのルールさ……、いつ体験しても、胸糞が悪いよ…。この世界では、死んでしまったら…生きていた証が消滅するんだ…」


歩は険しい表情をしている。
愛は意味深にその表情を見つめている。


歩は言った。
「とにかく部屋を調べてみる、愛ちゃんはマリアちゃんと、ドアを閉めて入口付近で待っていて…」


歩はそう言うと、部屋を調べ始めた。


歩は隅々まで部屋を調べたが、陸の持ち物などは残っていない。


洗面所を調べ終わった時だった。


ドンッと、入口の方で音がした。


歩は反射的に音に反応し、入口を確認した。


歩は自分の目を疑った。


「愛ちゃん?……何を…」


歩の目に写った光景は、愛がマリアの背後から手を首に回し、包丁を当てている。


歩は全身に緊張感が走った。


「愛ちゃん…なんのまねだ?」


愛は涙を流しながら、うすら笑みを浮かべている。


「もう……嫌よ…」


愛が一連の事件の犯人で無いことは、ほとんど一緒にいた、歩はわかっている。


「いったいどうしたんだ?」


「わかってるでしょ?…私の気持ちを…」


「だからって…」


歩は少し動いた。しかし、愛はそれを制するように叫んだ。
「動かないでっ!…この娘を殺すわよっ!」


歩は両手を上げて言った。
「何が…望みなんだ?」


愛は興奮ぎみに言った。
「私は……、もとの世界になんて…帰りたくないっ!…。私は、あなたとこの世界で…、あなたと一緒に生きたいの…」


愛はかなり興奮している。へたに刺激をすると、マリアが危ない。


「わかったよ…、とにかくマリアちゃんは離してやってよ…」


「この娘を離したら…あなたは、私を……」


歩は愛の警戒を解くために、笑顔で言った。
「君に危害は加えない…約束する。それにマリアちゃんは俺たちの事情に関係ないだろ?」


歩にそう言われると、愛はマリアを離した。


しかし、愛はマリアの変わりに、包丁を自分の喉元に向けて構えた。


歩はマリアに言った。
「マリアちゃん…悪いけど、先に食堂に戻ってくれないか…、俺、愛ちゃんと話があるから…」


マリアは黙って頷いた。


歩は笑顔で言った。
「走って戻るんだよ…食堂のノックは3.3.7拍子で、赤塚さんが開けてくれる…」


マリアは再び黙って頷いて部屋を出ていった。


マリアが外に出たのを確認して、愛は部屋の鍵を閉めた。


歩は言った。
「いつまでそうしているんだい?」


愛は黙っている。


歩は言った。
「もとの世界に帰っても…、俺たちはまた会える…」


愛は激昂した。
「ダメなのよっ!私は…帰れないっ!帰ったら…」


「どういう事だい?」


「私は…、帰ったら……」


愛の涙は止まらない。


そして、叫んだ。
「私は…、帰ったら、死ぬのよっ!」


愛の突然の告白に、歩は言葉が見つからず…ただ立ち尽くすしかなかった。


……芸術館……


一方、湖をあとにした3人は、芸術館に来ていた。


「必ずここに秘密があるはずです…」


そう言って葵は絵や彫刻を調べている。


有紀が言った。
「先程の話だか…12人目が存在しないとなれば…」


葵が答えた。
「おのずと犯人は絞られてきます」


五月が言った。
「だ、誰なの?」


葵が答えた。
「祥子さん、赤塚さん、亜美さん、マリアさんの4人です」


有紀が言った。
「それでもまだ4人か…」


葵は絵画を手にとり、丹念に調べている。


すると手に取った絵画を調べていると、何かを見つけた。
「これは?…絵が欠けている…」


葵は絵画を裏返した。
「額が外れた痕跡がある…」


葵は絵を置いて、髪をクルクル回し始めた。


有紀が言った。
「どうしたんだ?葵…」


葵は有紀の声が聞こえていないのか、置いた絵を見つめて、髪をクルクル回している。


今度は五月が言った。
「ちょっと、月島葵っ!…聞いて…」


五月の言葉を遮るように葵が言った。
「そういう事か…」


有紀が言った。
「何かわかったか?」


葵は一人でぶつぶつ言っている。
「これを使えば…」


そして、葵は有紀に聞いた。
「有紀さん僕たちがこの世界に来るまでの間、誰が食事係りを?」


「特に……決まってはいなかったが…」


葵は二人に言った。
「屋敷に戻りましょう…皆が危ない…」


葵は屋敷に向かって走りだした。


有紀と五月は訳がわからないまま、葵を追うしかなかった。

















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