choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

衝撃

皆での朝食を終え、屋敷を出た葵は五月を連れて植物館に向かった。


意外にも葵が五月に申し出た。


五月は機嫌良く言った。
「あんたから誘ってくるとは、やっと私の実力を…」


遮るように葵が言った。
「カメラに収めてほしいだけです…」


五月は何か言いたそうだったが、こらえた。
「ぐっ…、まぁいいわ…」


植物館に到着し葵はさっそく植物を物色し、五月は写真を撮りまくっている。


すると葵は何かに気付いた。
「鏡…」


初日に来た時は気付かなかったが、植物の中に、少し大きい正方形の鏡が確かにあった。


「初日の違和感はこれか?…」


葵が呟いていると、五月も何か見つけたようだ。
「月島葵っ!上、上見て…」


「上?…」


五月に言われるまま葵は天井を見た。


天井には、何もない空が見える穴と、そのそばに1枚の鏡が付いていた。


「鏡…、また…」


五月が不思議そうに言った。
「何に使うんだろ?…」


葵は髪をクルクルし始めた。
「併せ鏡か…しかし、何のために…。それに初日に感じた違和感と少し違う…まだ感じる、違和感を…」


五月が言った。
「何ブツブツ言ってんの?」


葵は呆れて言った。
「緊張感の無い人ですね…、僕に協調性が無いと言う前に、あなたは緊張感を少し持った方がいい…」


五月は怒りの表情で言った。
「なぁにぃっ!」


葵は気にすることなく言った。
「次へ行きますよ…」


二人は植物館を後にした。


植物館を出た二人は、教会へ向かった。
教会は屋敷の部屋の丁度裏側で、植物館からは役100m程の距離だ。


教会に入りさっそく葵はある物を探し始めた。


葵を見て五月が言った。
「ここ、写真だいぶ撮ったからな…何を探してるの?」


葵は入り口を指差し言った。
「ありました、鏡です…」


五月は不思議そうだ。
「またぁ?」


「ええ、また鏡です…」


その鏡は入り口の真上にあった。
正方形で70~80cm程の長さで、植物館にあったのと大きさは変わらない。


葵は天井を見た。
「また鏡だ…」


天井には植物館と同じく穴が空いていて、また鏡が備え付いてある。


葵は髪をクルクルしながら言った。
「繋がっているのか?…入り口の鏡は祭壇を写している…」


五月が葵に言った。
「どうしたの?考え込んで…」


「少しカメラを貸して下さい…」


五月は嫌そうな顔で言った。
「別にいいけど…壊さないでよ…」


葵は五月からカメラを受けとると、祭壇の上に置いた。


鏡はカメラを写している。


葵は口角を上げた。
「フッ、なるほど…」


「どうしたの?」


不思議そうな五月を、気にすることなく、教会を出て行こうとした。


教会を出る間際に五月に言った。
「カメラはそのままに…」


何がなんだかわからない五月は、葵を追いかけた。
「ちょ、ちょっと…まちなさいっ!」


教会を出た葵は、植物館に向かって走り出した。


植物館に到着した葵は、真っ直ぐに植物の中に混じっている鏡へ向かった。


鏡を確認した葵は口角を上げた。
「フッ、やはり…」


その頃五月も到着して葵に言った。
「なによ……、急に走り出して……」


葵は何かブツブツ言っている。
「…後は…、あの球の正体を…、しかし、あの球はいったい…」


五月が言った。
「何をブツブツ言ってんの?…」


五月に気付いた葵は鏡を指差した。
「来ましたか…鏡を見てください…」


「鏡?…どれ…」
五月は鏡を覗き見た。


中に写っている物を確認して言った。
「これっ!私のカメラ…なんで?」


葵は言った。
「教会の鏡と植物館の鏡は…繋がっているんですよ…」


「何のために?」


葵は言った。
「それはまだ、はっきりとはわかりません」


五月は口を尖らせた。
「なんだ…」


「でもこれだけは言えます…」


五月はまだ口を尖らせている。
「なによ?…」


葵は口角を上げた。
「脱出に関わる事は間違いないでしょう…」


五月は表情を明るくして言った。
「だったらもうすぐ帰れるんじゃ…」


「まだピースが揃っていません…」


「ピース?…」


「確証が無いので、何とも言えません…」


五月は残念そうに言った。
「そっか…」


「しかし、そう遠くは無いです…。さぁもう12時20分です、屋敷へ戻りましょう…」


二人は植物館を出て屋敷に戻る事にした。


すると植物館を出て屋敷に向かう最中だった。


反対の芸術館の方からその声は聞こえた。


「キャーッ!…だ、誰かきてっ!…誰かっ!」


反射的に葵は五月に言った。
「先輩っ!カメラを取りに行ってすぐに、悲鳴の聞こえた方へっ!」


五月は表情を強ばらせて言った。
「わっ、わかったっ!」


葵は悲鳴の聞こえた方へ走って行った。


「何が?…まさか…」


屋敷から歩と有紀が出てきて、葵と合流した。


歩が葵に言った。
「聞こえたか?」


「はい…、誰の悲鳴かは…」


有紀が言った。
「おそらく…亜美だ、亜美の悲鳴だ…とにかく行くぞ」


3人が向かった先、小さな湖のほとりに亜美がいた。


亜美の足元に誰か倒れている。


歩が言った。
「亜美ちゃんっ!いったいどうし…」


歩も倒れている人がいる事に気付いたようだ。


有紀が言った。
「歩っ!亜美を頼む…、葵…」


「わかってます…」


うつ伏せに倒れている男性がいる。


男性の下には大きな血溜まりがあった。


葵は男性に近づき、男性の確認をした。
陸だった。


葵は脈をとった。
「くっ、だめだ…」


呼吸に心音も確認したが…、陸は既に息絶えていた。


有紀が言った。
「葵…」


「ええ…死んでます…」


亜美は呆然としてその場で崩れた。


歩が亜美を支えた。
「亜美ちゃん、しっかり!」


やがて、五月、九条が現場に到着し、祥子と愛、マリア、赤塚が到着した。


葵は地面を思いっきり殴った。
「くそっ!…また…、また繰り返すのか…。くそっ!」


目の前で起こった人の死に、皆は呆然とするしかなかった…。


静かなこの球体の世界で、葵が地面を殴る音が虚しく響いていた…。













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