choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

調査

タクシーで九条のオフィスへ向かう途中、車内でアマツカの話を葵と歩はしている。


葵は歩道橋の上で、子供に貰った封筒の中身を、歩に見せた。


中には一枚の紙切れがはいっていた。


葵は紙切れを歩に渡した。
それを受け取った歩は、内容を確認した。
「これは……」


紙切れには…。
『今夜あなた達を、楽園にお連れします…』と、書いてあった。


葵は言った。
「実に興味深いです…しかも先手を打たれています…どうやら僕の行動は筒抜けです…」


歩が言った。
「この『あなた達を』って、ところかい?」


「はい…それはすなわち、僕が歩さんと一緒にいる事を、把握しているという事を示してます…それに…」


「それに?…」


「封筒を僕に渡したタイミングです…。あのタイミングで渡すには…僕を監視してなければ難しい…」


「監視……」


「ええ…どうやら、もう一人ストーカーさんがいたようです…」


「後手後手だな…」


葵は開き直ったように言った。
「それは仕方ない事です…、ステージは相手が用意するんですから…あと、紙の裏を見て下さい…」


歩は紙の裏を見た。
「Webアドレスと、23時00分…、これって…」


「『その時間に、そのアドレスを開け』と、指示しているのでしょう…」


歩は不思議そうに言った。
「しかし、これじゃあ…「罠ですよ」って、言ってるようなもんだぜ…」


葵は髪をクルクル回しながら言った。
「だから、九条さんと、有紀さんを『先に送った』のですよ…」


歩は不愉快な表情で言った。
「チッ!やり方が…汚い…」


「アマツカはわかってるんですよ…。
僕はともかく、歩さんは仲間を見捨てないと…、まぁ…僕も見捨てるつもりはありませんが…」


後部座席の真ん中に座る羽目になった五月は、左右で飛び交う二人の会話に理解できずいた。


「あの~、さっきから何を?九条さんって、あの九条司?…それに有紀さんって、さっきの綺麗な女の人ですよね?…。
送ったって、どういう事?ベッドで寝ていたし…、そもそもアマツカって?…」


歩は言葉を濁している。
「う~ん、説明すると長くなるね…」


葵が言った。
「もうつきそうですよ…」


五月の疑問をうやむやにするように、タイミングよくタクシーは目的地に到着した。


タクシーを降りた3人のまえには、綺麗なオフィスビルが並んでいる。


歩は九条のオフィスがあるビルを目指した。


「ここだ…」


九条のオフィスを目の当たりにした、3人は思わず、たたずんだ…。


「以外としっそですねぇ…」


葵が言うように、九条のオフィスビルは周りの豪華なビルと違い、シンプルな赤茶色のビルだった。


「このビルの5階が九条のオフィスだ…」
歩はそう言うと、ビルの入口へ向かった。


エレベーターに乗り込み、5階で降りると、正面に『Office-nineオフィスナイン』とかかれた表札が目に入った。


歩が言った。
「これが九条のオフィスだ、ここを拠点にして様々な事業を展開してるそうだ」


歩はOffice-nineの黒い扉を開いた。


開いた先は壮絶な光景だった。
4~5人の社員らしき者が、バタバタとしている。


電話対応に追われてる者や、棚から書類を引っ張り出し…それらを確認する者や、様々だ。


そのバタバタした社員の中から、一人の女性がやって来た。


葵ら3人を怪しげな表情で見ている。
「誰です?あなたたちは?…」


女性はチェックのシャツにジーンズと、ラフな格好をしている。


歩が言った。
「あの~、渡辺って言いますけど…山村さんから聞いてませんか?…」


女性は強張らせてた表情を軟らかくして、笑顔で言った。
「あぁ~、社長のご友人の…」


「はい、九条の仕事部屋に用があって…」


「はいっ!聞いてます聞いてます…ちょっと事務所、散らかってますけど…こっちです…」


書類の山や、段ボールで散らかっている、事務所の通路を通り、九条の仕事部屋へ向かう。


歩が言った。
「随分…なんだ…壮絶な光景だね…」


女性はげんなりした表情で答えた。
「社長が急に休むことになって、社内はてんてこ舞いなんです…。山村さんも社長に付きっきりだし…」


女性は愚痴りながら、九条の仕事部屋まで案内してくれた。
「ここです。鍵は持ってますよね?それでドア開けて、中に入って下さい…。じゃあ…私忙しいんで…。愛想無しですみません、ゆっくりしていって下さい…」


そう言うと女性は戻って行った。


葵が呟いた。
「九条さんがいないと、ダメな会社のようですね…」


扉を開いて九条の部屋に入った3人は、事務所と部屋のギャップに少し驚いた。


五月が思わず言った。
「違う会社みたい…」


五月の言うように九条の部屋はキレイに片付いていた。


黒をベースにした部屋に、棚や机、ソファーなどどれもキレイに使われている。


葵は言った。
「さっそくPCを…調べましょう…」


葵はデスクに置いてあるPCへ向かった。


葵はPCの電源をいれた。
しばらくすると画面が明るくなりホーム画面へ写った。


葵は手際よくPCを操作する。


そんな葵を見て五月は言った。
「勝手に…そんな弄くったら、まずいんじゃ?…」


葵は呆れて言った。
「PCの前で九条さんは倒れていました…調べるのは当然でしょう…」


「なんで、PCと昏睡が関係あんのっ?…そんなのおかしいよっ?…。
呪いのメールじゃ…あるまいし…」


葵は口角を上げて言った。
「呪いのメール…ふふ、確かにそうかも知れません…」


五月は笑う葵を不気味に思った。
「何が可笑しいの?…」


「怖いのですか?あなたはオカルトミステリーの美人代表でしょ…」


「私が不気味なのは、あんたよっ!」


「その不気味な人間を、ストーカーしてるのは…あなたでしょ…」


「私はストーカーじゃないっ!」


激昂している五月を宥めるように、歩は言った。
「まぁまぁ、五月ちゃん…落ち着いて…。葵君、何か気になるところある?」


「アマツカから受け取った、アドレスの履歴が残っていますね…」


歩は驚いて言った。
「なんだってっ?!」


「開こうと試みましたが……エラーですね…」


焦った感じで歩が言った。
「葵君、先々進むなよぉ…、心の準備ってのがあるんだから…」


葵は言った。
「ご安心を…最初から開くとは思ってませんよ…アマツカがそんなミスをするとも思えませんし、念のため試しただけです」


歩は言った。
「じゃあ…この紙切れは?…」


「時間が書いてあります…その時刻に開けるようになるのでしょう…」


「11時ってわけか…」


「とにかく、手懸かりを…何故九条さんを先に狙ったのか?…」


「そうだな小さな事でもいい…」


すると葵は五月に言った。
「ストーカーさん…その首にぶら下げているカメラで、部屋を一通り写して下さい…」


「だ・か・らっ!ストーカーじゃないっ!…。
でも、いいわ…撮影してあげる…、やっと私に協力指せる気になったみたいだから…」


「無理矢理ついてきたのですから…そのくらいの役に立ってもらわないと…困ります…」


「いちいち…一言多いわねっ!」


そう文句を言いつつ、五月はデジカメで部屋を撮影し始めた。


PCを操作する葵は何かを見つけたようだ。
「うん?…これは…」


「どうした?葵君…」


「九条さんは…どうやらアマツカについて調べていたようです…これを…」


そう言うと葵はPCの画面を見るよう、歩を促した。


「これは?『A&M companyカンパニー』?なんだこれ?…」


葵は髪をクルクルさせながら言った。
「『島』へのチケットは、この『A&M company』から、ばらまかれたようです」


「どういう事?」


「これは九条さんがまとめた資料ですが…見て下さい、チケットの配分先です」


九条の資料には、九条の会社Officenineから、チケットがいくつかの企業や団体、協会などに、渡っていることが記されている。


その内容に歩は驚いた。
「これは!星城商事せいじょうしょうじ、それに警視庁…財界に東鷹医大っ!これは…」


「そうです…あのチケットはここから、ばらまかれたのです…」


「まさか、九条がアマツカに関与しているって事なのか?…」


「それはわかりませんが…利用された可能性は高いです…」


「でもどうして…」


「株主優待と偽って、九条の会社にチケットを送り、それを配分したって…ところですか…」


「しかし、それではピンポイントで俺を狙えないぞ…九条が何処に配るかはわからないんだ…」


「確かに…では、このOfficenineにアマツカの内通者がいたら?…」


歩は目を見開き表情を固めた。


葵は「ふう」と、ため息を一つついて言った。
「僕たちは、アマツカの事を考え直さないといけませんね…」


「どういう事だい?」


「アマツカが一人ではないのは、わかってました…チームか何かは…」


「じゃあなんなんだい?」


「組織ですか…しかも支援者のいる…。
これは、厄介です…」


「支援者……、そうか、アマツカのユーザーか…」


「はい…。アマツカはあの時、『富豪達』と、言っていました…、多分それが支援者でしょう…賭博に参加する事により、多額の資金を提供しています」


「やっぱ…普通じゃないよな…」


話の大きさに歩はどこか乗り切れていないようだ。


歩とは対照的に、葵は楽しそうに言った。
「ただの愉快犯では無いのは、わかってましたが…最終的な目的は…興味深いです」


「楽しんでる場合じゃないよ…どうやって2人を助けるの?」


「とりあえず…むこうに行くしかありませんね…。招待状も、貰った事ですから…」


そう言うと葵は、例の紙切れをヒラヒラさせている。


歩は頭を抱えて言った。
「やっぱりな…」


「おや?アマツカを追うと決めたのは歩さんですよ…」


「いや、そうじゃなく…。出来れば葵君には関わらないで欲しい…」


葵は呆れて言った。
「やれやれ…まだそんな甘い事を言ってるんですか?…。
アマツカは僕もターゲットにしていますよ…現にこの紙切れは僕の元に届けられたのですから…」


歩は葵がこの状況を、楽しんでいる事に危惧していた。


「上手くは言えないけど…葵君はアマツカに関わらないで欲しい…」


「またですか…僕は、アマツカとは違います…ご心配なく…」


歩はこれ以上言わなかった。
葵に関わらないで欲しいのは、歩の本音だが、葵に頼らないといけない現実もある…。


歩は葛藤し、思わず呟いた。
「ほんと…情けない大人だよ、俺は…」


そんな歩を見て葵は言った。
「そんな事を言わないで下さい…歩さん達がいたから…前回は勝てたのですよ…」


歩は葵に返す言葉が見つからなかった。


葵は言った。
「資料の事は、向こうに行ってから…本人に聞きましょう…」


歩は言った。
「そうだな…腹くくるか、葵君…」


「なんです?」


「皆を…助けよう…」


葵は髪をクルクルし口角を上げて言った。


「もちろんです…僕を誰だと思っているんですか?…」















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