choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

プロローグ①

……2011年…秋……


秋の少し肌寒い中、オフィス街にあるオシャレな喫茶店があった。


喫茶店にはオープンテラスがあるが、誰も座っていない…肌寒いので昼間にもかかわらず誰も座っていないのは、そのためだ。


店内のクラシカルな空気に身を包みながら、月島葵つきしまあおいは一人で、アイスカフェラテを飲んでいる。


葵のかもし出す、インテリ感とその綺麗なルックスが、店内の空気と実に合う。


女性店員とOL客が、葵に見とれている。


「ふむ…やはりコーヒー6の牛乳4の割合でシロップ3つが…一番いい…」


クラシカルな店内に、クラシカルな音楽を堪能しながら、お気に入りのアイスカフェラテを口にする。


「相変わらずの甘党だな…」


店内とアイスカフェラテを堪能する葵に、一人の男性が話しかけてきた。 


話しかけてきた男性は葵の向かい側に座った。


「お久しぶりです、歩さん…」


歩と呼ばれる男性は、渡辺歩わたなべあゆむ…医師免許を持った、戦場カメラマンだ。


葵とは今年の夏に知り合った。
彼も葵とは違うタイプだが、いい男で…華奢な体つきに見えるが、実は筋肉質で肌が黒いので、いい意味で男くささがある。


歩は店員にホットコーヒーを注文した。


「で…歩さん…いつ帰国されたのですか?…」


「3日前だよ…変わらず元気にやってるかい?」


葵は癖のある髪を人差し指で、クルクル回しながら言った。
「特に変化はありません…退屈なものです…」


髪をクルクル回すのは葵の癖だ。


注文したホットコーヒーがきたので、歩は砂糖とミルクを入れ、かき混ぜながら言った。
「平和でいいんじゃない…俺は戦場カメラマンだから…」


「そうでしたね…失礼しました…」


「いや、気にする事ないよ…ところで美夢ちゃんも元気かい?」


美夢とは藤崎美夢ふじさきみゆ、葵の幼馴染みで、一緒の大学に通っている。


「相変わらずですよ…」


歩はどこかほっとした表情で言った。
「そっか…元気がなりよりさ…」


葵が切り出した。
「で…わざわざ帰国してすぐに、僕を呼び出したのは?…」


「君の顔を見たかった。ではダメかい?…」


「まさか……」


歩は少し表情を硬くして言った。
「九条が倒れた…」


その言葉に葵の顔も硬くなった。
「九条さんが?…なぜ?…まさか…」


「現在…昏睡状態らしい…。原因は不明だ…」


九条司くじょうつかさ…。衆議院議員、九条外務大臣の次男で、有名な青年実業家…。
歩と同じく夏の事件で知り合った。


葵は聞いた。
「で、今は?」


「有紀がいる大学病院で入院している…いくかい?」


「僕が行かないとでも?…」


「まさか…ただの病気なら、君は来ないだろうが…、九条は昏睡状態だ、君が来ないわけない…」


葵は立ち上がった。
「行きましょう…」


喫茶店を出てタクシーを拾った二人は、 九条が入院している、東鷹医大とうおういだいへ向かった。


若者やビジネスマンで賑わう街を、ふたりを乗せたタクシーは疾走する。


15分ほどで目的地に到着した。


タクシーを降りた二人は、受け付けに向かう…。


受付の女性に、歩は言った。
「九条司の病室は?」


受付の女性はしばらく、リストらしき物を確認して言った。
「九条様への面会は断るようにと、言われていまして…」


予想通りの答えだった。
九条は有名な実業家で、現大臣の息子だ…素性のわからない、葵と歩を簡単に通すわけがなかった。


「困ったなぁ…」


すると、こちらに一人の男性が向かってきた。


「渡辺様に…月島様…来てくださったのですか…」


歩はその男性に言った。
「山村さん…」


二人に話しかけてきたのは、九条の秘書、山村だった。


山村は今年の夏…葵達が乗り込んだクルーザーの船長だった人物だ。


夏と変わらず、物腰が低く…やさしい表情をしている。


「お久しぶりです…お二人とも」


山村はそう言うと、受付の女性に言った。
「このお二人は九条社長のご友人ですので、私が…」


受付に説明すると、山村は葵と歩を、九条の病室に案内する…。


道中、山村が言った。
「マスコミ対策のため、VIPルームを利用しています…」


歩が言った。
「わかります…あいつ有名人だから…。
それにしても、俺はこの病院出身なのにさぁ…素性不明って、失礼じゃない?」


「それはお前の見た目が怪しいからだ…」


愚痴を言う歩を制するように、その言葉は飛んできた…。


振り向いて声の主を確認すると…。


「有紀さん…」


葵が有紀と呼ぶ女性…。片岡有紀かたおかゆき、この病院の内科医で、歩の元同僚だ。


夏の旅にも、歩と参加した。
頭脳明晰な美人女医だ。


有紀は葵に優しく話しかけてきた。
「久しぶりだな、葵…。美夢は元気か?」


「有紀さんこそ、お変わりなく…。美夢も会いたがってましたよ…」


「ふっ…そうか…二人とも元気なら、それでいい…」


有紀は相変わらずクールだ。


すると歩が言った。
「あの~、有紀…俺も久しぶりじゃない?…」


有紀はいきなり冷たい視線で歩に言った。
「お前の事など、どうでもいい…てっきりどこかで、の垂れ死んでるかと思ったが…生きていたのか…」


この二人のやり取りも相変わらずである。


「なぁ、葵君…ひどくねっ?」


「それよりも今は九条さんです」


葵にまで気にされていない歩は、少し気の毒だか、それほどにこの二人のやり取りは…お約束ともいえる。


有紀が言った。
「私も動向しよう…主治医だしな…」


有紀も加えて4人は病室に入った。
葵と歩は病室の豪華さに驚いた。


歩が言った。
「成金かよぉ…」


歩がそう言うのもわかる…豪華すぎて、病室と言うより……、これではホテルのスウィートルームだ。


葵はベッドに横たわる九条を見た。
眠っている…歩の言うように、昏睡状態だろう…。


有紀が言った。
「九条氏が…ここに搬送されたのは、2日前の夜10時…そこにいる山村氏からこちらに連絡がきてな、極秘に緊急入院させた」


山村が言った。
「夏の事がありましたので、騒ぎを大きくするわけにもいかず…片岡先生に直接相談しました…」


葵が言った。
「マスコミ対策ですか…この件に限らず九条さんほどの有名人は、トラブルに合う可能性は、一般人と比べると高いですから…。ベストな判断でしょう…」


歩が言った。
「で容態は?…」


有紀が言った。
「うむ…心音、脈拍、呼吸は正常…。MRIで検査もしたが…異常無しだ…」


葵が言った。
「同じですか…あの時の僕たちと…」


「そうだ…まったくな…」


歩が言った。
「外で話そう…山村さん、九条を頼みます…」


「わかりました…受付には言っておきますので、いつでもいらして下さい…」


山村を残し3人は病室をあとにした。


病院内の喫茶店で3人は話す事にした。
ネーブルに着いた3人は、各自飲み物を注文し、話の続きをした。


有紀が言った。
「葵…どう思う?…」


「まだ何とも…九条さんが発見された時の状況は?」


「自分の会社の仕事部屋で発見されたらしい…机にうつ伏せになってな…」


「机…ですか…」


葵は髪をクルクルし出した…。
何かを考え込んでいる。


歩が有紀に言った。
「山村さんにあの事は?」


「話していない…山村氏にあの時の記憶は無いんだ、余計な事は伝えないほうがいい…」


「そうだな…まっ、話しても信じてもらえないか…」


すると葵がいきなり言葉を発した。
「会社…仕事部屋…パソコン…」


有紀が言った。
「どうした?葵…」


「有紀さん…九条さんは仕事をしていたんですか?仕事部屋にいたんでしょ?」


「ああ…山村氏の話によると、パソコンを使って業務をしていたようだ…」


葵は広角を軽く上げて言った。
「それです…」


歩が言った。
「何が?…」


「パソコンですよ…『鍵』は、パソコンです…」


有紀が言った。
「まさか…そうなのか?…」


「確証はありません、だが…九条さんの昏睡の原因が『あれ』なら…」


歩も何かに気付いたように言った。
「でも…どうやって?」


葵はまたも広角を上げた。
「ひとつ…方法はあります……」


有紀が言った。
「なんだ?その方法は…」


「コンピュータウィルスです…」


歩が言った。
「コンピュータウィルス?」


「あの『白い光』がでる、コンピュータウィルスを九条さんのパソコンに送れば…」


有紀が言った。
「そうか…出来ない事は無い…」


歩が言った。
「『ヤツ』の仕業だと…」


「原因がそれだとしたら…おそらく『アマツカ』の仕業でしょう…」


有紀が言った。
「動き出したのか…」


葵が言った。
「少し調べる必要があります…他に同じ症状の患者がいるかを…」 


有紀が言った。
「それは私が引き受けよう…」


「いいのですか?」


「医学で何とも出来ないんだ…その可能性は頭に入れておく必要がある…」


「感謝します…」


「気にする事ではない…記憶が残っている以上こうなる事はわかったいた…」


歩も言った。
「俺は前も言ったけど…協力するよ。いや、俺は…やらなければならない…」


葵は言った。
「今度こそ…アマツカの秘密を暴いてみせます…」


そらからしばし、3人で喫茶店で話をし、葵と歩は病院を出る事にした。



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