天才・新井場縁の災難

ノベルバユーザー329392

夏の屋敷と過去からの贈り物①

……ある日の午後2時……


 縁は近くのコンビニから自宅に帰るために、歩いていた。
 相も変わらず、外は暑い………猛暑日で気温は30度を超えている。
 この百合根町には、公園やグラウンド、川や小さな池などが多数あり、自然と接した町作りをコンセプトにしている。
 自然が多いためか朝から蝉の鳴き声が、騒音のように鳴り響く……その蝉の騒音が暑さを余計に際立たせる。
 縁は呟いた。
 「暑い……干からびそうだ……」
 コンビニで購入したアイスキャンディーを頬張りながら、縁は思わず呟いていた。
 アスファルトから放たれる、陽射しの照り返しを耐えながら縁は歩いてる。
 すると、大きな屋敷が見えてきた。
 縁の住んでいる家だ。
 縁の家は近所では有名な豪邸で、大きな豪邸に母と縁の二人で住んでいる。
 家に近づくと正門の前に誰かが立っていた。
 近づくにつれ、その人物の容姿や性別が確認できた。
 「うん?あれは……確か……」
 正門の前には縁と同い年くらいの女子が立っていた。
 黒のロングヘアーを後ろで束ねており、ノースリーブの白いワンピースを着ている。
 縁はその女子に声をかけた。
 「やっぱり……雨家さんだ」
 縁の声に気付き、縁に手を振るのは……縁のクラスメイトの雨家瑠璃あまいえるりだった。
 瑠璃は言った。
 「新井場君……よかった、ちょうど会えて……家が大きいからびっくりしちゃった」
 瑠璃は縁の家の大きさに驚いていたようだ。
 縁は言った。
 「どうしたの?俺に何か?」
 瑠璃は少し険しい表情になった。
 「うん……ちょっと相談があって………聞いてくれる?」
 縁は家に入ってゆっくりしたかったのだが、深刻そうなクラスメイトを放っておく訳にもいかない。だと言って家に連れ込む訳にも行かない。
 縁がそうこう考えてると、瑠璃が言った。
 「ここじゃ……あれだし……」
 縁は言った。
 「そうだね……場所変えよか?でも何処がいいか……」
 瑠璃は言った。
 「すぐ近くに喫茶店あったよね……確か『風の声』って言う……」
 「えっ!風の声?……」
 縁は少し戸惑った。
 その様子を見て瑠璃は言った。
 「えっ?都合悪い?」
 「いや、そう言う訳じゃ……」
 「じゃあ、決定ねっ!行きましょっ!」
 縁が相談に乗るとは、一言も言っていないのに、瑠璃は風の声に行く気満々だ。
 縁は思った……嫌な予感がする……。
 縁と瑠璃は少し歩いて喫茶店風の声に到着した。
 縁は恐る恐るドアガラスから店の中を覗いた。
 店内には客が一人も居らず、店主の巧が暇そうにテレビを見ていた。
 縁がドアを開けると、巧は言った。
 「いらっしゃい……って、何だ縁か……」
 暇そうな巧に縁は言った。
 「何だはないだろ、何だは……てか、相変わらず暇そうだな……」
 「仕方ないだろ……時間的に……って、誰かと一緒か?」
 巧は縁の後ろにいる瑠璃の存在に気付くと、カウンター席にに座るように、縁に言った。
 「とりあえず入れよ……外は暑いから……」
 巧に促され、縁と瑠璃はカウンター席に座った。
 瑠璃が言った。
 「新井場君の知り合いの店なの?」
 「うん……まぁ……」
 巧が言った。
 「縁もすみに置けないなぁ……女の娘連れて来るなんて……」
 「変な事事を言うなよ……たっくん、俺…アイスカフェオーレ……雨家さんは?」
 「じゃあ、私も同じで……」
 巧はニコニコしながら言った。
 「は~い、少々お待ち下さ~い……」
 アイスカフェオーレを待つ中……瑠璃が言った。
 「それにしても新井場君の家って大きいねっ!お金持ちなんだ……」
 「別に俺が金持ちな訳じゃ無いよ……俺のじいさん…祖父の家だから……」
 縁がそう言うと、瑠璃の表情は曇った。
 「そっか……おじいちゃんの……」
 縁はさほど変わった事を言った覚えは無いが、瑠璃の表情を見て少し気にした。
 「雨家さん?」
 すると、巧がアイスカフェオーレを2つ持ってきた。
 「ごゆっくり~」
 縁は言った。
 「とりあえず飲もうよ、冷たくて美味しいよ……」
 瑠璃は黙って頷いた。
 二人がアイスカフェオーレをのみ始めた時だった。
 店の入口が開き、一人客が入ってきた。
 「マスターっ!アイスカフェオーレとイチゴパフェを……ん?縁……」
 縁はその聞き覚えのある声に耳を逸らした。縁の嫌な予感は的中した……客は桃子だった。
 桃子は巧を手招きした。
 「マスター、ちょっと……」
 桃子に呼ばれて巧は言った。
 「どしたの?先生……」
 桃子は小声で話した。
 「縁がいるじゃないか……」
 「見ればわかるでしょ、それがどしたの?」
 桃子は指を指した。
 「あの娘は何だ?」
 桃子の様子を見て、巧のいたずら心に火を着けた。
 巧はニヤリとして言った。
 「彼女なんじゃないの~」
 桃子は目を見開いた。
 「何だとっ!?」
 巧と桃子のひそひそ話の様子を見て、縁は呟いた。
 「何を言ってんだ?」
 桃子は言った。
 「縁のやつ……私に黙って、許せんっ!」
 巧と話している桃子を見て、瑠璃は言った。
 「すっごい綺麗な人だね……」
 縁は知らんふりをした。
 「そっ、そう?」
 すると、桃子は縁と瑠璃の元へやって来た。
 「縁、今日も暑いな……」
 縁はとぼけたふりをした。
 「あっ、桃子さん……来てたの……」
 瑠璃は言った。
 「新井場君……知り合いなの?」
 桃子は口角を上げて言った。
 「知り合いも何も……私と縁は誰よりも固い絆で結ばれている」
 縁は呆れて言った。
 「何を言ってんだ……」
 瑠璃は呆気にとられている。
 「そっ、そうですか……」
 桃子は更に言った。
 「ああ、そうだとも……互いに誰よりも理解し合っているのだ」
 縁は頭を抱えた。
 「はぁ~……」
 桃子は縁の隣に座った。
 「縁に用があるなら、手短にな……」
 桃子が現れた事により、場の空気は奇妙な物になった。
 縁は空気を変えるように言った。
 「で、雨家さん……相談って?」
 『相談』と言うフレーズに桃子は反応し、聞き耳をたてている。
 瑠璃は口を開いた。
 「私の……おじいちゃんの事なの……」
 「おじいさんの?……」
 瑠璃は言った。
 「おじいちゃん……20年前に死んじゃったんだけど……」
 「俺たちが生まれる前だな……」
 「うん……そうなんだけど、実は……」
 瑠璃は何故か煮えきらないでいる。縁は言った。
 「実は……どうしたの?」
 「おじいちゃん……殺されたの……」
 瑠璃の衝撃的な言葉に、縁は少し戸惑った。
 「殺されたって……」
 「22年前におじいちゃんは、強盗に殺された事になってるの」
 「事になってる?」
 「うん……犯人捕まってないんだ……」
 犯人がまだ捕まっていないとは、物騒な話だが……縁が言った。
 「それで相談って?俺に犯人を探せって事?」
 瑠璃は苦笑いをした。
 「ううん……できたらそうしたいけど、そうじゃないの……これを見て」
 瑠璃はハンドバッグから一枚の写真を出した。白黒の家族写真だろうか……。
 写真の中央に椅子に腰を掛けた和服の女性、その左隣に着物姿の男性が立っており、その回りを子供が数人囲っている。
 瑠璃は言った。
 「おじいちゃんと、おばあちゃん……回りの子供は私のお母さんと、親戚の叔父さん叔母さんよ……」
 瑠璃は縁に写真を手渡して言った。
 「写真の裏を見てほしいの……」
 縁は写真を裏返した。
 何か書かれている。
 『我道は茨なれど…我子孫には花道かどうを歩かせる…』と、書かれた詩だった。
 縁は言った。
 「これは?」
 「法事の時にこの写真を見つけて、お母さんに聞いたら……おじいちゃんが、殺された場所の机の上においてあったって……」
 中々複雑そうな話に、縁は少し考えて言った。
 「おじいさんの、真意が知りたいと?」
 「うん……あの時いったい何があったのか……本当に強盗に殺されたのか……」
 縁は言った。
 「その言い分だと、警察の話に納得がいってないみたいだね」
 瑠璃は言った。
 「そう言う訳じゃ無いけど……変な感じがして……」
 「変な感じ?」
 「うん……確かに…部屋は荒らされていて、金品は無くなっていたんだけど……」
 「けど?」
 「密室だったの……」
 聞き耳をたてていた、桃子が言った。
 「密室……」
 縁は冷たい視線を桃子に向けた。
 「何をこそこそしてんだ……」
 縁は思った。
 確かに…普通の強盗なら部屋を密室にする必要は無いが……この相談を受けるのかどうか……。
 すると、先程までこそこそしていた桃子が言った。
 「縁……この依頼、受けるぞ」
 縁は言った。
 「何勝手に決めてんだよ……」
 桃子は言った。
 「亡き祖父を想う孫娘……健気ではないか……」
 「あのなぁ……」
 「そんな娘の想いに答えなければ……人で無しだ……」
 「酷い言われようだな……」
 「それに密室ときた……私の出番だ」
 「どの口が言ってんだ……」
 桃子は瑠璃に言った。
 「君、名前は?」
 いきなり名前を聞かれて、瑠璃は少し戸惑った。
 「えっ?あ、雨家瑠璃です……」
 「瑠璃か……良い名だ……君の相談は、この小笠原桃子と新井場縁が承ろう……」
 縁は頭を抱えた。
 その様子を見て巧は笑っている。
 瑠璃の表情は明るくなった。
 「ほんとですかっ!?ありがとうございますっ!」
 縁は言った。
 「あんた……また勝手に決めて……知らねぇぞ……」
 桃子は言った。
 「私と縁が組めば、こんな物は問題では無い……」
 「はぁ……わかってねぇな……」
 縁の心配をよそに、桃子は自信とやる気で道溢れていた。
 縁は嫌な予感しかしなかった。



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