天才・新井場縁の災難

ノベルバユーザー329392

プロローグ ③

 店内に現れた女性は、今テレビに写し出されている、小笠原桃子だった。
 小さな町の喫茶店に、時の人が現れたというのに、縁も巧も驚いた様子は無い。
 桃子は言った。
 「縁…テレビ見たか?」
 縁は愛想なしに言った。
 「今見た…」
 巧はニコニコしながら言った。
 「ちょうど今、その話をしてたところさ…」
 巧の言葉を聞いた桃子は、実にご機嫌な表情になった。
 「そうかそうか、私について話をしていたのだな…うんうん…」
 ご機嫌な桃子は縁の隣に座った。
 「マスター、アイスティーをくれ…」
 巧は言った。
 「少々お待ち下さい…先生っ!」
 巧は上機嫌な桃子をさらに乗せる感じで言った。案の定桃子の機嫌はさらに良くなった。
 「縁…私はとうとうやったんだ…」
 縁は相変わらず、愛想無しだ。
 「わかってるよ…賞、獲ったんだろ…。見たくもないのに、あんだけ毎日テレビやってたら、嫌でもわかっちゃうよ…」
 愛想の無い縁に、桃子は言った。
 「どうした?縁…元気が無いようだが…」
 「別に…」
 桃子は何かを感じ取ったのか、ニヤニヤしながら縁に言った。
 「ははぁん…わかったぞ…」
 縁は憮然として言った。
 「な、何が?…」
 「お前…、私が有名になったから、もう私に会えないと思い、落ち込んでいるな?」
 あまりにもトンチンカンな桃子の言い分に、思わず縁はテーブルに付いた肘を滑らした。
 「あのなぁ…何でそうなるんだよ?」
 桃子は縁の突っ込みを気にする事なく言った。
 「心配するな縁っ!どんなに私が有名になっても、お前と縁を切るような事は絶対にしない!」
 縁は呆れた表情で言った。
 「もういいや…」
 その頃、ちょうど巧がアイスティーを桃子に持ってきた。
 「どうぞ先生…アイスティーでございます」
 巧に先生扱いされている桃子はご満悦だ。
 縁は巧に言った。
 「たっくん、あんまりこの人…乗せないでよっ、すぐ調子に乗るんだから…」
 巧は言った。
 「だって、面白れぇじゃん…」
 縁は言った。
 「俺の身にもなってよ…」
 「まぁ、賞獲ったのは事実なんだから…良いじゃんっ!」
 そう言うと巧は店の奥に行ってしまった。
 縁はご満悦な桃子に言った。
 「桃子さん、何しに来たの?」

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