『経験値12000倍』チート外伝 異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。
新しいはじまり
(あー……おもろい)
脳内物質の分泌速度が増していく。
快楽で頭が満たされる。
(すでに目付の終わった脳みそを即座に修正し対応する錬度。カットすんのも難しいはずの球をキチンと合わせた上、途中で軌道修正し、絶対にとれんポイントに落としてファールにしてみせた。これや……これがやりたかったんや)
ハァっと吐息を洩らす。
満たされていく。死の恐怖など、頭の隅をよぎることさえない。
(次で決まる……)
トウシは振りかぶる。
(ワシとおまえ……どっちが上か……)
トウシのすべてが沸騰する。
脳みそがバチバチにはじけて、肉体を、この上なく心地いい電流が包み込む。
「うらぁあああああああああああ!!!!!」
もう、小細工はいらない。
全力の真っ向勝負。咆哮によって、球速が増加する。回転速度も上がっている。
ギチギチ、ミチミチと唸りをあげる白球。悪魔を狩る、獰猛な弾丸。
バシィイイイイイ!
ミットの乾いた音を耳にして、
「……あり……えん……」
ミシャンドラは膝をついた。汗がポタっと垂れた。滲んで変わる地面の色。
マウンド上では、トウシが、
「っっっしゃあああああああああああああ!!!」
それまでの人生で一度も見せたことのないガッツポーズを決めていた。のどが千切れるほどの雄叫びが、球場に響き渡っていた。
★
試合後、球場を後にしたトウシの前に、
「図に乗るな」
ズカズカと、距離感を無視した速度でミシャンドラが詰め寄ってきて、
「デビルの力をフルに使えば、お前などゴミに等しい。いずれ必ず叩きこんでやるよ。本当の俺の力を」
「はっ、悪魔風情が、誰に口きいてんねん」
「……ああ?」
「おお?」
睨みあいは一分ほど続いたが、ミシャンドラの、
「取引を忘れるな。三分も鍛えろ。いいな」
その発言で、二人の間で散っていた火花は一旦消化された。
去っていくミシャンドラの背中から目線を切った、その時、
「……ぁ」「……ぁ」
「……ぉ」
トウシは、二人のマネージャーと対面した。
二人ともウズウズとしていた。切り出し方を迷っている。
最初に口火を切ったのは古宮。
「非常に素晴らしかったわ。投手というロジックの極限を見た思いね。私は――」
「トウシ」
長くなりそうな古宮の話を一刀両断したジュリアが、
「なんとなくわかった。あんたがどんな投手か」
「……あ、そう」
「より一層思った。絶対に、あんたを殺す。あんただけ光り輝くなんて、絶対に許さない」
「好きにせぇ」
「で、その……殺すなら、一番輝いている時がベストだと思う。その方が絶望は大きい。あたしは、あんたを苦しめるためなら、どんな努力でも払う。だから……」
「なんや」
「あんたが、最高の栄冠をその手にするまでは、まあ、その……実行は保留にする。首を洗って待っていろ」
そこで、トウシは、ズイっとジュリアに近づき、
「ワシが栄冠をつかむ時、隣でそれを見るんは樹理亜、お前や。必ず、絶対、死んでも、お前に、ワシが栄冠をつかむその姿を見せたる」
「は……は?! な、なにを言って……どういう――」
真っ赤になってモジモジするジュリア。
言葉を構成する機能を見失う。全身が熱く、心が破裂しそうだった。
「……ん?」
そこで、トウシは、視線を感じて振り返る。
三分が立っていた。
自分に向けている視線の強度で、なにを言いたいのか察したトウシは、
「樹理亜、古宮。おまえらは、他の試合の偵察に行ってくれ。データは可能な限り集めたい。頼んだで」
二人に指示を出してから、三分のもとへと歩いていく。
「なんか用か?」
「おまえの投球を見ていると心がザワついた。今まで一度も思ったことがない、負けたくないという気持ちが芽生えた。だから、まあ……なんだろうな……自分でも、何が言いたいのかよくわからんのだが……」
「おまえとワシで甲子園五連覇する」
「は?」
「登板回数は半々や。覚悟せぇ。諸々」
「………………分かった」
数秒考えてから、三分は首を縦に振った。
本日は快晴。
「あつぅ」
夏の日差しを受けて、トウシはため息をつきながら、そうつぶやいた。
END
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