『経験値12000倍』チート外伝 異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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最後までかっこつけてやる



「うぃーっす」


「あれ? 堂野さん……どうしました?」


「一回戦、撮ってきたんだろ? 監督が、見とけってさ」


 言いながら、壁にかかっているパイプイスを掴み、幡野の隣に腰かけながら、


「で、新輝、どうだった? 相手、アカコーだから、試合にはなんなかっただろうけど、山田と竹井が、どんな感じに成長したかくらいは分かっただろ」


「そうですね、あの二人に関しては……まあ、順調に成長したった感じではありましたね。一応……」


「ちなみに、何回コールド? 五? それとも、まさかの三?」


「いえ、コールドじゃありません。……1対0す」


「はぁ、マジで? まさか、新輝の連中、夏の初戦に一年オンリーのナメプかましやがったのか? いや、待てよ……相手、アカコーだろ? どんだけナメたプレイしたところで、1対0にはなんねぇだろ」
「アカコーのエースがすごかったんですよ。一年なのに、アベレージで130投げてました。それも左で」
「ほー……そんなダイヤの原石が、あんなとこにねぇ。そりゃ、また珍しい……いや、でも、所詮その程度だろ? 新輝の連中、去年、グレイシンガーさんから、二点取ったんだぜ。あの、どう見ても日本人の血が入っているようには思えない怪物、高三の時点でマックス155をマークしてタイガースの一位指名もらった怪獣グレイシンガーさんから二点とった連中が、『一年にしては速い』程度の投手から一点しか取れないってのはちょっと寒いっつーか、なんつーか」


「あ、いえ」


「あん? なんだよ」


「点、とられてません」


「ん? アカコーは、エースが降りたあと、リリーフが点取られたってことか?」


「いえ、あの……一点とったのは、アカコーの方なんです」


「ん? ……ん?!」


 ★


「見てもらった通り、最初に、先頭打者の田中がポテンヒットで出塁し、その後、二盗、三盗と進め、佐藤のスクイズで一点。それを、エースの三分と、抑えの佐藤が守り切って、アカコーが勝ちました」


「……これほどの自滅を見たのは初めてだな。怖ぁ。新輝の打った球、ほとんど全部、野手の正面ついてんじゃねぇか」


「そうですね。あと、たぶん、山田のモーションが盗まれていますね。アカコーの選手、三人出塁して、全員二盗までは決まっていますから」


「抑えのデブは……ノーコンだが、かなり重そうだ。全体重を乗せて投げているって感じだな。荒れ方も絶妙だ。つーか、こいつも130出てんじゃねぇか。どうなってんだ」


「デブの方は脂肪と筋力で投げているだけですけど、三分の方は、かなり優秀な投手ですよ。球の速さだけではなく、コントロールも球種も、なんというか、かなりシッカリしていました」


「そうだな。スキがない。いい感じにまとまっている。そして……全体的に……なんというか……新輝が、アカコーに調べつくされていたってイメージを抱いたな……」


「そうですね。頭のいい連中が、その頭をフルに使って、ギリギリの接戦をモノにした。そんな感じの試合でした。ま、ほとんどが三分の手柄ですけど」


「足りない力と技術は頭でカバーってか? はん……結果だけ聞いた時は驚かされたけど、実際見てみれば、なんてことはない。所詮、新輝は、二年目の新設でしかなかったってことだ。データ解析されていることは序盤で十分にわかること。不運や不確定要素や情報不足なんかにオタオタせず、どっしりと三分を攻略すれば、総力的には余裕で勝っているんだから、十分に勝てたのに、地力がないから、ズルズルと自滅して食われちまった。ふん、新設なんて、こんなもんなんだよ。金の力で質のいい中学生を集めるだけで勝てるほど、甲子園は甘くねぇ。……ま、二回戦が楽になって助かったぜ。三分程度の球じゃあ、仮にウチの打者が解析されていたとしても、抑えられることはない」


 ★




 家に帰ったトウシは、当然のようにベッドにダイブし、


「よかった……新聞とニュースを見る限り、奇跡扱いはされとるけど、不審がられてはない。大事な最初の関門、なんとかクリア……よかった、ほんま、よかった……はぁあああああ」


 今ごろになって。精神的な疲労がドっと出てくる。


「でも、次は三国……もっと、うまくやらなあかん。慎重にいかな……慎重に……できるんやろうか、ほんまに……あぁ……ぅ、うぷっ……うぇ、ぉえ……げほっ、げほっ」


 不幸中の幸い、朝飯と昼飯がのどを通っていなかったので、今、口から飛び出たのは、濃い胃液だけだった。
 ノドがちぎれそうなほど痛いが、部屋は汚れなかった。


「あぁ……つらい……つらい……つらい」


 何度も口にすることで自分を慰める。そんなことしかできない。


「でも……やるしかない。最後の最後までカッコつけな……」



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