『経験値12000倍』チート外伝 異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。
160キロ
翌日の放課後、田中は、ツカムとホウマをグラウンドに呼び出した。
「なんの用ですか?」
「投球練習するから付き合ってくれ。ホウマは昨日と同じでスピードガン担当」
「ぴよぴよ(別にかまわないのだけれど、でも、私たちに練習は無意味――)」
「練習というか、ほとんど確認やな。一応、ワシの設定、120数キロがMAXでスプリットとナックルとスライダーとカーブとシュートが投げられるぅ、いうことにしたから、百二十台を正確に投げられるようにしておきたいねん」
「球種五つだけとは、ずいぶんとクソな設定にしましたね。というか、球速が低すぎませんか? あのクソな三分くんですら140キロの球が投げられるというのに」
「一年で百二十投げられたら、例の三つの高校以外、どこでも、次期エース候補として扱ってもらえるけどな」
「え……高校野球のレベルってそんなに低いんですか?」
「ワシらの次元でモノ考えるん、そろそろやめぇ。魔人と人間比べんな。自覚せぇ。秩序守るには、手の抜き方が最も大事。ほら、ツカム、ホウマ、準備せぇ」
指示通りに二人は動き、ホウマが、スピードガンを構えたところで、
「ほな、一球目、いくで」
「どうぞ」
(どんくらい抑えたら120キロになるか……こんくらいか?)
かなりブレーキをきかせたチェンジアップを投げる要領で球を投げる。
もちろん、イリュージョンスローを使い、見た目には全力で投げているようにみせる。
リリースの瞬間、トウシは舌を打った。
「あかん……」
思いっきり抑えたつもりだったが、
「ぴよぴよ(計測不能。これ、二百キロ以上は表示されないから、まあ、そういうことでしょうね)」
「言われんでも、投げた瞬間に分かったわ。全然あかん。もっと思いきり抜かなアカンか。思っとったよりムズいな」
その後、十球ほど試すと、
「なるほど、この感じやな」
だんだん要領がつかめてきた。
「よし、わかってきた。次、マジでいくで」
さらに何球が投げてみると、
「おっ。今のええんとちゃう? 完璧やろ」
「ぴよぴよ(160キロ)」
「まだそんなもんか……まあ、でも、大分つかめてきたな」
★
(田中東志……調べれば調べるほど……なんというか……ただの根暗なガリ勉としか思えないのだけれど……)
古宮麗華は、ポリポリと頭をかきながら校内を練り歩いていた。
足で稼いだ情報を照らし合わせてみると、そこには野球選手の影や形は一切見受けられなかった。
(まあ、でも、あの、まったく他人に興味を示さない三分くんにあそこまで言わせる男なのだから、何かはあると思うのだけれど……正直、あまり期待はできないわね。三分くんは、この田中という男の何に興味を持っているのかしら)
心の中で『田中という男に何があるのか』と夢想していると、いつのまにか旧校舎の裏まで歩いていた。
ここからはグラウンドがよく見えるので、三分の観察をするときに利用している。
(今日は彼にとって休みの日だから意味はないのに……習慣というのは怖いわね)
踵を返そうとするが、
バシィイ!
恐ろしく鋭いミットの音を耳にして、
反射的に顔を上げ、
目をひんむいて、グラウンドを睨みつけた。
(なに、今の? ハイスピードに設定したピッチングマシン? ……いや、違う。あれは生きた球の音……いったい誰が……)
視線を向けると、
(グラウンドには三人いる。マウンドにいるのが、今の音を出した男? この学校のジャージを着ているようだけど、野球部なのかしら? ……あの三人、誰ひとりとして、顔に見覚えがない)
気づけばダッシュしていた。
高いフェンスがあるので、回り込まないといけない。
三人の声が聞こえるほど近づいたところで、
古宮は、ちょうど三人の死角にある木の陰で自前のスピードガンを取り出した。
(ミットのあんな音、プロのブルペンを間近で見学した時でも聞かなかった……いったい……)
血走った眼で、マウンドにいる男を見つめる。
細い男だ。
背は170前半。
投手としては決して高くない。
「――次、マジでいくで」
男は、肩をまわし、足場を丁寧にならす。
(……あの音を出した男が、次、本気の球を投げる? いったい、どんな球を……)
バシィイイ!
「おっ。今のええんとちゃう? 完璧やろ」
「ぴよぴよ(160キロ)」
「まだそんなもんか……まあ、でも、大分つかめてきたな」
剛球。
今まで見たことのない超速球。
古宮は、ワナワナと震える。
(ひゃ……160キロ? ……し、信じ……られない……)
速度もそうだが、
(ていうか、なに……あの球のキレ……回転数が尋常じゃなかった……たぶん、この速度とあの回転なら、物理的にガチで浮くわよね。ただの100マイル投手なら、2Aや3Aに、ごろごろいる。けど、本当のライズを投げられる投手なんて、メジャーにも、ていうか、歴史上一人もいない……)
ガクガクと震える。
山ほど野球の勉強をしてきたから分かる。
目の前にいる投手が、どれだけ異常なのか。
どれだけ尋常ならざる光を放つ宝石なのか。
(見つけた……私の夢……やっと、出会えた)
血が沸騰する。
興奮を抑えられない。
紅潮する顔。
震える手足。
(つけられる、あの腕になら。スポーツ選手最高の値。至高のスポーツである野球が、低俗で幼稚なサッカーやボクシングやゴルフやF1に負けるなんてあっちゃいけないのに、事実、他では何一つ負けてはいないのに、しかし、選手の年報だけは、はるかに劣っている。私の最大の目標は、代理人として、野球選手に最高の値をつけること。あの男の腕になら、アスリート史上最高額、三億ドル以上の値をつけることも不可能じゃない)
吐きそうになるほどの多大な興奮を必死に抑えつけて、
(絶対、手に入れる……誰にも渡さない。あの男は、私の夢だ)
「なんの用ですか?」
「投球練習するから付き合ってくれ。ホウマは昨日と同じでスピードガン担当」
「ぴよぴよ(別にかまわないのだけれど、でも、私たちに練習は無意味――)」
「練習というか、ほとんど確認やな。一応、ワシの設定、120数キロがMAXでスプリットとナックルとスライダーとカーブとシュートが投げられるぅ、いうことにしたから、百二十台を正確に投げられるようにしておきたいねん」
「球種五つだけとは、ずいぶんとクソな設定にしましたね。というか、球速が低すぎませんか? あのクソな三分くんですら140キロの球が投げられるというのに」
「一年で百二十投げられたら、例の三つの高校以外、どこでも、次期エース候補として扱ってもらえるけどな」
「え……高校野球のレベルってそんなに低いんですか?」
「ワシらの次元でモノ考えるん、そろそろやめぇ。魔人と人間比べんな。自覚せぇ。秩序守るには、手の抜き方が最も大事。ほら、ツカム、ホウマ、準備せぇ」
指示通りに二人は動き、ホウマが、スピードガンを構えたところで、
「ほな、一球目、いくで」
「どうぞ」
(どんくらい抑えたら120キロになるか……こんくらいか?)
かなりブレーキをきかせたチェンジアップを投げる要領で球を投げる。
もちろん、イリュージョンスローを使い、見た目には全力で投げているようにみせる。
リリースの瞬間、トウシは舌を打った。
「あかん……」
思いっきり抑えたつもりだったが、
「ぴよぴよ(計測不能。これ、二百キロ以上は表示されないから、まあ、そういうことでしょうね)」
「言われんでも、投げた瞬間に分かったわ。全然あかん。もっと思いきり抜かなアカンか。思っとったよりムズいな」
その後、十球ほど試すと、
「なるほど、この感じやな」
だんだん要領がつかめてきた。
「よし、わかってきた。次、マジでいくで」
さらに何球が投げてみると、
「おっ。今のええんとちゃう? 完璧やろ」
「ぴよぴよ(160キロ)」
「まだそんなもんか……まあ、でも、大分つかめてきたな」
★
(田中東志……調べれば調べるほど……なんというか……ただの根暗なガリ勉としか思えないのだけれど……)
古宮麗華は、ポリポリと頭をかきながら校内を練り歩いていた。
足で稼いだ情報を照らし合わせてみると、そこには野球選手の影や形は一切見受けられなかった。
(まあ、でも、あの、まったく他人に興味を示さない三分くんにあそこまで言わせる男なのだから、何かはあると思うのだけれど……正直、あまり期待はできないわね。三分くんは、この田中という男の何に興味を持っているのかしら)
心の中で『田中という男に何があるのか』と夢想していると、いつのまにか旧校舎の裏まで歩いていた。
ここからはグラウンドがよく見えるので、三分の観察をするときに利用している。
(今日は彼にとって休みの日だから意味はないのに……習慣というのは怖いわね)
踵を返そうとするが、
バシィイ!
恐ろしく鋭いミットの音を耳にして、
反射的に顔を上げ、
目をひんむいて、グラウンドを睨みつけた。
(なに、今の? ハイスピードに設定したピッチングマシン? ……いや、違う。あれは生きた球の音……いったい誰が……)
視線を向けると、
(グラウンドには三人いる。マウンドにいるのが、今の音を出した男? この学校のジャージを着ているようだけど、野球部なのかしら? ……あの三人、誰ひとりとして、顔に見覚えがない)
気づけばダッシュしていた。
高いフェンスがあるので、回り込まないといけない。
三人の声が聞こえるほど近づいたところで、
古宮は、ちょうど三人の死角にある木の陰で自前のスピードガンを取り出した。
(ミットのあんな音、プロのブルペンを間近で見学した時でも聞かなかった……いったい……)
血走った眼で、マウンドにいる男を見つめる。
細い男だ。
背は170前半。
投手としては決して高くない。
「――次、マジでいくで」
男は、肩をまわし、足場を丁寧にならす。
(……あの音を出した男が、次、本気の球を投げる? いったい、どんな球を……)
バシィイイ!
「おっ。今のええんとちゃう? 完璧やろ」
「ぴよぴよ(160キロ)」
「まだそんなもんか……まあ、でも、大分つかめてきたな」
剛球。
今まで見たことのない超速球。
古宮は、ワナワナと震える。
(ひゃ……160キロ? ……し、信じ……られない……)
速度もそうだが、
(ていうか、なに……あの球のキレ……回転数が尋常じゃなかった……たぶん、この速度とあの回転なら、物理的にガチで浮くわよね。ただの100マイル投手なら、2Aや3Aに、ごろごろいる。けど、本当のライズを投げられる投手なんて、メジャーにも、ていうか、歴史上一人もいない……)
ガクガクと震える。
山ほど野球の勉強をしてきたから分かる。
目の前にいる投手が、どれだけ異常なのか。
どれだけ尋常ならざる光を放つ宝石なのか。
(見つけた……私の夢……やっと、出会えた)
血が沸騰する。
興奮を抑えられない。
紅潮する顔。
震える手足。
(つけられる、あの腕になら。スポーツ選手最高の値。至高のスポーツである野球が、低俗で幼稚なサッカーやボクシングやゴルフやF1に負けるなんてあっちゃいけないのに、事実、他では何一つ負けてはいないのに、しかし、選手の年報だけは、はるかに劣っている。私の最大の目標は、代理人として、野球選手に最高の値をつけること。あの男の腕になら、アスリート史上最高額、三億ドル以上の値をつけることも不可能じゃない)
吐きそうになるほどの多大な興奮を必死に抑えつけて、
(絶対、手に入れる……誰にも渡さない。あの男は、私の夢だ)
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